摩擦の科学ー摩擦が日常生活に与える影響(11:17)

ジェニファー・ベイル(Jennifer Vail)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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お仕事は何ですかと聞かれると 内心嬉しくなります まさしく 物をこすり合わせる なんて答えますから ふざけていますよね ただこすり合わせるのが仕事 なんて

でも 専門用語があるんです トライボロジーといいます T-r-i-b-o-l-o-g-y 語源はギリシャ語の “tribos”で 「こする」という意味です 聞き慣れない変わった言葉でしょうが 断言します トライボロジーを知ると 現実世界との関わりが変わります 私は そのおかげで 素晴らしい事業に携わっています 今まで携わってきたのは 航空資材やドッグフード 一人では展開できそうにない 組み合わせですよね これがたった数年で叶います トライボロジーというレンズを通して 世界を見れば です 皆さん 重要度に驚くと思います 小さなことを扱うトライボロジーは 非常に大きな問題を改善できるんです

トライボロジーでは 摩擦・摩耗・潤滑を研究します 3つとも 誰もが経験していることです 床の上の重い物を動かそうとしたとき 抵抗を感じませんでしたか? それが摩擦ですね 摩擦とは 運動に抵抗する力です 摩耗とは 材料の損失と移動です そのために 好きな靴を買換える必要があります いずれ靴底がなくなりますからね 潤滑剤は 摩擦と摩耗を減らしてくれます 錆びて動かないボルトも 緩めることができます

トライボロジーとは 相対運動下で相互作用を及ぼし合う表面の 科学でもあります さて 相対運動下で相互作用し合う 表面は 身近にたくさんあります 今座っているときでも 足先を動かしたり 向きを変えたりしますよね なぜでしょう? トライボロジーが起きています 座席でのほんの小さな動作にも 2つの表面で相対運動が 発生しています そして その動作で生じる摩擦は 隣に座っている人とは違います なぜなら衣服によって 座席との摩擦が変わるからです シルクの服なら 座席の中で体を動かすとき ウールより少し楽です シルクのほうが 摩擦が小さいからです

足首を動かしたり 少し捻ったりすると ポキポキと鳴りますか? 経験 ありますよね? 起きるとき 歩くとき 関節が鳴りますよね その音もトライボロジーです 音の発生源は滑液で 関節を滑らかにして 動かしやすくします もともと 滑液中に 気泡が生じているんです 同じ音は 腱がお互いに動くだけでも鳴ります よくあるのは足首で 足先を揺すってしまう人は 腱とトライボロジーの不思議な関係に 急に気づくかもしれませんね

ではどうしたら 私のような トライボロジストになれるでしょう? その始まりは皆さんが子供のころですね 私は小さいころ バレリーナで つま先立ちで踊るレベルまで行きました 「ポワント」とも言います ポワントで踊るときは こんな凄いシューズを履きます でも 床では滑りやすいのです 最悪なのは つま先立ちで踊っているときに 滑って転ぶことです そのため 松ヤニの入った箱があって そこに足を入れて シューズを薄くコーティングしました 松ヤニは樹液が原料で 滑り止めに使う粉です バレリーナがすぐ学ぶのは シューズにつける松ヤニの 適切な量です 少なすぎると 滑って転ぶからです これは床との摩擦が 小さいことが原因です 運が良ければ かっこ悪いバレリーナ で済みますが 最悪の場合 けがをしてしまいます このころすでに 私は摩擦を活かし 上手に操っていました 私って トライボロジストになる 運命だったんですね

(笑)

でも皆さんも 子供のころ トライボロジストだったんですよ クレヨンや色鉛筆を使うとき 強く描くと 色も濃くなると 知っていましたよね そして 濃く描くと 何度も削る必要があったことも 知っていたはずです より早く摩耗するからです

これはどうでしょう? ワックスで魅力的に光る床を見たら 滑らずにはいられません もし靴下を履いていれば とてもうまく滑れますよね 裸足では絶対無理です 皆さんは 摩擦を完璧に操っていたのです

子供はみなトライボロジストです 大人はどうでしょう? 今日 皆さん歯を磨きました よね?

(笑)

これもトライボロジーの出番です 歯磨き剤と歯ブラシで 取り除かれ 摩耗するのは 歯垢です 実は 私の父は歯医者です 自分のキャリアが家業につながるとは 思いもしませんでした 私たちが同じことをしていると 気付いたのは 歯垢を取り除くテストの開発を 依頼されたときです 単純だと思っていたことが トライボロジストとして考えてみると とても複雑なことだとわかりました 口の中には硬い物質である歯と 歯茎や歯磨き剤 歯ブラシのような やわらかい物質があります 潤滑の役割をするのは 唾液と水で さらに歯を磨くといった動きが加わります もしダイヤモンドを歯磨き粉に入れたら 確実に歯垢は無くなりますが 歯も無くなってしまうでしょう つまり 適切なバランスで 歯垢を削り取りつつ 歯や歯茎の損傷を避けるのです

歯を磨くのは食事をするからですね 食事も誰もが毎日することです 単純なことに見えますが トライボロジーの1分野としては 単純ではありません 口の中で 食べ物は 粉々になり摩耗していきます 同時に 食べ物は歯や舌 唾液やのどとも 関わり合います そのような口の中の相互作用は全て 食べる経験に影響を与えます 食べたことがない物を食べたときを 思い出してください こんな風に思いませんか? 「味は普通だけど 食感は最悪だな」 トライボロジストにとって 潤滑性を表す摩擦係数は 口の中の食感と食事の経験を つなげる役割を担っています 例えば 食べ物や飲み物の調合ー つまり糖や脂肪の含量を変えると 食感はどう変わるか その食感をどう測れるか これがトライボロジストの関心です 私の同僚は研究ラボの一角で ヨーグルトの脂肪分を研究し 私はもう一角で ドッグフードを研究しています ちなみに そのラボは とてもいい匂いがします

