第1回
琉球大学同期生のふたりが
卒後に選んだ内視鏡外科医の道
腹腔鏡のメリット
― そんなに大きな差なんですね。
- 福永
- 腹腔鏡の患者さんは手術翌日には座ることができますし、人によっては病棟を歩いていたりします。開腹手術はやはり痛いので、鎮静薬をしっかり使ったとしても、翌日に歩くことはとても無理です。腹腔鏡手術のメリットとして、痛みが少ないことや傷が綺麗なことも挙げられますが、我々の領域での何よりのメリットはお腹の中をいじり回さないことですね。本来のお腹の中は空気がないので、空気に触れていません。開腹手術で空気に触れること自体が刺激になるんです。ところが、腹腔鏡手術ではお腹の中を二酸化炭素で膨らませて、そこにスペースを作って手術します。だから、お腹の中が冷えないんです。開腹手術だとガーゼや手で押さえますから、腸管の回復が遅いですね。腹腔鏡であれば、お腹の中の環境が保たれますので、早く温まりますし、回復や退院が早くできます。
― 早く社会復帰できるのはいいですね。
- 福永
- かつては開腹手術をしてきた医師がよく「1カ月や2カ月、経ったら同じだ」と言っていました。今はそういうことを言う医師はいなくなりましたが、以前でも決して同じではなかったんです。胃がんの場合は上腹部に大きな傷がつきますので、術後の問題として癒着がありました。癒着が起きますと、ことあるごとに再入院になりますし、食事もしっかり摂れません。癒着を気にして、食事制限したり、それがもとで旅行に行けなくなったりすることもあります。しかし、腹腔鏡手術で癒着が起きた人はこれまで一人もいないんです。私が胃がんの手術を受けるのなら、開腹手術は絶対に嫌ですね。短期や中期の成績ばかり注目されますが、私は長期の成績こそが大事だと思っています。QOLも短期のみならず、長期も違うんです。
- 古閑
- 開腹手術しかしない医師は減っている?
- 福永
- 減ってきているね。
- 古閑
- 割合的にはどうなの?
- 福永
- 今は胃がんの手術の4割が腹腔鏡になっている。
― 福永先生は開腹手術もされますか。
- 福永
- もちろん、しています。割合は腹腔鏡が9割、開腹手術が1割ですね。開腹手術で紹介されることも多いです。「色々な理由から開腹手術を行おうとしたけれど、できなかったので、そちらでお願いします」といった依頼もありますし、いわゆる拡大手術と言われる、肝臓や膵臓などを一緒に取るという手術もあります。若手医師も両方のトレーニングをしています。
- 古閑
- 哲のところは大学病院だから、色々なところから患者さんが紹介されてくるよね。ものすごく難しい症例も多いと思う。僕は市中病院だから、そんなに難しい症例は来ない。口コミでの患者さんが来てくださっている。数は多いけれど、アドバンスな患者さんが少ないね。多いのは椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症だけど、そういう疾患なら9割が内視鏡で済む。オープンになることはほとんどない。
- 福永
- 比佐志のところの患者さんはインターネットで調べて来られているんだよね。僕のところはほかの病院で手術と言われた患者さんが「それなら腹腔鏡で」といらっしゃることがほとんどだよ。
- 古閑
- 患者さんの方が情報を持っているよね。
- 福永
- そうだね。むしろ、そういう時代の方が仕事をしやすい。手術を受けるのは患者さんであって、ご家族ではない。どんなに気をつけていても、手術での合併症はあるから、患者さん本人にきちんと納得していただきたい。治療方針が途中で変わることもあるけど、病状を完全に理解したうえで治療を受けてもらいたいんだよね。だから、「いくらでも調べてください」と言っている。調べて分からないことがあったら、話し合いをして、納得していただかないと治療はできない。
- 古閑
- 僕の場合は患者さんが多すぎて、丁寧に説明していると、僕自身が疲弊してしまう。そこでインターネットをうまく使って、タブレットに手術の情報などを入れておいて、「とりあえず、これを見ておいてください。分からなかったことは聞いてください」という工夫をしている。本当は丁寧に説明しないといけないんだろうし、怒って帰った患者さんもいらしたけど、こちらの身体がもたないよ。ただ、患者さんの中には調べ過ぎて、思い込みが激しい人もいる。哲のところでも「今回は開腹手術の方がいい」と判断しているのに、患者さんが「どうしても腹腔鏡で」と思い込んでいたら、説明するのは大変だよね。
- 福永
- 大きな手術になればなるほど、信頼関係がないと、合併症のリスクが高くなるしね。
