第3回

若い世代への教育&腹腔鏡手術が目指す場所(2/2)

あらゆる外科の手技に起きる現象

― 1991年に始まった腹腔鏡手術がここまで来たのは早いですね。

福永
いえ。もう20年以上が経っていますから、決して早くはないですね。世界で胃がんの手術が始まって、まだ120年ぐらいです。開腹手術がいかにも標準治療であるかのように言われていますが、120年しか経っていないものだし、腹腔鏡手術は既に20年が経っているんです。

― さらに早く進んでいないといけないとお考えですか。

福永
今は加速度的に伸びている時期に入っていますね。僕が市民公開講座などでよくする話なんですが、このグラフを見てください。縦軸が手術件数で、横軸が年代です。誰かがある手術を思いつきます。最初はその思いつきがなかなか受け入れられません。しかし、色々な人たちが「そんな手術があるんだ」と少しずつ興味を持っていきます。そして、手術を始めるようになるんですね。①のところです。

― 王貞治さんが腹腔鏡手術を受けられたニュースで、腹腔鏡手術が一般的に広まっていたように思います。

福永
それが①の頃ですね。しかし、ある程度、社会的に認知されるようになると、「この手術って、どうなんだ」と検証が入ります。そうすると、数が伸びなくなるんです。いわゆる抗がん剤などでの臨床試験はここで起きます。既存の治療とバーサスに比較されますから、いわゆる臨床試験中は数はストップとなります。②のところですね。

― そのあとは伸びるか、廃れるかなのですね。

福永
「既存の治療に比べて、これがいい」ということが証明されたら、爆発的に伸びますし、「既存の治療よりも駄目だ」ということになれば廃れていきます。あらゆる外科の手技にはこの現象が起きているんです。誰かが思いついたから、すぐに伸びるのではなくて、社会的に認められてくると、周りが真似をして増え始めます。でも、増えたら、「それは本当にいいの、どうなの」という制御が働いてくるんですね。そこで試験が行われて、その結果として良ければ、既存の治療が廃れ、こちらが伸びてくるんです。③のところです。

― 胃がんの腹腔鏡手術はどの段階ですか。

福永
④の段階に入っていますね。既に検証が終わっていますから、年々、件数が増加しています。しかし、早期がんに対する比較試験が始まった2010年頃は一時的に数が頭打ちになっていました。
古閑
僕がやっている7ミリの内視鏡手術は③だね。一方で、20ミリだと、④の域に入っている。
福永
だから、そこまで到達したパイオニアというか、先駆者が7ミリの内視鏡手術を始めたんだろうね。我々がやっているレジストポートの考え方もそう。腹腔鏡手術の究極は胃カメラで胃がんを切除することだけれど、もちろん適用が限られている。内視鏡が凄いところは診断であり、腹腔鏡の凄いところは切り取ることなので、両者を組み合わせた手術も既に国内で始まっている。やはり内視鏡手術の今後の流れは低侵襲化と適用の拡大だね。

その日のうちに診断を

― 最近は消化器内科と消化器外科を一緒にして、センター化する施設が増えてきましたね。

福永
我々のところは別ですが、診療は一緒にしています。外科にいらした患者さんでも腹腔鏡手術をせずに、内視鏡治療で済む場合もありますし、内視鏡治療として内科に紹介された患者さんのがんが少し大きかったので腹腔鏡手術でということもありますから、内科とのやり取りはかなり頻回に行っています。カンファレンスも多いですし、風通しを良くしていますね。今は本院に移ったばかりなので、これから内科とのカンファレンスをしていこうと思っていますが、浦安やがん研ではそうでした。最初から内科の医師に「遠方からの患者さんだから、当日に内視鏡で診断をつけて」と頼んでおきます。「うちの患者さんの何割かは内視鏡治療が必要なので大変だろうけど、当日にお願いしたい」と言っているので、内科医師も了承してくれて、うまくいっています。
古閑
僕のところの患者さんも遠くから来る方が多いので、当日になるべく検査を済ませたいと思っている。僕たちのメインはMRIなどの画像診断なので、セッティングを早くして、その日のうちに患者さんと話せるようにしたい。最終的な結論は出せないけど、そういう努力をしている。でも大学病院でそれをしているのは凄いね。
福永
遠くからいらしている患者さんにはその日のうちに何とか診断をつけてあげたいしね。我々のところに来るまでに、別の病院で診断を受けて、胃がんと言われて何週間か経っているわけだから、患者さんはとても不安なはずだ。そこで、我々は内視鏡での検査とより詳しいCTで診断をつけるようにしている。当然、別の病院でもCTを撮っているから、ある程度の情報量はあるので、我々のところで内視鏡での再検査とCTの結果を合わせて話しているよ。

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  • プロフィール
    福永 哲(ふくなが てつ)
    順天堂大学医学部
    消化器・低侵襲外科 教授

【略歴】

1962年
鹿児島県奄美市生まれ。
1988年
琉球大学を卒業
順天堂大学医学部附属順天堂医院外科で研修を行う。
1992年
順天堂大学医学部附属浦安病院外科勤務(助手)。
1994年
米国ピッツバーグ大学 麻酔・集中治療部に留学(リサーチフェロー)。
1996年
順天堂大学医学部附属浦安病院 勤務。
2004年
癌研究会附属病院消化器外科 勤務。
2007年
がん研有明病院消化器外科 勤務。
2008年
徳島大学医学部臓器病態外科学臨床教授
2009年
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科臨床教授 併任。
2010年
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科教授 就任。
2015年
順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器・低侵襲外科教授 就任。
聖マリアンナ医科大学消化器・一般外科客員教授 就任。

【資格・所属学会】
日本外科学会指導医・専門医
日本消化器外科学会指導医・専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本がん治療認定医など。

  • プロフィール
    古閑 比佐志(こが ひさし)
    岩井整形外科内科病院
    副院長/教育研修部長

【略歴】

1962年
千葉県船橋市生まれ。
1988年
琉球大学卒業。琉球大学医学部附属病院で研修。
1988年
9月に沖縄赤十字病院
琉球大学医学部脳神経外科研究生
1989年
琉球大学医学部脳神経外科助手
1990年
沖縄県立八重山病院脳神経外科
1991年
琉球大学医学部附属病院脳神経外科
1992年
新潟大学脳研究所神経病理学講座に特別研修生として出向
1994年
北上中央病院脳神経外科
琉球大学医学部附属病院
1995年
豊見城中央病院脳神経外科
熊本大学大学院研究生
小阪脳神経外科病院脳神経外科 勤務
1998年
Heinrich-Pette-Institut fur Experimentelle Virologie und Immunologie an der Dept. of Tumorvirologyに留学
2000年
ヘリックス研究所第3研究部門主任研究員
新潟大学医学部脳研究所非常勤講師
2001年
湘南鎌倉総合病院脳卒中診療科 勤務
かずさDNA研究所主任研究員
2005年
かずさDNA研究所地域結集型プロジェクト研究チームリーダー
2006年
かずさDNA研究所ゲノム医学研究室室長
2008年
千葉大学大学院分子病態解析学非常勤講師
2009年
岩井整形外科内科病院 脊椎内視鏡医長
2012年
中国福建省厦門の漳州正興医院で微創脊椎外科主任医師
2014年
岩井整形外科内科病院教育研修部長
2015年
岩井整形外科内科病院副院長

【資格・所属学会】
日本脳神経外科学会専門医
日本脊髄外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
日本整形外科学会

岩井整形外科内科病院 PELDセンター

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