なぜ「バイオファブリケーション」が次の産業革命となるのか(12:11)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私はファッションデザイナーとしての 人生を歩み始め 織物デザイナーや布地の供給業者と共に 仕事をしてきました
しかし新たな仕事仲間とは もはや 会うことも話すこともできないのです というのも 今度の同僚は 足元の土壌の中や スーパーの棚の上や トークを終えたら私が飲むつもりの ビールの中にいるからです 私は微生物のこと ― そして 生命を用いたデザインについて お話しているんですよ
15年前 私に啓示をもたらした ある生物学者との共同研究をきっかけに 一緒に働く相手も 働き方も180度変えました このプロジェクトによって 生命に対する見方が変わり もののデザインや 製作方法に 全く新たな可能性が 開かれたのです 斬新な製造手段を考え付いたのです バイオファブリケーションです 文字通り 生物学を活用して製造します
どういう意味だと思いますか? それはというと ― 動植物や石油を加工して 消費者製品の材料を製造する代わりに 生物を利用して直接的に 材料を育てるという意味なんです 多くの人が「第四次産業革命」と 呼ぶ変革において 新たな工場となるのは 生きた細胞だと私たちは考えています 細菌や藻類 菌類 酵母 これらを用いたバイオテクノロジーを 最新のデザイン手法として取り入れています
私のバイオファブリケーションとの出会いは 「バイオクチュール」と 題された企画が始まりでした 刺激的だったのは 綿花のような植物を 何ヶ月もかけて畑で育てる代わりに 微生物を利用して セルロースからなる同様の生地をラボで 数日で育てられたことです ある種のバクテリアを 栄養価の高い液体の中に入れて 糸状のセルロースを発酵させると 自己組織化により 1枚の布が出来上がりました 自分が育てた布を乾燥させ 裁断し それらを縫い合わせて 様々な衣服 靴 バッグを作りました つまり 私たちは単一のラボの中で 生地を育てるだけでなく これを使って ものの数日で 様々な製品を作り出したのです これは 現在主流の製法とは対照的です 現在の製法では 植物を育てて ワタから綿花だけを収穫し それを紡いで糸にしてから 布を織ります これを裁断 裁縫して衣服にする前に 海外へ輸出されることもあるでしょう この過程は全体として何ヶ月も かかるものです
これらの試作品は ある分野で資源の大幅な効率利用が 可能になることを示しました 布地を生産するために必要な 水やエネルギーや化学物質を減らし 廃棄物をゼロにしつつ 私たちは布を完成形へと育て上げたのです 「生物学的な3Dプリンタ製法」と 言えるかもしれません
バイオファブリケーションによって 人による集約的な生産過程を たった一つの生物学的生産過程に 置き換えました また この生きた系と関わるうちに 私のデザインに対する考え方も 変わりました この生物学的な方法では 成長のための初期条件さえデザインすれば 後は私が手を加えることもなく 有用でサステナブルな材料を 効率的に生産します
今では バイオファブリケーションの視点から あらゆる材料を見るようになりました それどころか 生物学的な製法をもって 材料技術を再考しようという ― 革新者による 世界的なコミュニティが 拡大しています 今 複数の会社がキノコから 材料を育てています キノコそのものではなく 菌類の根系を構成している菌糸体を使い 農業副産物を接着します この作用は「天然の接着」と呼ばれます 一般的なやり方としては 立体の鋳型に 廃棄処分となる トウモロコシの茎や麻などの植物を詰めて 水を加え 菌糸体がすみずみに張り巡らされるまで 数日の時間をおき 型を外せば 立体的なものに仕上がります
驚くべきことに 生物を利用して 多種多様な構造体を 成長させることが可能です 履物に使われる発泡樹脂を置き換える 発泡材料から 動物に由来しない 皮のような材料まで多岐に渡ります 家具やフローリングなども すべて試作中です 化学物質を一切使わずに 菌類から天然の難燃性原材料を 作ることが出来ます この材料は天然の疎水性材料であり つまり 水を吸収しないことになります プラスチックよりも高い融点を 有しています ポリスチレンは何千年もかけて 分解されますが キノコから作られた原材料が 家の裏庭で 自然に堆肥に変わるのに たった30日しか かかりません 生物が廃棄物を 安価で 従来品相当の性能を有する 材料へと作り変え プラスチックや CO2を排出する他の材料を 置き換えることができるでしょう
