人材を育てる
徳島大学での指導や教育にあたって、心がけていることをお聞かせください。
どの分野でも同じですが、基本的なことや基礎を身につけることが重要です。今の若い先生たちはアクティブだし、よく頑張っていると思います。ただ海外に行きにくい環境になっていることが残念です。若い医師には「自分のことをよく知ったうえで、アイディアを出すことが大事だ」と言っています。それから根拠に基づくことの大切さも常に伝えています。
『内藤教授が語る
海外での眼科医療ボランティア』
第5回
どの分野でも同じですが、基本的なことや基礎を身につけることが重要です。今の若い先生たちはアクティブだし、よく頑張っていると思います。ただ海外に行きにくい環境になっていることが残念です。若い医師には「自分のことをよく知ったうえで、アイディアを出すことが大事だ」と言っています。それから根拠に基づくことの大切さも常に伝えています。
眼科学教室の後期研修医をはじめ、医局員にネパールに行ってもらう取り組みもしていますし、徳島大学の医学生がネパールでの臨床実習をすることも認められています。これまで7人ほどの医学生が希望したので、ネパールに連れていき、現地で指導しました。行った学生は国際的な感覚が身についたと言っていますね。ネパールの医学生と一緒に臨床実習をして仲良くなったり、将来は国際的な活動をしたいという人もいます。そうした人に、私の後継者になってほしいと思っています。
ネパールの網膜疾患の診療水準を向上させるプロジェクトを2016年から2019年まで行っていました。これはJICAの「草の根パートナー型支援事業」の一環で、ネパールの眼科医、眼科助手、看護師、ヘルスワーカーを日本での研修や講習会などで教育するというものでした。JACAの資金で、ネパール国内の4カ所に網膜疾患診療センターを設立し、眼底カメラや超音波診断装置などを導入したのですが、その4カ所のセンターから1人ずつ、計4人の眼科医を徳島大学に呼び、1カ月の研修を行います。眼科医には網膜症の治療に必要なレーザー光凝固治療や硝子体切除手術を学んでもらいました。どちらも細かい技術が必要な手術なのですが、彼らはきちんと習得してネパールに帰りました。このシステムで意味のあることは今度は高難度の技術を持った彼らが指導者となって、現地の若手眼科医を指導していけることです。ただ、彼らは日本では医療行為ができないので、プロジェクトの間は私がほぼ毎月ネパールに行き、手術を指導したり、色々な研修会を開催しました。
糖尿病予防が主な内容です。ネパールの各地で講演し、「糖尿病が進むと目を傷めるから生活習慣を改善しましょう」と訴えました。パンフレットも作りましたね。そこではヘルスワーカー教育も行いました。識字率が低いネパールでは僻地に住む人たちに健康情報を伝えたり、食生活改善などを訴えたり、人々からの健康相談に乗るヘルスワーカーが重要な専門職なのです。そのため、私たちはヘルスワーカーの説明能力を向上させる研修を行いました。このときは1カ月のうち、2週間は徳島で、2週間はネパールという生活でしたね。エジプトから帰宅した日に荷物を入れ替え、ネパールに出発したこともありました(笑)。
今はこのプロジェクトが終了したので、経過観察期間としてフォローアップをしています。そして新たな教育システムをトリブバン大学で作っているところです。眼科の中で網膜の専門コースを作ったのですが、2020年に入り、1月、2月と現地で指導しました。ところが3月からは新型コロナウイルスの影響で渡航を控えていますので、5月現在はメールでやり取りし、メールでの指導を行っています。これほど長い期間、海外に行けないのは初めてのことですね。
結果がすぐに出るということです。例えば、白内障手術をすると、次の日には見えるようになります。これは実にいいですね。特に発展途上国では手術前の患者さんはほとんどが歩けない状態です。しかし手術をすれば、次の日には一人で歩いておられます。その方々の世界が変わったということですよね。
眼が非常に繊細な器官であることです。私も患者さんの満足度が上がるように、繊細な点に配慮して、診療にあたっています。
手先の器用な人と言われるのはよく言われることですが、手先の器用さは持って生まれたものです。しかし、眼科医に求められる技術は訓練すればできるようになるのです。自分は眼科医に向いていると感覚的にでも思ったら、その方々は非常に素晴らしい眼科医になると思います。どんな方が向いているのかというのは難しい質問ですが、訓練すれば大丈夫です。私自身が医師になって役に立った、良かったという経験は学生時代に音楽の訓練を受けたことですね。特に手術のときに役に立っていることを実感しますし、音楽の師匠に感謝しています。どのような物事でも、技術を習得するにあたっては最初はできなくても諦めずに反復訓練することが必要です。私は今でも毎日、コントラバスに触れ、スケールなどの基礎訓練をしています。それから音楽をしてきて良かったことはテンポ感です。呼吸と言いますか、リズム感ですね。そのテンポ感の中で手術をしていると、自分としてもうまくできているような気がします(笑)。テンポ感を大事にすると、結果的に無駄な動きが少なくなりますので、手術時間が短くなるのです。
日本は高齢化がさらに進んでいきます。ご高齢の方々が快適な日常生活を送るには目からの情報は大事です。そして、眼科診療は非常に細分化されていくでしょう。眼の中にも様々なパーツがありますが、そこにそれぞれ疾患がありますので、細分化されたところでの専門医が求められます。眼科医に必要とされる技術はより繊細になっていくと思います。
私が医療支援をしてきた国々はそれぞれ状況が違いますので、細かくお話しすることは控えますが、ただ私がいつも気をつけていることは日本人として、日本の代表として何ができるのかということです。そして、各国の方々と相談し、その方々が自分たちの国の問題を自分たちで解決できるように、それを日本人としてどのようにアドバイスするのかということですね。私も若いときは海外でがむしゃらに手術をしていましたが、いくら手術をしても、私の体力には限りがあります。やはり彼らに育っていただき、自分たちで手術をしたり、問題解決をしていくことが本当に持続的に発展するということだと思っています。
若い方々は可能性を秘めたパワーがありますので、チャレンジ精神を持ってほしいです。そして、何かを始めたら、継続していただきたいですね。私もネパールに初めて行ったときなど、「ちょっと、これやってみようかな」ということには血が騒ぐような思いをしました。そういう「やってみようかな」と思ったことがあれば、失敗を恐れずに挑戦していただきたいと願っています。
著者プロフィール
徳島大学国際センター国際協力部門 特任教授
日本眼科学会指導医・専門医、日本網膜硝子体学会PDT認定医など。American Academy of Ophthalmology(AAO)Association for Research in Vision and Ophthalmology(ARVO)、日本眼科手術学会、日本糖尿病眼学会、日本眼感染症学会、日本眼炎症学会、日本角膜学会、日本弱視斜視学会、日本眼内レンズ屈折手術学会、抗ウイルス療法研究会にも所属する。