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これまでのがん治療法を変える「生きた薬」(15:09)

カール・ジューンはCAR T細胞治療の先駆者です。CAR T細胞とは、患者自身の免疫システムの一部を増強する画期的ながん治療で、腫瘍を攻撃して殺します。このトークでは、30年の研究がかつては出来ないと考えられていた白血病を根絶する治療に結実するまでの道のりと、その突破口について話しています。さらに、その治療がどのように他の種類のがんと闘ううえで活用できるかについても説明しています。

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公共の場でこの話を させていただくのは初めてです その個人的側面について 話すことが です 世界的に有名な野球選手 ヨギ・ベラは 「人生の岐路に立たされても 進め」 と言いました 研究者が1世紀以上かけて 研究してきたのは がんとの闘いに 免疫系を使うことですが 残念ながらそれは がっかりするものでした 免疫系を使った治療は 子宮頸がんや肝臓がんのような ウイルスが原因のがんにしか 効かなかったのです

がん研究者達は がんとの闘いに 免疫系を使うことを 基本的に諦めてしまいました 免疫系は がんと闘うようには 進化してきていません 免疫系は外部から侵入する病原体と 闘うよう進化したのです 免疫系は 細菌やウイルスを 殺すことが仕事であり 大抵のがんで免疫系が手こずるのは がんは外部からの侵入ではなく 自身の細胞から生まれるからです ですから 免疫系は がんを問題だと認識しないか がんを攻撃する時に 正常細胞も標的にするようになり 大腸炎や多発性硬化症のような 自己免疫疾患を引き起こします

この問題を避けられるでしょうか? 私達はがんを認識し殺す 「合成免疫系」こそが 答えだとわかりました そうです 合成免疫系です 遺伝子工学と合成生物学の 成果を使います 私達は免疫系にもともと存在する B細胞とT細胞を使いました これら2種類の細胞が構成要素です T細胞はウイルスに感染した細胞を 殺すように進化しており B細胞は抗体を作る細胞で 抗体は分泌されると 細菌に結合して殺します ではもし この2つの機能を結合し がんと闘うように作り変えたら どうでしょう? B細胞からT細胞へと 抗体をコードする遺伝子を 導入できることがわかりました

では どのように? HIVをトロイの木馬として T細胞の免疫系をすり抜けたのです キメラを作るわけです ギリシャ神話の 火を吹く空想の生き物で ライオンの頭 ヤギの胴体 蛇の尾を持つ あの生き物です B細胞からの抗体 T細胞キャリア HIVトロイの木馬を使用して作り上げた ― この逆説的な細胞を 「キメラ抗原受容体T細胞」 もしくは CAR T細胞と呼びます この細胞は (T細胞に結合した後 HIVの)遺伝子情報も導入して T細胞を活性化させ 殺傷モードに切り替えます

ではCAR T細胞が がん患者に注射され 腫瘍標的を発見し 結合するとどうなるでしょう? ホルモン刺激を受けた 増強キラーT細胞のように活動します にわか仕立ての防御構築システムを体内に作り 腫瘍を攻撃し殺す場所で 文字通り何百万倍にも分裂します これら全ては CAR T細胞が初の 「生きた薬」であることを意味しています CAR T細胞は型破りなのです 皆さんが通常飲む薬とは違います 通常の薬は効果を発揮した後に代謝され そして再度服用しなければいけません CAR T細胞は生存して何年も働き続けます あるがん患者に CAR T細胞を投与したところ 8年以上も 細胞は生き続けています この「特注」がんT細胞 CAR T細胞は 半減期が17年以上と推測されています ですから1回の投与で十分です 一生あなたの体を警備してくれます

医学における新しい 思考の枠組みの始まりです ここで1つ このT細胞投与に関して 大きな問題がありました 患者の体内でうまくいく 唯一のT細胞は 患者自身のT細胞由来です 一卵性双生児なら別ですが 大抵の人には運がありません そこで私達はCAR T細胞を作り上げました 患者自身のT細胞を 増殖させる方法を研究すべく 1990年代に 強固な研究基盤を作り上げました そして1997年に 進行したHIV感染患者に CAR T細胞を 初めてテストしました そしてこれらのCAR T細胞は患者の体内で 10年以上も生存しました これは免疫系を改善し ウイルスも減少させたのですが 治癒には至りませんでした

