心臓血管外科とAI
AIは心臓血管外科にどのように入ってくるのでしょうか。
やはり診断や手術の手順といったところに入るでしょう。ただ、医師の経験もそれぞれですし、一概に利用すると言っても難しいと思います。しかし、内科で行っている画像診断のような分野ですと、人より見落としが少なくなるでしょうし、そこにフォーカスを絞って、もう一度見ることも可能になります。ロボットが始まった頃も遠隔操作で手術ができるようになると言われていましたが、最近は言わないですよね。
コラム・連載
やはり診断や手術の手順といったところに入るでしょう。ただ、医師の経験もそれぞれですし、一概に利用すると言っても難しいと思います。しかし、内科で行っている画像診断のような分野ですと、人より見落としが少なくなるでしょうし、そこにフォーカスを絞って、もう一度見ることも可能になります。ロボットが始まった頃も遠隔操作で手術ができるようになると言われていましたが、最近は言わないですよね。
画面の見落としや検査の抜けがなくなるので、診断は良くなりますよ。でも翻訳機が正確に翻訳されないところを見ると、より複雑な外科手術ができるのかと思います。私のところには見学の先生方が大勢来ますが、私が「この手術はこうします」と言って術前に手順を説明しても、手術の途中で違うことが起きるのです。そんなときに見学者に何にも気づかせずに、淡々と普通に手術を遂行してしまうのが熟練した外科医と思いますが、自分の術前の予想や手順が間違うと大きな声を出してしまう先生もいます。それはもう負けですね(笑)。
何事もなかったように、淡々と手術を終わり、終わってから見学者に変更点を言います(笑)。これは手術に慣れたら、普通にできるようになります。私も大学時代に上の先生方の手術を前立ちしながら見てきて、うまくいく、うまくいかないというのを理解し、応用してきました。この応用ができる医師が必要なのであって、それはAIではできないと考えています。
最近は心臓血管外科だけでなく、脳神経外科にも女性が増えてきました。女性もしようと思ったら、いくらでもできますよ。女性だから、男性だからと考えず、患者さんに優しく接してほしいです。患者さんに怖く接していると、看護師さんが私のところに来て、「あの先生、患者さんが怖がっていますけど」と言います。ときには患者さんからも言われるので、私がフォローして、「すみません」と謝っています(笑)。
いい外科医を見たら、外科に行きたいと思うはずですが、全部が全部そうではありません(笑)。それぞれの診療科を回っていても、色々なことを言われることもあるでしょう。でも、自分の仕事をどのようにしていきたいのか、そのために何をするべきなのかということを考えていただきたいです。それには小さい頃からの教育も大事ですが、最近は怒ったらいけないなど、昔とは変わってきましたね。しかし、外科の手術が長引いても、看護師さんたちは「時間が来たので、次の人たちに代わります」と言えますが、私たちは代われません。やはり教育は難しいです。僕の座右の銘に「十年樹木、百年樹人」があります:これは樹木を育て上げるのには十年程度で完成するが、人を育てるのは百年もかかるという言葉で、いつも大切に若手の先生方と向き合っています。
学会などに行くと、若い先生方は色々としたいことがあるのだと分かります。最近は僧帽弁形成ミックスが増えてきています。でも、そのベースの弁形成をあまりしたことがないのに、すぐにミックスに入っていくと、結果的に患者さんが何らかのトラブルに巻き込まれます。それは止めてほしいと常々、考えています。学会ではそうした話し合いもしているのですが、患者さんがOKすれば、誰も止めさせることができないのが実情です。
オフポンプもそうですね。私は日本で最初にオフポンプが始まった頃、オフポンプ研究会を立ち上げた一人なのですが、今はオフポンプをほとんどしていません。オフポンプは長期開存が良くないという論文が欧米でいくつも出てきて、欧米ではオフポンプは非常に少なくなりました。でも、それでも日本では皆がしていますし、オフポンプ以外で心臓が止まっているバイパスを見たことがないという医師もいます。私としては止めてほしいのですが、こういうことを言えるベテラン外科医も減ってきました。
最近は大動脈弁形成です。色々と勉強してきた先生方が増えてきたので、その先生たちから学んで、私も大動脈弁を治したいと考えています。僧帽弁はほとんど治せるのですが、私にとっては大動脈弁を治すのはまだ難しいと思っています。
解剖学的な難しさです。僧帽弁には支える乳頭筋や腱索がついているのですが、大動脈弁は弁葉そのものです。したがって、大動脈弁の解剖は大動脈と弁葉しかないのですよ。だから、少しずれると、ダッと漏れたりします。これをうまく修復しないといけません。最近、大動脈弁輪や周囲の径、弁葉の高さなど測定できる計測器が出たり、色々な方法が出たりしてきました。僧帽弁形成後に用いるリングを模して大動脈弁形成用のリングも開発されつつあるので、それができるとまた変わってくるでしょう。
そのあたりは開拓の余地がまだあります。動脈瘤はほとんどステントにとってかわられていますし、バイパスもそうです。心臓弁膜症もTAVIにとってかわられていますしね。
それは分かりません。手術に入った時に嫌がられるようになったら、止めようと思っていますがまだ続けられています(笑)。
ありがとうございました。
著者プロフィール
イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科 特任部長
日本胸部外科学会指導医、日本外科学会認定医・指導医、日本心臓血管外科学会専門医、日本循環器学会評議員、日本胸部外科学会評議員、日本冠疾患学会理事など。
国際学会員:STS(USA)、AATS(USA)、EACTS(欧州)