音楽がもたらしたコンピューターの発明(7:25)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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4万3千年ほど前 若いホラアナグマが 現在のスロベニアの 北西端にある丘陵で死にました その千年後 マンモスが ドイツ南部で死にました さらに数百年後 そこから遠くないところで シロエリハゲワシが死にました この動物たちが どうやって死んだのかは ほとんど分かっていませんが 時代も場所もバラバラな この異なる動物たちは 特筆すべき ある運命を 共有しています 死後に その骨を使って 人間の手で フルートが作られたのです。
考えてみてください 自分が4万年前の 洞穴人だったとします 火の作り方を覚え 狩りに使う シンプルな道具を作り 冬の寒さをしのぐために 動物の皮から服を作ることを 学びました その次に何を発明しようと 思いますか? フルートという 役に立たない 空気の振動を生み出す道具を発明するなんて 馬鹿げたことに見えますが それがまさに 我々の祖先がしたことでした。
そしてこれは 発明の歴史において たびたび起きていることなんです 人々が発明をするのは 生きるためだったり 子供に食べさせるためだったり 隣の村を征服するため だったりします しかし同じくらい頻繁に 単に楽しいからという理由で 新しいアイデアが 世に生み出されているのです そして奇妙なのは 楽しいにはしても しょうもないものにしか 見えない そういった発明が たびたび科学や政治や社会に 重大な変化を 引き起こしていることです。
現代における 最も重要な発明であろう プログラム可能なコンピューターを 例にとってみましょう よく聞く説明は コンピューターは 軍事技術から生まれたというものです 初期のコンピューターの多くは 戦時の暗号解読や ロケット弾道計算用に設計されたからです しかし実際には 現代のコンピューターの起原は みんなが思っているよりも ずっと楽しく 音楽的でさえあるのです フルートの原理は 筒に空気を送って音を鳴らす というものですが そこから最初のオルガンが 2千年以上前に 作られることになりました 小さなレバーを指で押したときに 音が出るようにするという 素晴らしいアイデアを 誰かが思いつき 最初の鍵盤が 発明されました 鍵盤はオルガンから クラビコード ハープシコード ピアノへと 進化していきましたが 19世紀の中頃になって 鍵盤で音の代わりに 文字を打つというアイデアに 多くの発明家が たどり着きました 実際 最初のタイプライターは 「書くためのハープシコード」 と呼ばれていたんです。
フルートと音楽は さらに大きな発明へと繋がりました 千年ほど前 イスラム・ルネサンスの最盛期に バグダードに住む3兄弟が 自動オルガンを設計し 「自奏器」と名付けました それは巨大な オルゴールのようなものでした このオルガンは 回転する円筒に 配置したピンの指示で 様々な曲を 演奏させることができました この装置に別の曲を 弾かせたかったら 円筒を異なる符号のものに 入れ替えるだけでよかったのです これはその種のものとして 最初のものでした プログラム可能だったのです。
概念として これは大きな飛躍でした この発明によって初めて ハードウェアとソフトウェアというものを 考えられるようになりました そのような強力な 概念をもたらしたのは 戦争や征服のための 道具ではなく 必要なものですら ありませんでした 機械が音楽を奏でるのを眺めるという 奇妙な愉しみからもたらされたのです。
プログラム可能な機械 というアイデアは もっぱら音楽によって 700年もの間 生き続けました 1700年代に 音楽を奏でる機械は パリの上流階級の おもちゃになりました 同様の符号化された円筒を使って 芸人は自動人形の動きを 制御していました 初期のロボットです そのようなロボットで 最も有名だったのが 他でもない 自動フルート吹き人形で フランスの優れた発明家 ジャック・ド・ヴォーカンソンにより 設計されました。
ヴォーカンソンは 演奏ロボットを設計していて 別のアイデアを 思いつきました 快い音色を奏でるよう 機械をプログラムできるなら 布に素敵な模様を織り出すように プログラムすることだってできるのでは? 円筒上のピンで 音符を表現する代わりに 違った色の織り糸を 表すのです 新しい模様の 織物がほしければ 新しい筒を プログラムすればいいのです これは最初の プログラム可能な織機でした。
そのような円筒は 作るのに時間がかかり 高価でしたが 半世紀後に 別のフランス人発明家の ジャカールが 金属の円筒の代わりに 紙のパンチカードを使うという 素晴らしいアイデアを 思いつきます 紙はずっと安く 装置のプログラムの方法として ずっと柔軟性がありました このパンチカードが ビクトリア朝時代の発明家 チャールズ・バベッジにインスピレーションを与え 解析機関を 作らせることになります 最初の真にプログラム可能な コンピューターです パンチカードは1970年代まで プログラマーによって 使われていました。
だから考えて欲しいんです 現代のコンピューターを可能にしたものは 何だったのかと 軍事的応用というのは 歴史上重要な要素ですが コンピューターの発明には 他の要素も必要でした オルゴール おもちゃのフルート吹き人形 ハープシコードの鍵盤 織物の色とりどりの模様 これはまだ話の 小さな一部でしかありません 遊びから生まれた 世界を変えたアイデアやテクノロジーは たくさんあるんです 美術館 ゴム 確率論 保険業 まだまだあります。
必要が発明の母とは 限らないのです 遊び心というのは 本質的に探索的であり 身の回りの世界に 新たな可能性を見つけようとします この見つけようとする ということが 単なる愉しみや 娯楽として始まったものが 大いなる発明に 繋がる理由なんです。
このことは 学校での子供達への教え方や 職場でイノベーションを促すための ヒントになると思いますが 遊びや喜びを このように捉えることはまた 次に来るものが何か察知する 手がかりにもなります 1750年に生きていて 19世紀や20世紀の社会に訪れる 大きな変化が何か 思い描くとしたら どうでしょう? 自動制御機械に コンピューター 人工知能 パリの上流階級を 愉しませていた プログラム可能な フルート吹き人形は 当時の他の何よりも 大きなヒントだったことでしょう まじめな用途のない ただの娯楽にしか見えませんが それは世界を変える技術革命の 兆しだったのです。
人々が最も愉しんでいる場に 未来を見ることができるんです。
必要は発明の母なんですよね? そうとも限りません。コンピューターのような最も大きな変化を生み出すことになるアイデアやテクノロジーの中には、必要から生まれたのではなく、遊びの奇妙な喜びから生まれたものが沢山あるとスティーヴン・ジョンソンは言います。発明の歴史を描く彼の惹き付けられる解説に耳を傾けましょう。人々が大きな喜びを得ているところに未来が見えることが分かるでしょう。