成功するチャンスと年齢に秘められた本当の関係(16:15)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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今日は 私にとって 特別な日です 実は 誕生日なんです
(拍手)
本日は 誕生会にお越しいただき ありがとうございます
(笑)
でもパーティーを開くと 必ず ぶち壊す人がいますよね
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私は物理学者です 今回はもう一人 会をぶち壊してもらう 物理学者を呼びました アルベルト・アインシュタインです こんなことを言っています 「科学において 30歳までに 多大な貢献をしていない者は その後も しない」
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ネットで調べていただかなくとも ご覧のとおり― 私は30歳を超えてます
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アインシュタインはつまり こう言ってるんです 私は 科学者としては もう終わっている と 幸い 私は仕事で それなりに運がありました 28歳ごろ ネットワークに 強い興味を持ち 数年後には 重要な論文をいくつか 出すことができました スケールフリーネットワークの 発見を報告し そこからネットワーク科学と呼ばれる 新しい分野が誕生しました ご興味があれば ネットワーク科学で 博士号を取得することもできます ブダペストやボストンで取れますし 世界中でネットワーク科学を 学ぶことができます
その数年後 最初はサバティカルとして ハーバード大学に移りました そこで別タイプのネットワークに 興味を持ちました 体内にあるネットワークです 遺伝子とタンパク質と代謝物質の 関わり合いや 病気との繋がりについてです これが医学において 重要な起爆剤となりました ハーバード大学の ネットワーク医学研究所(CDNM)では 300名以上の研究者が この考えを活かし 患者の治療と 新たな治療法の 開発に取り組んでます
そして数年前 私は このアイデアと ネットワークの専門知識を 別のことに活かそうと 思いました 「成功」を解明することです なぜか? こう考えたからです 成功は ある程度 自分が属する ネットワークによって決まり それが追い風にも 向かい風にもなり得る と そこで 我々の知識や ビッグデータや専門性を活かし 成功が起こる過程を定量化する ネットワークを作れないかと考えました
これがその結果です 美術館とギャラリーのネットワークです 互いの繋がりを示してます 昨年 作った このマップを使えば とても正確に 芸術家の成功を 予測することができます その人の最初の5回の展覧会を 教えてくれれば分かります
とはいえ 成功について考えるにつれ ネットワークが全てではないと 分かりました 成功はもっと多面的です 成功するために必要な要因の一つは 実力ですよね では実力と成功の違いを 考えましょう 実力とは 何をするかということ どれだけ速く走るか どんな絵を描くか どんな論文を発表するか など 一方で 私たちの仮の定義では 成功とは その人が 実力で為したことを コミュニティがどう 受け止めるかということ 周りがそれをどう認め どう報いるか です 言い方を変えれば 実力は本人に関することですが 成功はみんなに関することだということです これは研究する上で 大事な発想の転換でした 成功は コミュニティが与える 集合的な尺度だと定義した瞬間から 測定可能になったからです コミュニティの中にあるので いろいろデータを取れる場所があります 私たちが学校に行き 運動や練習をするのは 実力が成功に繋がると 信じているからです でも こうして探求してみて 実力と成功は 全く異なるものだと分かりました 数学的な観点からするとそうです ご説明しましょう
こちらは世界最速の男 ウサイン・ボルト選手です 出場する試合は ほぼ全て勝ちます 彼が世界最速と分かるのは ストップウォッチで 計測できるからです 興味深いのは 彼が勝つとき 圧倒的な大差で 勝つわけではないということ 最大でも1%ほど 2位より速いだけです しかも それだけではなく 彼でも私の10倍速くは 走れないんです へなちょこランナーの この私より
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実力の測定ができるたびに 面白いことに気づきます それは 実力は有限だということ つまり 人間の実力に 大した違いはなく 狭い範囲内で異なるだけです 違いを測るには 高精度の計測器がいるほどです まあまあの人とトップの人の 見分けがつかないわけではなく トップを見分けるのは とても難しいということです しかも ほとんどの人は 実力を 正確に計測できない分野で働いてます
