資本主義の不都合な秘密と進むべき道(16:54)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私は資本主義を信奉し 資本主義社会の中で 30年間働いて 30社余りの企業に関わり 市場価値にして数百億ドルを創出した結果 私は世界中の資産家の 上位1%はおろか 0.1%に入っています 今日は私たちの成功の秘密を 共有しに来ました 私のような富める資本家たちは かつてなく豊かになっているからです さあ その秘訣は何でしょう? 私たちは一体どうやって 増え続ける富の取り分を 毎年手にしているのでしょうか? 資産家たちが30年前よりも 賢くなったのでしょうか? 以前より もっと働いているから? あるいは より背が高く 見た目も良くなっている?
悲しいかな 違います 原因はただ一点に尽きます 経済学です ある不都合な秘密があるのです かつては経済学者が 公共の利益に寄与した 時代もありました でも 新自由主義の時代である 現代では 大企業や億万長者たちだけのために 働いていて それがちょっとした 問題を生んでいます 私たちは富裕層に対して増税したり 巨大企業に規制を課したり 労働者賃金を上げたりといった 経済政策を施行することもできますし かつては実施したこともあります しかし新自由主義経済学者たちは こうした政策は全て ひどい間違いだと警告します なぜなら 税率を引き上げると 常に経済成長が犠牲になり 政府によるどんな規制も非効率で 労働者賃金を上げると 雇用が減少するからだというのです その考え方の結果として 過去30年以上にわたり アメリカだけでも 上位1%の資産は21兆ドルも増えた一方 下位50%は9千億ドルも 貧しくなりました 不平等が拡大を続けるという パターンは世界中で 繰り返されました 中流家庭の賃金は40年ほど上昇しておらず その暮らしは楽ではありません それでも新自由主義経済学者たちは 緊縮財政とグローバリゼーションの混乱への 唯一の論理的な答えは 更なる緊縮財政と グローバリゼーションだと言うのです
では 社会がすべきことは何でしょう? 私にとってそれは 火を見るより明らかです 私たちには新しい経済学が必要です 経済学は憂うつな科学と 言われてきました それも正当な理由で― こんにち教えられてはいても ご大層な数式を並べ立てても これは全く 科学とは言えないからです 新自由主義経済学は 危険なほどに誤っており いま 拡大を続けている 格差や政情不安といった問題は 何十年も間違った経済学理論に 従ってきたことに 直接起因していると結論づける 経済学者や実務家たちが 増えてきています いま分かっていることは 私に富をもたらした経済学は 誤っているだけでなく あべこべなのです その理由は 経済成長を生み出すのは 資本ではなく 人々だからです そして 公共の利益に資するのは 私利私欲ではなく 互恵主義です 私たちの繁栄を生むのは 競争ではなく 協力です 公正でなく 弱者を顧みない経済学は 現代社会が繁栄するために必要とする 高度な社会的協業を 決して維持できないことが はっきりしたのです
我々は一体どこで 間違ってしまったのでしょう? 分かったことは― 新自由主義経済学の根幹を成す前提が 客観的に見て誤りだと 悲しいかな 明らかになってしまいました 今日は皆さんにそうした 誤った前提についてかいつまんで説明し その後に 科学が指し示す 繁栄の源についてお話しします
自由主義経済の第1の前提は 市場とは 効率よく均衡状態を保つ システムであり 経済の仕組みにおいてある要素 例えば賃金が上がると もう片方の要素である雇用などが 減るというものです 私が住むシアトルを例にとると 2014年に最低賃金15ドルを定める 合衆国初の法案が可決されると 新自由主義経済学者たちは彼らが重視する 平衡状態が崩れると騒ぎ立てました 「もし労働の価格を上げれば 「企業は雇用を減らすだろうから 何千という低賃金労働者たちが職を失い 飲食店は廃業するだろう」 ところが… そうはなりませんでした 失業率は驚異的に下降しました シアトルの飲食業は繁盛しました なぜか 均衡などありはしないからです 賃金を上げても雇用は失われるどころか 創出されるからです なぜなら 例えば― 従業員たちが外食できるくらいの 賃金を 飲食店の事業主が支払うことを 突然 要求されれば 飲食業界は縮小せず むしろ発展するからです ―明らかなことです
