有望な膵臓がん検査 ― なんとティーンエージャーが開発(10:49)

ジャック・アンドレイカ(Jack Andraka)
このページをシェアする:
ドクターズゲートオリジナル神津 仁Dr. 監修対訳テキスト
神津Drプロフィール
e-doctorで好評連載「名論卓説」の神津 仁Drが監修。ドクターズゲートでしか読めない、医療関係者向け対訳文です。
※映像と合わせてご覧になる方へ
自動スクロールはしませんので、映像に合わせてスクロールさせてご覧下さい。

みなさんはこんなことを経験したことがありますか?とにかく辛くて、混乱するような事に遭遇し、起こったことをできる限り調べて、なんとしても理解するしかないという気持ちになった経験はありますか?

13歳のとき、家族で親しくしてた叔父さんのような人がすい臓がんで亡くなりました。本当に身近な人がこの疾患に襲われ、もっと知らなければと感じたのでネットに繋いで答えを探しました。

インターネットを使って、すい臓がんの色んな統計を見つけました。その統計は衝撃的なものでした。すい臓がんの85%が手遅れな段階でしか発見されず、患者はたった2%以下の生存率しかないというのです。なぜ、すい臓がんを見つけるのがこんなにヘタなのか?理由?現在の現代医学が使っている技術は、60年前のものを使い続けているからです。うちの父さんよりも年上です。

(笑)

それだけでなくて、かなり高価です。判定毎に800ドルかかって、その上検査はなはだしく不正確で、すい臓がんの30%以上を見落としてしまいます。担当医が検査の指示を出すには、バカバカしくなる程患者をがんと疑う必要があります。これを知って、もっと良い方法があるはずだという確信がありました。そして、すい臓がんを効果的に検出するために、センサーが満たすべきと考える科学的な基準を決めました。センサーは、安く、速く、簡単で、高感度で、判定度が高く、低侵襲でなければなりません。

実は、がん検査が60年間も新しくならなかったのには理由がありました。それは、すい臓がんを検出しようとするときには、体内を流れる血液を調べて既に山のようにある豊富なタンパク質の中から、ごく少量に存在するある特定のタンパク質に発生する微妙な量の違いを探します。ほとんど不可能なことです。

でもティーンエージャーの楽観的な想いは、そんなことに屈しません。(拍手)ティーンエージャの「親友」のGoogleとWikipediaを開けて調べ始めました。宿題をするときは、この2つを使えば何でも分かります。こんな記事を見つけました。すい臓がんになると検出される8,000種のタンパク質を納めたデータベースがある、という記事でした。そして、新しいミッションができました。タンパク質データを全て調べて、この中のどれかがすい臓がんを見つけるバイオマーカーとなるか、調べることにしました。自分自身にとって、よりシンプルにする為に、科学的な基準を作ることにしました。こんな基準です。何よりも第一にそのタンパク質の血中レベルがごく初期の段階から、全てのすい臓がんの患者で高くなり、がんである場合のみ、変化が見られるものでなければいけません。

僕は超膨大な作業をどんどん淡々と進めて行き、4,000種を確認したところで正気を失う寸前でしたが、ついにタンパク質を見つけました。やっと突き止めたこのタンパク質は、メソテリンと呼ばれています。どこにでもある、ありふれたタンパク質です。すい臓、卵巣、肺がんでない場合は、です。がんになっている場合は、大幅に増加して発現します。これが重要な鍵となるのは、疾患のごく初期に見つかることで、患者に100%に近い生存率がある、そんな時期です。

検出に使える信頼性の高いタンパク質を見つけたので、次はどうタンパク質を検出し、つまりはすい臓がんを見つけるのかということに焦点を移しました。画期的な突破口は、予期しない所でやってきました。恐らく最も不釣り合いな所です。高校の生物の授業中、イノベーションが最高に抑制されている所(笑)

(拍手)

カーボンナノチューブのこの生地をこっそり持ち込んでました。炭素で出来た長くて細い管です。原子1個分の厚さです。みなさんの髪の毛の直径の50,000分の1です。極めて小さいものですが、非常に素晴らしい特性があります。材料科学のスーパーヒーローみたいなものです。生物の授業中に僕がこっそりとこの記事を机の下で読んでいた一方で、きちんと聞くべき授業で扱っていたのは、抗体という別の素晴らしい分子についてでした。抗体がすごいのは、たった一つのタンパク質にだけ反応することです。でもナノチューブほどには、興味を引かれませんでした。まぁだからただ授業を受けていたのですが、突然ひらめきました。この読んでいたカーボンナノチューブと、授業で考えているべき抗体を組み合わせられるかもしれないと気付きました。本質的には、大量の抗体をナノチューブの網構造に編み込んで、特定のタンパク質にだけ網構造が反応するようにした上でナノチューブの特性を利用して、存在するタンパク質の量に応じて電気特性が変化するようにできそうだと気が付きました。

ただし、問題がありました。ナノチューブの網構造は、極端にもろいのです。網構造はとても壊れやすいので、維持する支えが必要でした。この為、紙を使うことにしました。紙からがんの検査紙を作るのは、チョコクッキーを作るくらい簡単にできます。大好物ですが、まず用意した水にナノチューブを加え、抗体も加えてかき混ぜます。そこに紙を持ってきて浸し乾かしたらこれだけでがんが検査できます。

