心臓血管外科の面白さ
心臓血管外科の面白さはどこにありますか。
うまく手術をすれば、絶対に助かることです。私が他の外科を選ばなかったのは循環器内科医だった恩師、木村登先生の影響もありますが、臨床実習で各科を回ったときに消化器外科に末期がんの患者さんをお見かけしたことが大きいです。お腹を開けて、すぐに抗がん剤を撒いて閉じ、外科医であってもあとは看取るだけというのが辛かったです。心臓は最近こそ緊急手術は少なく楽になりましたが、解離性動脈瘤でも緊急手術すれば助かる方がほとんどです。外科医が間違えば別ですが、手術をすれば良くはなるけれど、悪くはならないところがいいですね。
心臓血管外科の難しさについてはいかがですか。
今は昔ほど難しくはないです。昔は朝8時に患者さんが手術室に入室しても、麻酔が遅かったのですよ。1時間半ぐらいかかって、手術が9時半ぐらいから始まり、人工心臓に乗るのにまた2時間から3時間かかっていました。昼過ぎから人工心臓が始まり、それから心臓の中を操作しますので、早くて手術終了が16時、17時でした。遅かったら、19時、20時といった状況で、どの病院でもそういうものでしたね。ところがトロントに行ったときに、8時に始まった1例目が正午前には終わっていて、驚きました。もし、その1例目が13時過ぎに終わったら、2例目はキャンセルでした。
キャンセルになったら、また改めて手術日が設定されるのですか。
そうです。向こうは症例が多いですしね。金曜日に手術や術前カンファレンスをするのですが、3つの手術室に分かれて、6人が午前と午後に1例ずつ一日6人担当します。1週間で30人ですよね。そのためのカンファレンスが金曜日にあるのですが、月曜日に行くと、8割方、症例が変わっていました(笑)。日本ではとにかく遅かったり、いろいろな書類を書かないといけなかったり、あれこれ外科以外の事がありますが、向こうは全く違いますね。
日本の忙しさとは違いますね。
日本は症例が少ないですし、手術を予定したら、急患が入らない限りは大丈夫です。今も急患や緊急手術がないわけではないですが、当院(東京ハートセンター)の手術室は2室あるので、一つの手術をしながら、横並びでも手術ができます。
循環器内科との連携に関してはいかがですか。
患者さんを紹介してくれるのは循環器内科ですから、連携は必須ですが、連携よりも信用してもらうことが一番です。この病院に送れば、きちんと手術してもらえるのだという信用ですね、だから、手紙のやり取りをしていますし、明るさや挨拶も大事です。患者さんが「あの病院に行って、酷い手術をされた」と言ったら、もう次に送ってこられることはありません。患者さんが「あの病院に行ったら、良かったですよ」と言ってくだされば、また紹介していただけます。
チーム医療についてもお聞かせください。
外科ではチーム医療は重要です。心臓手術で大切なのはスピードアップを図って、侵襲を少なくすることだからです。チームのメンバーが固定されていると、スピードが上がります。さらに、想定外のことが起こったり、方向転換をしなくてはいけないときに確認したり、相談したり、アドバイスをくれるスタッフが手術室にいると心強くもなります。チームを組んでいると、阿吽の呼吸で方向転換ができるのです。葉山ハートセンターにいた頃、麻酔科の医師から「磯村先生の手術の麻酔管理ができたら、日本中どこの病院でもやっていける」と言われたこともありました(笑)。
これからの心臓血管外科
これからの心臓血管外科の展望をお聞かせください。
色々なことをしないといけない時代になるでしょう。というのも、日本でもロボット手術が始まっていると思いますが、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI:タビ)しかり、経カテーテル僧帽弁修復術(MitraClip:マイトラクリップ)しかり、そういう適応を考えないといけなくなるからです。ステントを売りにしている外科医にしても、持っておかないといけない技術が増えると思います。私たちの時代にはなかったものですが。今はそういう資格が必要ですね。でも、その分、外科は楽になりますよ。例えば胸腹部大動脈瘤の手術は今でも相当に時間のかかる手術ですが、これがステントで終われば、楽になりますね。
ステントの技術習得は難しいのですか。
私は施行したことはありませんが、後輩の話を聞くとそうでもないみたいですよ(笑)。ステントの適応や種類による違いがあるらしいですが、皆さん、30代で資格を取っているようです。
ロボット手術はどうなっていきますか。
知人の欧米の医師の話だと、ミックスよりもロボットの方がいいそうです。アメリカは進んでいますね。日本はトレーニングできるほど数がないので、アメリカなどで覚えてきた医師が普及させていくのではないでしょうか。正直申し上げて、私は日本で最初にロボット手術をした一人です(笑)。
そうでしたか。
以前、イソップ(AESOP)というロボットがあったのです。内胸動脈を胸腔鏡で取るのは難しいのですが、それをイソップで取っていました。
どういったきっかけだったのですか。
ロボットを使った方が傷が小さくてうまくいくのなら、使ってみようかと考えたのです。徳田虎雄先生には先見の明があり、葉山ハートセンターを建てるときに既に「ロボット、使ってみたら」とおっしゃっていました。私が「徳田先生、ロボットは大変ですよ」と言ったのですが、「でも使ってみたら」と言って、購入してくださったのです。
使ってみて、いかがでしたか。
胸腔鏡を入れると、イソップが音声に反応して動いてくれるのです。取ったら縫合するだけなので、楽ですね。うまくできればいいのですが、うまくいかないこともあります。途中で内胸動脈を傷つけたら大出血ですからね。
うまくいかなかったときのリカバリーショットが大変なのですね。
そうなのです。開胸が必要になります。その判断もしなくてはいけません。したがって、ロボット手術をする人はそういうことも知らなくてはいけないし、日本では症例数がそこまでないので、なかなか難しいでしょう。トレーニングセンターができるといいですね。
先生はどこでトレーニングをされたのですか。
フロリダです。1週間ぐらいトレーニングをして、日本に帰ってきてから使いました。最初に使って慣れてから葉山ハートセンターで全国学会のライブデモンストレーションをしました。昔はライブ手術が多く、私も色々と頼まれていました。今は事故の問題などもあって中止になり、ライブで新しい手術をすることは日本ではほとんどなくなりました。