外科医であるアンソニー・アタラ博士が、いつか臓器提供の問題を解決するかもしれない初期段階の実験を披露します。生きた細胞を使った3Dプリンターによって移植可能な腎臓をプリントするのです。10年前、アタラ博士の若い患者、ルーク・マセラはこれと似た技術を使ってつくられた膀胱を手にしました。ステージにその彼がやってきます。
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現在、移植用の臓器が不足している実に大きな医療問題があります。我々は長生きするようになりました。我々を長生きさせるために医学はとても良い発展をしています。問題は歳を取るにつれて臓器の機能が低下しやすくなるということです。そのため、現在移植用の臓器が不足していのです。実際この10年で、臓器を必要とする患者数は2倍に増えましたが、臓器移植はほとんど増えていません。医療における危機的な問題です。
そのため再生医療と呼ばれる分野が注目されています。実際には多くの領域が関わっています。足場材料や生体材料を使うことができます。これはブラウスやシャツの切れ端のようなものですが、患者に移植できる特殊な素材で、体の再生を助けてくれます。その人自身の細胞や別の幹細胞だけ、もしくはその両方を使うこともあります。または生体材料と細胞を一緒に使うこともできます。それがこの分野の現状です。
実はこの分野は新しいものではありません。興味深いことに、この本は1938年に出版されました。題名は「臓器の培養」。第一著者はノーベル賞受賞者のアレクシス・カレルです。 彼は今日使われている血管縫合術を考え出しました。そして、現在使用されている血管移植片も実は彼の考案です。しかし共著者に注目してほしいのです。チャールズ・リンドバーグ、 あのチャールズ・リンドバーグです。彼は残りの人生をカレルとともにニューヨークのロックフェラー研究所で臓器培養の研究に費やしました。
この分野がそんなに昔からあるのなら、なぜ臨床が発展していないのでしょうか?多種多様な問題があるためです。そのうち3つを挙げるとすると、まず第1に体内で長期間機能する素材の開発です。これは今ではとても発展してうまくいくようになりました。第2の問題は細胞でした。体外でうまく成長できない細胞が多かったのです。20年間、私たちは この問題に取り組んできました。今では多くの学者が様々な細胞を育てられるようになりました。そして幹細胞もあります。しかし2011年の現在でも患者から取り出しても育てられない細胞があります。肝細胞、神経細胞、膵臓細胞、これらの細胞は今でも育てることができないのです。そして第3の問題は血管です。再生した臓器や組織が生き続けられるようにいかに血液を供給するかという問題です。
今や生体材料があり、これがそうですが、織ったり、編んだりしてこんなものも作れます。 綿飴の機械のようです。こちらは吹き付けしているところです。綿飴の繊維のようなもので チューブ状の構造をつくっています。この生体材料を使って体が自らの細胞で再生するのを助けることができます。それがこの例で行ったことです。
これは臓器に問題のある患者で、私たちはこのようなハイテク生体材料をつくり、患者の問題のある部位と交換して修復しました。私たちがやったのは生体材料で橋をつくり、臓器の細胞が足場材料を渡って組織が再生できるように橋渡しするということです。6ヶ月たった今、再生された組織をX線で確認できます。顕微鏡で調べると完全に再生されているのが分かります。細胞だけでやることもできます。これは私たちが用意した細胞で、特別な部位から採取した幹細胞を心臓細胞へと分化させたものです。すると培養液の中で鼓動を始めます。細胞は何をすべきか分かっており、一緒に鼓動をし始めるのです。今日では多くの臨床試験で様々な種類の幹細胞が心臓疾患に対して使われています。これは実際に患者に適用されているのです。
大きな部位を交換するために大きな足場材料が必要な場合、患者自身の細胞か、何らかの細胞と生体材料と足場材料を同時に使用します。このやり方ではまず疾患ないしは損傷した臓器からごく小さな、切手の半分くらいの大きさの組織を取り、それを細胞ごとにばらして 体外で培養します。それから足場材料や生体材料を用意します。さっきも言ったシャツの切れ端みたいなものです。その素材で形をつくり、一層一層その素材を細胞で覆っていきます。 レイヤーケーキを作るのに似ています。それをオーブンのような装置に入れて、必要な構造をつくり、取り出します。これは私たちがつくった心臓弁です。心臓弁の構造があり、細胞をそこに蒔いて運動させます。葉っぱのような部分が開閉していますね。この心臓弁はまだ実験段階でさらに研究を進めているところです。