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プロフィール
福永 哲(ふくなが てつ)
順天堂大学医学部
消化器・低侵襲外科 教授
【略歴】
- 1962年
- 鹿児島県奄美市生まれ。
- 1988年
- 琉球大学を卒業
順天堂大学医学部附属順天堂医院外科で研修を行う。 - 1992年
- 順天堂大学医学部附属浦安病院外科勤務(助手)。
- 1994年
- 米国ピッツバーグ大学 麻酔・集中治療部に留学(リサーチフェロー)。
- 1996年
- 順天堂大学医学部附属浦安病院 勤務。
- 2004年
- 癌研究会附属病院消化器外科 勤務。
- 2007年
- がん研有明病院消化器外科 勤務する。
- 2008年
- 徳島大学医学部臓器病態外科学臨床教授
- 2009年
- 聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科臨床教授 併任。
- 2010年
- 聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科教授 就任。
- 2015年
- 順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器・低侵襲外科教授 就任。
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科客員教授 就任。
【資格・所属学会】
日本外科学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本がん治療認定医など。
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プロフィール
古閑 比佐志(こが ひさし)
岩井整形外科内科病院
副院長/教育研修部長
【略歴】
- 1962年
- 千葉県船橋市生まれ。
- 1988年
- 琉球大学卒業。琉球大学医学部附属病院で研修。
- 1988年
- 9月に沖縄赤十字病院
琉球大学医学部脳神経外科研究生 - 1989年
- 琉球大学医学部脳神経外科助手
- 1990年
- 沖縄県立八重山病院脳神経外科
- 1991年
- 琉球大学医学部附属病院脳神経外科
- 1992年
- 新潟大学脳研究所神経病理学講座に特別研修生として出向
- 1994年
- 北上中央病院脳神経外科
琉球大学医学部附属病院 - 1995年
- 豊見城中央病院脳神経外科
熊本大学大学院研究生
小阪脳神経外科病院脳神経外科 勤務 - 1998年
- Heinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学
- 2000年
- ヘリックス研究所第3研究部門主任研究員
新潟大学医学部脳研究所非常勤講師 - 2001年
- 湘南鎌倉総合病院脳卒中診療科 勤務
かずさDNA研究所主任研究員 - 2005年
- かずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダー
- 2006年
- かずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長
- 2008年
- 千葉大学大学院分子病態解析学非常勤講師
- 2009年
- 岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長
- 2012年
- 中国福建省厦門の漳州正興医院で微創脊椎外科主任医師
- 2014年
- 岩井整形外科内科病院教育研修部長
- 2015年
- 岩井整形外科内科病院副院長
【資格・所属学会】
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
日本整形外科学会
CONTENTS(全5回)
- 第1回 琉球大学同期生のふたりが卒後に選んだ道
- 第2回 新専門医制度が立ち遅れている理由
- 第3回 若い世代への教育&腹腔鏡手術が目指す場所
- 第4回 女性医師は内視鏡に向いている
- 第5回 医療機器のこれから&若手医師に伝えたいこと
トップドクター対談 バックナンバー
- 第4回
トップドクター対談
Dr.古閑比佐志×Dr.佐々木治一郎 - 第3回
内視鏡外科トップドクター 師弟対談
Dr.金平永二×Dr.稲木紀幸 - 第2回
内視鏡外科・総合内科トップドクター対談
Dr.古閑比佐志×Dr.徳田安春 - 第1回
内視鏡外科トップドクター 同級生対談
Dr.福永哲×Dr.古閑比佐志