人生において運が果たす役割とは?(10:08)

バリー・シュワルツ(Barry Schwartz)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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こんにちは 皆さん こうしてお話しできて光栄です 今日は「運」と「公正」そして この二つの関係についてお話します

何年か前に 元教え子から電話がありました 要件は彼の娘のことでした 彼の娘は高校の最上級生で 私が教えていたスワースモア大学への出願を 真剣に考えているとのことで 娘が入学できそうかどうかという感触を 私から得たかったようです スワースモア大学は超難関校です そこで「娘さんのことを教えてよ」と言い 彼は話してくれました 成績や共通学力テストのスコア 課外活動についてなどです まさに超優等生と言ってもいいような 非常に素晴らしい子に聞こえました だから私は「素晴らしい子のようだね まさにスワースモアが望むような 生徒のようだ」 すると彼は言いました 「つまり娘は入学できるということですか?」 私は「いいや」と答えました 「スワースモアのクラスには すべての優秀な生徒に対しての 十分な枠はないというだけだ ハーバードやイェール プリンストンやスタンフォードでも同じ GoogleやAmazon Appleでも同じ TEDカンファレンスでも同じ 優秀な人は恐ろしく大勢いて その中には望み通りにならない人が いるということだ」 すると彼は言います 「では どうすればいいんでしょうか?」 私は「答えに窮する質問だな」と言いました

どうすればいいと思いますか? 私は大学機関がどんなことをしてきたかを 知っています 公平を期すために 大学機関がしてきたこととは 基準を徐々に吊り上げることでした なぜなら より能力の高い人を不合格にして より能力の低い人を合格にすることは 公平でないと思われるからです そこで 基準をどんどん上げていきます 最終的には 枠に収まるだけの人数しか 合格できない高さまで上げるのです

これは多くの人々にすれば 公正と公平に反しています アメリカ社会に住む人々は ある種のプロセスが公正であるとは どういう意味なのかについて 意見がそれぞれ異なりますが ほとんどの人の意見が一致することが ひとつあると思います それは 公正なシステム 公平なシステムにおいては 人は相応のものを得る ということです

私が元教え子に言いたかったのは つまり 大学入試に関しては 誰もが相応のものを得る というわけにはいかないということです 相応のものを得る人もいれば 得ない人もいる そういうものなんだ と

大学機関がしてきたように 募集条件を上げると 高校生同士の間に 激しい競争を 作り出すことになります 「優秀」では足りず 「十分優秀」でも足りず 他の志願者の誰よりも 優秀でなければなりません このせいで何が起こったのか 何が助長されたのかというと 不安や抑うつが蔓延するようになり アメリカの若者を 押しつぶしているわけです この手の競争が 一世代をダメにしているのです

このことを考えているうちに ある解決法を思いつきました 我々にもできることです 大学受験では 志願者の中で 成功できるくらい十分に優秀な人と そうでない人とを区別し そうでない人を不合格にして 残ったすべての人の名前を 帽子の中に入れ そこから無作為に選んで 合格にするのです 要するに 大学受験を 抽選にするということです テック企業の採用を抽選にしたり ありえないでしょうが TEDトークの登壇者を決めるときさえも 抽選にするのです

誤解しないでほしいのですが このような抽選をしても 不公平は解消されません 相応のものを得られない人が まだたくさんいることでしょう でも少なくとも正直な方法です 不公平でないフリをするのではなく 不公平を暴き 現代の高校生が置かれている 途方もなく張り詰めた風船のような状況に 一石を投じるのです

では 自分で言うのもなんですが この完璧なまでに合理的な提案が 真面目に議論されないのは なぜなんでしょうか? 多分こういうことでしょう 私が思うに 人生で本当に大切なことが 運や偶然で起こるかもしれないとか 人生で本当に大切なことを 自分でコントロールできないなんて 嫌だからでしょう 私なら嫌ですよ 人がこの考えを嫌うのは 不思議ではありませんが ただ 物事はこういうものなのです