そのため研究室へ戻り さらにまた10年以上もかけて CAR T細胞のデザインに改善を加えました そして2010年までに 白血病患者の治療を始めました 私達のチームは2012年に 末期の慢性リンパ性白血病患者3人を 治療しました これは治癒困難な白血病の一種で 毎年アメリカで約2万人の成人に 発症します 最初の患者は 退役した海兵隊軍曹で 刑務所看守でした その男性は残り数週間の命で 自身の葬儀費用を支払済でした 細胞が投与され 数日のうちに 患者は高熱を出し 多臓器不全に進展し 集中治療室へ移され 昏睡状態に陥っていました もう死ぬかと思いましたし 実際 終油の秘跡まで行われました ところが新たな分かれ道が出現しました CAR T細胞が投与されて28日たった頃 覚醒したのです 医師が診察をしたところ がんが消えていたのです 大きな腫瘍は消失していました 骨髄に白血病の所見は見つからず その年 最初の3人の患者が治療され そのうちの2人は寛解状態で 現時点で8年を経過しており 残り1人は部分寛解をしました

CAR T細胞が患者の白血病細胞を攻撃し 各患者につき1.3kgから3.5kgの 腫瘍がなくなりました 患者の身体はCAR T細胞にとって 現実のバイオリアクターとなり 骨髄 血液 腫瘍塊の中で 何百万ものCAR T細胞を 作り出しました ボクシングになぞらえて言うなら CAR T細胞は自身の重量クラスを遥かに超えて 闘えるということです たった1つのCAR T細胞が 1000個の腫瘍細胞を殺せるんです そうです 1:1000の比率です CAR T細胞とその娘細胞は 体内で何度も何度も 最後の腫瘍が消えるまで分裂できます

がん医学では先例の無いことです 初めの2人の患者は完全寛解し 今日まで再発していないので もう治っていることと思います この患者達は 従来の治療法を全て試し これ以上もう選択肢がなく 現代におけるラザロの立場に 立たされた人達だったのです このような岐路に立てて良かった その言葉に尽きます

次の課題は 小児の最も一般的ながんである ー 急性白血病を患った子供の 治療許可を得ることでした 最初に治験を行ったのは 当時6歳の エミリー・ホワイトヘッドでした 数年間 一連の化学療法と 放射線治療を行っても 白血病の再発を繰り返していました 3度の再発です 初診時は重症でした 末期の治療不能白血病と 診断されていました がんは彼女の骨髄 肝臓 そして脾臓にまで浸潤していました そして2012年4月に CAR T細胞を投与しましたが 数日間 症状の改善は 見られませんでした 状態は悪化し より重体になりました 2010年の刑務所看守の時のように 2012年 エミリーは 集中治療室へ移され これまでで一番恐ろしい岐路に立っていました

投与から3日目までに昏睡状態になり 腎不全 肺不全 昏睡状態に対して 延命処置を受けていました 41度に及ぶ高熱が3日間続いていました 私達にはこの高熱の原因がわかりませんでした 感染症の検索に 標準の血液検査を行いましたが 発熱の原因となる感染症は 見つかりませんでした ところが 血液中に これまでの医学では見られたことのない 通常にはない物質を発見したのです 血液中に インターロイキン-6(IL-6) と呼ばれるタンパク質の 上昇が見られたのです 通常値の1000倍以上でした ここでまた別の分岐点に差し掛かりました

本当に偶然の一致なんですが 私の娘の1人は ある種の小児関節炎でした 私はがん専門医として 娘に必要になった時の為に いくつかの 関節炎の実験的治療法に 注目していました それがたまたま 現実のものとなったのです エミリーが IL-6高値の治療で 入院する数ヶ月前に アメリカ食品医薬品局に 新しい治療法が認められました 娘のかかっていた関節炎に 認められたものです トシリズマブという抗体です ちょうどエミリーのいた病院の薬局に 関節炎治療用として 入ったばかりでした

