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ドクターズゲートの配信する医療ニュースについて
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  •  腸とつながる肝臓の血管付近には、腸から侵入する腸内細菌を撃退しつつ肝臓の炎症を抑える特殊な免疫細胞が存在することがわかったと、大阪大の石井優教授、宮本佑特任研究員らのチームが発表した。慢性肝炎の予防や新しい治療法の開発につながる可能性があるといい、科学誌ネイチャーに論文が掲載された。

     食物から腸で吸収された栄養分は、門脈という血管を通って肝臓に届く。腸が傷つくと門脈から腸内細菌などが侵入し、肝臓に炎症を起こすことがある。チームはマウスの肝臓で、免疫細胞の動きを詳細に観察できる独自技術を駆使し、門脈付近では炎症が起きにくいことを発見した。

     通常、体内に侵入した細菌を免疫細胞が攻撃すると炎症が起きるが、この場所にいるマクロファージという免疫細胞の中に、逆に炎症を抑える物質を活発に出すものがあることが判明。細菌を撃退し、炎症も抑えることで、肝臓のダメージを防いでいるとみられる。

     脂質が蓄積して起きる肝炎(MASH)や、肝移植が必要な場合もある難病・原発性硬化性胆管炎(PSC)の患者では、この免疫細胞が非常に少なかった。

     チームは、この細胞が不足するとMASHやPSCの発症につながるのではと推測。この細胞は腸内細菌が作る物質によって増えることもわかり、数を制御できれば、有効な治療法のない肝疾患を予防できる可能性があるとしている。

     肝疾患に詳しい熊本大の田中靖人教授(消化器内科学)の話「原因がわかっていない肝疾患の発症メカニズムの一部を説明しうる成果。腸内細菌との関連も興味深く、新しい治療法につながることを期待したい」
  •  海外で承認された薬が日本で使えない「ドラッグロス」の問題を改善するため、厚生労働省は、小児がんなどの希少疾患の新薬について、承認申請の要件を緩和することを決めた。日本人の臨床試験データがなくても申請できる新たな仕組みを、5月にも導入する方針だ。海外の製薬企業による申請を促し、薬の実用化の時期を早める狙いがある。

     製薬企業は治療薬を開発する際、効果や安全性を調べる臨床試験を行う。国への承認申請時に試験結果を提出して審査を受け、国内で薬を製造販売する承認を受ける。

     薬によっては、人種などで効果や副作用に差が出ることもあるため、通常は日本人を対象に行った臨床試験の結果も提出する必要がある。臨床試験が海外先行で既に終了している場合は、日本で追加試験を行うよう求められるが、多大な費用がかかる。このため海外企業が日本での申請を見送ることがあり、ドラッグロスの一因と指摘されていた。

    海外で承認されたが日本で使えない薬は増えている。厚労省によると、昨年3月時点で、欧米で承認されているが日本で未承認の薬143品目のうち、86品目は国内で申請されておらず、40品目は患者が少ない病気の薬だった。

     新たな仕組みでは、海外での試験結果をもとに、日本人患者にも薬の効果が高く副作用を考慮しても恩恵が大きいと見込まれる場合は、日本人のデータがなくても申請を認める。〈1〉海外での臨床試験が既に終了している〈2〉患者数が数百人以下など少なく日本での追加試験が難しい〈3〉病気の進行が速く命に関わる――などの条件を満たした薬が想定される。

     製薬企業は承認手続きや国内の医療現場で使われる段階で、日本人を対象にしたデータを収集して、提出する。国は追加データで、効果や副作用を確かめる。

     希少疾患の新薬開発はコストがかかる一方で患者が少ないため、収益性が低い。米国などでは創薬の主体は新興企業などに移りつつあり、厚労省はこういった新薬を国内に取り込む施策が必要だと判断した。
  •  政府は、電子カルテの導入が進まない診療所に普及させるため、基本機能を必要最小限に絞り込んだ新しいシステムの開発に乗り出す。入院に対応する機能は省き、外来機能に特化して導入コストを抑える。2024年度中に開発し、来春から数か所の地域で試験導入する。電子カルテは30年までに、ほぼ全ての医療機関に普及させる目標を掲げており、新システムを活用することで達成を目指す。

