緩和ケアについて
緩和ケアについてもお伺いしたいです。
緩和ケア治療は抗がん剤治療の副作用による苦痛だけでなく、がんによる様々な苦痛、患者さんの悩みや不安に対応するものです。痛み止め、制吐剤などの薬による対症療法もありますし、腸閉塞への手術、骨転移の疼痛コントロールのための放射線療法などもあります。緩和ケアは重要であり、難しいものです。特に切除不能や再発がんに対してはなるべく初期からの緩和ケアが必要だと一般的には言われています。しかしながら、医療現場では緩和ケアチームが全ての患者さんに初期から入るのはリソースの問題が非常に大きく、簡単なものではありません。もちろん、緩和ケアチームが必要に応じて、早期であっても、後期であっても入っていく取り組みは私たちでも行っています。そこで、私たちが重視しているのは意識づけです。当院には私たちが来る前から緩和ケアチームがあったのですが、私たちの臨床腫瘍学講座の中から専従医を出し、そのチームに関与させてきました。そこから、オンコロジーと緩和ケアの融合が進んでいき、強まっていったように思います。数年前に寄付講座ができて足場が固まりました。
リソースの問題というのはどういったことでしょうか。
緩和ケアの専門医が非常に少ないということと、看護師をはじめとするチームが病院中のすべてのがん患者さんをケアするのはとても難しいということです。しかし、緩和ケアを必要とする患者さんに早期からの緩和ケアを提供するモデルを日本で作っていかないといけないと思っています。私は日本がんサポーティブケア学会という学会に設立当初から関わっているのですが、そこでオンコロジーと緩和医療の融合というワーキンググループを立ち上げ、様々な活動を行っているところです。
現在の状況をお聞かせくださいますか。
厚生労働省の研究班と合同で、日本の緩和ケア、特に診断時から、早期からの緩和ケアの真のニーズはどこにあるのかということをアンケートで浮き彫りにして、それを実装していく臨床試験を考えています。しかし、現在のところ、日本からのデータが少ないんです。早期からの緩和ケアに意義があるという論文は全て海外のものなのですが、海外と日本ではがん医療の実情が違うんです。オンコロジーももちろん違いますし、緩和ケアの提供スタイルも全く異なっています。そもそも保険診療が入るのかどうかということも違いますから、海外の論文をそのまま受け入れて、日本の患者さんにもと言っても、日本の患者さんにとってベストなものかどうか実は分からないことが今の段階では多くあるのです。我々は研究者でもあるので、そこもしっかり研究成果を出して、日本でのベストな緩和ケアの提供や、緩和ケアとオンコロジーの融合の体制を整えていきたいと思っています。
治験について
こちらの講座では医師主導の治験というものも打ち出していらっしゃいますね。
腫瘍内科領域に関わらず、支持療法やオリジナリティのあるアイデアや治療戦略は製薬企業のニーズとは必ずしもマッチしません。有効な治療方法がまだ見つかっていない領域をアンメットメディカルニーズと言いますが、製薬企業が資金をつぎ込む領域が患者さんにとって本当のアンメットメディカルニーズを満たしているかというと、必ずしもそうではありません。満たされていないアンメットメディカルニーズは希少疾患も含めて、数多くあります。医師主導治験はそうした希少性や難治性のある疾患への有効なアプローチですが、日本が遅れている部分でもあります。このリサーチラグを埋めていきたいですね。そこで、大変ではありますが、私たちの講座ではまだ珍しいがん領域への医師主導治験も進めていっています。そこに、我々の強みもありますし、学生や若手医師への教育にもなっています。
どういった臨床試験が進行中なのですか。
食道がん、胃がん、大腸がん、肝胆膵がん、神経内分泌腫瘍などを対象に、治療ラインや進行状況まで含めて、全て講座のホームページで公開しています。