コラム・連載

2020.3.15|text by 中島 貴子

第4回 緩和ケアについて

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緩和ケアについて

緩和ケアについてもお伺いしたいです。

緩和ケア治療は抗がん剤治療の副作用による苦痛だけでなく、がんによる様々な苦痛、患者さんの悩みや不安に対応するものです。痛み止め、制吐剤などの薬による対症療法もありますし、腸閉塞への手術、骨転移の疼痛コントロールのための放射線療法などもあります。緩和ケアは重要であり、難しいものです。特に切除不能や再発がんに対してはなるべく初期からの緩和ケアが必要だと一般的には言われています。しかしながら、医療現場では緩和ケアチームが全ての患者さんに初期から入るのはリソースの問題が非常に大きく、簡単なものではありません。もちろん、緩和ケアチームが必要に応じて、早期であっても、後期であっても入っていく取り組みは私たちでも行っています。そこで、私たちが重視しているのは意識づけです。当院には私たちが来る前から緩和ケアチームがあったのですが、私たちの臨床腫瘍学講座の中から専従医を出し、そのチームに関与させてきました。そこから、オンコロジーと緩和ケアの融合が進んでいき、強まっていったように思います。数年前に寄付講座ができて足場が固まりました。

リソースの問題というのはどういったことでしょうか。

緩和ケアの専門医が非常に少ないということと、看護師をはじめとするチームが病院中のすべてのがん患者さんをケアするのはとても難しいということです。しかし、緩和ケアを必要とする患者さんに早期からの緩和ケアを提供するモデルを日本で作っていかないといけないと思っています。私は日本がんサポーティブケア学会という学会に設立当初から関わっているのですが、そこでオンコロジーと緩和医療の融合というワーキンググループを立ち上げ、様々な活動を行っているところです。

現在の状況をお聞かせくださいますか。

厚生労働省の研究班と合同で、日本の緩和ケア、特に診断時から、早期からの緩和ケアの真のニーズはどこにあるのかということをアンケートで浮き彫りにして、それを実装していく臨床試験を考えています。しかし、現在のところ、日本からのデータが少ないんです。早期からの緩和ケアに意義があるという論文は全て海外のものなのですが、海外と日本ではがん医療の実情が違うんです。オンコロジーももちろん違いますし、緩和ケアの提供スタイルも全く異なっています。そもそも保険診療が入るのかどうかということも違いますから、海外の論文をそのまま受け入れて、日本の患者さんにもと言っても、日本の患者さんにとってベストなものかどうか実は分からないことが今の段階では多くあるのです。我々は研究者でもあるので、そこもしっかり研究成果を出して、日本でのベストな緩和ケアの提供や、緩和ケアとオンコロジーの融合の体制を整えていきたいと思っています。

治験について

こちらの講座では医師主導の治験というものも打ち出していらっしゃいますね。

腫瘍内科領域に関わらず、支持療法やオリジナリティのあるアイデアや治療戦略は製薬企業のニーズとは必ずしもマッチしません。有効な治療方法がまだ見つかっていない領域をアンメットメディカルニーズと言いますが、製薬企業が資金をつぎ込む領域が患者さんにとって本当のアンメットメディカルニーズを満たしているかというと、必ずしもそうではありません。満たされていないアンメットメディカルニーズは希少疾患も含めて、数多くあります。医師主導治験はそうした希少性や難治性のある疾患への有効なアプローチですが、日本が遅れている部分でもあります。このリサーチラグを埋めていきたいですね。そこで、大変ではありますが、私たちの講座ではまだ珍しいがん領域への医師主導治験も進めていっています。そこに、我々の強みもありますし、学生や若手医師への教育にもなっています。

どういった臨床試験が進行中なのですか。

食道がん、胃がん、大腸がん、肝胆膵がん、神経内分泌腫瘍などを対象に、治療ラインや進行状況まで含めて、全て講座のホームページで公開しています。

著者プロフィール

中島貴子教授 近影

著者名:中島 貴子

京都大学医学部附属病院 次世代医療・iPS細胞治療研究センター 教授

聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座教授、聖マリアンナ医科大学病院腫瘍内科部長、
腫瘍センター長

  • 1971年 東京都江東区に生まれる
  • 1990年 東京大学教養学部理科II類に入学する。
  • 1991年 横浜市立大学医学部に再入学する。
  • 1998年 横浜市立大学医学部を卒業後、大森赤十字病院で研修を行う。
  • 2000年 神奈川県立足柄上病院内科に勤務する。
  • 2002年 国立がんセンター(現 国立がん研究センター)中央病院にレジデント、がん専門修練医として勤務する。
  • 2007年 国立がん研究センター東病院臨床開発センターにリサーチレジデントとして勤務する。
  • 2007年 国立がん研究センター中央病院消化器内科・外来化学療法科に医員として勤務する。
  • 2010年 聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座講師に就任する。
  • 2012年 聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座准教授に就任する。
  • 2016年 聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座教授に就任する。

 
日本内科学会認定医・総合内科専門医指導医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医、日本癌治療学会認定医、消化器病専門医、日本消化器内視鏡専門医。

バックナンバー
  1. シリーズタイトルが入ります
  2. 05. 腫瘍内科医に求められるもの
  3. 04. 緩和ケアについて
  4. 03. 聖マリアンナ医科大学で臨床腫瘍学講座を立ち上げる
  5. 02. 腫瘍内科に出会う
  6. 01. 総合内科を学ぶ

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr