爆発的に増大する医療データの視覚化
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まず始めに医療に関係する、データを取り扱う課題から始めましょう。これは私たちにとって避けては通れない課題です。そんな私たちを助けるのがこの機械です。これはコンピュータ断層撮影装置、通称CTです。素晴らしい装置です。この装置はX線を用い、人体の周囲を高速で回転し約30秒で検査が終わりますが、そこから膨大な情報が出力されます。健康管理の向上のために、使える大変素晴らしい機械です。しかし、私たちにとっての課題でもあるのです。その課題はこちらの画像で見て取れます。これは現在私たちが直面している、医療データの爆発的な増加問題です。この問題に現在取り組んでいます。過去に遡りましょう。
数年前に何が起こったかご説明します。これらの機械は、1970年頃に導入され始め、人体をスキャンし、100枚程度の人体画像を生成します。大変勝手ながら、明確化するために、それらをデータをデジタル化すると、大体50MBの大きさになります。情報量自体は私たちが、現在扱っているデータに比べると小さいでしょう。通常のモバイル機器で扱えます。電話帳に例えると、1メートル分積み上げた電話帳の数に相当します。現在私たちが扱っている、これらの機械は、数秒以内に2万4千枚もの人体の画像を生成します。これは20GBものデータ、もしくは 電話帳800冊分の情報量です。重ねれば200メートルは行くでしょう。何が起きようとしているか、今まさに起き始めている技術トレンドとは、測定時間中の人体の状態を見られるようになったことです。つまり人体の挙動を解剖なしで確認できるのです。それでは、5秒もの間、データを取得したとしましょう。それは1テラバイトものデータになります。これは80万冊の本、あるいは16km分重ねた電話帳に相当します。これは患者一人分のデータです。これが私たちが取り組まなければならない対象なのです。
実に途方もない仕事です。これで、2万5千枚もあります。これらを放射線専門医が対応する姿を想像してみてください。2万5千枚もの画像を前にこう言うのです。「OK、OK、えっと2万5千枚か、あっ、ほらここが問題の箇所だよ」なんて、もうそんなことは出来るわけがありません。不可能です。そうするよりももっと頭のいい方法が必要です。まずこれらの画像を一つにまとめます。自分自身の体をあらゆる角度から薄切りにし、それらを再度元のデータの塊に戻すことを想像してみてください。そういうことを私たちは行っているのです。このギガ、テラバイト級のデータを元の塊に戻します。もちろん、データの塊は単に人体のそれぞれの箇所において、吸収されたX線の総量のみを表します。そこで、まずは私たちが注目していないものは透過暗号化し、確認したいもののみを見れるようにする必要があります。つまり、このような形にデータを変換したいのです。この課題は、私たちにとってとてつもない難題でした。
絶えず処理速度や性能が良くなるコンピュータでも、ギガバイトや、テラバイト級のデータを対象に、関連情報を抽出するのは困難な作業です。心臓であったり血管や肝臓を見たい時があるかもしれません。もしかしたら腫瘍を発見することもあるかもしれません。そこでこの可愛らしい子の出番です。これは私の娘です。今朝の9時頃の彼女の様子です。彼女はゲームで遊んでいます。まだ2歳児ですがとても楽しんでいます。彼女はGPU開発の推進役といっていいでしょう。子供達がゲームを遊ぶ限り、グラフィックは進化し続けるのです。帰ったら是非ゲームを勧めてください。それが私たちには必要だからです。
この機械の中には私が医療データに対して行っていることを可能にしてくれるものが存在します。実はこのような小さな装置を使っています。ご存知のように、おそらく10年程前私が1台目の画像処理用のコンピュータを買う予算を得た時代の頃は、それはとても巨大なマシンでした。プロセッサやらストレージなどあらゆるものが詰め込まれていました。私はそのマシンに100万ドル支払いました。そんな機械も今や私のiPhoneと同じくらいの性能です。毎月新型のグラフィックカードが販売されますが、これはNVDIA、ATI、Intelといったベンダーから頂いた、数少ない最新モデルです。ご存知のように、数百ドルも払えば、このようなグラフィックカードを購入し、コンピュータに追加して様々なことが可能になります。このように、これらと共に人々に研究されているアルゴリズム開発や、データの圧縮方法、関連情報の抽出方法などによって、膨大な医療データを取り扱うことを可能にしています。
