第4回
臨床研修病院群プロジェクト
群星(むりぶし)沖縄
― 徳田先生は最近、どのようなことに取り組まれているのですか。
- 徳田
- 医療の質や安全といったことに興味があります。総合診療医は入院患者さんを受け持つことが多いので、院内感染予防や医療事故予防のためのヒヤリハット、チームワークをどう行っていくかなど、医師としてだけの仕事ではない仕事にも取り組んでいます。看護師さんなどのコメディカルスタッフとの連携が大事な仕事ですね。こういった仕事も楽しいですよ。
- 古閑
- 徳ちゃんは色々な人を教育しているけど、将来的にはどこかの教授になるの?
- 徳田
- 4月に群星沖縄のセンター長に就任するんですよ。※この対談は2017年2月末に収録されました
- 古閑
- 沖縄に戻るんだ。
- 徳田
- これまでセンター長でいらした宮城征四郎先生が沖縄県立中部病院の院長先生をされていたときに、私は職員だったんです。出身地も同じ南城市ですから、研修医の頃からお世話になっていて、一緒に仕事をさせていただいてきました。宮城先生が80歳になられ、お仕事から部分的に引退されることになったので、私がセンター長をお引き受けすることになったんです。
- 古閑
- 群星沖縄で、どんなことをするの?
- 徳田
- 群星沖縄は沖縄県にある8つの臨床研修病院のアライアンスです。私はその8病院を回って、指導します。今JCHOの顧問としてやっている仕事を沖縄でするようになるイメージですね。今と同じような活動ができると思っています。JCHOの顧問は辞めますが、アドバイザー的な特別講師として、本土にも月に何回かは来て、勉強会をするつもりです。闘魂外来も継続します。私の両親も妻の両親も80代になりましたし、子どもも沖縄にいますから、そろそろ帰ろうと考えてはいたんです。
- 古閑
- 今はSkypeがあるから、どこにいても、徳ちゃんの教育を受けられるのがいいね。徳ちゃんが沖縄に帰る前に会えて良かったよ。
- 徳田
- 古閑先生の直感はいつもすごい(笑)。
- 古閑
- 狙いすまして、ズドンといってみたよ(笑)。
浦添総合病院
- 徳田
- 沖縄では外来もしますから、患者さんをご紹介しますね。
- 古閑
- 浦添総合病院には後輩がいるから、以前は手術に行っていたよ。最近は行っていないなあ。
- 徳田
- 浦添総合病院も群星沖縄に加盟していますよ。
- 古閑
- そうだよね。徳ちゃんの傘下の病院だ(笑)。浦添総合病院は研修医が多いから、まさに徳ちゃんが教育すべき病院の一つだと思う。
- 徳田
- 浦添総合病院には総合診療科もあり、ドクターヘリもあって、救急に力を入れています。群星沖縄の事務局も浦添総合病院から歩いて10分ぐらいのところにあるんです。私はその事務局にいて、そこからスタートして、各病院を回ります。古閑先生も定期的にいらしてください。私が色々、ご案内しますよ。
- 古閑
- これまで浦添総合病院に行っていたときは、こっちで手術や仕事をしてから最終の飛行機で移動するから、沖縄に夜11時過ぎに着いていたんだ。それで翌日、手術して、その日のうちに帰ってくるというスケジュールだから、沖縄にゆっくり滞在することができなかった。帰りの那覇空港でソーキそばを食べるのが唯一の楽しみだったよ(笑)。
遠隔診療
- 古閑
- これから遠隔診療に力を入れたいと思っているんだ。僕の患者さんは沖縄も含めて、全国からいらっしゃるんだけど、診察するだけのために来院してもらうのはかわいそうだ。腰や足が痛いのに、新幹線に乗るのも辛いしね。交通費もかかる。それで、Skypeみたいな遠隔診療ができれば、問診のために患者さんが来院する必要がなくなる。もちろん、触診した方がいいのは分かっているけど、画像を先に送ってもらったりして、問診である程度の絞り込みができれば、患者さんの来院回数を減らせると思っている。
- 徳田
- それはいいですね。
- 古閑
- 一応、春から始めようという計画なんだ。 ※2017年4月3日より開始になりました。興味のある方はこちら
- 徳田
- 厚生労働省も遠隔診療を後押ししていますし、そうしたテクノロジーやメディアはますます発達しますよ。
- 古閑
- 僕たちが学生の頃から沖縄でも遠隔診療をしようという話はあったよね。当時はテクノロジーが不十分だったから、実現したらすごいねという感じだったけど、これからは実現が可能になる。