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ありがとうございます
新自由主義経済学の前提その2は 価格は常にその価値に 等しいというものです 要するにもしあなたの収入が 年間5万ドルで 私が5千万ドルだとしたら それは私があなたの1千倍の価値を 生み出しているからということです さて 皆さんの想像に難くないように 毎年5千万ドルを自分の懐に収め 従業員には低い賃金しか払っていない CEOにとっては これは安心できる前提条件です でも何十もの会社を経営した私の 見解はこうです これはナンセンスです 人々には十分な賃金が 支払われていません 賃金の額は どれだけの交渉力があるかで決まるので GDPにおける割合が減少しているのは 労働者の生産性が低下したからではなく 雇用主がより大きな力を手にしたからです そして―
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資本家と労働者とのパワーバランスにおける 巨大な不均衡に 目もくれようとしないことで 新自由主義経済理論は 資産家の番犬になったのです
第3の前提は最も有害なもので 人間を 「経済人(ホモ・エコノミクス)」と 表す行動モデルです これは我々が皆 完全に利己的で 常に合理的で 絶えず自己利益の 最大化に務める生き物だと定義します でも考えてみて下さい 人生において誰かに 何か親切な行いをする度に あなたは自分のための効用を 最大化していただけだった などということがあり得るでしょうか? 兵士が身を挺して手榴弾から 仲間を守ろうとするとき 自分だけの利益を 優先していたというのでしょうか? 「そんなことはあり得ない あらゆるまともな倫理的感覚に 反している」と思うなら その通りです そして最新の科学によれば その理論は間違っているのです しかしこの行動モデルは 冷酷な新自由主義経済学の 中核を成し これは科学的に 間違っているだけでなく 倫理観を蝕むものです もし我々が 人間は根本的に利己的だという前提を 額面通り受け入れ それから 世界がまぎれもなく 繁栄している姿を見れば そこからの論理的帰結はこうです 定義に従って 数十億人が利己的に行動すると 不思議な変化が生じて 繁栄と公共の利益が もたらされるという命題は真である もし我々人間が 私利私欲を最大化する存在にすぎないなら 利己主義は 繁栄の原動力であるはずです この経済学の論理の下では 強欲さは良いものとされ 不平等の拡大は効率的で 企業の唯一の目的は 株主を豊かにすることだとされます なぜなら さもなくば経済成長が減速し 経済全体が 損なわれるからです この利己主義という教議が 新自由主義経済学イデオロギーの 基礎であり この考えが生み出した経済政策は 所得上位1%にいる 私の友人や私が 過去40年間の経済成長の利益の ほぼ全てを独占することを可能にしました
しかし もしその代わりに 真の科学である 最新の実証研究を受け入れ 人間はたいへん協力的で 互恵的で 生来は倫理的な生き物だとみなせば 互恵的で 生来は倫理的な生き物だとみなせば 論理的に導かれるのは 利己主義ではなく協力が 我々の繁栄の原動力であり 我々の私利私欲ではなく むしろ生まれ持つ互恵性が 人類の経済を生む スーパーパワーだということです
この新しい経済学の核心にある物語は 我々が最良の自分でいることを 許容するものであり 古い経済学とは違って 善について語る物語であり 真実を伝えているという 美徳を持ちます
さて この新しい経済学は 私の個人的な空想や発明ではないことを 強調しておきます 理論やモデルが 世界中の大学でいま研究され 洗練されつつあります 最先端の経済学研究や 複雑性理論や進化理論 心理学、人類学 その他の学問分野を基盤にしたものです この新しい経済学にはまだ その教科書も 正式な名称すらもありませんが 大雑把に言うと 繁栄がどこから生じるかについて このように説明しています
市場資本主義は 進化するシステムであり イノベーション量の増加に従って 消費者需要も増加するという ポジティブフィードバックループにより 繁栄が生まれます イノベーションは 人間の問題を 解決するプロセスであり 消費者の需要は 市場が有用なイノベーションを 選別していくメカニズムです そして問題を解決すればするほど 我々はますます繁栄します しかし繁栄に伴って 我々の問題やその解決策は 複雑さを増して行きます 技術的に複雑になるにつれて 現代経済を特徴づける 高度に特化した製品を生み出すために 今まで以上に高度な社会的 経済的な協力が必要となります
