2006年から2016年の間、米国における医薬品特許件数は2倍になりましたが、それは発明やイノベーションが劇的に増えたからではなく、製薬会社が特許制度を巧みに悪用する方法を覚えたためで、新薬ではなく既存の薬剤に小さな変更を加えることで特許を蓄積し、それにより独占権を築き、競争を阻害し、価格を吊り上げているのです。 医療における社会正義のために働く弁護士のプリティ・クリシュテルは、特許制度の本来の目的がいかに見失われているかに光を当て、国民に奉仕し命を救うことになる制度の再構築をするための5つの改革案を提案します。
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夫は一目惚れだったんです
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こんな いきさつでした 何年も前 ルーディは 私にとっては 断じて 友人でしかない存在でしたが 家に来た時に 父に会ったのです 父は医薬品研究者で ある医薬品を世に出し 退職したところでした 父はこう言いました 「うーん たぶん君は 聞いたことないと思うよ その薬は IPF— 特発性肺線維症の治療薬だ」 ルーディは長い沈黙の後 こう言いました 「その病気で15年前に 父を亡くしました」 ルーディはこの瞬間に 恋に落ちたそうです
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私の父に
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私の父が 彼の父を救うことは できませんでしたが 運命がこの縁を繋げてくれたと 感じたそうです 私たち家族は父の発明を 誇りに思っていて 特に 父が取得した特許には 敬意を払っています 家の壁には 額に入れた特許証が飾られています 私が今まで やってきたこと全て— 大学も ロースクールも 医療における社会正義に関する仕事も 全て アメリカという国が 発明者として父を活躍させてくれた おかげだと思っています
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去年 特許商標庁の長官に 初めてお会いしました バージニアの特許庁から 家族に自撮りの写真を送りました
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絵文字がいっぱい返信で来て まるでビヨンセに会ったような 騒ぎでした
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実は ある問題について話し合うために 訪れたのです 旧態依然とした特許制度が 医薬品の価格を吊り上げ 人の命が犠牲になっていると 現在 20億人以上の人が 薬を手にできない状況です この世界の危機を尻目に 医薬品の価格は高騰する一方です 豊かな国も例外ではありません 3400万人ものアメリカ人が 家族や知人を 過去5年間に失った理由が 治療法がなかったからではなく 治療代を払えなかったためなのです 薬価の高騰によって 家族はホームレス化し 高齢者は破産し 親は重い病気の子供の治療費を クラウドファンディングに頼っています この危機を引き起こしている原因は いくつかありますが 一つには時代遅れの特許制度があり 米国はその制度を世界中に 広げようとしています
特許制度の本来の意図は 発明の奨励で 限られた期間の 独占を許可します 現在は 当初の意図が 分からないほど歪められています 企業は弁護士や ロビイストのチームを抱え 特許期限を最大限伸ばすことに 専念しています そのせいで特許庁も大忙しです 米国特許庁は155年かけて 最初の500万件の特許を 付与しました 次の500万件の特許権付与には 27年しか かかりませんでした
発明が劇的に 増えたわけではなく 企業が 特許制度を巧みに 悪用するようになったためです 医薬品の特許は爆発的に増え 2006年から2016年の間に 倍増しています 考えてみてください 薬に関する新しい特許が扱う 医薬品の大半は 新しくはないのです 特許10件のうち8件近くが インスリンやアスピリンのような 既存の医薬品に関するものです
弁護士や科学者からなる 私たちの組織では 米国で最も売れている12の医薬品について 最近調査を行いました 平均すると 薬1つにつき125もの特許が 出願されており 何十年も前から知られていることも 沢山あります 例えば2つの薬を 1つに合わせるというような 特許の壁を 高くすればするほど 企業は独占状態を より長く保てます 競争相手がいなくなるので 思い通りの価格を設定できます 医薬品なので おしゃれな時計とは違い 人々は支払うしかありません
特許の壁は 競争を阻むための戦略です アメリカ建国の指導者たちが 想定していた 最長14年という期間ではなく 現在の法律で認められている 20年でもありません 40年以上なのです その間 医薬品の価格は 着実に上がり続けています 2012年以来 68%の上昇です インフレ率の実に7倍です 人々は苦しみ 命を落としています 薬を買えないがためにです