― 古閑先生が始められる遠隔診療はどのようなものなのですか。
- 古閑
- 遠隔診療のためのソフトウェアなどの業者は日本にいくつかあり、そのうちの1社に決めつつある。ご自宅にいる患者さんの顔を画像で見ながら、話ができるソフトなんだよね。僕のイメージとしてはセカンドオピニオン外来。ほかの病院で手術になると言われたり、病気だと言われた患者さんがほかの治療法はないのかというときに、画像を送ってもらう。僕は前もって画像を見ておいて、当日はウェブでお話をしながら、総合的に判断し、こういう病気だ、こういう治療法はどうだとお伝えする。手術となったら、僕の病院にお呼びすればいいから、患者さんの負担は減る。
- 徳田
- 対象となるのは主に脊椎ですか。
- 古閑
- うん。腰椎、頚椎がメインだけど、胸椎も診るよ。狭窄症やヘルニアの患者さんが多いんだ。
中国での思い出
― 古閑先生は中国でも手術をなさっていたんですよね。
- 徳田
- 中国はどちらにいらしたんですか。
- 古閑
- 福建省に3年いた。海外で仕事をしたいと思っていたんだけど、日本の医師免許で働けるのは中国と中東のドバイ(アラブ首長国連邦)しかなかったんだ。家族、皆で行きたかったし、子どもがまだ小さかったから、近い中国にした。うちは父も母も戦前、中国にいたの。戦後に引き揚げるときは大変だったけど、中国人に優しくしてもらったと聞いていた。だから、恩返しの気持ちもあったよ。
- 徳田
- そうだったんですね。
- 古閑
- 福建省に中国の資本で病院を作ることになったんだけど、中国人は日本の医療がいいということを意外に分かっている。それで、日本の医療を導入してほしいということで、僕が働くための脊椎センターを作ってくれた。病院の建屋が建った段階で見に行ったんだけど、中味は全くできていなかった(笑)。それで赴任して、まずやったことは内装の会社を探すこと。それから機械の選定をして、結局、診療を始めたのは1年が過ぎた頃だった。
- 徳田
- 中国語で仕事されたんですか。
- 古閑
- 中国に行く前に、一応、勉強して行ったよ。
― 途中から通訳の方もいらっしゃらなくなったんですものね。
- 徳田
- 古閑先生のチャレンジングなところは本当にすごい。
- 古閑
- さすがに、それは最後のチャレンジかな。それで疲労しきった面もあるしね。帰国したときには海外はしばらくいいかという気になった。
- 徳田
- 中国で、どのぐらい手術をされたんですか。
- 古閑
- 1年で100例ほどだから、そこまで多いわけじゃない。中国に行って良かったと思うのは、ちょうど尖閣列島の問題が起きていた頃だったけれど、僕の周りの中国人は皆、優しくしてくれたこと。日本で尖閣列島のニュースに触れていたら、「中国は何だ」と思ったかもしれないけど、皆が優しい中国でニュースを見ていたから、フェアに考えることができた。政治がどうであれ、人と人との付き合いは大切にしないといけないと実感して、帰国したよ。
外国人医師への教育
- 古閑
- だから、中国の医師を日本に呼びたい。日本の技術を覚えてもらいたいんだ。今、厚生労働省に申請しているけど、実現はなかなか難しそうだ。
- 徳田
- 臨床修練制度での外国人医師への指導ですね。
- 古閑
- 申請が通ったら、中国から医師を呼ぶ。今年の目標だね。大学病院は割と申請が通るけど、個人病院は難しいみたいだ。一度、申請したら、書類の不備を指摘されたので、また出したところ。徳ちゃんが厚生労働省に頼んでくれないかな(笑)。 ※この春認可が下りて岩井整形外科内科病院は臨床修練指定病院になったとのこと
- 徳田
- 立派な国際貢献ですよね。中国はこんなに近い国なんですから。
- 古閑
- 仲良くしないといけない国だよ。
- 徳田
- 医療で貢献というのがいいですよね。
- 古閑
- 特に中国はこれから高齢化を迎えるから、日本が高齢化をどう乗り切ったのかというノウハウを持てれば、それを中国に活かせる。徳ちゃんたちが「保険医療2035」で話していることをそのまま中国に持っていけないけど、中国には協力しないといけないと思う。
- 徳田
- これからは日本国内だけでなく、中国、そしてアジアと患者さんが動く時代になります。古閑先生のように専門的なスキルの高い医師のもとに世界中から患者さんが集まるのは素晴らしいことですね。
- 古閑
