第5回
医療機器のこれから&若手医師に伝えたいこと(2/2)
若手医師へのメッセージ
― では後進の医師に向けて、メッセージをお願いします。
- 福永
- 今の若い医師がどう考えているのかは分からないけれど、僕自身は腹腔鏡手術も開腹手術も治療の中の一部に過ぎず、これらだけがいいものだとは思っていません。患者さんを治療するうえで使えるツールは多くあった方がいいです。その意味で、あらゆる手技を勉強してほしいですね。開腹手術を勉強すれば腹腔鏡手術に役に立つし、腹腔鏡手術を勉強したら開腹手術にも役に立ちます。僕たちが腹腔鏡手術を始めた頃は「開腹手術VS腹腔鏡手術」みたいな感じで、「どちらがいいのか」という時代でした。今はそういう時代ではありません。一人の医師が開腹手術も、腹腔鏡手術もする時代なんです。そのうち、さらに新しいツールが出てくるはずですが、僕はそれが出てきたときに、腹腔鏡手術を批判した、かつての医師のようにはなりたくないですね。若い先生方も新しいツールを素直に受け入れ、きちんと身につけ、正しいものかどうか評価してほしいです。
- 古閑
- 僕のキャリアは研究歴が長く、脊椎の内視鏡手術に取り組むようになったのは40歳を過ぎた頃でした。かなり年を取ってから、始めたんです。でも、そんな年齢からでも、やる気さえあれば、トップに行けます。ましてや医学部を卒業したばかりの24歳の若い人たちはもっとチャンスがあります。決めてかからないで、何にでも挑戦してほしいと思っています。
- 福永
- 同感ですね。昔、胃がんの専門家にはものすごい大御所が多くて、胃がんの専門家で教授になるというと、かなり年齢がいってからだった。でも、今は僕を含めて、胃がんや大腸がんの腹腔鏡で地位をしっかり確立して、いいポジションについている人が多い。そういう意味では腹腔鏡は医学の流れを変えたと思う。若い医師にもそういうチャンスがあるので、頑張ってほしいですね。
- 古閑
- 先入観で決めつけない方がいい。昔は開腹手術が胃がんの治療法だと言われていたけれど、あっという間に腹腔鏡手術に取って代わられた。これがもっと変わってくるかもしれないし、多分、変わる。その可能性はあるね。若い医師がその可能性にコントリビュートできるのは大きなチャンスだと思う。なぜかと言うと、医学の発展だけではなく、それをサポートする機器の開発など、社会全体の色々な分野が医学を後押ししているからです。
- 福永
- そう思うよ。そういう時代になっているよね。
- 古閑
- だから期待して、頑張ってほしい。
- 福永
- 腹腔鏡手術はなくなるかもしれないけれど、なくなってもいい。理想は患者さんが良くなることだから。腹腔鏡がなくなっても、もっといいものが現れたら、それでいい。
- 古閑
- 治療は進化しているよね。
- 福永
- 抗がん剤も本当に効くね。僕たちが医師になった頃と今とでは胃がんの考え方は全く違う。乳がんの世界で起きていることは5年後に大腸がんで起きる。僕たちが医師になった頃は乳がんは大きく取っていた。今はそんな時代ではない。抗がん剤やホルモン剤が出てきて、それがどんどん効くようになった。そうなると、外科の治療も大きく変わる。大腸はそうなりつつあるから、大腸の世界で起きていることが5年後に胃がんでも起きてくる。そして、次は食道がんや肝臓がん、膵臓がんに起きてくる。というのも、昔、胃がんになぜ大御所がいたかと言うと、彼らが「胃がんは特別だから。大腸がんでできることが胃がんではできない」と言っていたからだ。でも、胃がんは全く特別ではない。僕たちは胃がんだけではなく、乳がんも大腸がんも食道がんもやってきたから分かる。若い医師にも先を見ることが大事だと理解してほしい。
- 古閑
- 同感だね。
- 福永
- 今、生きている人が言っていることが全て真実ではない。大御所が言っているからといって、決して正しいわけではない。ほかの診療科でどんなことをしているのかを見たりして、医学全体を見る目を養ってほしいです。
- 古閑
- 今日はどうもありがとう。
- 福永
- こちらこそ、ありがとう。
《 トップドクター対談第2弾は徳田安春先生と古閑比佐志先生です! 》
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プロフィール
福永 哲(ふくなが てつ)
順天堂大学医学部
消化器・低侵襲外科 教授
【略歴】
- 1962年