一度 生物を使って材料を育ててみれば 従来の製法が 非合理的なものに 見えてくるでしょう 家づくりに用いる れんがについて考えてみましょう セメント工業が排出するCO2は 世界全体の排出量の 約8%を占めています これは 飛行機と船による CO2年間排出量を上回ります セメントを製造するには 原料を炉に入れて 1100℃以上で焼きます 対して bioMASON社では 土壌に住む微生物を使って 砂や砕石などのバラ骨材から バイオファブリケーションによって 「バイオセメントれんが」を作ります この過程は室温で進み わずか数日で完了します なんと 撥水性のれんがですよ 灌漑設備が 細菌を植え付けておいたれんがに 栄養価の高い水を供給します 細菌は砂の粒子の周りに 結晶を生じさせ バラバラな粒子同士は固結し 硬いれんが出来上がります 私たちは建築材を 自然界で珊瑚礁が成長するような 見事な方法で 成長させられます しかも バイオファブリケーション によるれんがは コンクリートのれんがよりも 3倍近い強度を誇ります しかも 従来のセメント生産との 著しい違いは 生産過程で排出するより 多くの炭素を貯蓄できることです だから 毎年 1兆2千億個 作られている焼成れんがを バイオファブリケーションによるれんがで 置き換えることができれば CO2の排出量を 年間8億トン削減出来るでしょう
(拍手)
私たちは 生物を利用して 材料を育てるだけでなく 生物の繁殖を促すような 製品のデザインさえも 始めたところです この企画を始めたのは 私たちが隅に追いやろうとしている まさに「生命」こそが 実は最高の仕事仲間なのではと 気づいたことがきっかけでした 目的達成のために 私たちが用意したエコシステムで 健康に微生物が育ちうる あらゆる方法を模索しています 良い例をあげると 建築家が 樹皮のような機能を備えた ― 建物の外壁を頭に描いています しかし 彼らは表面を装っただけの 緑色の層ではなく 進化する生態系の場となるような 建築学的な樹皮をデザインしています 生命が誘い込まれるように 表面構造がデザインされています 生命を危機に追いやるのに 現在 使われているエネルギーを 生命を育てるために振り向ければ ネガティブな印象で捉えられる 都会のジャングルを 文字通り 繁栄する生態系へと 置き換えられるでしょう 能動的に建物の表面と 健康な微生物との相互作用を高めることで 受動的な空調システムの改善や 豪雨への対策 さらにはCO2排出量の削減が 建物の冷暖房に消費されるエネルギーの 削減により 可能になるでしょう
私たちはまだ 自然を基本とする技術が秘める可能性を 垣間見ているにすぎません 原材料の新たな世界をデザインし バイオファブリケーションで開拓することに 心が躍ります
これは再生不能な資源の 開発から撤退し これは再生不能な資源の 開発から撤退し 以前から存在する 再生可能な生命と 共に歩む方法です 生物から距離を置いたデザインではなく 生物と共に 生物のために デザインしているのです 包装容器 ファッション 履物 家具 建築物 — バイオファブリケーションによる製品は 需要の中心へと移っていくでしょう これは地方の資源を活用しつつ 土地とエネルギーの消費を抑え 工業廃水の流出さえも エネルギーとして 活用することで実現可能なのです
かつてバイオテクノロジーは 化学や生物工学分野の多国籍企業だけが 挑む領域でした 20世紀 材料革新は デュポン ダウ BASFなどの 大手会社から出てくるものでした しかし 21世紀の材料革命を 牽引しているのは 小人数で資本が限られた スタートアップ企業です ところで こういった会社の設立者全員が 理系というわけではありません 芸術家もいるし 建築家やデザイナーもいます バイオファブリケーションで消費財を 生産するスタートアップ企業には すでに10億ドル以上もの資金が 投じられてきました
私は バイオファブリケーション以外に 未来を創る方法はないと思います 身につけているジャケットも 腰掛けているイスも 住んでいる家も こうやってデザインしたものならば 私たち自身や 地球の健康を 損ねることはありません リサイクルできない原材料や 家庭で堆肥に変えられないものは 願い下げにするべきです
私の誓いは そんな未来を 現実のものにすることです これを こんにち行われている 全ての素晴らしい研究に 光を当て デザイナーや科学者 発明家 ブランドの間の相互作用を 促すことで実現します 私たちは材料革命を 起こす必要があるからです 今が革命の時です
ありがとうございました
(拍手)
もしも微生物が衣服を「育て」たり、生物から家具を「育て」たり、そして建物には樹皮のような外壁を与えることができたらどうでしょうか? バイオファブリケーションの分野におけるエキサイティングな発展と、それがどのようにしてプラスチックやセメントなどの埋め立てるしかない資源を、サステナブルでかつ環境に優しい素材に置き換えることを可能にするか、TEDフェローのスザンヌ・リーが語ります。