バイオテクノロジー企業家のアレクサンダー・ベルクレディは、ウイルスには悪評がつきものだけれど、命を救うものもあるかもしれないと言います。この素晴らしいトークでは、自然界の生き物で、有害な細菌を恐ろしい正確さで捕らえて殺すウイルス、バクテリオファージについて紹介します。一度は忘れられていたこの生物が、拡大するスーパー耐性菌の脅威に立ち向かう新たな希望をもたらすかもしれないのです。
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少し時間を取って ウイルスについて考えてください 思い浮かんだのは? 病気? 恐怖? 多分 本当に不快な何かでしょう それでも ウイルスは 全て同じではありません 確かに ウィルスのいくつかは 重病の原因です しかし 一方で 逆に 病気を治癒させるかもしれません そのウイルスは 「(バクテリオ)ファージ」と言います
私がファージについて 初めて耳にしたのは 2013年です 私の義父は外科医で 治療中の女性患者について教えてくれました その女性は膝を怪我して 何度も手術しなければなりません 一連の手術が終わっても 彼女の脚は慢性細菌感染症に 罹っていました 不幸にも この感染症の病原菌は どの抗生剤も無効だったのです このような場合 通常は 感染拡大を防ぐために 脚を切断するしかないのです でも 義父は 違う治療法を 切望していました そして 最終手段として ファージを使った臨床試験に申請しました なんと それが功を奏しました ファージを使用して3週間以内に その慢性感染症は完治しました 抗生物質が無効だったのにです 私はウイルスを使用して 感染症を治療するという 風変わりな概念に惹かれました それから今日まで 私はファージの 医学的将来性に魅了されています そして この分野の会社を作るために 去年 実は仕事を辞めました
では ファージとは何か? こちらは電子顕微鏡の画像です つまり こちらの画面は 非常に小さい世界です 中央に写った 頭と長い胴体と たくさんの足がある— ザラザラに写っている物体 これが典型的なファージです ある意味 可愛いですね
(笑)
さて ご自分の手を見てください 私たちのチームは 片手には 100億以上のファージがいると 推測しています そこで何をしてるのかな?
(笑)
そう ウイルスは 細胞への感染が得意です ファージは 細菌への 感染能力が高く 手は 私たちの体の大部分と同様に 細菌活動の温床です ファージにとっては 理想の狩場になっています ファージは細菌を捕食しますからね また ファージは獲物を選ぶ猟師だと 知っておいてください 通常 ファージは 1種類の細菌のみに感染します こちらは 皮膚や傷の 感染症の原因菌であり 薬剤耐性化したものが MRSAとして知られている 黄色ブドウ球菌という細菌を 捕まえようとしているファージです
ファージは足を使って狩をします 足は このうえなく 敏感な受容体です 細菌細胞表面の 適切な場所を探し出します ファージは そこを見つけると バクテリアの細胞壁にくっ付き DNAを注入します DNAはファージの頭部にあるので 長い胴体を通って細菌に入ります その時点で ファージは 新ファージを大量に作るように 細菌を再プログラム化します それに応じて 細菌は ファージ工場になります ファージが細菌の細胞内で 約50 ~ 100個程度まで増殖すると 今度は細菌の細胞壁を破壊する— タンパク質を放出できます 細菌が爆発し ファージが出てきます そして 新たに感染する細菌を 探し続けます
すいません 何だか恐ろしいウイルスみたいですね しかし これはファージの能力です 細菌内で繁殖して殺すのは 医学的に見れば とても興味深いのです 他にも 私が発見した 非常に面白い部分は 将来性の大きさです 5年前の私は ファージさえ知らなかったのです 今日でも ファージは 自然原則の一部にすぎません ファージと細菌は 進化の初期段階から いつも隣同士に存在し 互いにけん制し合ってきました これは正に 顕微鏡のレベルでの 陰と陽の物語 狩人と獲物の物語です 一部の科学者は ファージが 地球上で最も多い生物だと 推測しています 私たちが ファージの 医学的将来性を語る以前に 地球上で 細菌を捕食するという ファージの役割を 誰もが 知るべきだと思います
さて 自然に日常的に 我々の周りのあちこちに しかも 世界のほぼ全域に こんな働き者がいるのに この原理を使い 細菌感染を根治する薬が 市場に一切出ていないのは なぜでしょう? それは単に その薬の開発者が いなかったからですし 少なくとも 多くの国が採用した 欧米の規制基準に 当てはまらなかったのです その理由を理解するために 時代をさかのぼることが必要です
この写真の人物は フェリックス・デレーユです ファージを発見した功績のある 2人の科学者の内の1人です しかし 1917年当時 彼は 自分が発見したものが何なのか 見当もつきませんでした 彼は細菌性赤痢という病気に 興味がありました 赤痢は深刻な下痢を引き起こす 細菌感染症です 当時 細菌感染の治療法が なかったので 多くの人が 細菌性赤痢で亡くなりました デレーユが 細菌性赤痢を生き延びた患者の サンプルを観察していると 奇妙なことが起きているのを 発見しました サンプルの中で 赤痢の病原菌らしきものを 何かが殺しているのです
