これは誰が言っていたというのではなく、東北大学の旧第二外科(現 総合外科)の伝統的な「気風」のようなものです。当時の東北大学は医局に入局する前に初期研修をすることになっており、私は公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修しました。
今でこそ、私が担当している総合診療科や救急科などがあり、診断がついていない患者さんをそこで診ていますが、当時はそうした患者さんを担当する診療科がなく、救急科も今ほど発展していなかったんです。
内科なのか、外科なのかを割り振りする人もおらず、患者さんやご家族が「目が悪いのなら眼科でしょ」みたいな判断で、それぞれの診療科を受診していました。そこで当直や日直をしていると、「それはうちの科じゃないから」みたいなケースが発生します。そのとき旧第二外科では「まあ、診ますか」という気風のもとで、腹痛や足の痛みなどを診ていました。
また、大学病院ではあまりないのですが、関連病院では他科に移った患者さんが具合が悪くなったときに「どうしましょう」というコンサルトを受けることがあります。そこで「それは外科じゃないでしょ」と言うのではなく、「『まあ、診ますか』と言え。『それは自分たちのマターじゃないからやらない』とは言うな」という教育を受けてきました。
コラム・連載
第7回 まあ、診ますか
第7回
まあ、診ますか
《 2023.11.15 》
著者プロフィール
著者名:石井 正
1963年に東京都世田谷区で生まれる。1989年に東北大学を卒業後、公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修医となる。1992年に東北大学第二外科(現 先進外科学)に入局する。2002年に石巻赤十字病院第一外科部長に就任する。2007年に石巻赤十字病院医療社会事業部長を兼任し、外科勤務の一方で、災害医療に携わる。2011年2月に宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱される。2011年3月に東日本大震災に遭い、宮城県災害医療コーディネーターとして、石巻医療圏の医療救護活動を統括する。2012年10月に東北大学病院総合地域医療教育支援部教授に就任する。現在は卒後研修センター副センター長、総合診療科科長、漢方内科科長を兼任する。
日本外科学会外科専門医・指導医、日本消化器外科学会消化器外科専門医・指導医、日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医・指導医、社会医学系専門医・指導医など。
石井正教授の連載第2シリーズは石井教授が新進の医師だったときに東北大学医学部第二外科(現 消化器外科)学分野(診療科:総合外科)で受けてこられた「教え」を毎月ご紹介していきます。
バックナンバー
- 地域医療を支えた東北大学病院の教え
- 12. フィジシャン・サイエンティストに
- 11. 怒られるうちが花
- 10. 人生は全て修行だ
- 09. 始まれば、必ず終わる
- 08. 「そうすべきではないですか」ではなく「そうしましょうか」
- 07. まあ、診ますか
- 06. 手術はリズム、判断力、冷静さ
- 05. 世の中、いろいろだから
- 04. 求めなければ、何も得られない
- 03. 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
- 02. 迷ったら、やれ
- 01. シミュレーションできるくらい準備せよ
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長