コラム・連載
第8回 社会貢献活動
高須院長は社会貢献活動にも熱心でいらっしゃいますね。
大学時代のクラスメートで、熊本県の天草地方で診療所を開業している人がいます。僻地医療をしている先生たちは何でもできる名医が多いのですが、彼もその一人です。昭和大学の形成外科で助教授をしていた人だけれど、「高須、俺はやっぱり世の中のために尽くしたい」と言って、天草で診療所を始めたんです。その彼のところに行った帰りに熊本地震に遭いました。そして、すぐにヘリコプターで助けに行ったんです。
熊本地震は前震と本震がありましたね。
熊本の人に「どうして熊本に助けに来るんですか」と聞かれたので、「熊本の友人のところに行った帰りに地震に遭ったからだよ。熊本の人はさぞかし困っているだろうと思って」と言っていました。前震のあとでもう大丈夫かなと東京に戻ったら、夜明けに本震が来て、壊滅的になってしまいました。そして、またヘリコプターに医療器具や薬を積んで、救援に行きました。
熊本のどちらにいらしたのですか。
阿蘇大橋が崩落した南阿蘇村が一番酷かったので、そこを中心に行きました。熊本空港が使えなかったので、隣の県の佐賀空港を使って、そこからピストン輸送です。何十回も被災地と佐賀空港を往復しながら、水、医療物資、医薬品を運びました。ヘリコプターが小さいから、苦労しましたよ。私が帰るときになって、オスプレイがブーンとやって来て、一発で運び終わっていたのを見て、オスプレイが欲しいなと思いました(笑)。オスプレイがあれば、私どもの看護師も載せて助けに行けますからね。そういう震災のような天変地異があったときには「美容外科医でございます」というのは恥ずかしいものです。
でも美容外科医ならではの貢献もなさっていますよね。
東日本大震災のときは被災地にフィラーを持っていきました。長い間、避難所や仮設住宅にいて人間と会っていないと、心が荒んで、シワやシミが増えるんです。だから、シワをパッパッと取ってあげると、心が明るくなって、希望が湧いてきます。「プチ整形で鼻を少しだけ高くしたい」という要望もあったので、年配の方には美容クリームを配り、自分でできる美肌ケアの話をしました。皆が笑顔になってほしい、怪我の治療だけでなく、心のケアをしていきたいという思いがありました。
素晴らしいですね。
大きな災害の被災者の方は高須クリニックは無料です。阪神大震災のときは1年間、東日本大震災のときは2年間の無料期間を設けました。車に火をつけられた被害者の方も無料で診ました。予約も不要で、来院したら、すぐに診てさしあげています。
東日本大震災の被災地では本当にご活躍でした。
被災された方の苦しみを見て、これは行動しなければいけないと思ったんです。一緒に働いている医師や昭和大学の後輩たちの協力もあり、ボランティア治療に赴くことができました。東松島、石巻、福島に往診に行き、メンタルケアや仮設風呂の設置もしました。仮設風呂を設置したのは身体を清潔にすることが精神的なケアにも繋がるからです。被災者の方は避難所でプライバシーがなく、心身ともに不自由な生活をされていましたから、メンタルケアをしたかったんです。その後、被災者の方が避難所から仮設住宅に移られたので、その仮設風呂はボランティアの方々に使っていただきました。
一般財団法人高須克彌記念財団でそうした社会貢献活動を推進されているのですね。
東日本大震災で被災した方で、2012年度に昭和大学に入学した方には奨学金給付制度を作りましたし、東北音楽療法推進プロジェクトにも寄付をしています。2018年には西日本豪雨がありましたが、これに見舞われた昭和大学の学生にも奨学金を授与しました。かっちゃん基金という財団も設立し、ひとり親家庭の子どもや医師を目指しているけれども経済的な問題を抱えている子どもを支援しています。私のことを金儲けのために美容外科医をしていると思っている人もいるかもしれませんが、「医は仁術なり」を最も実践しやすいのはお金持ちからお金をいただける美容外科医なんです。
母校の昭和大学にも大きな貢献をなさっていますよね。
美容外科学の開講に協力しました。美容外科医は大学を卒業してから、どこかのクリニックで見様見真似で美容外科を習う人がほとんどです。しかし、美容外科がより社会に貢献できる医療となるにはしっかりとした知識や技術の修得によって信頼を得ることしかありません。そこで、若い学生に美容外科の専門知識や技術を学んでいただくことが大切だと思い、昭和大学で美容外科学を開設することを提案し、2011年に実現させました。この講座によって得た知識や技術が世の中に役立ってほしいですね。
海外への貢献に関してはいかがですか。
2013年のフィリピン地震のときには日本赤十字社を通して寄付しました。国境なき医師団日本への支援も行い、病室を寄付しました。パプアニューギニアには学校も建てました。私にとってのお金は血液みたいなもので、循環させてこそ意味があります。お金があるなら、慈善活動やスポンサーとして使うのが有意義ですし、何よりも楽しいです。人が喜ぶ顔を見るのは何よりも幸せですね。美容外科を始めたのも、それまで良い治療をしても、患者さんにあまり喜ばれなかったからです。感謝されることは私にとって大事なことです。長生きするだけで幸せ、健康であれば満足とは割り切れないですし、外見を若くしたり、美しくすることで患者さんに幸せをもたらすことのできる美容外科はこれからの超高齢社会ではさらに身近なものになるはずです。私も美容外科医として、どのぐらい長く現役でいられるかは分かりませんが、患者さんを幸福にする使命を果たしていきたいと考えています。
著者プロフィール
著者名:高須 克弥
高須クリニック 院長
- 1945年 愛知県幡豆郡一色町(現 西尾市)で生まれる。
- 1969年 昭和大学を卒業する。
- 1973年 昭和大学大学院を修了する。
- 1974年 愛知県幡豆郡一色町に高須病院を開設する。
- 1976年 愛知県名古屋市に高須クリニックを開設する。
- 2011年 昭和大学医学部形成外科学(美容外科学部門)客員教授に就任する。
- インタビュー 高須克弥先生に訊け
- 25. 2022年の再生プロジェクト
- 24. 前科者の会
- 23. 高須クリニック銀座移転
- 22. GonzoさんとのCM撮影
- 21. 新型コロナウイルス第6波
- 20. 再生プロジェクト
- 19. がんを治療する
- 18. がんを発見する
- 17. 末期がんに対する挑戦的治療法
- 16. 新型コロナウイルス第5波
- 15. 本物と偽物
- 14. フェイスシールド
- 13. 医師国家試験
- 12. 昭和大学での日々
- 11. 東京オリンピック
- 10. ウィズコロナの時代に
- 09. 最近の美容外科に警鐘を鳴らす
- 08. 社会貢献活動
- 07. 愛知県に暮らす
- 06. 新型コロナウイルス
- 05. 新しい美容外科
- 04. ミケランジェロ™
- 03. 国際交流
- 02. 血液クレンジング
- 01. 美容外科のニーズ
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長