手ごろな価格で持続可能な電気をアフリカに導入する方法(12:51)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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現在 全世界の約10億人の人々が 電気のない生活を送っています そして サハラ以南のアフリカでは 今も半分以上の人が 暗闇の中で暮らしています
このNASAの写真を ご存じのかたも多いでしょう この暗闇には名前があります 「エネルギー貧困」です エネルギー貧困は経済発展や社会福祉に 大きな影響を与えています サハラ以南のアフリカにおける エネルギー貧困の問題の特徴は — ところで ここで言う「エネルギー」とは 「電気」を意味しています ― この問題の特徴ですが この地域の多くの国で インフラが整備されていないことです 2015年のデータによれば サハラ以南のアフリカの総発電能力は およそ たったの100ギガワットです イギリスの発電能力とほぼ同じです
ですから この状況は 21世紀にエネルギーシステムを ゼロから構築するという ユニークな機会です 問題は どうやって実現するか? 過去を参考にして 世界の人口の大半に 安定した 手頃な価格の電力を 提供してきた方法を まねることはできます しかし この方法は 高コスト 非効率な上に 汚染や気候変動などの ひどい副作用があることが よく知られています 今世紀末までにアフリカの人口が 4倍になることを考えると エネルギー貧困は 理論上の問題ではありません アフリカは大量のエネルギーを 早急に必要としています なぜなら人口は急増しており 経済も発展させる必要があるからです
多くの国々における 電力普及は 次のように行われてきました まず初めに 大規模電力網のインフラ整備です 通常 大規模な公共投資で行います そのインフラが 生産拠点に電力を供給します すなわち 工場 農業の機械化 商業活動などです そしてこれが経済成長を促し 雇用を創出し 収入を増やし より多くの人々が より多くの家電製品を 購入することに寄与し 好循環が生み出され それによって 家庭の電力需要が生み出されるのです
しかし 何十年にもわたる エネルギープロジェクトにもかかわらず サハラ以南のアフリカは この恩恵を受けていません これらのエネルギープロジェクトでは しばしば 無駄 腐敗 非効率さが目立ち 農村部の電化率はきわめて低く 都市部の電化率も もっと高くできたはずです 電力の信頼性もひどく しかも 電力価格は 全世界で最も高い水準です そして これらすべてに加えて 私たちは気候変動によって増大しつつある 災害の影響に直面しています だからアフリカは 別の道を見つける必要があります
結論から言うと 私たちは現在 アフリカの電力事情について エキサイティングな革新を目撃しています この新しいやり方は オフグリッド(送電網外)ソーラーと呼ばれ 安価なソーラーパネルと LEDやバッテリー技術の進歩によって 実現されており 革新的なビジネスモデルと 組み合わされています オフグリッド・ソーラーの商品は 単一の照明器具から 電話を充電したり テレビを点けたり 扇風機を動かしたりできる 家庭用のシステムまで さまざまです
明確にしておきたいのですが アフリカには オフグリッド・ソーラーは非常に重要です 私は この部門で長年働いてきましたが オフグリッド・ソーラーの製品は 世界の最貧困層に 基本的な電力サービスを提供し 生活の質を向上させます オフグリッド・ソーラーは 非常によいものであり 重要です しかし オフグリッド・ソーラーは アフリカのエネルギー貧困問題の解決にならず さらに言えば すべての家庭を電力網に接続する 政府の取り組みも解決につながりません 私は「電力網 対 オフグリッド」や 「旧式 対 新式」というような論争を ここで繰り返すつもりはありません そうではなく 私たちがアフリカのエネルギー貧困に 本気で取り組むことができない 大きな理由は 3つあると考えています
第1に 私たちは エネルギー貧困とは何か または それがどれほど深刻であるか はっきりと理解していないことです
第2に 私たちは複雑で 全体的な課題を回避し 応急処置的な解決策を 好む傾向があります
第3に 私たちは気候変動に関して 心配すべきものを 見誤っています これら3つが重なり 電力の未来に関する 欧米での議論の押し付けや アフリカに対する 過度の干渉につながっています
