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死に直面したとき、人生に生きる価値を与えてくれるのは(16:09)

この深く心を揺さぶるトークでルーシー・カラニシは、若き神経外科医で末期ガンの診断後に執筆活動に転向した亡き夫ポールについて語り、人生と目的について考えをめぐらせます。「物事を精一杯、経験すること―生も死も、愛することも失うことも ― それが私たちにできること」とカラニシは言います。「“苦しみの中でも人間らしくいられる”のではなく、“苦しみの中で人間らしくなる”の」

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夫のポールが ステージ4の肺ガンと 診断されてから数日後 家のベッドで ふたりで 横になっていると ポールが言いました 「きっと大丈夫だよ」 私はこう答えたのを覚えています 「そうね “大丈夫”の意味が まだ分からないだけよね」

ポールと私が出会ったのは ふたりがイェール大学の医学生1年目のときです 彼は頭がよく 優しくて とっても面白い人でした 車のトランクに ゴリラの着ぐるみが積んであって こう言うんです 「緊急用にね」 (笑)

ポールが患者さんと接する姿を見るうち 私は恋に落ちていました 彼は患者さんと話すため 遅くまで病院にいました 病という経験を 理解しようとしていたのです 技術面の理解だけではなかったんです 後に彼は 私に恋をした瞬間を 教えてくれました 心拍停止を知らせる心電図に 私が声を上げて泣くのを見たときだったと 当時は思いもしませんでしたが 幸せいっぱいで 愛を育んでいたときでさえ 私たちは患者さんの苦しみに どう関わるべきかを学んでいたのです

私たちは結婚して 医師になりました 私が内科医として働き ポールが神経外科医としての研修を 終えようとしていた頃のことです 彼の体重が減り始めました 耐えがたい背部痛と 止まらない咳に 悩まされるようになりました そして入院したところ CTスキャンで 肺と骨に 腫瘍が見つかりました ふたりとも 深刻な診断を受けた 患者さんを担当してきましたが 今それが 我が事になったのです

私たちは 22か月の闘病生活を 経験しました 彼は死に直面しての思いを 回顧録に綴りました 私は娘のケイディを出産し 私たちは娘を そして互いを愛しました 苦悶しながらも 非常に難しい医学的決断を どう下していくのか 直接学びました ポールを最後に入院させたときが 私の人生で最もつらい日となりました 彼は最後にこちらを振り向き 言ったんです 「覚悟はできてる」 それが単なる勇敢な決断ではないと 私には分かっていました それは正しい決断でした ポールは人工呼吸器と心肺蘇生法を 希望しなかったのです あの瞬間 ポールにとって最も重要なことは 赤ん坊だった娘を抱くことでした 9時間後 ポールは亡くなりました

私はケアを提供する者だと ずっと思ってきました 大抵の医者がそうです でも ポールのケアをすることで その意味は深まりました 病のなかで彼が アイデンティティを再形成するのを見て 苦痛に立ち会い それを受け入れることを学び 彼の選択に際し共に話し合うー そんな経験から私が学んだのは レジリエンスとは 以前の自分に戻ることではなく 困難なことが 困難でないふりを するのでもないことです 病むとは とても困難なことなんです 苦しくて 滅茶苦茶なことです でも そういうものなんです 私が学んだのは 誰かと一緒にそれに向き合えば 何を良しとするのか 自分たちで決められるということです

診断を受けてすぐに 彼が言ったことの1つは 「誰かと再婚してほしい」 私は「ワォ」とか言っちゃって 何でも口に出しちゃうんです(笑)

すごく衝撃的で 胸が張り裂けそうで・・・ 寛大だと感じたし じつに心が安らぎもしました なぜなら彼の言葉は 全く率直で その率直さこそが 私たちに 必要なものだったと気づいたんです 彼の病気が分かった早い段階で 私たちは 何でも口に出して 言い合うことにしました 遺言書の作成や 事前指示書の完成など 私がずっと避けていたことは 思っていたほど 気落ちすることではありませんでした 事前指示書を仕上げることは ひとつの 愛の営みだと悟りました 結婚の誓いのようなものです 相手のケアをするという誓いです その約束を成文化するのです 死がふたりを分かつまで 寄り添いますと もし必要なら あなたの代弁者になり あなたの願いを尊重するつもりだと そうした書類は 私たちの愛の物語を 形あるものにしてくれました