古い経済学理論は もちろん正しいのです 競争は市場において 重要な役割を担います しかし見落とされているのは 競争するグループのそれぞれは 大いに協力的だということです 企業間の競争 企業ネットワーク間の競争 国家間の競争など― そして今までに 事業経営を成功させたことのある人は 皆の才能を取り入れることで 協力的なチームを作ることが 自己中的な輩を集めるよりも 常に優れた戦略だということを知っています
ではどうすれば 新自由主義を手放して より持続可能で 繁栄をもたらす 公平な社会を 築けるのでしょう? 新しい経済学は 5つの原則を提案します
まず成功した経済は ジャングルではなく庭園のようなものです つまり 市場は庭園のように 世話する必要があるものです 市場は人類の問題を解決する ソーシャル・テクノロジーであり 歴史上最も偉大な発明です しかし社会規範や 民主主義的規制により制約されなければ 解決する問題の件数よりも 多数の問題を生じることは不可避です 気候変動や 2008年の金融危機は その分かりやすい例です
2つめの原則は 「包含(インクルージョン)」が 経済成長を生むということです ですから 包含が 経済成長がある時にだけ 享受できる贅沢だという 新自由主義経済的な考えは 間違いであると同時に退行的です 経済とは人々そのものです より多くの人々を 様々な方法で参加させること それが市場経済において 経済成長の原動力となります
3つめの原則は 企業の目的は単に株主利益の 最大化だけではないということです 現代の経済生活における 最大のペテンは 企業の唯一の目的 そして経営陣の唯一の責任は 彼ら自身と株主たちの 利益を増やすという 新自由主義的アイデアです 新しい経済学が主張すべきこと そして主張できることは 企業の目的は 顧客や労働者、コミュニティ、株主という ステークホルダー全員の 幸福を増進することだということ
4つめの原則 それは強欲さは 良いものではないということです 強欲さは資本家の資質なのではなく ソシオパス(社会病質者)の資質です
(笑)
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そして我々が営む 大規模な協力の上に 成り立つ経済の仕組みにおいては ソシオパスは社会悪であると同様 ビジネスにおいても悪なのです
最後に5つめの原則です 物理法則とは違い 経済学法則は選択するものです 新自由主義経済学理論は これまでそれが絶対的な 自然の摂理であると主張して来ました ところが実は疑似科学に 基づいて築かれた 社会規範や ナラティブに過ぎなかったのです もし我々が本当に より公平で 繁栄し 持続維持可能な 経済を望むなら 高度に機能する民主主義と 市民社会を望むなら 私たちには新しい経済学が必要です
良いニュースは もし新しい経済学が必要なら それを確立しようと決めれば良いだけです
ありがとうございました
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(司会)ニック よく聞かれると思いますが もしそんなに経済システムに不満なら なぜ資産を寄付してしまって 残りの99%に加わらないんです?
(ハノーアー)ええ そうですね よく言われますよ 「税が問題だと思うなら もっと税金を払えばいいはずだ そんなに賃金が問題だと思うなら あなたがもっと支払えば?」 そうすることはできます 問題は それではあまり物事を 変えられないんです 私が見つけた戦略は それよりも何十万倍も 効果的なんです―
(司会)わかりました
(ハノーアー)私の資金を投じて ナラティブを築き法案を通して 富める人々に税金を払ってもらい 従業員たちにより良い賃金を支払ってもらうんです
(拍手)
例えば 私たちが成功させた 15ドルへの最低賃金引き上げは これまで3千万人の労働者に 影響しました ですから より効果的なんですよ
(司会) 気が変わった時は お金の寄付先を 見つけて差し上げますね
(ハノーアー)ありがとう (司会)ありがとうございました
長年にわたって誤った経済理論に従ってきたことで不平等の拡大や政情不安の増大を招いたと、起業家ニック・ハノーアーは言います。彼の慧眼は「強欲は善」という考えが道徳的に有害なだけでなく科学的にも間違っていると論駁し、互恵性と協力を原動力とする新しい経済理論の骨子を描きます。