では この3点を ひも解いてみましょう 第1に エネルギー貧困とは何か? エネルギー貧困解決の目標となる指標は SDG 7すなわち 国連の「持続可能な開発目標」の 7番に明記されています 2030年までに世界の全人口が 電力を利用できることを目指しています けれど基準は達成できたか否かであり 電力の質や信頼性 使いやすさを 無視しています ただ現在 これらの点を考慮した 指標の設定は試みられていますが
しかも どの時点で家庭が 「電力網に接続された」とみなされるのか 明確ではありません たとえば 昨年 インドのモディ首相は インドのすべての村が 電化されたと宣言しましたが この電化の基準は 村に変圧器が設置され 村の公共施設と 全世帯の わずか1割が電力網に 接続されているというものです 一方 SDG 7の進捗状況を監視する 国際エネルギー機関は エネルギーアクセスを1人あたり 年間50キロワット時と定義しています これは 電球を点灯し 電話を充電し おそらくは 低消費電力のテレビや扇風機を 1日数時間使うのに十分でしょう さてエントリーレベルのアクセスを 提供することは重要な最初のステップですが 状況を美化しないようにしましょう どう考えても 電灯とわずかな家電で 精一杯という状況なら まだエネルギー貧困にあるといえます しかも これらのエネルギー貧困の指標や目標は 住宅での電力使用のみを対象としています ですが 家庭での電力消費量は 世界の電力消費量の 約4分の1しか占めていません なぜなら電力のほとんどが 産業用や商業用として使用されるためです
これが私の主張につながります これらの生産拠点に供給できる 豊富で手頃な価格の 信頼性の高い電力 ― 私が「成長のためのエネルギー」 と呼んでいるものがなければ その国はエネルギー貧困から抜け出せません このグラフからわかるように 消費電力は少ないが 所得が高いという国はありません 存在しないのです それでも 現在 世界の30億人の人々が 家庭だけでなく 工場 オフィスビル データセンター その他の経済活動に供給できる 信頼性の高い 手頃な電力がない国に住んでいます 家庭や零細企業を電化するだけでは この深刻なエネルギー貧困を 解決することはできません エネルギー貧困を解決するには 信頼性の高い手頃な電力を 大量に供給して 経済全体規模での雇用創出と 所得増を促進する必要があります
ただし 大規模な電力の必要性は 現在 表面化している議論と対立します 気候変動に直面する中で 大規模な集中型電力システムから 小規模な分散型電力への移行は 避けられないという議論との対立です アフリカの オフグリッド・ソーラーの成長 — 繰り返しますが これ自体はよい手段です — オフグリッド・ソーラーの成長は その議論に合致しており アフリカが古いエネルギーから飛躍し 新しい電力システムを ソーラーパネル1枚から 新たに築き上げているという主張に つながっています
これは配慮ある言い方ですが 甘い見方です シリコンバレーに触発された 技術革新に関する議論は 多くの場合 変革の基盤として 既存のシステムが あることを前提にしています 技術革新とエネルギーに関しては 欧米諸国は実証されたシステムの 周辺部で取り組んでいるのです そして 魅力的なもの 屋上ソーラーパネル スマート家電 電気自動車 これらは全部 大規模で 絶対に不可欠な 電力網の上で成り立っており それ自体は実証済である 政治的な枠組みの中に存在するのです 世界で最も先進的な国々であっても 大規模な中核のない 周辺的な技術のみで 成り立つ電力システムは例がありません
したがって 結局のところ 集中型であれ 分散型であれ 再生可能型であれ 化石燃料型であれ エネルギー貧困を解決できる 唯一の方法は 信頼性の高い 手頃な価格の電力を アフリカで台頭する産業や商業部門に 供給する方法を見出すことです それは田舎の家々に 明かりをともすだけではありません 急速に成長し 仕事を切実に必要としている 有能な若者であふれる アフリカの都市のための電力です これを実現するには 圧倒的な相互接続性と 「規模の経済」が必要になるため 堅牢で最新の電力網が エネルギー貧困解決の 重要な要素になります