その起きたこと明らかにするため 彼は巧妙な実験をしました サンプルを手に取り 微小物だけが残っていると確信が持てるまで 徹底的に ろ過し その たった一滴を 新たに培養中の細菌に加えたのです そして 数時間後 細菌が殺されたことが 観察されました デレーユは その実験を繰り返しました 再び ろ過液を一滴 新たな細菌に入れました この操作を 50回 繰り返しました 観察された結果は いつも同じでした そこで 彼は 2つの結論を出しました まず 明らかなのは 何かが細菌を殺していたことです それは ろ過液の中にいました そして もう1つ たった一滴で 絶大な効果があるということは それが 本質的に 生物だということです デレーユは その発見物を 「見えない微生物」と呼び 「バクテリアを食う存在」という意味で 「バクテリオファージ」と 名付けました ちなみに これは現代微生物学の 基礎的な発見の1つです ゲノム編集や他の分野での とても多くの現代技術の源流は ファージの働きの理解にまで さかのぼります ちょうど今日 ノーベル化学賞が発表されました ファージを研究し それを基に薬を開発した2人の科学者です
では 1920年代と 1930年代に戻りましょう 当時の人は ファージの 医学的将来性をすぐに認めました 結局のところ 見えないけど 間違いなく細菌を殺すものです 今日も存在しているアボット社や スクイブ社や リリー社は ファージ製剤を販売していました しかし 実際は 目に見えない微生物なので 効果の安定した薬を見つけるのは困難でした 今日 FDAへ行って 見えないファージを 患者に投与したいと あれこれ伝えるところを想像して下さい そのため 1940年代に 抗生物質が登場すると 状況が一変しました その立役者はこの人です
アレクサンダー・フレミングは 最初の抗生物質ペニシリンの 開発に貢献したため ノーベル生理学医学賞を受賞しました 抗生物質の作用は ファージとまったく違います 抗生物質は 多くの場合 細菌の成長を抑制するもので 存在する細菌の種類は あまり関係ありません ことに 広域スペクトラム抗生剤は 多くの細菌に効果を発揮します これは作用範囲が とても狭く 1種の細菌のみに作用する ファージと比較して 明らかな利点です
当時では 夢のような話です 細菌感染が疑わしい患者がいたら 抗生物質を与えればいいのです 病原菌を特定する必要が まったくないし 多くの病人が治ります だから 人類は 抗生物質を どんどん開発しました したがって 抗生物質は 細菌感染症治療の第一選択となりました ちなみに 抗生物質は 人類の平均余命に大きく貢献しています 現在 複雑な治療や 手術が可能になったのは 抗生物質があるからです 患者が 手術中に暴露したであろう 細菌による感染症で 翌日に死にかける危険はありません
そうして 特に西洋医学は ファージを忘れ始めました 私が子どもの頃でさえ 人類には抗生物質があるから 細菌感染は解決したというのが ある程度常識となっていました もちろん それは間違いだと 今では皆知っています ほとんどの方は スーパー耐性菌について耳にしています スーパー耐性菌とは 人類が開発してきた— すべてではないにしても 多くの抗生物質に 耐性を持つ細菌です
なぜ こうなったのかというと 人類は 自分で思うほど 賢くなかったのです 人類は抗生物質を 至る所に使用し始めました 病院では 治療と予防のため 家庭では ただの風邪に 農場では 動物の健康を保つため そして 細菌が進化しました 周囲から抗生物質の 猛攻撃を受けていたので 生き残った細菌は 適応力が最も高いのです 今日で言う「多薬耐性菌」です 恐ろしい数字を紹介しましょう 英国政府が委託した最新の研究では 2050年までに 毎年 1000万人が 多剤耐性菌により 死亡する見込みなのです 毎年800万人が 癌で亡くなることと比べると これが どれだけ恐ろしい数字か 分かりますね
でも 幸いなことに ファージが控えていたのです そのうえ 多剤耐性菌にも ひるみません
(笑)
ファージは 私たちの周りの細菌を 殺すことが ただ楽しいのです そして 現在では ファージが獲物を選ぶことは好都合です 今では 多くの場合で 感染を引き起こす病原菌を 正確に特定できるのです そして ファージの選択能で 広域スペクトラム抗生剤の 一般的な副作用を 避けられるかもしれません 最高の朗報は ファージが 見えない微生物ではなくなったことです ファージは見えます 人類は以前から協力し合って ファージのDNA塩基配列を解析し その複製方法も知っています そして その限界も知っています 人類は 現在 ファージに基づいた強力で信頼できる薬の 開発段階にいます
世界中で起きつつあることです わが社を含めた 10社以上のバイオテクノロジー企業が 細菌感染症を治療するための ヒトに対するファージの適用を開発中です 欧州とアメリカで いくつもの臨床試験が進行中です 私は ファージ治療復活は もう目前であると信じています 私が 正しくファージを描くと こんな感じです
(笑)
私にとってのファージとは 人類が多剤耐性菌感染症と戦う際に ずっと待ち望んでいた スーパーヒーローなんです
ですから今度 ウイルスを考えるときは そのイメージを持っていて下さい いつの日かファージが あなたの命を救うかもしれません
ありがとうございました
(拍手)