医師である ポールと私は 彼への診断を理解し 受け入れやすくもある立場にいました 幸いにも 腹は立ちませんでした これまで 悲痛な状況にある 非常に多くの患者さんを見てきて 死は人生の一部だと 知っていたからです でも知ることも大事ですが 重篤な病の悲しみや不確実性のなかを 実際に生きるというのは 非常に異なる経験です 現在までに 肺ガンの治療は 大きく進歩してきていますが ポールの余命は数か月から数年だと 私たちは知っていました

その間 医師から患者へ立場が変わったことについて ポールは文章を綴りました 突然 岐路に立たされたように 感じたことや 自分は非常に多くの患者さんを 治療してきたのだから 自分の進む道は分かるはず ― 患者さんの歩みをたどってもよい そう考えていたことなどを語りました しかし彼は 方向を見失っていました 進む道などではなく 彼が書いたのはこうでした 「代わりに僕が見たのは 荒涼とした 何もない ただキラキラ光る白い砂漠だけだった まるで砂嵐が馴染みあるもの全てを かき消してしまったようだった 僕は自分の死に向き合い 人生に生きる価値を与えてくれるものは何か 理解しようとしなければならなかった それには ガン専門医の助けが必要だった」

ポールを担当した医療スタッフたちを見て 私たち医療従事者の真価を 改めて深く認識しました 私たちの職業はつらいものです 私たちには 患者さんが自分の予後や 治療の選択肢をしっかり理解できるよう 手助けする責任がありますが それは決して容易ではなく 難しいことです ガンのように命にかかわる病を 扱うときには特にです 余命を知りたくない人もいれば 知りたいという人もいます どちらにしても 私たちは 答えなど持ってはいません ときに私たちは 最もうまくいった場合のことを強調して 希望をもってもらうこともあります 医師を対象としたある調査では 55%の回答者が 患者さんに予後を説明するとき 正直な見解よりも 明るい見通しを伝えると 回答しました それは本能的な親切心からくるものです しかし調査者が見出したのは 病のもたらしうる結果を よりよく理解すれば 不安が低減し 計画を立てる力が増し 家族の傷つきも減ることでした

家族はこういった会話に 強い葛藤を感じるかもしれませんが そのような情報は 大きな決断をするとき 非常に有用だと分かりました 最も顕著だったのは 子供をもつか決めるときです ポールの余命が数か月から数年ということは 大人になった子供の姿は見られないでしょう でも子供の誕生と 人生の始まりに立ち会うことは 十分できそうです 私はポールに こう尋ねたのを覚えています 子供に別れを告げねばならないなら 死がもっと苦しくなると思うかと 彼の答えに私は驚きました こう言ったんです 「そうなったら素晴らしいじゃないか」 それで 子供をもうけました ガンをどうこうするため ではありません 十分に生きるとは 苦しみを受け入れることだと 学びつつあったからです

ポールの主治医は 化学療法を個別に調整して 彼が神経外科医としての勤務を 続けられるようにしてくれました 当初は全く不可能だと 考えていたことです ガンが進行して ポールが外科医の仕事から 執筆に移行した際には 緩和ケア医は 精神刺激薬を処方してくれました ポールがより集中できるようにです 医師たちはポールに 優先したいことや気がかりなことを尋ねました 何を優先し 何なら諦められるか ポールに意思を尋ねたんです そのような会話は 医療のケアと価値観を 確実にマッチさせる最高の手段でした 親との「性教育」トークとは違うよと ポールは冗談を言いました 親とそういう話をするとき 極力さっさと終わらせて そんな話 なかったふりをしますね でも この会話は 状況の変化に合わせ繰り返されます しかも口に出して話し続けられます 私は実に幸せでした なぜならポール担当の医療スタッフは 自分たちの仕事は 彼らも知らない答えを与えようとしたり 状況を改善しようとだけするのではなく 苦痛な選択について ポールと 話し合うことだと考えていたからです 彼の身体状態は悪化しつつあっても 生への意志は損なわれていないのです

後に ポールが亡くなってから 花束を10束くらい受け取りましたが 私は1束だけを・・・ ポールの主治医に贈りました なぜなら彼女は 彼の目標を支え いろいろな選択肢を検討するのを 手伝ってくれたからです 生きるとは ただ生存することとは違うと 彼女は知っていたんです