私たちは毎日歯を磨きますが ペットの歯は磨きますか? 成長した動物が歯周病になることは 少なくありません ですから ペットの歯は磨くべきです 実際にそういう飼い主は増えています 私の親友はとても上手に 飼い猫の歯を磨くんです 私の猫には絶対無理です そんなわけで ペットフードの会社が試みているのは おやつなどでの歯垢除去です 犬を飼っている人なら おやつをあげたときに それがたった1口で 魔法のように消えてしまうのを 見たことがあるでしょう つまりここで難しいのは 1回噛むだけでどう歯垢を取り除くかです 私はこの問題を研究するための 試験装置を開発しました そのために犬の口の中の 歯や歯垢 唾液などを 再現する必要がありました そこで摩擦と摩耗の測定をして 歯垢除去について おやつの効果を研究しました 最近 飼い犬の歯磨きをしなかった日なんて あったっけと お考えの皆さん お待たせしました

さて トライボロジーのすごさは 何でしょう? もう1つ 例を挙げますね 皆さんは何らかの方法で この会場まで来たはずです 徒歩や自転車かもしれませんが ここには車で来た人が多いと思います 車関連のトライボロジーを 考えてみましょう 人と車の相互作用や 車と路面の相互作用のほか エンジンルーム全般や 駆動系内部とも関わっています 定期点検にも 直接トライボロジーに 関連するものがあります 走行距離がどれくらいで タイヤの交換が必要か ご存じだと思いますし タイヤの溝の状態を 定期的に確認して 摩耗を ご自分で点検しているんです トライボロジーは 摩耗と摩擦の科学であり 無事に到着できるものも タイヤの摩擦によっては 事故になりかねません なぜなら タイヤと路面の摩擦が 影響を与えるのは 加速や減速だけでなく 停止距離もだからです 運転をする人は 摩擦の重要性を 直感的に理解しています なぜなら路面が濡れているときは 滑りやすく 普段より危険と わかっているからです これは 水のせいで タイヤと路面の摩擦が 低減するためです 摩擦は物体の運動を妨げる力でしたね つまり水がその力を弱めると 物体が動きやすくなるので 路面が濡れていると 滑りやすいのです

もう一つ考えるべきことは 摩擦に対抗するためにエネルギーが 必要なので エネルギーが失われることです タイヤが燃費に影響する 原因の一つです 実際のところ 燃料の約3分の1は エンジン駆動の車が 摩擦に対抗することに 使われるとご存知ですか? 3分の1です

トライボロジーの研究は 摩擦を軽減してきました その結果 燃費が良くなり 排出ガスも減ります ホルムバリとエルデミシュによって 素晴らしい研究が複数行われ 明らかになったのは トライボロジーの研究が 省エネ化に貢献していることです 彼らの研究によれば 20年間に渡り 削減できる可能性があった 乗用車のエネルギー消費量は 最大60%でした 世界中の全ての車で考えれば 多量のエネルギーを節約できます それは現在世界で消費される エネルギーの約9%にあたり この削減にはトライボロジーも 貢献できると指摘しています 膨大な量のエネルギーと言えます このような数値を考えると トライボロジーの重要さがわかります

私の同僚は 最大20クアッドのエネルギーを アメリカだけで 節約できると算出しました 言い換えますと 1クアッドのエネルギーは 約1億8千万バレルの石油に相当するので その20倍の石油を節約できるのです 新しい素材や潤滑剤 新しい部品設計が 省エネに寄与し 新しい素材や潤滑剤 新しい部品設計が 省エネに寄与し 例えば風力発電の効率と信頼性を 高めています この考えは ただ31人の研究者が一同に会して トライボロジーのレンズで 世界を見た結果です つまり 至る所にあるトライボロジーを 理解する人が増えれば 可能性は広がります

私が現在 入れ込んでいるのは 航空宇宙分野です 未知の環境下での摩耗と摩擦軽減に 心を注いでいます 私は素材や部品を作っています 可動部とエンジンの摩擦を 低減し ひいては 運動に抵抗する力を 軽減するのです これはつまり動力が少なくてよい ということなので 駆動装置は小さくて済み 軽いものになり 燃料が節約できます 私は摩耗の耐久性が高い部品も 作っていますが これで廃棄物が減る見込みです しかも 部品の製造頻度も減らすことになり 製造にかかるエネルギーを節約できます

まずは身の回りのトライボロジーを 探してみてください そしてどうしたらその表面の働きが 良くなるか 考えてみましょう 塵も積もれば山となります トライボロジーは 聞き慣れない言葉でしょう しかし 世界に大きな影響を もたらすものなのです

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

「トライボロジーという変わった響きの言葉は初耳かもしれませんが、人々の現実世界の見方と関わり方を変えるものです」と機械工学のエンジニア、ジェニファー・ベイルは言います。トライボロジー(摩擦と摩耗の科学)の考え方と日常生活におけるその意外で多様な実例、それがよりよい世界にどのように貢献するかを、ベイルが説明します。

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