私たちの2番目の誤りは 応急処置的な 解決法に偏り過ぎていることです エネルギー貧困は 複雑な社会経済的および 政治的文脈の中に存在しています オフグリッド・ソーラーなどの 新しい電化モデルの魅力の1つは 氷河のようにペースが遅く 効率の悪い政府の対応を回避できることです 小さなシステムでは 煩雑な手続きや公共事業者をスキップして 顧客に直接販売できます しかし エネルギー貧困に立ち向かうには 政府を無視することはできません 制度を無視することはできません 大規模な電力の発電 送電 消費に 関与する多くのプレーヤーを 無視することはできません 成長に必要なエネルギーを供給する場合 技術革新だけでなく 管理方法 制度やより広範な マクロ環境を改善するために 時間と粘り強さが必要とされます
さて これでうまくいくと思うでしょう ただ 気候変動をどうすべきか? CO2排出量を抑えながら すべての人に エネルギーが豊富な未来を 保証するにはどうすればよいでしょうか? いくつかの複雑な トレードオフは必要ですが 私は アフリカの エネルギーの豊富な未来は 低炭素の未来と 相反するものではないと信じています 間違わないでください 気候変動のせいで アフリカでは エネルギー貧困が続くと 考えてはならないのです
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実際 事実は正反対であることを 示しています アフリカが気候変動に適応し 回復力を強化するために エネルギーは不可欠です 気温が上昇すれば 冷房と冷蔵の需要は 増加します 地下水面が低下すれば 揚水かんがいが増えます また 異常気象や海面上昇により インフラの大幅な拡張と 強化が必要になります これらはすべて エネルギー集約型の活動です ですので 気候変動と アフリカが喫緊に必要とする― エネルギーの豊富な未来への移行との バランスを取るのは大変です しかし これは譲歩できない問題で 方法を見つける必要があります 最初のステップは議論の前提条件を 二者択一に留めないことです また 本当の課題から 目をそらさせるような解決策の 美化もやめる必要があります
そして アフリカには 相当規模の再生可能エネルギーを含む 膨大な天然資源があることも 忘れてはいけません たとえば 私の出身地ケニアでは 地熱発電が総発電量の半分を占めており 水力発電の割合も大きいため すでに 再生可能エネルギーが 発電の主力となっています また アフリカ最大の風力発電所と 東アフリカ最大の ソーラー発電所も稼働し始めました
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さらに 新しいテクノロジーにより 電力システムを運営 設計し かつてないほど効率的に 電力を利用できるようになり 少ない電力で多くのことができます エネルギー利用の効率化は 気候変動との闘いにおいて 重要な手段になるでしょう
最後に 私が伝えたいのは アフリカは現実の場所であり 世界の他の地域と同様に 人々が複雑な課題や大きな変化を 乗り越えている現場だということです
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各国 各地域には それぞれ 社会的 経済的 政治的な 特異性がありますが 電気の物理的な性質は どこでも同じです
(笑)(拍手)
そして 私たちの経済にとって エネルギーの必要性は 他の地域と同じくらい高いのです
電力網とオフグリッド・ソーラーの 組み合わせによる家庭の電化の拡大は アフリカに 多大な影響を与えました しかし エネルギー貧困を解決するには まったく不十分です エネルギーの貧困を解決するには エネルギーが豊富な未来を実現する 様々なエネルギー源による大規模発電と 現代的な電力網が必要です それでアフリカの人々は 現代的な生活水準と高収入の仕事を 享受できるようになるのです アフリカの人々はこれに値しますし 2100年までに世界人口の4人に1人が アフリカ人になるという予測を考えると 地球がこれを 必要としているのです
ありがとうございました
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エネルギー貧困、つまり電力やその他の基本的なエネルギーサービスへのアクセスの欠如はサハラ以南のアフリカの国々のほぼ3分の2に影響を与えています。地域の人口が増加し続けるにつれ、成長するための新しいエネルギーシステムを構築する必要性も増えるとローズ・M・ムティソは言います。彼女は大胆な主張を展開して、太陽光、風力、地熱による発電と現代的な電力網といった解決策をバランスよく組み合わせることで、どのようにエネルギーが豊富なアフリカの未来を作り上げるか、そして安定した電力供給、雇用創出、収入増を実現するかを説明します。