実力は有限です 実力に関して 私たちに大差はありません では 成功はどうでしょう? 分野を変えて 本はどうでしょう 作家の成功を測る方法の一つは 読者の数ですね 私は2009年に 前作の本を出しました ヨーロッパで 編集者と話していて ライバルは誰か 気になりました 強者ぞろいでした その週に出たのは―
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ダン・ブラウンの 『ロスト・シンボル』や ニコラス・スパークスの 『ラスト・ソング』でした これらの本を比べても 実力に関しては その性質上 そんなに違いがある わけではありません ですよね? ニコラス側が もう少し頑張っていたら 1位になれたかもしれません 1位になるのは ほとんど偶然ですから そこで数字を見ることにしました 私はデータ人間なので ニコラス・スパークスの 売上はどうだったか 最初の週末で なんと― 10万部以上を 売り上げていました すごい数です ニューヨーク・タイムズの ベストセラーリストの1位でも 1週間に1万部くらいです その10倍以上を売ったニコラスは 当然1位だと思うでしょうが 違いました なぜか? ダン・ブラウンが 同時期に 120万部 売り上げたからです
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この数字を見て 面白いと思うのは 成功に関しては 際限がないということです 1番が 2番をわずかに 上回るというのでなく 桁違いの大差を つけるんです 成功は 集合的な尺度だからです 実力で得るというより 他者が与えるものなんです
つまり 我々の認識だと 実力— 自分が何をするかは 有限ですが 成功は集合的なもので 際限がないということ そこで こう思うでしょう 実力では わずかな差なのに どうして成功に 大差が出るのか? 私は最近 まさにこの問いを 追求した本を出しました じっくり解説する時間は もらえなかったので はじめの問い 「成功は いつ現れるのか」 に戻りましょう
ぶち壊し役の アインシュタイン氏ですが 彼は なぜあんなバカげたことを 言ったのか? 「人は 30歳を超えたら創造的では なくなる」 彼は 周りの偉大な物理学者を 見ていたからです 量子力学や現代物理学を 生み出した人たちは皆 20~30代前半で 偉業を成し遂げていました これはアインシュタインの 観察者バイアスというわけではなく 天才についての研究をする分野で こんな事実が示されています これまでの偉人たちについて 最大の業績を為したのは 何歳のときか見ると 音楽であれ 科学であれ 工学であれ そのほとんどが 20代 30代 遅くとも40代前半でした でも この天才に関する研究には 問題があります 第一に これが私たちに ある印象を与えること 「創造性は 若さに等しい」 グサッときますね
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これには観察者バイアスもあります 普通の科学者は含まず 天才だけを見ているんです 科学者全員を観察して 「本当に 年齢とともに創造性は 消えるのか」と問うべきです これこそが我々の試みでした それには資料が あることが重要です
私のような普通の科学者はどうか 私の経歴を見てみましょう これは私が発表した すべての論文です 1989年の最初の論文から— 当時はまだルーマニアにいました— 今年の論文まですべてです 縦軸は 各論文の影響度です どれくらい多く 他の論文で引用されたか です ご覧のとおり 私の経歴には 大まかに 3つの段階があります 最初の10年は 仕事量が多いわりに さほど結果が出てません 私のしてることなんか 誰も関心がなく ほとんど影響力がありません
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この頃は 材料科学を 研究していました それから ネットワークにたどり着き ネットワークの論文を 出し始めました そして影響力のある論文を 連発しました 気分は最高 舞い上がってる時期です
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では 現在の影響力はどうか? 真相は定かではありません 実際にその論文が 影響力を見せ始めるには 時間がかかるので それでも このデータを見ると アインシュタインや天才の研究は どうやら正しく― 私は 生ける屍(しかばね)です