まず第一に 大学入試はすでに 宝くじと変わりません 入学事務局の人たちが そうでないフリをしているだけです 正直にいきましょう

二つ目に 宝くじと同じだということを 私たちが正しく理解すれば 各々の人生における 幸運の重要性も 認めるようになるのではないでしょうか

例えば 私は 自分の人生において 最も重要な出来事は ほぼすべて 大部分が 幸運の結果として起きています 中学1年生の頃 私の家族はニューヨークを離れ ウェストチェスター郡に引っ越しました 学校が始まってすぐ 可愛い女の子に出会い 友達になりました それからその子は私の親友になり それからガールフレンドになり それから妻になりました 幸せなことに 彼女が私の妻になって 52年になります 私はほとんど何もしていません たまたま 幸運だっただけなのです

大学に行って 最初の学期に 心理学入門の授業を履修しました 心理学が何なのかさえ 知りませんでしたが 自分のスケジュールに合っていたし 条件も満たしていました だから選んだのです 偶然 その授業を教えていたのは 心理学入門のスーパースター教師 伝説の人物だったのです そのおかげで 私は 心理学専攻になりました

大学院へ進み 卒業間近になって スワースモアで教えていた友人が もう教授はやりたくないと 辞めて 医学部に行きました 彼のいたポストが空いたので 私は応募し 採用されました 今までに私が応募した唯一の仕事です スワースモア大学で45年教え これが私自身のキャリア形成に 多大な影響を与えました

そして最後の例になりますが 私はニューヨークで自分の研究について 講演をしていました 講演が終わると 観客の中のある人が 私のところにやってきて こう自己紹介してきました 「私はクリスです TEDで話してもらえませんか?」 私の返答は「TEDって何だい?」 それで彼は教えてくれました 当時のTEDは今とは違いました しかし その数年間で TEDで私が行ったトークは これまでに2千万人以上もの人が 視聴しました

つまり結論は 私は運の良い男だ ということです 結婚に関して運が良く 学業に関して運が良く 仕事に関して運が良く そして運良くTEDのような場で 発言する機会を得られたわけです

私はこれまでの成功に ふさわしかったのでしょうか? もちろん 私はその成功に値します 皆さんが自分の成功に値するのと同じです しかし多くの人はまた 我々と同様に成功に値していても 成功を手にしていません

さて 人は相応のものを得るのでしょうか? 社会は公正なのでしょうか? もちろん違います 懸命に働いても 規則を守っても とにかく何の保証もありません この種の不公平の必然性と 幸運の重要性について 正しく理解すれば 我々はこう自問するかもしれません このパンデミックの時代に 英雄として賞賛されている人々に対する 我々の責任は何なのか? 深刻な病気が 彼らの家族に降りかかったときに 彼らが無事でいられるよう そして その病気に対処するために 彼らの人生が台無しにならないようにするには 我々はどうすべきなのか? 苦労して 一生懸命働いて 私たちよりも運のない人々に対して 我々は何を負っているのでしょうか?

半世紀ほど前に 哲学者のジョン・ロールズが 『正義論』という本を書き 本の中で「無知のヴェール」という 概念を紹介しました 彼が投げかけた問いはこうです 「もし社会の中における自分の境遇が 分からないとすれば どんな社会を作りたいか?」 彼の説によれば 自分が 社会の 上層部に入るか下層部に入るか 分からないとき 我々が望む社会というのは 不運な人であっても まともで有意義で 満足のいく人生を送れるような とてつもなく平等な社会なのです

ですから 幸運な成功者の皆さん この話をご自分のコミュニティに持ち帰り 我々と同様に成功に値するのに 幸運でない人々を 確実に 尊重し大切にするために 自分に出来ることをしてください

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

心理学者のバリー・シュワルツは、「偶然」は人生の中で、我々が進んで認めようとするよりもはるかに大きな役割を果たしていると言います。もちろん、たくさん努力して規則を守れば成功する可能性はあります。 しかし、詰まるところ、その他の要素は単なる幸運ということになるでしょう。シュワルツが、運と能力と成功の間にある、見落とされた因果関係について考察し、大学入試についての提言をはじめとする、機会を平等にするための興味深い解決策を提示します。

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