それでは、私たちが出来るいくつかの例をご紹介します。これはCTスキャナーによって取得されたデータです。ご覧のようにこれは完全なデータです。これは女性で、髪の毛が見えます。女性の身体の個別構成を確認することができます。このように歯の金属部分に対してX線が拡散していることが見て取れます。ノイズが発生しているのはそういう部分です。でも、通常のコンピュータ内の標準のグラフィックカードによって、インタラクティブに断面を作ることができます。全てのデータは格納されているので、回転させたり、別の異なるアングルから確認ができます。この女性は問題を抱えていたようですね。脳内出血を起こしていたようですが、小さなステントと呼ばれる血管をはさむ金属製の留め具で治療されています。そして機能を変えることで、何を透明にし何を見えるようにするか、決めることができます。骨格を見ることができます。これが女性の頭蓋骨を開けた部分で、ここから中に入ったようです。これらは素晴らしい画像です。非常に解像度が高く、現在の標準グラフィックカードを使って何が出来るかをとても良く示しています。
効果的な利用方法を編み出した私たちは、膨大なデータをシステム上に圧縮することを試みました。私たちの取り組んでいるアプリのうちの一つは、世界中で少しずつ話題になりつつあるバーチャル解剖アプリです。同じように、全身スキャンの画像といった、非常に巨大なデータセットを使います。CTスキャナーに全身を通し、数秒後に全身の画像データを得ることができます。これがバーチャル解剖です。こうやって徐々に剥ぎ取っていきます。始めに遺体袋が確認できます。次に皮を剥ぎ取り、筋肉が見えますね。最後にこの女性の骨格がご覧になれます。
ここからは、これからお見せする人々に対し敬意を持って、いくつかのバーチャル解剖をお見せします。凶悪な事件によってお亡くなりになられた方々に敬意を払いつつ、これらの画像を法医学的な事例としてお見せします。これらは私の出身である、スウェーデンだけで過去4年間において、およそ400件バーチャル解剖が執り行われています。これが通常のワークフローです。警察は、例えば夕方に事件が起きたとして、解剖の必要があるかどうか判断します。そして朝の6時から7時にかけて、袋に包まれた遺体が、私たちのセンターに移送されCTスキャナーの一つでスキャンされます。病理学者やたまに法医学の研究者を伴った放射線科医が、出力されるデータを確認し、合同で会議を開きます。そして本当の解剖をどのように行うか決めるのです。
いくつかの事例のうち、私たちが担当した初期の事例を紹介します。このようにデータを本当に詳細に確認できます。とても高画質です。さらに私たちが考案したアルゴリズムによって、詳細な部分を拡大をすることが可能です。繰り返しますが、完全にインタラクティブで、このシステムによってリアルタイムで画像を回転させて見ることが可能です。こちらの事例の説明は不要かもしれませんが、これは交通事故です。酔っぱらった運転手が女性をひきました。骨格の損傷を確認することがとても容易です。死因は首の損傷です。さらに女性は車に下敷きになってしまったため、その怪我によって体に重度の損傷を負っています。
別の事例を紹介します、刺殺事件です。私たちにできることをこの例でも説明します。体内に存在する金属製品を、簡単に確認することができます。歯の中の加工物も確認できます。これは歯の詰め物です。金属のみを表示し、その他は透明にする機能を設定しています。別の凶悪な事例を紹介します。これは実際の致命傷ではありません。この方は心臓に複数回刺され、死亡しました。しかし犯人はさらにナイフを片方の眼球に刺したままにしたのです。別の事例を紹介します。 ナイフによる刺殺の事例などを検証できることは、私たちにとって大変興味深いものです。ここではナイフが心臓に突き刺さっているのが確認できます。空気が一方からもう一方へと、漏れだしている様子が簡単に確認できます。通常の解剖ではこのようなことを確認することは困難です。このように、死因を判断する上で、犯罪捜査に大変有効です。また、捜査を正しい方向へ導き、真の殺人犯を突き止める場合もあります。
