科学は実験、失敗、修正を含む学習プロセスであり、医学も例外ではありません。癌研究者ケビン・B・ジョーンズは「誠実に」、単純な回答をもって手術と医療に関するディープで未知の一面に向き合っています。知識の本質についての思慮深い話の中で、科学者達が科学についてまだ正直言ってわかっていない時に、ジョーンズは理解できていることを証明しています。
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科学。この言葉は、多くのみなさんにとって高校時代の生物や化学の、退屈で楽しくない思い出を呼び起こすでしょう。
しかし、はっきり言える事は、その時学んだ事は科学とはほど遠いものと言えます。それは実質“科学とは?”について学んだ、つまり他の人が発見した歴史を学んだ事になります。科学者として私は科学の“如何にして”にもっとも興味をもっています。なぜなら科学は知識の過程だからです。我々は観察し、その観察の説明を推測した後、予測をたてて実験ないし別の観察をします。
いくつかの例を挙げましょう。はじめに、人類は地球が下で空が上、そして太陽と月がその周りを回る事を知りました。
推測:地球が宇宙の中心である。予測:すべてのものは地球の周りをまわっている。
これは実際ガリレオが彼の最初の望遠鏡で夜空を凝視した時に実験されました。そこで発見されたのは木星の周りを4つの衛星が公転している事でした。彼はその4つの衛星を使って木星の進路を辿り、木星もまた地球を回るのでは無く、太陽を回る事を知りました。従って、予測実験は失敗し、これによって地球が宇宙の中心であるという理論は崩れました。
もう一例を上げましょう。アイザック・ニュートンは、物は地球(地面)に落ちると知りました。推測された説明は、重力によってすべての物は地球に落ちなくてはいけないという事。しかし、全ての物が落ちるわけではない。しかし、重力があると言う理論は崩れたでしょうか。
いいえ。我々は理論を修正し、重力は地球の中心に引っ張る力(但し、同等の反対方向にかかる力が無い限り)としました。
これによって我々は新しい事を学びました。我々は鳥や鳥の羽により関心を持ち、これらの考えから発明された一連の空を飛ぶものを思い浮かべて下さい。実験で失敗したもの、例外、外れた値は我々に知らない事を教えてくれ、新しいものへと導いてくれました。科学の進歩はこのように行われ、科学者はこのように学んでいます。
メディアで時折、たまに、科学者がいろいろなものが科学的に証明されていると言っています。みなさんもご理解頂けると思いますが、科学は決して永遠に立証しないと。科学は次の外れた値、例外が見つかるまで謙虚に好奇心を持ち続けます。木星の衛星のように、我々が実際知らない事を教えてくれます。
ここで話を少し変えましょう。Caduceus(医学のシンボル)は多くの人に違う意味を持ちます。しかし、ほとんどの医療に関する一般談話はエンジニアリングの問題となります。国会の廊下、保険会社の重役会議室ではどのように医療費を支払うか検討しています。倫理学者や疫学者は薬をいかに効率よく流通するかを検討し、病院や医師は完全に臨床試験計画表やチェックリストに執着し、その薬をいかに安全に投与するかを検討しています。これらはすべて良い事です。しかし、ある段階で医学書が閉ざされてしまうのは当然です。我々はいかに早くアクセスできるかでヘルスケアの質を測っています。この環境下でヘルスケアを供給する施設はJiffy Lube(アメリカで2,000店以上チェーン展開する自動車関連メーカー)のように爆発的に数を増やすといっても過言ではありません。
観衆:(笑)
唯一の問題は私が医学部を卒業した時、医学書が閉じられていなかったので、あなたの車の整備士があなたの車に何ぞやというものをさしこんだのに気付かないのと同じように、何が問題なのかを知ることがありませんでした。医学は科学です。医学は知識の過程です。我々は観測し、その観測の説明を推測、そして実験できる予測をします。医学におけるほとんどの予測の試験場は母集団である。そして退屈な生物学の授業を思い出すように母集団はガウスや普通曲線の平均当たりに分布しています。従って医療では予測を立てた後、母集団で実験します。つまりこれは医療で分かる事、我々の知識やノウハウは母集団からきますが、次の異常値、次の例外にまで及びます。例えば木星の衛星のように我々が実際知らない事を教えてくれます。