エミリーのIL-6が 非常に高値であると知った時 ICUにいる彼女の担当医へ こう言いました 「関節炎治療薬を 使ってみてはいかがでしょう?」 医師達は私が無謀だと言いました 彼女の発熱と低血圧が 他の治療に反応しなかったので 担当医は直ちに 倫理審査委員会に許可を申請し 両親も含めて もちろん全員が承諾しました そして投与しましたが 結果は 驚き以上の 何物でもありませんでした

トシリズマブの投与後 数時間以内に エミリーは急速に回復し始めました 治療の23日後 がんが消滅したと宣言されました そして彼女は現在12歳で 完全寛解状態です

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高熱や昏睡状態を伴う CAR T細胞投与後の この激しい反応を サイトカイン放出症候群 (CRS)と呼びます この治療に反応を示した患者はほぼ全員 この症状に陥るのがわかりました 反応しない人には 症状は見られません ですから かえって患者は CAR T細胞治療時に 「人生最悪のインフルエンザ」の 高熱を期待するようになりました この反応を期待するのは これが健康に戻るための 苦しい試練なのだと 知っているからです 残念ながら全員が 回復するわけではありません CRSを発症しない患者は 治癒しないことが多いのです ですので CRSと 免疫系が白血病を根治させる能力には 強い関連があります

昨年夏 FDAが白血病に CAR T細胞使用を認めた時 IL-6症状と それに随伴するCRSを阻止する ― トシリズマブの使用も 同時に認めたのはそのためです 医学の歴史において 非常に珍しいことです エミリーの担当医は さらに多くの患者に治験を行い 最初に治療した30人のうち27人 つまり 90%が 細胞投与の1ヶ月以内に 完全寛解しました 末期がん患者の90%が 完全寛解というのは 50年以上のがん研究の中でも 前代未聞なのです それどころか 15%の患者が完治できれば がん試験薬は「成功」だと 薬品会社は宣言するのですから

『ニューイングランド・ジャーナル・ オブ・メディシン』2013年版には 国際的研究で 私たちの結果が 追認されたとの報告がありました これは 2017年8月に小児と若年成人の 白血病患者への治療を FDAが承認するきっかけになりました

ですから初の認可された 遺伝子改変を伴う細胞治療として 現在 CAR T細胞治療は 難治性リンパ腫を患う成人に 試用されています この病気はアメリカにおいて 毎年約2万人を苦しめています 試験結果は同様に素晴らしく 長期的効果が見られます そして6ヶ月前 FDAはこのような末期リンパ腫の治療に CAR T細胞を認めました 現在 世界中で多くの 研究所 医師 科学者達が 多くの異なる病気に CAR T細胞を試し 全員がこの急速な進歩に 驚いているのは当然です エミリーのように 以前は末期の病気を患っていた患者が 健康な生活に戻るのを 大変嬉しく思っています 長期の寛解が 実は完治かもしれないことに わくわくしています

同時に 治療費についても 心配しています CAR T細胞を作るのに 患者当たり最大15万ドルもかかります さらにCRSの治療費と 他の合併症治療費も合わせれば 1人当たり約100万ドルにもなる 可能性があります 治療に失敗した時の費用は さらに大変です 現行では 非完治的がん治療でさえも高額で おまけに患者は亡くなってしまいます ですからもちろん 全ての患者に より効率良く 手頃な価格で治療する為に 研究を進めたいと考えています 幸運にもこれは 新しい革新の見られる分野で 他の多くの新しい治療や処置と同じく 製品化の効率が高められれば 価格は下がるでしょう

CAR T細胞治療へと導いた 全ての岐路について考えた時 1つ とても大切なことがあります このように大規模な発見は 一夜にしてはなりません CAR T細胞治療は30年の 多くの挫折と驚きを経て ここへたどり着きました 即座に満足を得ることや いつでも 直ちに結果が求められる この世界で 科学者がこの全てを乗り越えるためには 粘り強さと先を見通す力と忍耐が 必要とされるのです 岐路が常に板挟みや回り道とは限らないと 科学者なら理解できます 知らずにいた岐路の先が実は我が家だった ということもあります

ありがとうございました

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