     診療所向けの電子カルテシステムは、デジタル庁で開発する。診療所では病院向けの高機能な電子カルテは必要ない。このため、患者の病名や症状、アレルギー情報、検査、薬の処方情報など項目を絞って入力できるものを想定する。医師から看護師への指示など、病床がある場合に必要な機能などは省略して使いやすくする。足りない機能があれば、個別に追加できる形にする予定だ。

     民間事業者が販売する既存の電子カルテは、導入コストとして数十万から数百万円かかるとされるが、診療所向けは、できるだけ安価なものを目指す。医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環で、政府は24年度中に、電子カルテの情報を全国の医療機関で共有できるシステムの運用を始める予定だが、これに対応する機能を標準搭載することで導入メリットを高める。

     厚生労働省の調査によると、電子カルテの普及率は20年時点で、400床以上の大規模な病院では91・2%に達するが、200床未満の中小病院や診療所では5割程度にとどまる。費用の負担感やシステム操作の煩雑さなどがネックになっているとみられる。政府は診療所への試験導入の状況を踏まえ、中小病院への普及も進める考えだ。

     電子カルテや電子処方箋などが普及し、医療機関や薬局で患者情報の共有が進むと、患者は検査や投薬が重複せず、最適な治療が受けられるほか、問診の効率化や待ち時間の短縮にもつながるなど、メリットは大きい。

     厚労省の担当者は「電子カルテを導入しない医療機関があると、患者情報の共有が十分にできなくなる。質の高い医療をどこでも受けられるようにするためにも安価なものを開発し、普及を図りたい」としている。
  •  2023年度に医療機関の休廃業・解散が前年度比37・1%増の709件に上り、過去最多となったとの調査結果を帝国データバンクがまとめた。開業医の高齢化が背景にあり、診療所が8割を占める。電子カルテなど医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の普及に対応できないケースもあるとみられる。

     23年度の休廃業・解散件数は19年度(561件)を上回り、最多を更新した。内訳は、診療所が580件(81・8%)、歯科医院110件(15・5%)、病院が19件(2・7%)。診療所は10年前と比べ2・4倍、歯科医院は2・8倍に急増する一方、病院はほぼ横ばいとなっている。

     同社によると、診療所は「65~77歳ぐらいの開業医が多く、高齢化が顕著」という。新型コロナウイルス対策として、政府が実施した実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が23年度以降、本格化していることも影響している。電子カルテやオンライン診療など、医療DXへの対応が重荷となるケースもある。

     同社の担当者は「デジタル化などについていけず、診療を続けるべきか迷う人も多い。診療所の休廃業は今後も増える可能性が高い」と指摘している。
  •  政府は新たな感染症に備え、全国の都道府県や政令市などが設置している地方衛生研究所(地衛研)の体制強化に乗り出す。新型コロナウイルスの教訓を踏まえ、感染症対策の拠点である国立感染症研究所(感染研)や医療資材を保有する民間会社などとの連携を深め、検査体制などを整える。

     地衛研は地域における保健衛生行政の科学・技術的な中核機関で、全国85か所に設けられている。感染症発生時に病原体の解析や検査、住民への情報提供などを担う。

     だが、コロナ禍では、PCR検査の依頼などが地衛研に集中し、検査の人員や検体を分析する機材、試薬の不足といった課題が生じた。2020年4月の第1波時は、地衛研などでの検査能力は1日4830件にとどまり、目詰まりが問題となった。新しい病原体を大量に検査する事態を想定していなかったためだ。

     政府は体制見直しが必要と判断し、病原体などを研究する感染研に対し、病原体の検査・研究手法に関する情報を地衛研と密に共有するよう促す。最新の知見を生かし、検査の迅速化や省力化につなげる。地衛研には、変異株の発生情報などを速やかに感染研に提供するよう要請し、情報共有を万全にしたい考えだ。