2、3週間前 ある患者さんが 私の診療所を訪れました 重篤な慢性疾患を抱える女性です 彼女の人生や医療のケアについて 話し合っていると 彼女は言いました 「緩和ケアチームは好きよ No と言っていいと教えてくれたの」 もちろん 言っていいんです でも多くの患者さんは そうは感じていません Compassion and Choices は ある研究を実施しました 医療においてどんなケアを好むかを 人々に尋ねたのです 多くの人々の回答は こんな言葉から始まっていました 「もし選べるのなら・・・」 もし選べるのなら 「もし」というところから 私には すっと納得できたことがあります それは なぜ4人に1人が 過剰な あるいは望まない治療を 受けているのかや 家族がそのような治療を受けるのを 見たことがあるのかです それは医師が 分かっていないからではありません 私たちは 分かっています 私たちは 治療によって 患者さんやご家族の心に 実際にどんな影響が及ぶのか 理解しています 事実 心のケアにも当たっています 救命救急の看護師の半数と 集中治療室の医師の4分の1は 退職を考えたことがあると言います 患者さんの価値観に合わないケアを してしまったのではないかという 患者さんに対する苦悩が原因です でも医師は 患者さんが 何を望んでいるのか知らないと 思いをきちんと 尊重することはできません

命を長らえられるなら 生命維持装置の使用を望みますか? 残された時間の長さよりも 質の方が 大事でしょうか? こういった選択は両方とも 思慮深く勇敢なものですが 誰もが 自ら選ばねばならないものです 人生の終わりに際しても そうですし 人生を通じて医療でのケアを 受けるうえでもです もしあなたが妊娠していたら 遺伝子スクリーニングを望みますか? 膝の置換手術は 良いことだと思いますか? 透析を医療機関で受けたいですか それとも自宅がいいですか? 正解は ― あなた次第です 医療でどんなケアがあれば あなたが望むように生きられますか? その問いを覚えていてください 自分のケアについて 判断を迫られたときのためにです 覚えていてください あなたには常に選択肢があり あなたに合わない治療には No と言ってよいのです

W・S・マーウィンの詩があります たった2文の詩です この詩は今の私の心情を捉えています 「あなたの不在が私を貫いた まるで糸が針穴を貫くように 私のあらゆる営みには その色が縫いこまれる」 私にとってこの詩は ポールへの愛と 彼を愛し 失うことから得た ― 新たな不屈の精神を呼び起こすものです

「きっと大丈夫だよ」と ポールが言ったとき それは病気を治せるという 意味ではありませんでした そうではなく 私たちは 喜びと悲しみを 同時に受け入れることを学んだのです そこで気づかされたのは 美しさと目的感覚です 人は皆 生まれたのに死ぬのであり そして 生まれたから 死んでいくのです どんなに悲しみに暮れ 眠れぬ夜が続くときにも 喜びがあることに思い至ります ポールのお墓に花を供え 2歳の娘が 草の上を走り回るのを見ます 浜辺で焚火をし 友達と日没を眺めます 運動とマインドフルネス瞑想が 大いに助けになりました そしていつか 再婚したいと思っています

最も重要なのは 娘の成長を この目で見られるということです 彼女が大きくなったら 何を言おうか もうだいぶ考えてあります 「ケイディ ― 物事を精一杯経験しなさい 生も死も 愛することも失うことも ― それが私たちにできること “苦しみの中でも人間らしくいられる” のではなくて “苦しみの中で人間らしくなる”の 誰かと一緒に 苦しみに向き合うなら 苦しみの陰に隠れないことを 選択するのなら 生は減衰したりせず 広がっていくのよ」

ガンになることは 必ずしも戦うことではありません あるいは そうだとしても 私たちが思っていたのとは 異なるものとの戦いです 私たちがすべきなのは 運命と戦うことではなく 助け合って 運命をやりぬくことなのです 兵士としてではなく 精神的な指導者としてです こうして私たちは 「大丈夫」になるのです 大丈夫でないときでも 声に出して そう言うことで 互いに助け合って乗り切ることで・・・ あと ゴリラの着ぐるみも あってもいいかも

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