実際患者に適用した別のテクノロジーとして、膀胱に対するものがあります。患者の膀胱からごく小さな切手の半分くらいの組織を取り、細胞を体外で培養し、その細胞で用意した足場材料を覆います。患者自身の細胞を2種類使います。それをオーブンのような装置に入れ、ヒトの体内と同じ条件にします。37度の温度と95パーセントの酸素、数週間すると 患者に移植できる臓器ができあがります。患者のために素材を縫い合わせてつくっています。3次元的な画像分析を行っていますが、実際これらの生体材料は手でつくっているのです。
しかし、今ではこういった構造を細胞からつくる、もっと良い方法があります。ある種のテクノロジーを使って肝臓のような中身の詰まった臓器に取り組んでいます。廃棄された肝臓を使います。使われずに処分される臓器がたくさんあります。そういった破棄される臓器を手に入れ、洗濯機のような装置に入れ、細胞を洗い落とします。2週間後、肝臓のようなものが得られます。肝臓のように見えますが細胞のない形だけの肝臓です。その肝臓を血管を維持したまま再び細胞で埋めます。最初、患者自身の血管細胞を血管に行き渡らせ、それから実質組織に肝細胞を浸透させます。このテクノロジーを使ったヒトの肝組織の生成は つい先月ご覧いただけるまでになりました。
私たちが使っているもう1つのテクノロジーはプリントです。これは普通のインクジェットプリンターですが、インクの代わりに細胞を使っています。印字ヘッドが行き来して構造をプリントしています。この構造の印刷には40分ほどかかります。印字ヘッドが通るたびに3次元のエレベーターが一段ずつ下がっていくようになっています。最後にこの構造ができあがります。できた構造物を取り出して移植します。ご覧頂いているスライドの中の骨はプリンタでつくって移植したものです。このテクニックを使ってまったく新しい骨をつくって移植したのです。
次はさらに進んだテクノロジー、我々の次世代技術でより洗練されたプリンターです。このプリンターは患者の体に直接プリントするようデザインされています。おかしな話に聞こえるのは分かっていますが実際そうなっているのです。やりたいことは怪我をしている患者をベッドに横たえ、フラットベッドスキャナーでスキャンします。右の絵がそうです。スキャナが最初に患者の傷をスキャンして、次に印字ヘッドが患者の患部に必要な細胞層を直接プリントします。
これが実際の仕組みです。スキャナーが傷をスキャンしていきます。スキャンできたら、どこに、どの細胞が必要になるかという情報に応じてプリントします。こちらは典型的な傷に対して実際にプリントしているところです。ジェル状になっていて摘まみ上げることができます。ですからこの細胞が患者の体に付くと必要な場所に留まるようになっています。まだ開発途上の新しいテクノロジーです。
私たちはもっと洗練されたプリンターにも取り組んでいます。実際、私たちにとって最大の課題は中身の詰まった臓器です。ご存じかどうかわかりませんが、移植待ちリストに載っている患者の90%は腎臓を待っているのです。移植用の臓器が十分にないため、患者が毎日亡くなっています。これはより難しい問題です。大きな臓器、血管、多量の血液供給、たくさんの細胞が必要です。ここで採用している戦略は、これはCTスキャンとX線の画像ですが層ごとにコンピュータを使った形態計測と画像解析を行い、患者自身の腎臓の3次元イメージを再構成します。そうするとイメージが表示され、360度回転させて腎臓の容積特性を詳細に分析し、情報を取得することができます。それをスキャンしてプリントできるデジタル情報にします。そして臓器を断層的に見ていき、それぞれの層を分析します。その情報をコンピュータを通して送って患者に合った臓器をデザインします。これがそのプリンターで、印刷を実際に行っているところです。