これは、私が興味深いと感じた事例です。弾丸がこの方の脊椎の横に、留まっているのが見えます。この弾丸を光源に変換することで、弾丸がこれらの破片を光らせて、見つけやすくしています。通常の解剖を行う際にこれらの破片を、体内から見つけだそうとする場合は実際には大変困難です。
今日皆さんにお見せ出来ることを嬉しく思っているものの一つが、このバーチャル解剖テーブルです。これは標準のGPUと今までのアルゴリズムを元に私たちが開発したタッチデバイスです。実際には、このような形となっています。巨大なiPhoneのように動作します。テーブル上で行える全てのジェスチャーを実装しています。巨大なタッチインターフェースと考えて頂ければと思います。iPadを買おうと考えている方は、忘れてください。これこそ皆さんが欲していたものです。スティーブ、あなたがこれを聞いてくれているといいんですが―という訳でこれはとても良いデバイスです。もし機会があれば、是非使ってみてください。実体験して頂くことをお勧めします。注目も集めたことなので、私たちはこれの教育目的の利用を想定して製品化を目指しており、将来的には、医療現場での利用も考えています。バーチャル解剖について紹介したい場合はYouTubeに閲覧できる動画があるので、是非ご利用ください。
「触れる」ことについてご紹介したので、次は本当にデータに触れることについてお話します。若干SFが入ってきますが、未来のことについてお話します。今は医師がこれを利用している訳ではありませんが、将来は、使っていることに期待しています。左側に見えるのはタッチデバイスです。小さな機械式のペンで、高速のステッピング・モーターが内蔵されており、フィードバックを生むことができます。よって、データに仮想的に触れるとペンに接触力が生まれ、感覚を得ることができるのです。このように生きている方の、スキャン画像に対してペンを持って、データを確認しながら、頭部に向けてペンを動かすと突如抵抗力を感じることができます。 このように皮膚を感じることができます。もう少し強く押すと、皮膚を通り抜け、中の骨格を感じることができます。さらに強く押せば、骨格を通り抜け耳のすぐ近くの柔らかい骨を通り、ぬるぬるしたような感じで、脳の部分を感じることができます。
非常に有効な機能です。さらに例を紹介します、これが心臓です。新型のスキャナーのおかげで、たった0.3秒で心臓全体をスキャンすることができます。さらに時間分解が行えるため、心臓を見ながら、動画を再生することが可能です。彼はこのプロジェクトに取り組んでいる、大学院生の一人でカーデュアンと言います。フィードバックシステムである触覚装置の前に座りながら、心臓に向けてペンを動かすと心臓が目の前で拍動しはじめます。どのように心臓が拍動するのか確認できるのです。ペンをとって、心臓に向けて動かし、心臓の上にペンを置くと、生きた患者の心臓の鼓動を感じることができるため、心臓の動作を確認することができます。心臓の中に移動し、内部を押して、心臓弁の動作を感じることができます。これこそが、心臓外科医の将来の姿であると考えます。心臓外科医にとって、患者の心臓の中を高解像度のデータを元に手術前に、確認するなんて夢のような話でしょう。非常に素晴らしい構想です。
さらにSFに近いものをご紹介します。機能MRIについてご存知でしょうか。これはとても興味深いプロジェクトです。MRIは磁場と周波数を利用し、脳や体のあらゆる部分をスキャンすることができます。これによって、脳の構造についての情報が得られます。更にこれを使って酸素を含む血液とそうでない血液の磁性の差を測定することが可能です。これはつまり、脳の活動を映し出すことが可能なのです。私たちはこれにも取り組んでいます。ちょうど研究技術者であるモッツがMRIにゴーグルを着用して、中に入る所をご覧頂いています。これはゴーグルを通して彼にスキャナーにいながら映像を見せることができるためです。これは中々ビックリするかもしれません。モッツが実際に見ている映像はこれです。彼は自分の脳を見ているのです。モッツはここで何かしていますね。恐らく右手でこういう風にしています。なぜなら、左側は運動皮質によって活性化されるからです。彼も同じくその様子を確認できます。このような可視化は新しい取り組みであり、私たちが少し前から研究している分野です。
