ディクソン・チバンダは、人口1,600万人のジンバブエにいる12人の精神科医の1人です。ジンバブエでメンタルヘルスを従来型の治療で広めていくことができないことに気づいたチバンダは、おばあちゃんという無限の資源で、美しい解決策を構築することを手伝ってもらうことにしました。この感動的なトークでは、おばあちゃんを訓練して、エビデンスに基づく対話療法で困っている人にケアと希望をもたらす「友情ベンチプログラム」について詳しく語ってくれます。ディクソンは、人間の脳が私たちの行動にどう影響するか、そしてみんなを幸せにするために私たちは何をすることができるかについて情熱を注いでいます。
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ジンバブエの首都ハラレの暖かい8月の朝、24歳で2児の母であるファライは、公園のベンチに向かって歩いていました。彼女はどこか不幸せそうで落ち込んでいる様子でした。その公園のベンチには、「ジャックばあちゃん」として近所ではよく知られているおばあちゃんが座っていました。ファライは、病院からの封筒をジャックばあちゃんに渡しました。ジャックばあちゃんは封筒を開けてそこに書かれたことを読むと、ファライを座らせました。ジャックばあちゃんは読んでから、3分ほど黙っていました。長い沈黙のあと、ジャックばあちゃんは深呼吸をし、ファライを見て、“私がついているわ。よかったら私に話してごらんなさい”と語りかけました。
彼女の目は涙でいっぱいでした。彼女は「ジャックばあちゃん、私はHIV陽性なんです。私はこの4年間、HIVと共に生きてきました。夫は1年前、私のもとを去りました。私には5歳にもならない子供が2人います。私は失業中です。私はほとんど子供を見てあげることができません」と言った。
涙はとめどなく彼女の頬を流れ落ちていました。ジャックばあちゃんはファライに近づき、その手を取って「泣いてもいいわ。大変だったわね。もっとお話を聴かせてちょうだい」と話しかけました。
ファライは続けて「この3週間の間、2人の子供との自殺を何度も考えていました。もう我慢の限界です。そしたら病院の看護師が『あなたに会っていらっしゃい』って言ってくれたんです」と話しました。最後の30分で2つのやりとりがありました。そして最後にジャックばあちゃんはファライに「ねぇファライ、あなたにはうつ病の兆候があると思うの」と言いました。
「Kufungisisa」とは、涙のはけ口を開けるという言葉です。私の国では「Kufungisisa」はうつ病と同じ意味です。元々の意味は「考えすぎ」です。世界保健機関(WHO)は現在、世界で3億人以上の人々がうつ病ないしは私の国で言うところの「kufungisisa」に苦しんでいると推定しています。また、WHOは、40秒に一人が、世界のどこかで、主にうつ病やkufungisisa、不幸により自殺をしていることも伝えています。そして、ほとんどの自殺は、低・中所得国で起きているのです。
それどころか、WHOは、15歳から29歳までの年齢層の主な死因は自殺だと断言したのです。うつ病や自殺につながる広範な出来事――例えば虐待や紛争、暴力、孤立、孤独…原因のリストは枚挙にいとまがありません。ですが、うつ病は治療ができ、最悪の結果を回避できることを私たちは知っています。
しかし、問題は、世界にその仕事をする精神科医や心理学者が十分にいないことなのです。低・中所得国では、人口に対する精神科医の割合は、150万人に1人程度です。これは、精神科医の治療を必要とする90%の人々が治療を受けられないということを意味します。私の国の人口は約1,400万人ですが、精神科医はたった12人で、私はその一人です。
本題に戻りましょう。ある晩、私が家にいると、自宅から200km離れた街のERから電話がありました。ERのドクターは「あなたが4ヶ月前に治療した患者の一人が薬物のオーバードーズでERに運び込まれました。血行動態的には大丈夫そうなのですが、精神医学的な評価が必要になるかもしれません」と言いました。私は、夜中に自分の車で200kmを運転することは、間違いなくできません。私たちは、できる限りの最善を尽くし電話で最善な評価を考えました。私たちはその場で、自殺の可能性についての考察を、その患者が服用していた抗うつ薬のレビューから始めました。そして彼女の名前が「エリカ」で26歳とわかり、エリカがERから出られるようにして、母親と一緒に私のところへ来て、どんな事ができるのかを評価し確立すべきだとしたのです。
