研究者を育てる
最近では初期臨床研修制度の中で研究者への道を選択できるコースも設置されるようになりました。
医学部の入試は難しく、秀才中の秀才が集まります。その方々の中には研究をしたいという人が少なくありません。しかし、初期研修や専門医制度というシステムができあがったがために、研究をしにくい状況になってきました。私も若い人たちの興味が、臨床のみに向かっていることや専門医ばかりになってしまうことに危機感がありました。このような状況の中で、少しでも研究できる人の道筋を作っていくのは大事です。臨床現場の日常の中で、人を助ける仕事はとても大切なものですが、その中で医学の進展に寄与する道を作り、自分でその分野を発展させるという気概を持ってほしいです。
新しい道を作るということですね。
医学は絶えず絶えず発展しているものです。それを自分たちで作っていることに喜びを感じてほしいです。臨床でも新しい治療法の開発が必要です。そのために本当に基礎的なことを研究している臨床の研究者もいます。新しい医療機器の導入を考えるのも必要でしょうが、新しい治療法を開発するには臨床研究などの研究的な要素が入ります。治験なども含め、臨床の現場でも新しい治療法を開発することに携われる場所はあります。
研究だと心が折れそうになる人もいるのではないでしょうか。
人間ですから、折れることも一杯あります。しかし、折れても、倒れても、起き上がるしか仕方がありません。
どのようにして、モチベーションを保てばいいのでしょうか。
知的興味を持ち続けることが大事です。そして、そのために何をしなければいけないのかをよく考えることです。人間だから折れることもありますが、この治療法の開発を任されているのだと思うと、折れっ放しでは駄目で、軟弱なことを言ってばかりではいられません。
「患者さんのため」の臨床に比べると、研究は何のためにという気持ちを持ちにくいのかもしれません。
研究者のモチベーションは様々ですね。この基礎研究が、将来何億人を助けることにつながるという観点からモチベーションを高めるのも一つのやり方です。その一方、真理だけを追求して、これが人の役に立つのかどうかなんてどうでもいいという人もいます。ノーベル賞を取った人が、基礎研究が大事だと言うと説得力があって、かっこいいのですが、何のために研究をしているのか分からないまま、意欲がなくなり、しかもアウトプットを出さない方が、同じ事を言ったところで、説得力はありません。多くの場合、研究は国民の血税を使って行うものなので、基礎を究めたい人も、是非その覚悟を持って研究をやってほしいということです。
確かに研究には税金が関わっていますね。
そう考えると、遊んでいてもいいのだということにならないですよね。すぐに役立つ研究でなくてもいいので、それなりの責任感を持って研究するべきです。
研究資金について
山中伸弥教授が最近、研究の基盤を作るための資金援助をと講演で訴えておられました。
アメリカなどの強い研究所に比べると、日本は旧帝大でもまだ脆弱ですよね。しかし、アメリカではすごい競争があって、競争に勝っている人が強い研究所に行っているわけで、そこまで行かなかった人も山のようにいるわけです。それはプロ野球でもそうだし、どのフィールドにも言えることでしょう。ただ、アメリカはうまくいった人の援助のもらい方が半端ないんです。日本とは雲泥の差ですね。
そうなんですね。
そこまで差があると、少ない資金力でもどうやって戦うのかを考えるトレフィンになるかもしれません。しかし、日本で結構なグラントをもらっている人でもアメリカでのライバルと同じようなことをしようとすると全然足りていないというのが事実なんです。だから、例えばiPS細胞を使って研究や臨床をするとなると、別に贅沢をしているわけではなくても、結果を出していくことは難しいです。
機材などにもお金がかかりますよね。
私たちはこれでも、とにかく失敗を許されない最小限の予算でやっています。これはがんの世界でも、どのフィールドでも同様です。きちんと研究するにはお金がかかります。