第2回
新専門医制度が立ち遅れている理由
新専門医制度について
― 新専門医制度についての考えをお聞かせいただけますか。
- 福永
- 日本外科学会は2016年度は新専門医制度に乗らないことを決めました。専門医制度機構ができたのが2014年です。機構の認定する認定専門医が標準になるということで、私どもも188のプログラムを作って、2016年2月の外科学会に提出したんです。しかし、7月の機構の総会で「今年は新専門医制度を始めない。各学会に運営を任せる」とアナウンスがありました。当然、専門医を受験したい人は学会に問い合わせますから、外科学会は8月1日に「新専門医制度に移行せず、来年度は現行制度で審査する」というアナウンスを出したんです。でも、病院によっては188のプログラムを公開しているところもあり、それでスタートしている後期研修医もいますから、「それも認めます」となっています。しかし、審査は現行のままです。学生も初期研修医も我々も振り回されていますよ。
- 古閑
- 僕は日本脳神経外科学会で活動している。脳神経外科学会も外科学会と同様で、現行でやることになった。機構は形だけできたけれども、中身もなく、人材もいないことが問題だと思う。ガバナンスだけ振り回して、実質面を管理できていない。僕の勝手な意見だけど、実質面を学会に落とし、学会に作らせておきながら、それを管理できないのは無意味だと思う。これまで学会がきちんとやってきたんだから、学会のイニシアティブを通して発展させる方向でないといけない。新専門医制度のもともとの意義は第三者による評価ということだったのに、今やそれが全く入っていない。もう少し方法があるはずだよ。
- 福永
- 地方の病院からも不満の声が上がった。新しい制度だと、地方に医師を派遣するという、本来の役割が担えなくなる。大都市はいいけど、地方の医局が成り立たなくなることが心配される。外科学会としてはそのバランスを取って、専門医数をコントロールしていきたい。
- 古閑
- 新専門医制度は第三者評価と地方にも医師を行き渡らせるという、2つの大きな目的があったのに、2つともうまくいっていない。
- 福永
- そうだよね。
- 古閑
- 学会には総会があって、講習会もしている。若い医師がそういう講習会に行くこと自体に批判はしたくないけど、単位取得のために講習会に出席するのだとしたら本末転倒だと思う。外科的な修練するセッションに顔を出さず、資格だけ取ろうとする医師が増えると、おかしな方向に行くよ。皆が本当の意味での勉強をしなくなり、単位取得のための学会になってしまう。それに、地方の医師はそれさえも参加しにくくなるから、地方の医師はかなり不利だよね。
- 福永
- 地方は初期研修医も後期研修医も集められなくなってしまうね。
― では、どうしていくべきでしょうか。
- 福永
- 外科学会は機構と十分な協議をすることに加え、サブスペシャリティの学会とも協議をしながら、プログラムを推進していく考えです。しっかりした専門医というのはきちんとした診断や治療ができる医師ですので、それを育てるためのプログラムを重視し、協力できるところはしていくというスタンスを保っています。
《 次ページ:若い世代への教育&腹腔鏡手術が目指す場所 》
-
プロフィール
福永 哲(ふくなが てつ)
順天堂大学医学部
消化器・低侵襲外科 教授
【略歴】
- 1962年
- 鹿児島県奄美市生まれ。
- 1988年
- 琉球大学を卒業
順天堂大学医学部附属順天堂医院外科で研修を行う。 - 1992年
- 順天堂大学医学部附属浦安病院外科勤務(助手)。
- 1994年
- 米国ピッツバーグ大学 麻酔・集中治療部に留学(リサーチフェロー)。
- 1996年
- 順天堂大学医学部附属浦安病院 勤務。
- 2004年
- 癌研究会附属病院消化器外科 勤務。
- 2007年
- がん研有明病院消化器外科 勤務する。
- 2008年
- 徳島大学医学部臓器病態外科学臨床教授
- 2009年
- 聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科臨床教授 併任。
- 2010年
- 聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科教授 就任。
- 2015年
- 順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器・低侵襲外科教授 就任。
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科客員教授 就任。
【資格・所属学会】
日本外科学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本がん治療認定医など。
-
プロフィール
古閑 比佐志(こが ひさし)
岩井整形外科内科病院
副院長/教育研修部長
【略歴】
- 1962年
- 千葉県船橋市生まれ。
- 1988年
- 琉球大学卒業。琉球大学医学部附属病院で研修。
- 1988年
- 9月に沖縄赤十字病院
琉球大学医学部脳神経外科研究生 - 1989年
- 琉球大学医学部脳神経外科助手
- 1990年
- 沖縄県立八重山病院脳神経外科
- 1991年
- 琉球大学医学部附属病院脳神経外科
- 1992年
- 新潟大学脳研究所神経病理学講座に特別研修生として出向
- 1994年
- 北上中央病院脳神経外科
琉球大学医学部附属病院 - 1995年
- 豊見城中央病院脳神経外科
熊本大学大学院研究生
小阪脳神経外科病院脳神経外科 勤務 - 1998年
- Heinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学
- 2000年
- ヘリックス研究所第3研究部門主任研究員
新潟大学医学部脳研究所非常勤講師 - 2001年
- 湘南鎌倉総合病院脳卒中診療科 勤務
かずさDNA研究所主任研究員 - 2005年
- かずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダー
- 2006年
- かずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長
- 2008年
- 千葉大学大学院分子病態解析学非常勤講師
- 2009年
- 岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長
- 2012年
- 中国福建省厦門の漳州正興医院で微創脊椎外科主任医師
- 2014年
- 岩井整形外科内科病院教育研修部長
- 2015年
- 岩井整形外科内科病院副院長
【資格・所属学会】
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
日本整形外科学会
CONTENTS(全5回)
- 第1回 琉球大学同期生のふたりが卒後に選んだ道
- 第2回 新専門医制度が立ち遅れている理由
- 第3回 若い世代への教育&腹腔鏡手術が目指す場所
- 第4回 女性医師は内視鏡に向いている
- 第5回 医療機器のこれから&若手医師に伝えたいこと
トップドクター対談 バックナンバー
- 第4回
トップドクター対談
Dr.古閑比佐志×Dr.佐々木治一郎 - 第3回
内視鏡外科トップドクター 師弟対談
Dr.金平永二×Dr.稲木紀幸 - 第2回
内視鏡外科・総合内科トップドクター対談
Dr.古閑比佐志×Dr.徳田安春 - 第1回
内視鏡外科トップドクター 同級生対談
Dr.福永哲×Dr.古閑比佐志