- 鹿児島県奄美市生まれ。
- 1988年
- 琉球大学を卒業
順天堂大学医学部附属順天堂医院外科で研修を行う。 - 1992年
- 順天堂大学医学部附属浦安病院外科勤務(助手)。
- 1994年
- 米国ピッツバーグ大学 麻酔・集中治療部に留学(リサーチフェロー)。
- 1996年
- 順天堂大学医学部附属浦安病院 勤務。
- 2004年
- 癌研究会附属病院消化器外科 勤務。
- 2007年
- がん研有明病院消化器外科 勤務。
- 2008年
- 徳島大学医学部臓器病態外科学臨床教授
- 2009年
- 聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科臨床教授 併任。
- 2010年
- 聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科教授 就任。
- 2015年
- 順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器・低侵襲外科教授 就任。
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科客員教授 就任。
【資格・所属学会】
日本外科学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本がん治療認定医など。
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プロフィール
古閑 比佐志(こが ひさし)
岩井整形外科内科病院
副院長/教育研修部長
【略歴】
- 1962年
- 千葉県船橋市生まれ。
- 1988年
- 琉球大学卒業。琉球大学医学部附属病院で研修。
- 1988年
- 9月に沖縄赤十字病院
琉球大学医学部脳神経外科研究生 - 1989年
- 琉球大学医学部脳神経外科助手
- 1990年
- 沖縄県立八重山病院脳神経外科
- 1991年
- 琉球大学医学部附属病院脳神経外科
- 1992年
- 新潟大学脳研究所神経病理学講座に特別研修生として出向
- 1994年
- 北上中央病院脳神経外科
琉球大学医学部附属病院 - 1995年
- 豊見城中央病院脳神経外科
熊本大学大学院研究生
小阪脳神経外科病院脳神経外科 勤務 - 1998年
- Heinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学
- 2000年
- ヘリックス研究所第3研究部門主任研究員
新潟大学医学部脳研究所非常勤講師 - 2001年
- 湘南鎌倉総合病院脳卒中診療科 勤務
かずさDNA研究所主任研究員 - 2005年
- かずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダー
- 2006年
- かずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長
- 2008年
- 千葉大学大学院分子病態解析学非常勤講師
- 2009年
- 岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長
- 2012年
- 中国福建省厦門の漳州正興医院で微創脊椎外科主任医師
- 2014年
- 岩井整形外科内科病院教育研修部長
- 2015年
- 岩井整形外科内科病院副院長
【資格・所属学会】
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
日本整形外科学会
CONTENTS(全5回)
- 第1回 琉球大学同期生のふたりが卒後に選んだ道
- 第2回 新専門医制度が立ち遅れている理由
- 第3回 若い世代への教育&腹腔鏡手術が目指す場所
- 第4回 女性医師は内視鏡に向いている
- 第5回 医療機器のこれから&若手医師に伝えたいこと
トップドクター対談 バックナンバー
- 第4回
トップドクター対談
Dr.古閑比佐志×Dr.佐々木治一郎 - 第3回
内視鏡外科トップドクター 師弟対談
Dr.金平永二×Dr.稲木紀幸 - 第2回
内視鏡外科・総合内科トップドクター対談
Dr.古閑比佐志×Dr.徳田安春 - 第1回
内視鏡外科トップドクター 同級生対談
Dr.福永哲×Dr.古閑比佐志