研究成果を伝える
研修の成果を伝えていくことも大事でしょうか。
基礎研究の場合、これを明らかにしたいという知的好奇心を満たしていくためにはしっかり成果を出さないといけません。それはすぐにでなくてもいいですし、50年かかったというのでもいいのですが、成果を結んでいくことが求められます。そして、その成果を誰にも伝承しないというのはいけません。
自己満足では終われないですよね。
やはり人と人との繋がりは大切ですね。国際会議などに行くと、自分のフィールドに似たような人がいて、結構いい成果を出していたら、「こいつにだけは負けたくない」みたいな気持ちになります。人間臭いところですが、そこはすごく大事です。
最先端の研究をしつつも、人間臭いところもあるんですね。
人間がすることですからね。アメリカでも研究のフィールドに居続けることはそれなりに難しいです。一流大学の教授になっても、企業に行く人もいますね。やだ、企業に行っても、いい立場を得て、すごい研究開発を進めて、大学にいたときよりもはるかに良い成果を出している人もいます。一方で、普通のビジネスマンになって、研究の第一線から退く人もいて、残念です。それだけ研究をアクティブに続けていくことは大変なのですが、そこに人間臭いところが関わってくるんですね。
先生はどのようにしてモチベーションを保っておられるのですか。
キャリアが長くなってくると、それなりに弟子が育ってきて、それなりに偉くなってくるんです。そうすると、一緒にやろうかということになります。うちの卒業生と新たに共同研究をすると、弟子たちに助けられたりしますから、その意味では人を育てておいて良かったなと思いますね。人材育成は大事です。
それは嬉しいですね。若い先生にも刺激になりそうです。
若い人たちが自分もと思ってくれるといいですね。組織の新陳代謝や自浄作用にもなります。
失礼ながら、先生はいつまで第一線にいらっしゃりたいですか。
日本の定年は65歳ですが、これははっきり言って早すぎです。海外のライバルは65歳でも現役でやっているのに、なぜ日本では65歳で退かないといけないのかと思います。だから、何らかの形で研究を続けたいです。
素晴らしいですね。
研究を続けられる環境にいたいですね。基礎研究には当然、限りはないですし、臨床研究や臨床応用は成果を確認するまで時間がかかるので、いずれにせよ、今後も見届けたいです。
これからも先生にお話を伺えればと思います。
最近の若者
最近の若い方をご覧になって、いかがですか。
日本の若者を見ていると、二極化していますよね。ものすごくできる人とあまりやる気がない人がいます。
医学生がそうなのですか。
医学生もそうですね。もう少し何かがあればと思います。今は医師でもオープンイノベーションに興味を持つ人が増えています。大学が活力を保つためには大事なことではありますが、スタンフォードの教授たちはトップの連中がそちら側に行って、会社を作ったりすると嘆いています。
そうなんですね。
それがシリコンバレーの活力を作ったわけですが、ただ金儲けするのではなく、自分たちの研究を社会に活かし、社会実装したいという思いを持ってほしいです。そして、それが大学にフィードバックされるようにしてほしいと願っています。そちら側に行ってしまうと、勉強自体に興味がある人が少なくなることを危惧しています。私はそれを推進する方ではありますが、オープンイノベーションへの流れは劇薬だなと思っています。
以前に比べると、大学は変わってきたのでしょうか。
変わりましたね。昔の教授であれば、臨床なら臨床の現場で学生を教え、研究なら研究の現場で学生を教えていたのでしょうが、今は論文を出すよりも早く特許を出さないといけないという風潮があります。そして、それを企業にライセンスアウトという流れがあります。自分自身で研究を高めていくのはいいことですが、特許の方に本気になるのはまずいです。