Dr.豊川の解TED新書
伝染性ガンと戦うこと(13:03)

何がタスマニアンデビルを殺しているのか? 悪性のガンは何千もの彼らに感染しています — そして、大部分のガンとは異なり、それは伝染性なのです。研究者エリザベス・マーチソンは、彼女がタスマニアンデビルを守るためにどのように戦っているか、そして、彼女がこの変わった変種から全てのガンについて何を学んでいるかを我々に話してくれます。 顔のガンの気がかりなイメージを含みます。

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ドクターズゲートオリジナル豊川 竜多Dr. 対訳テキスト
豊川Drプロフィール
医療法人社団秀雄会理事長 豊川竜多Dr.が翻訳。ドクターズゲートでしか読めない、医師だから書ける対訳文です。
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ガンは特別な疾患ではありません。しかし普通ガンは感染するとは考えられていませんでした。タスマニアデビルの事例によってガンは感染の可能性があるだけではなく 種の存続を脅かす可能性があるが明らかとなりました。

それでは、タスマニアデビルとは何でしょうか? 漫画に出てくるキャラクターのタスマニアデビルはご存知でしょう。しかし、実際に世界最大の肉食有袋類のタスマニアデビルという動物が存在することを知っている人は多くありません。有袋類とはカンガルーのように腹部に袋をもつ哺乳類です。タスマニアデビルという名前は、夜になると発する恐ろしい叫び声に由来しています。

タスマニアデビル:(叫び声)

観衆:(笑)

タスマニアデビルは主に掃除屋さんです。強力な顎と鋭い歯で動物の腐った死骸をかみ砕きます。タスマニアデビルはオーストラリア南部に位置するタスマニア島という小さな島だけに生息しています。凶暴な外見に関わらず、タスマニアデビルは実際は愛らしい小さな動物なのです。実際タスマニアで育った私も野生のタスマニアデビルに出会うといつも本当に興奮しました。

しかしタスマニアデビルの数はすごい勢いで減少しているのです。実際、ここ20〜30年には野生のタスマニアデビルが絶減するのではと懸念されています。その原因はある感染性のガンが出現したからです。

全ての始まりは1996年に野生動物写真家の撮った、顔に大きな腫瘍のあるタスマニアデビルの写真でした。当時はたまたま腫瘍ができたと考えられていました。動物にも人間同様に奇妙な腫瘍ができることがあります。しかし私たちはこれこそが現在タスマニアで蔓延している新しいガンの最初の症例だったと確信しています。この病気は1996年にタスマニア北東部で初めて確認されて以来、あっという間にタスマニア中に広がりました。現在感染しないで残っているタスマニアデビルはほんの少しです。

このガンを発症すると通常タスマニアデビルの顔面または口腔内に腫瘍ができます。この腫瘍は写真のように大きくなってしまいます。次の写真は本当にひどくて、これらの腫瘍は否応なしに大きな潰瘍性腫瘍に進行します。

これは私が実際に見た初めての事例だったので 特に印象に残っています 悪臭を放つ潰瘍性巨大腫瘍のために 下顎が外れてしまったこの雌のタスマニアデビルを目の前にした恐怖は今でも覚えています。何日も何も食べていません。内臓は寄生虫でいっぱいです。腫瘍は体中に転移しています。それでも彼女は小さな3匹の赤ん坊に母乳を与えていました。 もちろん赤ん坊も死んでしまいました。幼すぎて母親なしでは生き残れなかったのです。この雌が生息していた地域では 90%以上のタスマニアデビルがこの病気で死んでしまいました。

タスマニアデビルを襲ったこの感染性のガンに世界中の科学者たちは大変な興味を示しました。私達はすぐにウィルスで感染する子宮頚ガンや色々なガンと関連のあるAIDSの流行のことを考えました。状況からこのガンがウィルスによって感染しているように思われたからです。しかしウイルス感染症でないことが今ではわかっています。実はこのガンの感染源は思いもしなかった、恐ろしいものでした。この原因を説明するためにまずガン自体についてもう少しお話ししましょう。

ガンは世界で毎年何百万人も発症する疾病です。この部屋にいる方の3分の1は将来ガンにかかるでしょう。私自身14歳の時に大腸の腫瘍を摘出しました。ガンは遺伝子内で突然変異を生じた1つの細胞がガン化し、これが次々に増殖することで発症します。自然選択で適者生存のはずが、おかしなことにこれが増殖するガンに対して有利に働いてしまいます。増殖力の高いガン細胞の1つが突然変異すると、より効果的に栄養分を吸収して増殖力が増します。その細胞は自然選択の対象となって体中に一層転移していくのです。

このようにガンは自然選択を通じて進化するので治療が難しいのです。薬物を投与しても 耐性つけさせるだけです。適切な環境と栄養があればガンは永遠に成長することが可能なのです。しかし、ガンは生物の体から離れられません。ガンが増殖を続けて体中の組織に転移してしまうと患者もガンそのものも死んでしいます。