     資材不足の克服に向けては、感染研が民間会社から試薬や医療機材を確保して地衛研に配布するほか、民間会社に直接、地衛研に提供することも働きかける。全国の地衛研で作る協議会を通じ、感染症発生時に近隣の地衛研同士で試薬を融通し合う仕組みも拡充する。

     地衛研の中には、床の劣化などの老朽化でコロナ関連の資材が搬入できない施設もあった。対策として、24年度予算に計上した関連経費には、国が自治体からの求めに応じて地衛研施設の改修・整備費を補助する費用も盛り込んだ。

     政府は25年4月に、感染研と感染症の治療などにあたる国立国際医療研究センター(NCGM)を統合した専門家組織「国立健康危機管理研究機構」(日本版CDC)を設立する。米国で感染症対策を中心的に担う疾病対策センター(CDC)がモデルで、地衛研との連携も重視している。地衛研の体制強化は、日本版CDCへの移行に向けた環境整備の意味合いもある。
  •  人工妊娠中絶のために使う国内初の飲み薬「メフィーゴパック」について、昨年5月の販売開始から半年間で724人が服用したことが分かった。11人に計14件の副作用があったが、重篤な例はなかった。横浜市で開かれた日本産科婦人科学会で21日、発表された。

     発表データは、製造販売元のラインファーマがまとめた。販売された昨年5月16日から半年間に82施設(25病院、57診療所)に納入された。副作用は嘔吐4件、出血と下腹部痛が各3件、吐き気2件、じんましんと発熱が各1件だった。

     薬は母体保護法指定医のもと妊娠9週0日までに使う。世界保健機関(WHO)が安全で効果的な方法と推奨するが国内では長年、手術しか認められていなかった。2022年度は約12万件の中絶が行われた。

     発表した日本産婦人科医会常務理事の石谷健・日本鋼管病院婦人科部長は「大きなトラブルの報告はなかった。必要な女性が使いやすい体制に向けて議論してゆくべきではないか」としている。
  •  国立がん研究センターなどの研究チームは、受動喫煙が肺がんを引き起こす仕組みの一端を明らかにしたと発表した。喫煙者の肺がんとは異なる遺伝子変異を誘発し、良性腫瘍のがん化などを促していると考えられるという。

     国内の肺がんの死亡者数は年間約7万6000人で、日本人のがんの中で最も多い。他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙は肺がんの発症リスクになることが分かっていたが、発がんの仕組みは不明だった。

     チームは、同センター中央病院で肺がん手術を受けた女性413人が提供したがん細胞の遺伝情報を解析。喫煙者と、継続的な受動喫煙の経験がある人、ない人の3グループに分けて比較した。

     その結果、受動喫煙の経験がある人では、良性腫瘍をがん化させたり、がんの悪性度を増したりしているとされる「APOBEC」というタイプの遺伝子の変異が多くみられた。一方で、喫煙者の肺がんでよくみられるタイプの遺伝子変異は少なかった。

     同センター研究所の河野隆志・ゲノム生物学研究分野長は「受動喫煙の健康リスクを遺伝子レベルで明らかにできた。APOBEC変異を抑える薬の開発が受動喫煙による肺がんの予防や治療につながる可能性も示せた」と話している。
  •  脊髄の一部がむき出しの状態で生まれ、身体障害などを伴う難病「脊髄髄膜瘤」を胎児の段階で治療する国内初の手術に成功したと、大阪大などのチームが15日、発表した。臨床研究として6例で実施し、多くで症状の改善が見られたという。

     脊髄髄膜瘤は、胎児の体ができる途中で脊髄神経が体外へ露出する難病。国内では年間推計200~400人の新生児で見られ、出生直後に手術を行っているが、歩行などに重い障害が出るケースが多い。

     海外では2011年、胎児段階の手術で症状を軽減できるという報告が米国であり、欧米を中心に行われているが、産婦人科や脳神経外科など多くの診療科が連携する必要があり、国内の取り組みは遅れていた。

     阪大の遠藤誠之教授(産婦人科)らは21年4月~24年4月、超音波検査などで胎児に異常が見つかった6例について、妊娠25週の段階で母親の子宮の一部を切開。胎児の髄膜瘤を修復し、子宮を縫合する手術を、阪大病院などで行った。

