腫瘍内科医に求められるもの
腫瘍内科医に求められるものについて、お聞かせください。
大きく分けて二つあります。これは私たちの講座の方向性とも一致するものですが、一つはエビデンス以外の実力を磨くこと、もう一つは探究心です。腫瘍内科はエビデンスの移り変わりが激しいですし、エビデンスベースドメディスンをしている典型的な職域ですが、そのエビデンスを目の前の患者さんにフィットさせるには薬物療法の裏に隠れている支持療法や緩和ケアへの理解が必要です。そして、コミュニケーションスキルですね。そういったものがないと、目の前の患者さんがハッピーになりません。しかし、エビデンス以外の実力を磨くことに関して、実はあまり教育システムがないんです。もちろん、当院では緩和ケアの講習やスピリチュアルケアの勉強会などを受講することはできますし、経験に左右されるところも大いにありますが、やはり努力をすること、センサーを持つことを意識してほしいです。
どのようなセンサーですか。
自分がそういうケアができているのかどうか、常に振り返ることのできるセンサーです。若いときはうまくいかないこともありますし、私のようにキャリアを重ねたとしてもなかなかうまくいかないときもあります。でも、そのようなときこそ、自分はきちんとできているのか、患者さんのニーズを十分に満たしているのか、患者さんとコミュニケーションをしっかり取れているのかを感じるセンサー、そして考えるセンサーを持っていてほしいですね。
もう一つの探究心について、お聞かせください。
がんはいまだに患者さんが亡くなっていく病気です。早く見つけなければ亡くなってしまう典型的な病気として残っています。したがって、腫瘍内科医には与えられているエビデンス、黙っていても出てくるエビデンスに満足することなく、より良い治療に繋げるための探究心や興味を持ってほしいです。医師全員が臨床試験に参加する必要はないですし、臨床試験を計画する必要もありません。しかし、たとえ小さい病院で地域医療に打ち込んでいる医師であっても、そういう興味を持ってほしいと思っています。
若手医師へのメッセージ
若手医師の皆さんにメッセージをお願いします。
腫瘍内科は全人的医療の最たる領域です。死にゆく患者さんをいかに支え、いかに伴走するのかを考えなくてはいけません。もちろん、長期生存する人、治癒する人を増やすことも私たちがしなくてはいけない仕事ですが、現実はそんなに簡単には変わらないものです。やはり、お亡くなりになっていく患者さんの伴走者として全人的医療をすることの意義深さを日々感じる領域です。人に興味のある方に是非、飛び込んできていただきたいと思います。
今後、がんは制圧に向かいますか。
もちろん向かっていくでしょうし、向かっているところです。ただし、がんの制圧とは何なのかということも一方で考えなければならないことだと思います。がんになった人が100人中、100人治ることが人類にとって本当の幸せなのでしょうか。私は疑問を感じます。治る人は増えるべきです。でも、人間はいつか死ぬんです。死にゆく人にいかに穏やかな最後を迎えていただき、いかに見送るのかということががん制圧のもう一つの柱だと思います。だからこそ、オンコロジーと緩和ケアなどの融合が大切なのです。私はがん制圧に向けて、こうした融合にも挑戦していきたいですし、若い先生方にも色々な考え方を吸収していってほしいです。
ありがとうございました。