- 中国に行った理由の一つは、政治家が中国と仲良くできないのなら、僕が中国人と仲良くしてこようと考えたことなんだよね。今は今で、中国人医師を呼びたい。これまで無駄なこともしてきたけど、無駄も含めて、人生だと思う。
- 徳田
- うまくいくといいですね。
大切なのは友達と家族
- 古閑
- 僕の人生で何が大事かというと、友達。友達って、ずっと離れていて会わなかったり、10年ぶりに会ったとしても、話ができる。いい友達とはいつ話しても、共感できる。社会のため、患者さんのためという話になるしね。残りの人生は友達と家族のために生きたい。その意味では職場は大切。看護師さんや掃除のスタッフ、皆がハッピーでいてほしいから、仕事を頑張らなくてはと思っているよ。
― 徳田先生が沖縄にお戻りになるのもご家族のことを考えられたからでもあるんですよね。
- 徳田
- これまで突っ走ってきて、家族を犠牲にしてきましたからね(笑)。少しインターバルを置いて、またチャレンジしようと思っています。
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プロフィール
徳田 安春
(とくだ やすはる)
臨床研修病院群プロジェクト
群星沖縄臨床研修センター長
【略歴】
沖縄県南城市出身。1988年に琉球大学を卒業し、沖縄県立中部病院で研修する。2003年に沖縄県立中部病院内科副部長および臨床研修委員会副委員長に就任する。2005年に米国ハーバード大学大学院で公衆衛生修士号を取得する。2006年に医学博士号を取得する。2008年に聖路加国際病院に一般内科医長として勤務する。2009年に筑波大学大学院人間総合科学研究科医療医学系教授に就任し、筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター・水戸協同病院で教育にあたる。2014年にJCHO本部研修センター長、JCHO本部顧問に就任する。
2017年4月に臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄臨床研修センター長に就任する。
【資格・所属学会】
医学博士
公衆衛生学修士
日本内科学会 指導医・総合内科専門医
日本プライマリケア連合学会 理事・指導医・認定医
日本病院総合診療医学会 理事・認定医
米国内科学会フェロー
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プロフィール
古閑 比佐志
(こが ひさし)
岩井整形外科内科病院
副院長/教育研修部長
【略歴】
1962年千葉県船橋市生まれ。1988年に琉球大学を卒業し、琉球大学医学部附属病院で研修。
国内の複数の病院で脳神経外科医として勤務ののち、1998年にHeinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学。2000年に帰国後は、臨床と研究を進め、2005年にかずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダーを経てかずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長。
2009年より岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長として勤務、2015年より現職。
【資格・所属学会】
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
日本整形外科学会
CONTENTS(全5回)
- 第1回 専門医制度とかかりつけ医構想
- 第2回 AIやITの発展で医療や教育はどう変わる?
- 第3回 徳田闘魂道場にようこそ
- 第4回 臨床研修病院群プロジェクト 群星沖縄
- 第5回 論文を書くということ/若手へのメッセージ
トップドクター対談 バックナンバー
- 第4回
トップドクター対談
Dr.古閑比佐志×Dr.佐々木治一郎 - 第3回
内視鏡外科トップドクター 師弟対談
Dr.金平永二×Dr.稲木紀幸 - 第2回
内視鏡外科・総合内科トップドクター対談
Dr.古閑比佐志×Dr.徳田安春 - 第1回
内視鏡外科トップドクター 同級生対談
Dr.福永哲×Dr.古閑比佐志