私は主に肉腫の患者を診ています。肉腫は癌の非常に稀な形態です。筋肉組織や骨の癌です。私の患者さんはみんな異常値、例外です。肉腫の患者に対して私は、決して無作為化比較医療試験、所謂医療における最もいいとされる母集団を基にした臨床を行った事がありません。人々は独創的(枠の外を考える)と言うが、肉腫には枠すらない。肉腫を取り巻く不確実さ、不明さ、異常値、例外の中で簡単に考えられるのは、どの科学においても私の考える最も重要な価値観は謙虚さと好奇心です。私は謙虚で好奇心が多い為、患者さんから質問を受け、その答えが分からない場合は肉腫の患者ではなくても似た様な患者を抱える同僚に聞きます。国際的なコラボレーションも催します。患者さん同士がチャットルームやサポートグループの中で話し合う。このような謙虚で好奇心のあるコミュニケーションを通じて新しい事を学び始めるのです。
膝のあたりに肉腫が発生した私の患者の例です。国際的なコラボレーションでの好奇心ある会話の中で、癌のため切除しなくてはいけなくなった膝の代用として足首を利用出来る事を学びました。補完により彼は走ったりジャンプしたり遊ぶ事が出来ます。これは国際的なコラボレーションによって実現可能となったのです。既に経験済みの患者さんにコンタクトした望ましい事でした。従って、医療における異常値、例外は我々に知らない事を教えてくれる他に、新たな発想にも繋がります。
さて、重要な事に、医療での異常値や例外が導く全ての新たな考え方は異常値や例外だけに適用しません。肉腫の患者だけからその患者の処置の仕方を学ぶわけではありません。時に、異常値や例外が一般の母体集に多くの事を教える事があります。林の外に立つ木の様に、異常値や例外が注意を引き、より大きな意味での木とは何かについて考えることに導くのです。我々はよく木のために森が無くなる事について話しますが、森の中でも木を失われます。しかし、際立つ一本の木は木を定義する幹、根っこ、枝をより鮮明にする。その木が曲がっていようがその木が幹や根っこや枝と変わった関係があろうが、我々の注意を引いて観察させた後、一般母集団にてテストできるようになります。
肉腫は稀だと話しました。全ての癌の約1%にあたります。皆さんもご存知の通り、癌は遺伝性のある疾患と考えられています。
遺伝性疾患、つまり癌は発癌遺伝子が癌のなかでオンにされ、また、腫瘍抑制遺伝子がオフになり癌が発症する。我々が発癌遺伝子や腫瘍抑制遺伝子について乳がん、前立腺がん、肺癌等の一般的な癌で学んだと思われがちですが違います。
我々はこれらについて、肉腫という限りなく小さい確率で発症する癌で初めて知る事ができました。1966年ペイトン・ロウスは鶏に感染型の肉腫がある事を発見してノーベル賞を受賞しました。30年後ハロルド・バーマスとマイク・ビショップによってその伝染要因が判明しました。ウィルスが遺伝子、src発癌遺伝子を持っていたのです。srcが最も重要な発癌遺伝子とは言いません。すべての癌においてsrcが最も頻繁にオンにされる発癌遺伝子だとは言えません。しかし、これがはじめての発癌遺伝子でした。例外、異常値が我々の注意を引き生物学における重要な事を知らせてくれたのです。
さて、TP53は最も重要な腫瘍抑制遺伝子です。これは最も頻繁に摘出されたあらゆる種類の癌の腫瘍抑制遺伝子です。しかし、これについては一般的な癌から調べたわけではありません。ドクターリーとドクターフラウメニがある家族を診ていて、この家族は肉腫が多過ぎる事に気づきました。肉腫は稀と話しました。百万分の一の診断、家族の中に2回発生したら多過ぎる事になる。稀と言う事実が我々の注意を引き新たな考え方へと導きました。
さて、多くのみなさんは、「ケビン、すばらしいよ。しかし、君は鳥の羽について話してないよ」というでしょう。「君は木星の周りにある衛生について話してないではないか」これは人の話です。この異常値、例外は科学の発展を導くかもしれませんが、これは人間です。私が言える事は、私もよく分かっていると言う事です。私は稀で死に至る病気をもつ患者と会話しています。これらの会話について書く事もあります。これらの会話は非常に悲惨です。悲惨なフレーズ、「残念なお知らせです」や「他に出来る事はありません」等、時には「末期です」の一言で終わります。
沈黙は気持ち悪い。医療での沈黙は、これらの会話の中で使われる言葉同様に重要です。不明な事はなんだろう。どのような実験が行われているのだろう。
一緒にやってみましょう。スクリーン上に“no where” (どこにもない)というフレーズが見えます。隙間がどこにあるか確かめてください。隙間を1文字ずらしてみましょう。“no where” (どこにもない)は“ now here”(今ここ)に変わります。隙間をひとつずらしただけで全く反対の言葉になります。