(拍手)

そこで急に気が付きました。僕の素晴らしい研究計画に、ちょっとした影を落とすようなものです。がんの研究をするには家のキッチンではできないということです。母にも不便かもしれません。そこで、その代わりに研究所で研究しようと決めました。そして材料一覧、予算、研究予定表、研究手順を書き上げました。そして、それを、ジョンス・ホプキンス大学と国立衛生研究所の200人の教授にメールしました。基本的に、すい臓がん関係の研究者全員です。こんな了解のメールが送られてくるのを待ってました。「きみは天才だ!これでみんなが救われる!」

そして―(笑)

でも現実は甘くなくて、1ヵ月ほどの間に送った200件のメールに199件の却下メールが届きました。ある教授は、研究手順の全てを細かく確認して一体どこにそんな時間があったのかと思いますが、手順の1つ1つ全て、こんな酷いものは無いという風に指摘してきたのです。僕の研究構想を自分で思っていたほどには、教授たちが高く評価していないのは明らかでした。
でも、希望の光りがありました。ある教授から、「私のところでキミのこと手助けできるかもしれないよ」とのメールが届いたので、そっちへ向かいました。

(笑)

子供にだめと言うな!というのに従うようでした。それから3ヵ月後、この人が絶対会える日をやっと取りつけて、彼の研究室へ行きました。僕は、もの凄くウキウキして、イスに座り口火を切って、話し始めると、5秒もしないうちに別の博士を呼びます。こんな狭い研究室に、博士が何人も集まってきて、僕を質問攻めにしました。最後には、すし詰めの満員電車かのようでした。20人の博士と、僕と教授がこの小さな研究室に詰め込まれ、みんなで質問を次から次へと投げかけて、研究手順に、穴を開けようとします。こんなことってありますか?どうとでもなれです。

(笑)

しかし、この尋問にさらされながらも全ての質問に答えました。かなりの数に勘で答えましたが、正答でした。そうこうして、ついに研究場所を手に入れました。でも、その後すぐに気づくことになりました。一時は輝かしい手順と思えた手順には、おびただしい数の間違いがありました。7ヵ月以上の時間をかけて1つ1つ丁寧に、全ての間違いを直していきました。
どうなったかって?1つの小さな検査紙で、費用は3セントで5分でテストできるようになりました。この方法なら、168倍速く26,000分の1以下の費用で400倍の感度で検査できます。現在の標準的な検査方法と比べた場合です。

(拍手)

でも、最高なのはこの検査紙が100%に近い正確さで検出できることと、患者が100%に近い生存率がある、ごく初期のがんを検出することができるところです。ということは、今後2から5年以内には、この検査紙がすい臓がんの生存率を悲惨な5.5%から、100%近くに引き上げる可能性があり、卵巣や肺のがんでも同じように生存率を上げるでしょう。でも、これで終わりではありません。抗体の種類を変えることで、違うタンパク質を検出する様にすれば、違う疾患を検出できます。潜在的に世界中のどんな疾患でも、検出出来るでしょう。心臓疾患に始まり、マラリヤHIV AIDSまでまた他の種類のがんだったり、何にでも使えます。

いつの日か、こうなればと願います。以前は助からなかった、1人の叔父さんが助かり、母親が助かり、兄弟が姉妹が助かり、愛すべき家族の一員が助かるよう願います。すい臓、卵巣、肺がんの疾患のことを考えて悩まされ、心配することがなくなるように、そしてどんな疾患にも苦しまなくても良くなるように、と願います。インターネットを使えば、何だって可能です。理論を人に伝え、共有して良い価値あるアイデアが評価されるのに複数の学位を持った教授である必要はありません。中立的な場所で、見た目や年齢や、性別が何であれかまわないのです。あなたのアイデアに価値があるのです。僕の場合は、皆さんがふざけた顔の写真をネットに投稿よりも、インターネットに対して全く新しい使い方をすることに目覚めたことが全てでした。皆さんでも、世界を変えていけるのです。
もし、すい臓が何かさえも知らなかった15才の子が、新しいすい臓がんの検査法を発見できたとしたら、皆さんなら何ができるかを想像してください。

ありがとうございました。

  • テキストだけで読む
  • 元に戻す
このプレゼンテーションについて:

85%以上もの膵臓がんが2%未満の生存率しかない手遅れの状態で発見されます。
なぜこんなことになるのか? ジャック・アンドレイカが、膵臓がんの早期発見を可能にする有望な方法を開発した過程を語ります。超安価、効果的、かつ侵襲性の低い方法を、なんと16歳の誕生日を迎える前に作り出しました。

神津 仁Drについて

神津内科クリニック 神津 仁 院長 1977年日本大学医学部卒。第一内科入局後、1980年神経学教室へ。医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。 米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)を経て、帰国後は1991年に特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。1993年、神津内科クリニック開業。
医師求人・転職専門サイト「e-doctor」にて『神津仁の名論卓説』を連載中。

【略歴】
1999年 世田谷区医師会副会長就任
2000年 世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年 日本臨床内科医会理事就任
2004年 日本医師会代議員就任
2006年 NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年 昭和大学客員教授就任

動画一覧へ戻る

視聴数ランキング集計期間: 8/10~8/23

TED 最新15件