基礎医学の魅力
臨床の先生方に、基礎医学の魅力を語っていただけますか。
臨床の先生方もどこかで基礎研究に携わるといいと思います。そうすると、ものの見方が全く変わってきます。臨床で患者さんを診ている人が本当は一番いい問題提起をしてくるんです。それではどうやって解決するのかというときに、研究を全然したことがないと、その先に自分だけでは解決できません。だから、私はお医者さん一人一人が研究者になることが重要なのではないかと思います。
コラム・連載
臨床の先生方もどこかで基礎研究に携わるといいと思います。そうすると、ものの見方が全く変わってきます。臨床で患者さんを診ている人が本当は一番いい問題提起をしてくるんです。それではどうやって解決するのかというときに、研究を全然したことがないと、その先に自分だけでは解決できません。だから、私はお医者さん一人一人が研究者になることが重要なのではないかと思います。
実は私は千葉大学にいたときに、新医師臨床研修制度の委員会のメンバーだったんです。そのときに、この制度のもとでは全ての医師が研究マインドを持たなくなってしまう可能性があると言いました。研究者になる人が少なくなれば、医学部の基礎研究のレベルが下がってしまうから、その手当てをしてから、こういう制度を導入した方がいいのではないかと言ったんですよ。
そういう委員会は厚生労働省が決めたシナリオ通りに進みますからね(笑)。でも、私の提言に従って、医学部に「修士課程」というものができ、医学部出身者以外でも研究ができる体制が始まったんです。その点では良かったと思っています。それから私が医学部長時代にMD-PhDコースを作り、研究医養成プログラムを始めました。
MD-PhDコースは医学部の4年生を修了したら、大学院に行けるというものです。これは全国の医学部長会議で決めたもので、全国でそういう仕組みになっています。研究をしている医師でも最終的に研究を諦めたときに医師に戻りたいという人もいますから、MD-PhDコースだといつでも良いので、医学部の5年生に復学できることになっています。
千葉大学のMD-PhDコースの第1号は女性です。大学院生のときに東京大学に行き、それからハーバード大学に留学して、今もハーバードにいます。だから医学部に6年いましたが、国試を受けておらず、医師ではありません。
脳の研究です。東大にいたときに、同じ研究者仲間のご主人もつかまえましたよ。MD-PhDコースで博士号を取って、ご主人もつかまえて、ハーバードのポジションもつかまえたから、医師にならなくてもいいみたいです(笑)。それはともかく、短い期間で構わないので、どこかで研究をしてほしいです。
良かったです。基礎の先生方も私が臨床を1、2年したように、どこかで研究してほしいです(笑)。私は臨床マインドを捨てていません。基礎だけしかしていない人と臨床をした人の大きな違いがあります。それは基礎解析だけでは終わらないことです。臨床をすれば、人間にどういうふうに役立てるのか、患者さんをどういうふうにしたら良いのかがずっと頭にありますね。
基礎研究はお金がないので、企業のバックアップが非常に重要なポイントです。国の予算がやはり少ないですので、潤沢にしてほしいです。ただ、日本はアメリカよりは良いです。規模が違うので、ベースは全く異なりますが、関わる人間の数がアメリカは多いので、一人一人の取り分が少なくなります。アメリカはグラントに関して7、8%ぐらいの獲得率ですが、日本は25%ぐらいあります。日本は優遇されているのに、最近、科学予算が縮小されてしまいました(笑)。私がこのセンターを作ったときの方が科学予算は多かったので、今はかなりまずい状況です。
医学生にも臨床医と同じことが言えます。1年でもいいから、どこかで基礎的なトレーニングを積んでほしいですし、外国に行くことが重要です。日本の中では教授を含めて、限られた人しか周囲にいませんが、外国に行くとそれ以上の知識や考え方が得られます。短期間でもいいので、外国に行くこともお勧めします。
それはアンビシャスの心が足りない部分だと思います。何かを知りたいという気持ちがないと、アンビシャスになれません。そのきっかけを作ることが極めて重要です。やはり臨床の現場だけしかいないと、ある一定の場所になってしまうので、外国人との考え方の違いも分からないですし、知識が増えないんです。したがって、医学部の授業を他学部の人が聞けるといった仕組みなどを作るといいのではないでしょうか。そういうことをできる環境を作っていかないといけません。若いうちは小さいところにいるのではなく、なるべく色々な人と会うようにしましょう。
一番重要なポイントは「これは失敗だ」と思わないようにすることです。やり捨てというのは良くないかもしれませんが、実験を始めて、盤石にやって、出た結果に対しては失敗ではなく、「新しい発見になった」と思った方がいいです。それだけ実験というのはいい加減ではなく、盤石にすることが大事なのですが、そこから違うことが出てきたら、大発見だと思いましょう。それが研究者として、唯一のモチベーションです。
そうだと思いますよ。研究は楽しくないと意味がないです。楽しいとは何かと言ったら、将来のモチベーションを描くことや失敗ではなく、大発見なのだと思うことです。
あまりないですね。そういう考えを持たないようにしています(笑)。
それはゴルフですよ。ゴルフは極めて良いものですが、若いうちからしない方がいいです。あんなにお金がかかって、時間もかかってしまうものに若いうちからのめり込んでしまったら、何もしなくなってしまいます(笑)。
53歳のときです。結構ハマっていまして、73歳でシングルプレーヤーになりました。今、ハンディ9なんです。グランドシニアチャンピオンになりましたよ。
谷口先生には終始笑顔でお話して頂きました。
臨床マインドを持った研究者として免疫治療の世界に大きく貢献しつつ、仕事も遊びも楽しむスタイルをご自身で確率していらっしゃると感じました。
臨床でも基礎でも、すべては「患者さん」のため。
今後は、多くのアレルギー患者さんへ、朗報がもたらされることにも期待をしたいと思います。
著者プロフィール
元 国立研究開発法人理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター長
1940年新潟県長岡市生れ。
1967年千葉大学を卒業後、循環器医を目指して1年間のインターン中に心臓カテーテルを実習し、千葉大学医学部第一内科に入局するも、関連病院での入院患者日本第3例目のマクログロブリン血症患者の受け持ち医になったのを契機に、免疫学を勉強するために1968年大学院に入学
1974年千葉大学大学院医学研究科を修了すると同時に、日本で初めて千葉大学に設置された免疫学研究センター助手に就任する。
その後、オーストラリア、メルボルンにあるウォルター&エリザ・ホール医学研究所に留学。
1980年千葉大学医学部免疫学教授に就任する。
1986年NKT細胞を発見し、1997年NKT細胞リガンドが糖脂質であることを発見するとともに、その生体防御機能、免疫制御機能を明らかにする。
1996年から2000年まで千葉大学医学部長を務める。
また、1997年から1998年まで日本免疫学会会長を務める。
2001年に特殊法人理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター長に就任する。
2013年独立行政法人理化学研究所統合生命医科学研究センター特別顧問兼グループディレクター。
2018年から国立研究開発法人理化学研究所科技ハブ産連本部創薬・医療技術基礎プログラム臨床開発支援室で客員主管研究員を務める。
Nature、Scienceをはじめ400編以上の論文を執筆。
ベルツ賞1977、野口英世記念医学賞1993、上原賞2004、紫綬褒章2004、瑞宝中綬章2016受賞。
また、2000年には日本国際賞委員長として、天皇・皇后両陛下に免疫・アレルギーの特別講義を行った
2014年米国免疫学会は、免疫学の進歩に貢献したとして、“NKT細胞発見” を “Pillars of Immunology” の一つに認定した。