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そこで このメカニズムを 探ることにしました まず科学分野からです 対象を選ぶとき 天才だけに偏らないように 科学者を一人残らず対象にし 経歴を再現しました 1900年から現在まで 全員です そして各人の最大の業績を 明らかにしました ノーベル賞を取ったか 取らなかったか あるいは 最大の業績すら 知られていないのか など そして このスライドにしました 各線が経歴です 経歴の頂点に見える青い点は 各人の最大の業績です ここで問いたいのは その人が 最大の発見をした時期です それを定量化すべく 最大の発見をするのが 経歴の 1年目の確率、2年目の確率、・・・を調べました 年齢ではなく 我々が「アカデミック・エイジ」と 呼ぶものを見ます 最初の論文を出したときから 数えます 皆さんの中には まだ赤ちゃんの方もいますね
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最も影響力のある論文を出す年を 分析したグラフを見ると まさに 天才に関する研究が 正しいと分かります 傾向として 最も影響力のある論文を出すのは ほとんどの科学者が 10~15年目です それ以降は下がります あまりに急激に下がるので 私は今 経歴上30歳ですが これから過去の自分を上回る 影響力ある論文を出す可能性は 1%にも満たないのです このデータによると 私はその段階にいるわけです でも この予測には問題があります 対照群を調べていません 適切に調べるとすれば ランダムな貢献をする科学者は どう見えるかでしょう その科学者の生産性はどうで 論文を書くのはいつか ということです 生産性を測ってみると 驚くことに 生産性― つまり 論文を書く 可能性の高い時期と 経歴上で影響力を持つ 可能性の高い時期とが 区別できないほど そっくりだったのです
簡単に言うと 多くの仮説検定をした結果 可能な説明はひとつで 科学者の仕事において 「書く論文や 行うプロジェクトはどれも 自己ベストになる可能性が等しい」 つまり 発見は 宝くじのようなものなのです 買えば買うほど チャンスも増えます そして ほとんどの科学者が 最も 宝くじを買う時期が 経歴上 10~15年目です その後は 生産性が落ちます 宝くじを買わなくなるので あたかも創造性を 失ったかのように見えますが 実際には 頑張らなくなったんです なので データをまとめたら 結論はシンプルでした 「成功はいつでも起こり得る」 最初の論文かもしれないし 最後の論文かもしれない プロジェクトの空間に ランダムに分布しています 変化するのは生産性の方です
例を挙げましょう フランク・ウィルチェックは ノーベル物理学賞を受賞しましたが 大学院生のときに書いた 経歴上 最初の論文が当たりました
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もっと興味深いのは ジョン・フェンです 70歳で イェール大学を 退職させられ 研究室が閉鎖されたので バージニア・コモンウェルス大学に 移りました 新たに研究室を開き 72歳で論文を発表し 15年後 その論文で ノーベル化学賞を受賞したのです
科学分野は特別だと 思うかもしれません 創造性を要求される ほかの分野を考えてみましょう 代表例として 起業家はどうか シリコンバレーです 若者の地ですね 起業家の場合は 最も大きな賞に TechCrunch賞などがありますが これらの賞の受賞者は 平均して 20代後半~30代前半です ベンチャーキャピタルの 投資先を見ると 30代前半に絞っている 大手もあります ご存知のように 「若さは成功に等しい」という風潮が シリコンバレーにはあります でも データを見ると 違うんです 会社の設立が成功では ないからです 会社を作るのは 生産性のようなものであり 実際に 会社を成功させ 成功裏にイグジットしたのは誰かを 見る必要があります 最近 我々の同僚が これについて調べました すると 今言ったように 20代、30代は とても多くの会社を 設立していますが ほとんどが 倒産しています 一方 成功裏のイグジットを示す このグラフによると 年齢が上がるほど 株式上場にこぎ着けたり 会社をうまく売却している 傾向があります この傾向は強いもので 50代になると 成功裏のイグジットの確率が 30代のときと比べ 2倍にもなります
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さて 終わりになりますが 結論は何か それは 創造性に 年は関係なく 関係あるのは生産性だ ということです つまり こういう事なんです 挑戦し続ける限り―
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何度だって成功することはできる と なので 私の結論はシンプルです 「おしゃべりはやめて 研究室に戻ろう」
ありがとうございました
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ネットワーク理論研究者のバラバーシ・アルベルト・ラースローが、数学的分析を裏付けに、(どんな分野かにかかわらず) 成功の原因となる隠れたメカニズムを探ります。そして、成功するチャンスと年齢の間にある興味深い関連を明らかにします。