はっきりさせておきたい ことがあります 製薬業界を悪者にしようと いうのではありません 今日 お話ししているのは 進歩を促すために 作られた制度が 実際意図したように 機能しているのかということです 製薬会社は制度を 悪用していますが できるから しているのであって 特許制度を 今日の現実に 対応させそこねたのが問題です 政府が提供しているのは ビジネス界で最も 価値のある恩恵― 競争から保護された 製品を作る機会です それに対し国民のために求められる見返りは どんどん小さくなっています 1人の著者の同じ本に対して
ピューリッツァー賞を 100回授与するようなものです
こんなやり方でなくても いいのです 私たちは21世紀の 社会のニーズに応える 現代的な特許制度を作れます そのためには 企業のためだけではない 公益のための 特許制度を考え直す必要があります
どうすればいいでしょうか 改革すべきことが5点あります まず 特許をたくさん認めるのを やめるべきです ケネディ政権下でのことですが 医薬品価格の上昇を強く抑制するために テネシー州の議員が アイデアを提案しました 彼はこう言いました もし医薬品を微調整し 別の特許を取得したいと 思っているなら 変更を加えた薬は 患者への治療効果が 明確に改善されていなければならない 激しいロビー活動のため このアイデアは 日の目を見ませんでした しかし再考された 特許システムでは この簡潔で的確な提案を 蘇らせ 進化させることになるでしょう 特許を取得するには 既にあるものよりも 明確に優れたものを 発明しなければならず この点について 疑問はないでしょう 社会として 大きな褒賞は 大きなアイデアにだけ 出すべきです ミシュランの星が与えられるのは レシピに少しだけ手を加えるシェフではなく 食べ物の考え方を 変えるようなシェフです なのに何十億ドルもの 価値がある特許を 小さな変更に対して 与えているのです 基準を上げるべきです
第2に 特許庁への収入の入り方を 変えるべきです 現在 特許庁の収入は 出した特許の数に 直接 連動しています 民営刑務所で収監人数に応じて 収入が入るのと似ています 収監人数は自ずと 増えることになり 減りはしません それは特許にも当てはまります
第3に 一般人の参加を増やす 必要があります 現在の特許制度は まるでブラックボックスです 特許庁と業界の 2者のみの話し合いです 皆さんや私は 招かれもしません そうではなく 特許庁が 市民の学習と創造の 活発な活動の中心となり 技術専門家や官僚だけでなく 科学に情熱を持って公衆衛生の話を 上手にする人も職員にしたらどうでしょう 普通の市民が複雑な技術情報ー 例えば人工知能や遺伝子編集のことも 分るようになり 健康や生活に直接影響する 政策の対話にも参加できるようになります
第4に 訴訟を起こす権利が必要です 現在米国では 一旦特許が下りると 市民には異議を唱える 法的権利がありません 権利があるのは 商業的利害がある者— 通常は他の製薬会社です でも一般市民が訴訟を 起こせる権利によって 人の命が救われることを 私は実際に体験しています 2006年 インドでのことです 私の所属団体が 患者の代理人とともに 不当なHIV薬の特許に 法的に異議を申し立てました 当時たくさんの人が HIVで死んでいました あまりにも薬が高かったからです 私たちは 薬価を下げることが できました 最大87パーセントもです
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3つの医薬品だけで 5億ドルの医療費を 節約することができました このような訴訟で 何百万人もの命を救い 何十億ドルも節約できるのです もしもアメリカ人にも 訴訟を起こす権利があったらどうでしょうか
最後に より厳しい監督が必要です 独立機関が 市民の権利擁護のため 特許庁の活動を絶えず監視し 議会に報告するのです もし そのような機関があったら セラノスのような シリコンバレーの会社が 血液検査の特許を あんなにも多く取得し 90億ドルの評価がつく前に 見つけ出せたはずです 実際には 発明は何もなかったのですから
こういった社会的責任が 益々重要になると思います この遺伝子検査 23andMe の時代に 大切な疑問が浮上してきています 企業が特許を取ったり 売ったりしていいのでしょうか 私たちの遺伝子情報や 私たちの患者としてのデータなんですよ 私たちも手遅れになる前に その話し合いに加わる必要があります 私たちの情報が 新しい治療の創出に使われているのです 私や私の家族が 病気と診断された時 皆さんや皆さんの家族が 診断された時 愛する人を助けるのに クラウドファンディングに頼らねばならない— そんな世の中に なってほしくはありません 2歳の息子に そんな世の中で 暮らしてほしくはありません
父も 歳をとってきましたが 未だに 目立たずとも頭脳明晰で 強い倫理観を持ち続けています 父と私が激しくぶつかり合うのではと 聞かれることがあります 特許を保有している科学者と 特許制度の改革を推進する 弁護士の娘ですから 根本的に大切な点を 誤解しています これは科学者対活動家 という話ではないし 発明対保護という 話でもありません 人間そのものに関わること 発明の探究と 生きる権利の話なのです 父と私は 創造力と尊厳とは 手を携えて進むものと 理解しています 私たちは 同じ側にいるのです 今こそ 特許制度を見直し その英知を反映したものにしましょう
ありがとうございました
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