大気汚染で脳はこうなる(12:44)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私たちがどうしても必要とし 止めることができないものがあります それは 呼吸です やってみましょうか? 皆さんで一緒に呼吸を 10秒間だけ止めてみましょう いいですか? やってみましょう 準備はいいですか? 始め!
ふぅ 結構大変でしたね
これから言う数字は 信じられないもので 息がまたできなくなるほど 驚かれるかもしれません 「7」 「7何」でしょうか? 年間「7百万」人が 吸い込む空気の 質の悪化によって 若すぎる死を迎えています 私の大好きなマドリッドの 全人口より多い人々が 1年間に亡くなっていると 想像してみて下さい
皆さんは 「この情報は公開されているのか? 公表して 広められているのか?」と 思われるかもしれません 答えは イエスです 現在7万件以上の科学論文において 大気汚染と健康の関係が 検証されており 世界のメディアが たびたび この問題を報道しています 実際 比較的短期間のうちに 分かってきたのですが 大気汚染は主要臓器のほとんどに 悪影響を与えるのです
肺の場合から見てみましょう 大気汚染について考えるときは いつも肺について考えます 私たちは呼吸をするたびに 有害汚染物質を吸い込んでいます ピンクの素晴らしい肺は可哀想なことに そんな有害汚染物質の 影響を被っているのです
この10年来 大気汚染と健康に関する 多くの知識が集まりました 大気汚染とは何かについて まず お話しします 大気汚染は とても複雑な混合物で 固体微粒子や 液滴 気体の形をとった 化学物質でできています 考えてほしいのは この混合物は 燃焼により生じることです 家庭用の燃料 また工業用、交通機関用 屋内や屋外に 他にも 多くの発生源があります もちろん 汚染源が違えば できる混合汚染物質も違います 要するに これら全ての毒素が 様々に混合してしまうわけです 粒子状物質 つまりPMを 例に取ってみましょう PMは 様々な物質の 混合物である場合があり カクテルのようなものなのですが 土壌ダスト、道路のほこり 海塩 有毒金属 ディーゼル排気によるスモッグ 硝酸塩、硫酸塩 これら全ての毒物で作られた 美味しいカクテルが 肺に送られていくのです それも毎日です 私たちが常に 大気汚染にさらされているのは 呼吸を止めることができないからです できたとしても10秒ぐらいでしょう 呼吸を止められないこと それに加え 毎日約1万リットルの空気が 私たちには必要です
さて 先ほど毎年7百万人が 大気汚染が原因で亡くなると お話ししました パニックになっていますか? それとも 平静に受け止めている? 国は非常事態宣言を出そうとしていますか? それとも世界規模の危機として? そういう動きはありませんが 私は日々 ひとりで考えています 「何が起きているのか?」と ここで もっと早急な対応を 私たちに迫る臓器があります 大気汚染は肺だけでなく 脳にも悪影響を与えているのです
これが脳です 美しいですね 誰もが持っていて 誰もが必要としていて 誰もが使っているはずですよね
(笑)
人によって使う頻度は 違うかもしれませんが この10年間の歴史において 大気汚染と脳の健康の 関連に関する研究が 飛躍的に増加しました 脳はもう 煙にやられて ダメになりつつあるかもしれませんね ともあれ 証拠に基づきながら 大気汚染に影響された脳について これまでに分かったことをお話しします
第1に 膨大な証拠が そろいつつある領域として 中枢神経系に及ぼす大気汚染物質の 潜在的な悪影響についてがあります 有害な粒子の話に戻りますが 覚えていらっしゃいますよね 肺に有毒な粒子を蓄積しながら 生活を楽しむうちに あらゆる臓器が汚染されています 極小粒子は 血流に入り込み 心臓がその血液を 全身に送り出すので 全ての臓器が危険にさらされ 脳も例外ではありません 大気汚染に国境はないとは よく言ったもので 体内でも同じことが言えます 大気汚染物質は胎盤関門を通って 胎児に達し 大脳皮質を 変化させるのです 産声を上げるよりも前にですよ