ガンは短命で奇妙な自滅的側面を持つ進化 – 行き止まりと言えます。しかし、ガンが驚くべき進化の適応を果たしたのがこのタスマニアデビルの事例でした。DNAを解析してこの謎が解けました。多くの方との共同研究ですが、私が数年前に行った確認実験を通して説明します。

次のスライドは悲惨です。これはジョナスと名付けられた個体です。私達が発見した時には顔に大きな腫瘍ができていました。私は遺伝学者としてDNAや突然変異の分析に興味がありました。この機会にジョナスの顔の腫瘍と体から少しサンプルを取りました。研究所に持ち帰ってDNAを抽出しました。ジョナスの顔にできた腫瘍と体から採取したDNAを比較すると、遺伝子のプロファイルが全く異なっていました。事実、ジョナスと彼にできた腫瘍は皆さんと皆さんの隣に座っている人ほど違っていました。つまりジョナスの腫瘍は自分の体内でつくられたものではなかったのです。更に遺伝子のプロファイルを分析していくと、ジョナス自身はどう見ても雄なのに、腫瘍はたぶん最初にメスのデビルから生じたものと判明しました。

ではなぜ他の個体でできたガンがジョナスの顔で増殖していたのか?何百ものデビルのガンを分析すると重大なことが判明しました。全てのガンが同じDNAを共有していたのです。 想像してみてください、つまり1匹のタスマニアデビルにできたガンがその個体をからタスマニア全土のタスマニアデビルへ広がったということです。

しかし、感染はどのように拡大したのか?野生のタスマニアデビルの行動特性をから最後の謎が解けました。彼らは互いを、特に顔を激しくかじる癖があります。その時、腫瘍からこぼれ落ちたガン細胞が唾液から流入するのです。かじった時に生きたガン細胞が別の個体に言わば移植され、腫瘍が生き続けるのです。このタスマニアデビルのガンは究極のガンかもしれません。突然変異することで免疫システムを侵し、発症した個体外へも拡大を続けるのです。私達の知る限り、種を全滅させ得る唯一のガンです。

しかし、タスマニアデビル以外の動物になぜこの現象が見られなかったのか?実は既に起きています。これはケニアのモンバサ市の家族が飼っている犬、キンボです。昨年、股間から出血しているのに飼い主が気づきました。獣医に連れて行くと大変なものが見つかりました。血を見るのが嫌な人は目をつぶってください。キンボのペニスの付け根に出血性の巨大な腫瘍があったのです。獣医の診断では交尾によって感染する犬特有のガンということでした。このガンもタスマニアデビルのように生きたガン細胞の伝播で感染したものです。

驚くべきことにこのガンは世界中に広まりました。実際にキンボが感染したのと同じガン細胞がアメリカのニューヨーク市やヒマラヤ山脈の山村部、オーストラリアの奥地にいる犬にも見つかっています。遺伝子指紋法によるとこのガンは何万年も前から存在しており、 ネアンデルタール人の時代の狼の体内で発症した可能性もあります。驚くべきことです。知りうる限り哺乳類から派生した最古の生命、まさに現代に生きる化石なのです。

動物に見られたようにガンは人間でも感染するのでしょうか?この疑問に大きな関心を 寄せたのが1950年代の腫瘍学者チェスター・サウザンでした。彼は別人のガンを人に委嘱するとという実験を行いました。これは1957年のオハイオ州刑務所の囚人であった志願者にサウザン医師がガンを注射している写真です。この実験でガンに感染した人はわずかでした。彼らの免疫力は低下していたためいずれにせよ何か病気を罹患したでしょう。

道徳的な問題はさておき、この実験からわかるのは人間のガン感染は非常に珍しいということです。しかしある条件下では感染する可能性もあるのです。このことは今後腫瘍学者や疫学者に考慮してほしいことです。

最後に、ガンになるのを防ぐ事は細胞の分裂能力と環境適応能力からして不可能です。しかしガンに負ける必要はありません。実際にガンの成長の複雑な進化の過程を解析することでガンを撲滅することができると考えています。 私個人の目標は、このタスマニアデビルのガンに打ち勝つことです。彼らがこのガンで絶滅する最初の動物になるのを私達の手で防ぎましょう。

ありがとうございました。

観衆:(拍手)

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【翻訳者プロフィール】豊川 竜多Dr.について

医療法人社団 秀雄会 理事長 豊川 竜多
日本大学松戸歯学部卒。 ゆたか歯科クリニック開設
城北インプラントセンター開設
日本顎咬合学会
米国歯周病学会(AAP)
http://www.shuyu-kai.or.jp/

【略歴】
日本大学松戸歯学部卒
明海大学臨床研究所付属PDI埼玉歯科診療所勤務
河津歯科医院勤務
ゆたか歯科クリニック開設
医療法人社団秀雄会理事長就任
城北インプラントセンター開設

【所属】
日本歯科医師会 東京都歯科医師会 板橋区歯科医師会 日本顎咬合学会 米国歯周病学会(AAP)

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