     5例は既に誕生し、脚の運動機能などに改善傾向が見られたが、1例は合併症により生後3か月半で亡くなった。チームは「手術は成功した」としている。残る1例は出生前という。

     今後は保険診療と併用できる先進医療として国に申請し、3年後をめどに保険適用を目指す。

     神奈川県立こども医療センターの豊島勝昭・新生児科部長の話「手術の質をさらに向上させるとともに、希望する家族が受けられるよう、情報提供や支援の体制整備も必要になってくるだろう」
  •  性感染症の梅毒と2023年に診断された妊婦は383人(速報値)で、この統計を取り始めた19年以降で最多となったことが、国立感染症研究所(感染研)のまとめでわかった。妊婦の胎内で感染した「先天梅毒」の赤ちゃんは、難聴や知的障害などを持つ恐れがあり、感染研は注意を呼びかけている。

     感染研によると、23年の梅毒患者は計1万4906人(速報値)で、現在の調査方法となった1999年以降で最多となった。

     これに伴い妊婦の患者も増えている。梅毒の診断時に妊娠が確認された人は、2019~21年は年200人前後だったが、22年は267人となり、23年は約1・4倍の383人に増えた。同年は先天梅毒の赤ちゃんも37人(同)と最多を更新した。

     梅毒は主に性的接触で感染し、性器や口にしこりができ、全身に発疹がでる。血液検査で感染を調べられる。妊婦の患者のうち75・2%は、診断時には梅毒の症状は確認されなかった。感染していた場合は、抗菌薬で治療できる。

     三鴨広繁・愛知医大教授(感染症学)は、「妊婦健診の梅毒の検査では無症状でも発見できるので、確実に受けてほしい。感染していた場合は、速やかに抗菌薬治療を行うことで、母子感染のリスクは減らせる」と話している。
  •  鳥取大病院(鳥取県米子市)の村上丈伸助教(脳神経内科学)らが、脳の働きを弱めると考えられている異常たんぱく質「アミロイドβ(Aβ)」の蓄積を従来の方法に比べ痛みを伴わずに検査でき、アルツハイマー病を早期発見できる手法を考案した。Aβはアルツハイマー病の発症10~15年前から脳内に蓄積することから、病気の早期発見・治療につなげられるという。(東大貴)

     日本WHO協会(大阪市)によると、認知症の患者数は世界で約5500万人。そのうちアルツハイマー病は約7割を占める。

     アルツハイマー病は、まず、蓄積したAβによって脳内のたんぱく質「タウたんぱく」が変化。リン酸化して有毒となったタウたんぱくが脳神経細胞を死滅させ、脳が萎縮して認知機能が低下する。

     村上助教は、神経細胞間で情報を伝達し、記憶を定着させる「長期増強」といった現象を、これらの異常たんぱく質が阻害することに着目。痛みを伴わず脳内に弱い電流を起こして長期増強を誘発する「経頭蓋磁気刺激法」という手法を用い、異常たんぱく質の有無による伝達機能の差を調べた。

     調査では、軽い物忘れの症状を訴える患者26人の異常たんぱく質の蓄積の有無を検査。それぞれの左頭部に刺激を加え、左大脳がつかさどる右手の筋肉の電位変化を調べた。その結果、Aβが蓄積した患者の多くでは伝達機能が低下したままだった一方、蓄積のない健常者では向上。経頭蓋磁気刺激法が、病気の兆候の確認に有効であることがわかったという。

     アルツハイマー病の診断では、痛みを伴う腰への注射が必要な髄液検査や、微量の被曝を伴うPET(陽電子放射断層撮影)検査をして異常たんぱく質を発見しており、新たな手法が確立されれば、体に負担の少ない診断が可能になる。

     さらに、脳内からAβを除去するアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」の製造販売が昨年、承認されており、こうした手法を用いることで、投薬効果を見極められる可能性があるという。

     村上助教は、行方不明になった後、死亡して見つかる認知症患者が多い点に触れ、「この研究から治療法が発達し、認知症に苦しむ方々を支えることができれば。一人でも多くの早期発見・治療につながってほしい
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