これは私が研修医だったときの上級医でいらした宮田剛先生に教えていただいた言葉です。宮田先生は現在、岩手県立中央病院の院長を務めていらっしゃいます。
仕事が楽しくて仕方ないという先生で、人柄が良く、ユーモアがあって、かつ実力も備えているので、人気があります。宮田先生には毎年、東北大学医学部の1年生に講義をしていただいています。東北大学の医学部に合格すると、入学したばかりの1年生は人生の勝ち組への切符をもらったような気になって、有頂天になっている学生が多いんですよ(笑)。
でも、ここから先が大変なのだということを毎年、講義しているのですが、そのときに宮田先生にもお越しいただき、卒業後のキャリアモデルとしてのお話をいただいています。ある意味、臨床医としての王道を歩んでおられる方だからです。
その宮田先生が教えてくださったのは、特に上司に提案するときの言葉遣いです。上司に対して「何々すべきではないですか」と理詰めで迫っても、うまくいかないことがあります。相手も人間だからです。人間は最終的には感情で物事を判断するのではないかと、私は思っています。言い方が気に入らないといくら正しいことを提案されても、残念ながらネガティブなバイアスが働いてしまう場合が多いのではないかと考えています。
一方で、言い方を含め、腑に落ちれば「まあ、わかった」となるのではないでしょうか。それはサイエンスとしては駄目な態度かもしれません。正しいことを言うことの何が悪いのか、正しいことが通らないのはおかしいのではないかとの反論も出そうです。しかし、言い方次第で結果が変わるのが世の中であると思っています。
コラム・連載
第8回 「そうすべきではないですか」ではなく「そうしましょうか」
第8回
「そうすべきではないですか」ではなく「そうしましょうか」
《 2023.12.15 》
著者プロフィール
著者名:石井 正
1963年に東京都世田谷区で生まれる。1989年に東北大学を卒業後、公立気仙沼総合病院(現 気仙沼市立病院)で研修医となる。1992年に東北大学第二外科(現 先進外科学)に入局する。2002年に石巻赤十字病院第一外科部長に就任する。2007年に石巻赤十字病院医療社会事業部長を兼任し、外科勤務の一方で、災害医療に携わる。2011年2月に宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱される。2011年3月に東日本大震災に遭い、宮城県災害医療コーディネーターとして、石巻医療圏の医療救護活動を統括する。2012年10月に東北大学病院総合地域医療教育支援部教授に就任する。現在は卒後研修センター副センター長、総合診療科科長、漢方内科科長を兼任する。
日本外科学会外科専門医・指導医、日本消化器外科学会消化器外科専門医・指導医、日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医・指導医、社会医学系専門医・指導医など。
石井正教授の連載第2シリーズは石井教授が新進の医師だったときに東北大学医学部第二外科(現 消化器外科)学分野(診療科:総合外科)で受けてこられた「教え」を毎月ご紹介していきます。
バックナンバー
- 地域医療を支えた東北大学病院の教え
- 12. フィジシャン・サイエンティストに
- 11. 怒られるうちが花
- 10. 人生は全て修行だ
- 09. 始まれば、必ず終わる
- 08. 「そうすべきではないですか」ではなく「そうしましょうか」
- 07. まあ、診ますか
- 06. 手術はリズム、判断力、冷静さ
- 05. 世の中、いろいろだから
- 04. 求めなければ、何も得られない
- 03. 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
- 02. 迷ったら、やれ
- 01. シミュレーションできるくらい準備せよ
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長