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今年4月から始まった「医師の働き方改革」に伴う勤務医の残業時間規制の影響で地域医療に生じている問題として、全国の医療機関の16%が「救急搬送の受け入れ困難事例の増加」を挙げたとする調査結果を日本医師会(日医)が発表した。11%は「自院の手術が減った」と答えるなど医師確保に支障が出ている実態が浮かび上がった。
調査は8~9月、入院可能な有床診療所と病院の計1万4216施設を対象に実施し、4082施設から回答を得た(回答率28・7%)。
地域で実際に起きている問題点を尋ねたところ(複数回答可)、受け入れ困難事例が「救急搬送」(15・6%)、「専門的な診療科の紹介患者」(8・3%)、「母体搬送・ハイリスク妊婦」(2・1%)で増え、「医療圏域外への搬送」(7・5%)も増加していると答えた。
自院への影響では「手術件数減少」(10・8%)、「外来診療体制の縮小」(5・3%)、「宿日直体制縮小・撤退」(5・2%)などが挙がった。大学病院などから医師の派遣を受ける2927医療機関では、21・6%が「宿日直の応援医師の確保が困難になっている」と回答した。
調査を担当した城守国斗・常任理事は「働き方改革が地域医療に大きな影響を及ぼさないよう、今後も継続して調査する。医師の健康確保と医療の質の維持向上のバランスを取ることが重要だ」と話している。
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救急車で救急搬送された軽症患者から選定療養費(7700円)を徴収する取り組みを進めている三重県松阪市の救急医療の基幹3病院の検証結果がまとまり、25日に市議会に報告された。取り組みが始まった6月から8月末までの3か月間で、3病院に搬送された患者(3749人、死者を含む)のうち、選定療養費を徴収された患者は7・4%(278人)だった。
搬送された患者のうち、入院せずに帰宅した患者(2056人)に限ると、徴収された人の割合は13・5%で、「有料化」の対象となったのは10人に1人程度だった。
松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院の3病院と、市が検証結果を数値化した。今後も検証を続け、救急医療の充実を図るという。
療養費が徴収された278人の傷病別内訳は、 疼痛とうつう (痛み)が24人、打撲傷が21人、熱中症・脱水症が21人、新型コロナウイルスが16人などだった。年代別では65歳以上の高齢者が114人で徴収者の4割を占め、乳幼児も51人で2割近くいた。
選定療養費を徴収するかどうかを決めた理由は、診療に当たった「医師による緊急性の判断」が57%を占めた。3病院の関係者の一人は、「ぜんそくの発作が起きた場合、病院で処置すれば入院は必要ないが、救急搬送をためらえば死に至るケースもある」と指摘し、徴収基準を設けることは難しいと語った。
取り組み開始以降、救急車の出動ペースは減少傾向にある。
松阪地区広域消防組合(松阪市と多気、明和町)の6~8月の救急出動件数は、3か月間で前年同期比21・9%減となった。1日に50件以上が出動した日数は78・7%減少している。市は「傷病者の必要に応じて救急隊が直行できる頻度が増えた」と効果を認めている。
松阪市民病院の石川圭一事務部長は「当初から選定療養費の徴収に数字の想定はない。市民に(かかりつけ医など)1次救急をうまく使ってもらい、松阪の救急医療体制に理解を深めてもらうことが、選定療養費を導入した趣旨だ」と話している。
◆ 選定療養費 =2016年4月の健康保険法改正で、200床以上の地域医療支援病院は、紹介状を持たない初
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厚生労働省は23日、脳死者から提供された心臓の移植を受ける患者の選定基準を見直し、余命が1か月と予測される60歳未満の患者を最優先とする方針を決めた。待機中に病状が悪化して亡くなるケースを減らす狙いがある。同日の臓器移植委員会で、提案が了承された。来年にも運用が始まる見通しだ。