忘れもしない、とある患者の部屋を訪れた夜のこと。その日は長時間働いていましたが彼を診に行きたかった。骨肉腫と数日前に診断した少年でした。彼と彼の母親はその日、化学療法の先生とミーティングを持ち、病院からは化学療法の治療が許可されました。真夜中に私は部屋を訪れました。彼は眠っていましたが、母親がベッドの横でフラッシュライトで読み物をしていた。彼女は廊下に出て来てくれました。化学療法の医師から渡された治験実施計画書を読んでいた事が判りました。彼女はそれを暗記していたのです。彼女は「ジョーンズ先生、このタイプの癌は必ずしも勝てる訳ではないとおっしゃいましたが、これらの難しい治療法をすることにします。私は仕事を辞めて親と同居し、この子を守ります」私は伝えませんでした。彼女の考え方を正す事をしませんでした。彼女は治療を信じており、その治療に従っても必ずしも息子を救える訳ではないと言う事を私は伝えませんでした。その隙間を埋めませんでした。しかし、1年半後その少年は骨肉腫によって亡くなりました。私は伝えるべきでしたでしょうか。
皆さんのうちの多くの人は、「それがどうした。私は肉腫にかかっていない。家族のだれも発症していない。立派な事だが私の人生において関係ない」皆さんが正しいかもしれません。肉腫は皆さんの人生に大きく関係しません。しかし、その隙間があれば医療はあなたの人生に関係してきます。
小さなずるい秘密をお伝えしていませんでした。医療において母集団で予測を実験するといいました。しかし、お伝えしていない事は、個人が医療に関わる際、一般母集団に組み込まれていたとしても、その個人も医師も母集団のどこに位置するか分からないということです。従って、全ての医療との関わりは実験になります。あなた方は実験の主体になるのです。その結果はあなた方にとって良い場合もあれば悪い場合もあります。薬が効けば早いサービス、虚勢、自信に満ちあふれた会話となります。効かない場合は、時に他の事を必要とします。
私の同僚がある患者の肢から腫瘍を取り除きました。彼はこの腫瘍について懸念していました。カンファレンスの席で、この種の腫瘍は同じところに再発するリスクが高い事を話していました。しかし、患者に対する説明は患者の喜ぶ内容でした。自身に満ちあふれた“全て取り除きました。もう大丈夫です”彼女と彼女の夫はわくわくしながらお祝いに出かけ、優雅な夕食にシャンパンも空けました。
数週間後、同じ部位にしこりが発見されました。全ては取り除けず、完治ではなかったのです。この重大な時に私を困惑させる事が起きました。
同僚は私に「ケビン、この患者を君に診てもらえないか」、私は「私と同様やるべき事を知っているだろう。なにも悪い事をしてないではないか」
彼は「頼む、私の代わりに診てくれ」彼は当惑していたのです。彼が行った事に対してではなく、彼が交わした自信過剰な会話に対して。
それから私は侵襲性の高い外科手術を行い、同僚とは違う会話を患者としました。私は「腫瘍はほぼ取り除き、まず大丈夫でしょう。しかし、我々は様子を見ているところです。貴方も私も経過をみましょう。この手術があなたの癌を取り除く事になるか共に頑張りましょう」もちろん、この後彼女と彼女の夫はシャンパンを空ける事はないでしょう。しかし、彼女は今や科学の徒であり、実験の主体だけではないのです。
私はみなさんに医師の謙虚さ、好奇心を求める事をお勧めます。年間約200億回誰かが受診して患者になっています。貴方もしくは貴方の愛する誰かがその患者になるかもしれません。医師とどのように話されますか。どのように伝えますか。彼らはどのように貴方に伝えるでしょう。彼らの知らない事を貴方に伝える事はできません、しかし、彼らはあなたが質問した時だけ知らないという事を伝える事ができます。ですので、是非会話に加わって下さい。
ありがとうございました。
観衆:(拍手)
日本大学松戸歯学部卒。
ゆたか歯科クリニック開設
城北インプラントセンター開設
日本顎咬合学会
米国歯周病学会(AAP)
http://www.shuyu-kai.or.jp/
【略歴】
日本大学松戸歯学部卒
明海大学臨床研究所付属PDI埼玉歯科診療所勤務
河津歯科医院勤務
ゆたか歯科クリニック開設
医療法人社団秀雄会理事長就任
城北インプラントセンター開設
【所属】
日本歯科医師会
東京都歯科医師会
板橋区歯科医師会
日本顎咬合学会
米国歯周病学会(AAP)