有色人種の学生は如何にしてインポスターシンドローム(自己過小評価症候群)に直面するか(10:20)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私の旅はニューヨーク、ブロンクスの 寝室一部屋だけのアパートで 2人の姉妹と移民の母との 暮らしから始まりました。ご近所とは仲良しでした。皆 生き生きとしていました。突然メレンゲ(ダンス)を踊ったり アパートの玄関口で ご近所同士お喋りをして ドミノをしながら 活気に満ちた会話をしました。それが故郷でした 懐かしいのですが 単純なものでは ありませんでした。実際 学校中の誰もが 私達の住む界隈を知っていました。そこはマリファナやドラッグを 買いに来る所だからです。ドラッグの取り引きでは 衝突も起こります。私達は銃声を聞きながら 寝ることもありました。
不安な子ども時代を過ごしました。自分達の身の安全への不安です。母も同じ気持ちでした。日常目にする暴力が自分達の 命を脅かすのではないかと恐れていました。貧困のうちに暮らすということは 同じ界隈で暮らす近所の人達が 私達を傷つけるかもしれない ということです。私達はずっと ブロンクス育ちでしたが 母は不安に駆られて即座に コネチカットまで 車を飛ばすことにしたのです。
観衆:(笑)
全額支給の奨学金付きで 私を全寮制の学校に託したのです。まったく 我が子の 身を守ると決意した 母の底力を 侮ってはいけませんよ。
観衆:(声援/拍手)
寄宿学校では 生まれて初めて 安心して眠る事が出来ました。寮の部屋に 鍵を掛けずにすみました。芝生の上を裸足で歩き 星で一杯の夜空を眺めました 初めての体験で幸せでした。
しかしまた 初めての体験は他にもあって すぐに そこが 自分の居場所ではないと感じました。私は正しい話し方を していなかったと知り、キチンとした喋り方を 説明する為に 先生はある言葉の 正しい発音の仕方を 皆の前で 何度も練習させました。
ある日先生が廊下で こう言うのだと私を指導しました。「アーースキング」 先生はこれを大声で言うのです。「ディナ『アキシング』じゃないの それじゃaxe(斧)を持って走り回っているみたい バカみたいでしょ」。
さて この時点でクラスメートの 冷笑が想像出来るでしょう しかし先生は こう続けました 「"ass"(尻)と"king"(王)とに 分けて考えてごらん そして2つをくっつけると ちゃんと言えるわ」 「アスキング」。
この場が自分に相応しくない と思う事が他にもありました ある時 私が寮の クラスメートの部屋に入ると 彼女は私の周囲にある 自分の貴重品を警戒していました 何故そんな事を気にするのだろうと 心の中で思いました その後こんな事もありました 別のクラスメートが 私の部屋に入って来て 「やだぁ!」と叫びました 私がヘアグリースを頭皮に塗っていたからです。
若者がありのままに振る舞えず 周囲に受け入れられるよう 自分らしさを人に捻じ曲げられるのは 感情を傷つけられるものです それは一種の暴力とも言えます。
最終的には 私の話は典型的な サクセスストーリーとなりました 全寮制の学校に通い ニューイングランドの大学へ進学し チリに留学しました その後ブロンクスに戻り 中学校の教員になり トルーマン奨学金や フルブライト奨学金 そしてソロス・フェローシップを 受けました まだまだ続きます。
観衆:(笑)
でもやめておきます。
観衆:(笑)
コロンビア大学で 博士号を取得しました。
観衆:(声援/拍手)
その後イエール大学で職を得ました。
観衆:(拍手)
自分の人生において ここまで 成し遂げられた事に 誇りを持っています。
私はずっとインポスター症候群 を抱えています。私は「平等の象徴」として 存在するというだけで 実際の私を評価された訳ではなく 本当は誰でも良かったのでは ないかということです。又は 自分は例外で 愛する人達を置き去りに しなければならなかったのだと― それは私や他の多くの黒人達が学ぶ為に 支払う代償なのです。
観衆:(拍手)
私は常に自身を監視しています パンツはピッタリし過ぎてないか? 髪はアップそれとも アフロにすべき? 自分自身を弁護すべきかなのか それとも 何を言っても「彼女は怒ってる」 と誤解されるだけか。
何故 私は より良い教育を受けるために ブロンクスを後にしなければ ならなかったのか? 何故 より良い教育を得る過程で 自身を形成したもの― アンティグア生まれの母に育てられた ブロンクス出身の黒人少女という自分自身を 消去するというトラウマに 耐えなければならなかったのか? だから現在の教育改革の イニシアティブについて考えると 私はこう問わずには いられません 有色人種の学生は自分自身について 何を学んでいるのかと。
30年の研究で次の事が 明らかになっています 有色人種の学生は 白人の3倍の割合で 停学や除籍になり 同じ違反行為に対し より厳しい処分が行われるのです 学習課程の中に彼らの生活や物語が 存在しないことで これを知るのです 児童図書館が4千冊近くの本の レビューを行なったところ アフリカ系アメリカ人の話は 僅か3%に過ぎませんでした 彼らは更に自分達と 同じ立場の教員が足りない事で 現実を思い知るのです 全米教育統計センターの データ解析によって 全米の年中児から高校生の45%が 有色人種だと分かりました 全米の年中児から高校生の45%が 有色人種だと分かりました その一方で有色人種の教員は 僅か17%に過ぎません。
有色人種の若者は教育制度が送る 「成功するためには 彼らが管理され アイデンティティを置き去り にしなければならない」 というメッセージを受けて 大変な対価を支払っています 全ての生徒には 自分を偽ることなく 安全に教育を受ける 権利があるのです 安全に教育を受ける 権利があるのです。
観衆:(拍手)
情緒的 また物理的に安心安全で 学業的に成功できる教室を 作ることは可能です ブロンクスに戻って教職に就いた時 私は自分の教室で それを実行しました。
どんな感じだったでしょうか? 生徒の生活、歴史 アイデンティティを 私は指導の中心に置きました 全てのことは 彼らが最高の自分になれるよう 周りの皆から支えられていると 知ってもらうために行いました 不安定な家庭環境や 次の食事にありつけるかへの不安 眠りを妨げる騒々しい近隣を コントロールすることは できませんが ありのままの自分達に 誇りを持たせ 自分達が大切だと 実感出来るような 愛情にあふれる教室を 作ったのです。
さて私は "asking"という言葉を 耳にし 口にするたび 高校生に戻ったような 気持ちになります "ass"と"king"の事を思い出し その2つをくっつけるのです 権力のある人達が聞きたいと思うような 話し方をしてみるんです。
有色人種の子供達に 板挟みを強いる事のない より良い方法があります それは彼らが 自分達の家族、故郷、 コミュニティとの つながりを保つ事 そして 彼らに自分達の 本能を信頼し 自分自身の創造的な才能に 信念を持つよう教える事なのです。
ありがとうございました。
観衆:(拍手)
厳しい環境にあるブロンクスで生まれ育った黒人女性ディナ・シモンズは学術的なあらゆる名声を確立しています。黒人にとっての学業での成功とは、時として自らの本質を捻じ曲げて収められているものだという事実を彼女は知っています。現在彼女自身が教育者となり、すべての学生達がありのままの自分達に誇りが持てる教室を、如何にして創造するかを議論し、こう語っています。「すべての子供達には、どんな肌の色であろうと安心しながら学ぶ教育を受ける権利があるのです。」