脳死者から提供された臓器の移植については、日本臓器移植ネットワーク(JOT)が心臓、肺、肝臓、 膵臓すいぞう 、小腸、腎臓の6臓器ごとに決められた基準を踏まえて、移植を待つ患者の優先順位を決定。上位から、患者が登録する移植施設に臓器の受け入れを要請する。
心臓の現行基準は、待機期間が長い患者が移植を受けやすくなっている。これに対し、日本心臓移植学会などが救命のため緊急性の高い患者を優先するよう要望。厚労省は「緊急に心臓移植を行わないと短期に死亡が予測される病態で、余命1か月以内の60歳未満の患者」を最優先とする案をまとめた。
小腸などの基準も見直す。小腸では、臓器提供者が18歳未満の場合に、18歳未満の患者の優先度を高め、体格に合ったあっせんをスムーズに行えるようにする。別の病気で治療中などの理由で当面、移植を受けられない患者を一時的にあっせん対象から外す仕組みも設ける。
さらに、肝臓、小腸、膵臓の3臓器同時移植も、条件付きで認める。
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日本感染症学会など3学会は21日、新型コロナウイルスの重症化リスクが高い高齢者に対し、10月から始まったワクチンの定期接種を受けるよう強く推奨するとの見解を公表した。
定期接種は、65歳以上と重い基礎疾患のある60~64歳を対象としている。
見解では、今冬も大きな流行が予想されるとしたうえで、高齢者が感染すると、〈1〉重症化や死亡のリスクがインフルエンザ以上〈2〉1割超で日常生活に支障をきたす症状が3か月以上続く〈3〉心血管疾患や呼吸器疾患の危険も高まる――ことなどを指摘。接種可能な5種類のワクチンを紹介した。このうち、遺伝物質「メッセンジャーRNA(mRNA)」が細胞内で自己増幅する「レプリコン」と呼ばれるタイプについて、接種した人から周囲の人に感染させる恐れはないとした。
同学会の長谷川直樹理事長は「いずれのワクチンも変異株に対応しており、医師と相談の上、接種してほしい」と話している。
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政府は来年度から、医療機材や病床を備えた「病院船」の運用に乗り出す。震災など大規模災害が発生した際、入院患者の搬送やけが人らの治療を担い、現地の病院を支援する。当面は民間のカーフェリーを活用する方針で、今月には実動訓練を行い、実用化に向けた準備を本格化させた。
内閣官房によると、病院船は被災地近くの港に接岸し、現地の病院の入院患者を離れた地域に移送したり、軽傷者らを船内で治療したりして、陸上の医療機能を補完する役割を持つ。手術室がないことなどから、重傷者には対応できない。
米国では、1000床のベッドを備える海軍の病院船「マーシー」が、2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震で出動した。新型コロナウイルスの流行時には、肺炎以外の患者の療養に使われた。
国内では、1995年の阪神・淡路大震災以降、導入が議論された。その後、東日本大震災など災害が相次いだことを受け、病院船の活用を定めた「災害時船舶活用医療提供体制整備推進法」が2021年6月、議員立法で成立した。
同法には病院船を保有することが定められたが、20年度の試算では、500床規模を新造すると約430億円かかる。このため、将来的な保有を前提に、まずは民間のカーフェリーを借りて運用し、必要な機材や設備などを見極める。
運用を担う内閣府が複数の船舶会社に協力を要請。災害時に使用料を支払ってカーフェリーを借りることを想定している。船には日本赤十字社の医師らが乗り込み、日赤の医療機材を持ち込む。普段は車を止めるスペースに並べたテントや客室を病床とする。
今月14日には、北海道・室蘭港で実動訓練が行われた。「DMAT」(災害派遣医療チーム)などに所属する約30人の医療従事者が参加し、フェリーに救急車が乗り入れる流れなどを確認した。結果を踏まえ、政府は、年度内に出動や活動の手順をまとめる。
能登半島地震のように、港の地盤が隆起して座礁の恐れがある場合は接岸できず、活動できないケースもある。厚生労働省内には、巨額の建造費をかけ、病院船を保有することを懸念する声も出ている。