私のところに来れるようになるまで1週間くらいはかかるだろうと思っていましたが、1週間が過ぎ、3週間が過ぎてもエリカは来ませんでした。そしてある日、エリカの母親から電話がかかってきました。彼女は「エリカは3日前に自殺しました」と言いました。彼女は自宅の庭のマンゴーの木で首を吊ったのです。私は反射的に「なぜ私が住んでいるハラレに来なかったのですか? 私たちは、エリカがERから出たらすぐに私のところへ来ることに同意したのですが」と尋ねていました。彼女の返事は簡潔でした。「私たちはハラレまでのバス運賃15ドルを持っていなかったんです」
メンタルヘルスの世界で自殺は珍しいことではありません。しかし、エリカの死は、私の存在の中心を突き動かしました。エリカの母親の「私たちはハラレまでのバス運賃15ドルを持っていなかった」という発言は、私に、予想していたとおりには物事がうまく運んでいないことを実感させたのでした。
私はこの出来事を反省し、アフリカの精神科医として、私に与えられた本当の役割を見つけようとしています。そして、かなりの相談と自己分析をし、同僚や友達、家族と話をしていて、私はふと「アフリカで私たちの一番堅実な資源はおばあちゃんたちだ」という事実に気付きました。そう、おばあちゃんたちです。おばあちゃんならあらゆる地域に何百人以上もいます。私はそう考えています。
彼女たちは、より良い場所を求めて自分たちの地域を離れることはしません。
「天国」という名の、もっといい場所に行くときしか離れようとはしないのです。
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そこで私は考えました。おばあちゃんたちを訓練して、エビデンスに基づく対話療法ができるようになるのはどうだろう? 彼女たちはベンチに座りながら治療を行います。彼女たちの「聞く能力」を引き上げて同情心を表します。これらは全部、認知行動療法に深く浸透しています。彼女たちの行動活性化能力と活動スケジュール提供能力を引き上げる。そして、彼女たちに、みなさんもよくご存知のモバイル技術を含むデジタル技術の使用をサポートします。現在アフリカではほとんど誰でも携帯を持っています。
そして2006年、私は最初のおばあちゃんグループのトレーニングを始めました。
観衆:(拍手)
ありがとうございます。
現在、何百人ものおばあちゃんたちが70以上のコミュニティで働いています。去年の一年だけで、ジンバブエの一つのコミュニティあたり30,000人以上が「友好のベンチ」でおばあちゃんたちの治療を受けました。
観衆:(拍手)
そして最近、私たちはおばあちゃんたちの成果を1月の米国医学協会に公表しました。そして…
観衆:(拍手)
結果は、おばあちゃんの治療の後6ヶ月が経ても、その人たちには症状がでませんでした。うつ病はなく、自殺思想が完全に減りました。私たちの臨床実験の結果、うつ病の治療に関して言えば、実のところおばあちゃんたちは医師より効果があります。
観衆:(笑・拍手)
ですので、私たちは今、この取り組みの拡大に注力しています。現在、世界中で65歳以上の人は6億人以上いて、2050年には15億人を超えます。私たちが世界中の主要都市に、訓練を受けた、根拠に基づく対話療法ができる、またはデジタル技術にサポートされるおばあちゃんたちのグローバルネットワークを作る事を想像してください。彼女たちはコミュニティを変えることができます。彼女たちがメンタル、神経学と物質使用障害の治療のギャップを減らします。
最後に、これがジャックばあちゃんの写真です。ファライさんは、ジャックばあちゃんのセッションに6回参加しました。現在、ファライさんは就職できており、2人の子供は学校に通っています。
2月のある朝、ジャックばあちゃんは257人目の患者と会う予定でした。しかし、予定の時刻になっても、いつもの場所にジャックばあちゃんは現れませんでした。彼女はその時すでに、天国というもっといい場所に旅立っていたからです。
でも私は、彼女が今天国で、今も増え続けている、ほかの多くの人の生活を変えていくであろうおばあちゃんたちを応援していると信じています。彼女は、自分が先駆けとなった取り組みが、他の国――例えばマラウイやザンジバル諸島に拡散していること、そしてニューヨークに近づけていることを知ったら、きっと彼女がびっくりするだろうと確信しています。彼女の魂が安らかに眠る事を祈っています。
ありがとうございました。
観衆:(拍手)
日本大学松戸歯学部卒。
ゆたか歯科クリニック開設
城北インプラントセンター開設
日本顎咬合学会
米国歯周病学会(AAP)
http://www.shuyu-kai.or.jp/
【略歴】
日本大学松戸歯学部卒
明海大学臨床研究所付属PDI埼玉歯科診療所勤務
河津歯科医院勤務
ゆたか歯科クリニック開設
医療法人社団秀雄会理事長就任
城北インプラントセンター開設
【所属】
日本歯科医師会
東京都歯科医師会
板橋区歯科医師会
日本顎咬合学会
米国歯周病学会(AAP)