これはモッツの脳の別の部分です。彼には、100から逆に計算するように頼みました。「100 97 94...」とった具合に、計算しています。彼の脳の小さな計算に関わる領域が活性化し、脳の全体を光らせているのがわかります。素晴らしい結果です。リアルタイムで計測できます。彼に依頼して調査を行うことが可能です。更に彼の視覚野が、頭頂部の後ろ側で活性化しています。なぜなら自分自身の脳を見ているからです。また彼は、私たちが彼に何かをさせるための命令を聞いています。この信号は脳の奥深くで発せられていますが、中で光っているのが確認できます。全てのデータがここに含まれているからです。ここでは以下のような光景をご覧頂けます。モッツ、左足を動かしてください。彼はその通りにします。20秒間そのままの状態でいます。するとここが急に光ります。運動皮質が活性化されたことが確認できます。非常に面白い結果です。これはとても素晴らしいツールだと思います。そして今までお話しした内容をまとめると、ニューロンや脳がどのように機能しているのかを理解する上で、とても使えるツールであると考えます。何より非常に高画質かつ高分解能な上、高速に処理できます。
さらにセンター内で少々面白いことも行っています。これはCAT(コンピューター断層撮影)スキャンです。これはノーショーピングのはずれにある、コルマルデン動物園のエルサというライオンです。彼女はセンターに来て、鎮静状態にされそのままスキャナー内に運び込みました。その後、ライオンの全データを取得しました。このようなライオンの画像に対して、レイヤーを剥ぎ取っていき、内部を確認していきます。このようにして検証を行ってきました。これは未来のテクノロジーにおける、大変優れたアプリだと思います。なぜなら、動物解剖学については未知の部分も多く、獣医側で知られているのは基本的な知識に限られています。あらゆる動物をはじめ、あらゆるものをスキャンできます。唯一の問題は機械の中に入れることくらいです。これは熊です。機械に入れるのに苦労しました。熊は非常にかわいらしい、友好的な動物です。これは、熊の鼻の部分です。抱きしめたくなるでしょう。機能を変更してこれを見るまでは、熊には注意しましょう。
以上をもって、これらの画像の生成を手伝って頂いた全ての方々に感謝したいと思います。データの収集やアルゴリズムの開発、全てのソフトウェアを作り上げるまでに、非常に多くの労力がかかっています。非常に能力のある方々のおかげです。私のモットーは、私よりも頭の良い人達を雇うことです。多くは私より頭が良い方々ばかりです。
ありがとうございました
現在では患者一人に対して、医療用撮影装置はわずかな時間のうちに大量の画像やテラバイト級のデータを生成します。では、医者はこれらの情報の中からどのようにして有用なデータを判断するのでしょうか?TEDxGöteborgでは、科学データの視覚化の専門家であるアンダース・インナーマンが、無数のデータの解析のため、バーチャル解剖などといった新しく高機能なツールの紹介や、現在開発中であるSFに近いような医療技術を少しだけ披露します。【本トークには医療用画像が含まれます】
1977年日本大学医学部卒。第一内科入局後、1980年神経学教室へ。医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)を経て、帰国後は1991年に特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。1993年、神津内科クリニック開業。
医師求人・転職専門サイト「e-doctor」にて『神津仁の名論卓説』を連載中。
【略歴】
1999年 世田谷区医師会副会長就任
2000年 世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年 日本臨床内科医会理事就任
2004年 日本医師会代議員就任
2006年 NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年 昭和大学客員教授就任