災害時の医療に詳しい日赤の災害医療統括監の丸山
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脳死者から提供された臓器の移植を受ける患者を選ぶ基準について、厚生労働省は、命の危険が迫り、緊急性が高い患者を優先するルールを拡大する検討に入った。肝臓だけでなく、心臓や肺に広げる。移植が間に合わずに亡くなる患者を減らす狙いがある。月内にも開く厚生科学審議会の臓器移植委員会で議論を始める。
脳死者から提供された臓器については、日本臓器移植ネットワーク(JOT)が厚労省の基準を踏まえて、移植を待つ患者の優先順位を決める。上位から、患者が登録した移植施設に臓器の受け入れを要請する。基準は、学会や研究会の提案を反映しており、臓器で異なる。
見直しは心臓移植から始める。現在は待機期間が長い患者が移植を受けやすい基準になっている。同委員会では、余命が短いと判断された患者については待機期間にかかわらず最優先に臓器をあっせんできないかや、対象となる患者の具体的な条件を議論する。肺移植でも検討したい考えだ。すでに肝臓では余命が1か月以内の患者に適用している。
このほか、心臓や肝臓などで臓器を摘出する施設と近距離の移植施設に登録する患者の優先度を高める案も検討する。両施設が離れているため、臓器の搬送を担う人員や手段が確保できず臓器の受け入れを断念する場合がある。搬送時間の短いケースを優先させることで、断念を防ぐことが期待できるとする。
JOTによると、9月末現在、国内の待機患者は1万6452人。23年は592人が移植を受けた一方、463人が待機中に亡くなった。
移植を受ける患者の選定基準の見直しは、より多くの命を救うためだ。
具体的な検討に入る心臓は、移植を受ける患者の待機期間が長期化し、平均5年を超えている。現行基準では、待機中に病状が悪化しても優先されず、命を落とす患者が後を絶たない。
厚生労働省が9月に公表した移植の実態調査では、一つの臓器あっせんで多くの患者が移植を見送られていた現状が判明した。効率的なあっせんが行われていないとして、移植医療体制の改革案に盛り込まれた。
今後、臓器摘出の施設と移植施設の近さを優先する案も議論される見通しだ。
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神戸大病院は17日、国産初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」を使って、小学生男児(11)の副腎腫瘍を摘出する手術に成功したと発表した。ヒノトリで15歳未満の小児を対象に手術を行ったのは初めて。経過は良好という。
発表によると、男児は関西在住。6月にけいれんなどを発症して別の病院に入院し、腎臓の上にある副腎にできる希少な腫瘍「褐色細胞腫」と診断された。
ヒノトリは、川崎重工業とシスメックスが共同出資するメディカロイド(神戸市)が開発した。ロボット支援手術は患者の出血量が少ないのが利点で、2020年に製造販売が承認され、今年6月末現在、全国の医療機関に61台導入されている。
手術器具を取り付けるアームが比較的細く、先行する米国製の手術支援ロボットよりもアームの関節数が多いことから小回りが利き、体の小さな患者でも操作しやすいのが特長という。
手術は9月18日に行われ、左右にある副腎のうち、腫瘍が見つかった右側を摘出した。4本あるアームのうち3本を使用してごく少ない出血で済み、男児は同月下旬に退院し、通学できるほどまで回復している。
執刀した神戸大病院小児外科の大片祐一・特命准教授は「小児外科の手術で、日本製ロボットの選択肢を加えることができた。質の高いロボット手術を提供する体制を整えていきたい」としている。
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主に子どもがかかるマイコプラズマ肺炎が8年ぶりに流行している。国立感染症研究所の8日の発表によると、9月29日までの1週間に全国約500の医療機関から報告があった患者数は、1医療機関あたり1・64人(速報値)となった。現在の調査方法となった1999年以来、過去最多だった2016年10月17~23日の患者数に並んだ。