プリンターをこの会場に持ってきました。ですからこの講演の間、ステージの後ろにあるプリンターを実際にご覧いただけます。本物のプリンターがご覧のように腎臓の構造をプリントしています。腎臓のプリントには7時間ほどかかります。今3時間くらいまで来たところです。カン博士に来てもらいましょう。今日前もってプリントしておいた腎臓をお見せします。手袋をはめましょう。ありがとう。ちょっと待って。この手袋はどうも私には小さいようですが、ご覧ください。今日プリントした腎臓です。
観衆:(拍手)
ほんのちょっとずれているところがあります。カン博士はこのプロジェクトで働いている チームの一員です。どうもありがとう。カン博士、助かります。
観衆:(拍手)
これが新世代の技術です。ステージ上で実物をご覧いただいています。私たちが今取り組んでいる新しいテクノロジーです。実を言えば、私たちはこのようなことを長い間してきました。すでに患者に適用しているテクノロジーをビデオでお見せしましょう。
ごく短いビデオクリップで30秒ほどです。このようにつくられた臓器を移植した患者です。
ベッドから出るのも大変なほどひどい病気で、学校もなかなか行けず本当に惨めでした。 休み時間に外へ出てバスケなどしようものなら戻ってくる頃には気を失いそうになっています。ひどい状態だったんです。基本的に一生透析を続けることになっていて、自分の人生が今後どうなるのか考えたくもありませんでした。この手術の後、僕の人生はとても良くなりました。いろんなことができるようになり、高校ではレスリングをやりました。チームのキャプテンになって最高でした。友達とも普通の子として遊べました。膀胱をつくるのに使われたのは僕自身の細胞なので体によく馴染んでいます。僕は人生を生きていける準備ができたのです。
観衆:(拍手)
こういった実験は時にうまくいき、うまくいった時にはすごくいいものです。ルーク、こちらへ。
観衆:(拍手)
ルーク。昨夜以前にアンソニーに会ったのはいつ?
10年前に手術をしたときです。彼に出会えて本当によかったです。
観衆:(笑)
観衆:(拍手)
今どんなことをしているのか 話してくれるかな?
今コネチカット大学に通っています。2年生で、コミュニケーション学科でテレビとメディアを専攻しています。基本的に普通の子と同じように生きようとしています。子どもの時からずっと望んでいたことですが、二分脊椎症で腎臓も膀胱も機能していない人間には難しいことでした。16回手術を受けましたが不可能に思えました。10歳のときに腎不全になり そしてこの手術を受け、それが今日の僕をつくり、僕の命を救ったのです。
観衆:(拍手)
アンソニーはこれを何百例もやっているんだよね?
僕が知っているのは、彼が実験室で本当に熱心に働いてすごいものをつくり続けているということです。僕はこの手術を受けた最初の10人の1人でした。10歳の時にはそれがどんなにすごいことか分かっていませんでした。小さな子どもで「ああ 手術をするんだ」としか思っていませんでした(笑)。僕が望んでいたのはただ良くなることで、今こうして成長し、彼のしていることを目にするまでそれがどんなにすごいことなのか分かってなかったんです。
そして突然TEDの連絡を受けたんだね。アンソニーは本当にシャイで、ルークを引っ張り出すことを彼のような控えめな人間に認めてもらうのは大変でした。それでコミュニケーション学科の先生たちのところへTEDに出る許可をもらいに行って、TEDはコミュニケーションにも多少関係があると思うけど、先生たちの反応はどうだった?
大半の先生たちは大賛成で「写真を撮ってきてくれ」とか「あとでビデオを見せてくれ」とか「良かったな」と言ってくれました。ちょっと頑固な人もいましたけど、話をつけたので 問題ありません。
君に会えてとても嬉しかった。本当にありがとう (ルーク: ありがとうございます)
ありがとう アンソニー。
観衆:(拍手)
日本大学松戸歯学部卒。
ゆたか歯科クリニック開設
城北インプラントセンター開設
日本顎咬合学会
米国歯周病学会(AAP)
http://www.shuyu-kai.or.jp/
【略歴】
日本大学松戸歯学部卒
明海大学臨床研究所付属PDI埼玉歯科診療所勤務
河津歯科医院勤務
ゆたか歯科クリニック開設
医療法人社団秀雄会理事長就任
城北インプラントセンター開設
【所属】
日本歯科医師会
東京都歯科医師会
板橋区歯科医師会
日本顎咬合学会
米国歯周病学会(AAP)