第2に このような研究結果もあります 胎児期と幼児期に 長期的に大気汚染にさらされた場合 神経発達に悪影響が及び 認知能力テストの成績が悪くなり 行動障害にも悪影響を及ぼします 例えば 自閉症や 注意欠陥多動性障害などです さらにいくつか見つかった 証拠によると 青少年の脳が 長期間PMにさらされると それが脳炎などの反応の原因となり 神経反応を変化させ より多くのタンパク質の もつれからなるプラークを 蓄積することの影響も現れ アルツハイマー病やパーキンソン病などの 病気になるリスクを高めます
皮肉ですよね 子どもの将来のために 私たちはお金を使い 視野を広げるために 毎日 学校にも行かせています 社会としても 教育にお金を使っているのに スクールバスを待つ間に 吸う空気が 子どもの脳の発育に 悪影響を与えているのです
第3に 大人はどうでしょう? 最新の科学的証拠によると PMに長期的にさらされると 加齢とともに 研究参加者の認知能力の 低下が引き起こされます それだけではなく 長期的に極小のPMにさらされると 脳の老化は加速し より高確率で 小さな潜在性脳卒中を 起こすようになるのです
最後にお話しする証拠として― 本当はまだまだあるのですが― 動物を対象とした疫学研究によると 大気汚染物質に持続的にさらされると 認知症になるリスクが高まるそうです
さて ほとんどの人は 大気汚染にさらされています 田舎にいても 都会にいても 高所得国にいても 低所得国にいても 皆さんも含めて全ての人の脳が 危険にさらされているのです
私は医者として 専門家としての人生のうち ここ20年以上に渡り 世界保健機関(WHO)で 公衆衛生の問題とリスクに関する― 人々の認識を高めることに 専念してきましたが 知識や解決策は 存在するのです 他よりも汚染が酷い地域も もちろんあります しかし これは地球規模の問題です どんな個人や都市も どんな集団や国家、地域であっても 単独では解決できません
皆の とても強い関心や行動が 必要なのです 市民社会として 民間企業として そして 個人としてでさえも 私たちには皆 役割があります 私たちは消費の仕方や 通勤通学方法や エネルギーの使い方を変える 必要があります
幸いにも 実行可能な 解決策はあるのです 問題は 行動に移すのを 1日先延ばしにすると 何千もの命が失われる 可能性があることです もし1年先延ばしにしたら また7百万の命が消えていくのです ですから どの政治家も 政策を先延ばしにしたツケが 健康面に回ってくることに 気付く必要があります
実際 目に見えない殺人鬼のリスクに 直面するのは これが歴史上 初めてではありません これは1952年のロンドンです 50~60年代のロンドンで行ったように 政府や都市は 大気汚染による酷い影響を阻止するため 緊急対策を講じる必要があります 政治家は強硬措置を 先送りにしてはいけません 例えば 都市の交通量の削減 公共交通機関への投資 都市での自転車活用を 推進するための取り組み 再生可能エネルギーへの投資 料理、冷暖房、交通機関での クリーンエネルギーの推進などは とても有効な解決策です それによって排出を削減し 私たち自身を守るための WHOの基準に従って 大気質を向上させることができます
私たちは政治家に 非常に強力な政治的関与と 政治的意思の形成を 求めてもいますが 今は両方必要です 行動を怠り 先延ばしにした政治家は 法廷での弁明を求められています これからは 政治家は「知らなかった」とは 言えないでしょう
ここで問題となっているのは どのくらいの命や 生活の質や 知力の喪失を 私たちが受け入れる 覚悟があるのかです どの覚悟もないなら お願いしたいのです 脳がまだ機能しているうちに まだ知性があるうちに どうか自分の権利を行使して 政治家に圧力をかけ 大気汚染源をなくす対策を 確実に取らせるようにして下さい これが最初にとるべき行動です ご自分や 美しい脳を 守るためにです
どうもありがとうございました
(拍手)
「大気汚染に国境はありません。体内でも同じことが言えます」と公共衛生の専門家であるマリア・ネイラは言います。この驚くようなトークでは、呼吸で吸い込む微細粒子と化学物質がいかに脳などの主要臓器に影響を及ぼすのかを説明し、大気汚染の源を止める対策を取るよう市民や政治家に呼びかけます。