都道府県別では、福井が最も多い5・33人で、埼玉の4・25人、岐阜の3・4人、東京の2・96人が続いた。
マイコプラズマ肺炎は、発熱や全身のだるさなどが表れ、熱が下がった後も3~4週間せきが続く。多くは軽症だが、一部は重症化したり、心筋炎などの合併症を引き起こしたりすることがある。患者の8割を14歳以下が占め、治療には抗菌薬が使われる。
東京医科大の岩田敏兼任教授(微生物学)は「秋から冬にかけて感染が広がりやすく、手洗いや人混みでのマスク着用などの感染対策をとってほしい。せきがひどくなったり、発熱が続いたりする場合は、早めの受診を」と呼び掛けている。
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ジェネリック医薬品(後発薬)がある特許切れの先発薬の処方を患者が希望した場合の自己負担額が今月、引き上げられた。厚生労働省が導入した新制度で、安価な後発薬の使用を促し、医療費を抑制する狙い。
この制度では、後発薬の発売から5年以上たった先発薬か、後発薬の使用割合が50%以上の先発薬が対象。抗アレルギー薬「アレグラ」や胃腸薬「ガスター」など約1100品目が該当する。後発薬との価格差の25%が公的医療保険の適用外となり、医療機関や薬局の窓口で支払う自己負担額に上乗せされる。自治体から小児医療費の助成を受けている患者も、保険適用外分の支払いが生じるようになった。
例えば、自己負担3割の患者が、抗菌薬「ジスロマック錠250ミリ・グラム」を3日間服用する場合は支払額が288円から351円に上がる。一方、後発薬「アジスロマイシン錠250ミリ・グラム」を選べば、162円で済む。医師が、飲み合わせなどの医療上の理由から先発品が必要と判断したり、薬局に後発薬の在庫がなかったりした場合は、新制度は適用されず、負担額は増えない。
対象となる先発薬の一覧は、厚労省のウェブサイト
( https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39830.html )に掲載されている。
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米国で今年3月、ブタの腎臓を人間の生きた患者に移植する手術を執刀した河合達郎・米ハーバード大教授(外科学)が、川崎市で読売新聞などの共同インタビューに応じた。河合教授は、動物の臓器を人間に移植する異種移植について、臓器提供者が不足する日本でこそ、実用化の議論を進める必要性を訴えた。主な一問一答は次の通り。
――手術結果への所感は。
移植したブタの腎臓は正常に働き、手術直後から尿を作り、特別な拒絶反応もなかった。移植は成功したと考える。ただ患者の心臓が想定以上に悪く、2か月弱で死亡した。なるべく他に疾患のない透析患者に実施することが望ましかった。
――米国社会の反応は。
批判の声は、あまり聞かなかった。私たちも当初はためらいがあったが、患者団体の集会で患者から泣きながら「異種移植を進めてほしい」と懇願され、初めて「やらねば」と思った。手術後、患者団体から励ましの声が寄せられた。
米国では、他に疾患のない透析患者だと4、5年待てば人間の腎移植ができるが、それでも関心は高い。日本は米国に比べ、臓器移植を受けられる機会が圧倒的に少ない。日本でこそ異種移植は必要で、数年以内に手術ができるよう議論を進めてほしい。
――医療コストと感染症の心配は。
異種移植は最初に遺伝子改変ブタの開発費がかかるが、手術後にかかる医療費は患者1人あたり年間100万円以下だ。透析を続けるよりQOL(生活の質)も良い。
サルで長年、移植の実験をして、未知のウイルス感染はない。今回の手術後も考えられる限りの検査を続けたが、異常はなかった。それでも異種移植を始めて何十年かは、慎重に感染症を調べる必要がある。
――今後も異種移植手術を続けるのか。
もちろんだ。ただ米食品医薬品局(FDA)は、他に方法がない治療としてしか認めていない。日本のように待機期間が長い国の患者を、米国で移植するアイデアを検討している。医療レベルが高く、術後のケアができる移植外科医や内科医がいる国が条件だ。
私が研修医の頃は人間の臓器で