総合診療科と病院経営
総合診療とへき地医療についても、お話を伺えますか。
総合診療とへき地医療を一緒にしてしまうのは問題です。今、若い医師が新専門医制度での、総合診療科の専攻医プログラムを選びたくない1つの理由は、半年以上のへき地研修が義務付けられたからかもしれません。若い医師はこれを敬遠して、二の足を踏んでいる可能性があります。総合診療科はへき地医療をするために存在しているのではありません。病院がたまたまへき地にあるのか、都心にあるのかであって、どこに勤務していても、総合診療医としての機能を果たしていくことが求められています。
都心の病院ではどのような仕事ができますか。
都心の病院ほど、非常勤勤務の医師が多くなっています。例えば循環器内科と消化器内科は常勤医師がいるけれども、血液内科と当直は非常勤医師しかおらず、週に1回しか来ないという場合に総合診療科の医師がいれば、手薄なところをカバーできるうえ、入院患者さんの管理もある程度できます。
病院経営に関してはいかがでしょうか。
京都の洛和会音羽病院の松村理司先生が以前ご自身の著者で、総合診療科は病院収入においても奮闘貢献していると書かれています。総合診療的視野から、適切な検査と治療の実践ができているからだと思われます。また、手薄な診療科へのサポート、外科系入院患者が内科管理に移行した場合の主治医交代、ERでの主体的関与、集中治療室への横断的関わり、往診、初期研修医への教育的貢献など、自由自在さ、融通無碍さ、伸縮自在さをもって病院経営に貢献していると書かれています。私もまさに同感です。
総合診療科のリーダーを作る
総合診療科と各科の壁を取り払えるといいですね。
同じ病院の中で育っていく人がいるのが一番いいですし、病院全体がうまくいくと思います。リーダーが他院から来たとしても、中育ちの人が何人かいるといいですね。いきなり赴任してきて、ほかの人たちも誰も知らないというようなところだと難しいでしょう。
人が育っていくためには時間がかかりそうです。
そうです。総合診療科の面白さを私たちのような世代の人たちが宣伝して、「こういうふうにやれているよ」というロールモデルを出していけるといいです。昔に比べると、今はそういう人が少しずつ出てきました。出てくるだけでなく、それを支える病院トップの理解も必要かと思います。
先生はどのようなことを伝えていきたいですか。
コモンディジーズをしっかり診るということです。よくある疾患を標準的にも、社会的にも、医療経済的にもきちんと診て、正しい医療展開をしましょうということですね。総合診療をドクターGみたいに珍しい病気を紐解いて見つけることだと勘違いしている人がいますが、それは違います。もちろん、そういうこともしますし、たまには他の人が分からなった病気が分かったということもありますが、コモンディジーズを標準的に診ることが大切です。これを若手の医師に伝え、その中から自分もそうありたいというリーダーが出てくれば、総合診療科がもう少し発展すると思います。
そういうリーダーを増やしていきたいですね。
当院は4年に1人ぐらいの割合で増えてきましたが、他院のことは分からないですね。若い人たちにこういう形もあるのだということを地道に啓蒙していく必要があるでしょう。学生時代には総合診療科にはなかなか触れる機会がありませんので。
大学での医学教育も変わるべきだと思われますか。
私は今大学の人間ではないですし、分からないですね。大学には基礎研究などのすべきことがほかにあります。これまでは、大学病院の中の診療科としての総合診療科を発展させるのは難しかったように思います。最近は少しずつですが大学の総合診療科が整備されてきています。そこから学生に総合診療科の魅力が伝わっていくとよいかと思います。それと、総合診療に興味のある学生は、初期研修では大学から出て総合診療科がある市中病院で勉強してほしいですね。さらに多くの初期研修医が市中病院に行くことで、総合診療を見る機会が増え、そういうところに逸材や適任者がもっとでてくるかもしれません。
医学部志望の高校生の中で総合診療科に興味のある人は多いです。
高校生はまだ現実を体感できてはいないと思います(笑)。テレビでかっこよく映っているからかもしれませんが、実際はこういう仕事をしているのだということを知ってもらえればと思っています。
将来、総合診療科の環境が変わっているといいですね。
「総診も増えたよね」みたいな感じになっているといいと思います。「若い総合診療医が増えたし、総合診療スタイルの病院が増えたねえ」と言えるといいですね。
ありがとうございました。