コラム・連載
シーズン4 第2回 末期がんに対する挑戦的治療法
2021年6月から末期がんに対する挑戦的治療法を始められ、7月に退院されました。これはどのような治療法なのですか。
私は尿管系のがんで、既に8回の手術をしています。その手術の中で、右側の腎臓は摘出したのですが、膀胱は残しているので、どうしても膀胱からがん細胞が広がります。膀胱を残したのは全て摘出すると、日常生活に支障をきたすからです。そうした大がかりな手術でのがん治療ができないとなると、抗がん剤治療をしなくてはいけません。今回は保険適用で点滴にしか使えない末期がん用の抗がん剤を尿管から直接がんにぶつけようというものです。
新しい抗がん剤なのですか。
新しいものではなく、以前からあるものです。点滴で入れることは保険診療で許されているものですが、尿管から膀胱に直接入れるという使い方は許されていないので、自費での自由診療です。しかも、一つが自由診療になると、水虫や湿疹の治療さえ自由診療になるんです。一つ保険の効かないものを使ったら、全部に保険が効かなくなります。日本ではそういう制度になっているんです。
日本には混合診療の制度がないですからね。
これは混合診療なんですけどね。お金の話は医学の話とは別ですが、「高須と同じ治療をしたい」と言ってくる方にはアドバイスをしています。そこでよく話すのが「どこかの病院に普通に入院していても、1カ月経つと部屋代から食事代まで全てが自由診療になる」というものです。それまで給食を食べていたのがいきなりぼったくりバーに入ったようなものです。良心的なところならまだしも、はじめから「ぼったくりバー」と看板を出しているところなんてありません。普通の給食を出しているところにそのつもりで行っても、一つ何か食べた途端に何もかもが高級レストランになってしまいます。
そうだったのですね。
これは私たちの世界のことではなくて、政治の世界の話ですが、挑戦的な治療に取り組みたい医師や患者には不自由なことです。治験をするのはむしろ医学に貢献していることなのにと思います。普通の診療が自由診療に変われば、いきなり20倍ぐらいの医療費になります。
そうなると、受けられる人も限られますね。
だから皆が受けないですよ。病院では何かするときには必ず「これはこういうふうにして使えば、保険診療でも大丈夫です」とアドバイスをしてくれます。それでも保険診療で使える薬を保険診療で許さない方法で使ったら、医療費が突然、莫大に上がるのは変ですよね。コーヒーを口から飲むのは普通の価格だけれど、鼻から飲んだら一杯1万円になるのと同じです。鼻から入れても口から入れても同じなのに、「鼻から入れるのは許されていないから、口から入れるときとは違うお金を払ってください」と言って、10倍の価格に跳ね上がるんですからね。
今回の治療は何回される予定ですか。
8回を予定しています。1回目は1カ月ほど入院しましたが、2回目は通院にします。2回目は8月末から始まりました。この1回目の治療で、がんの進行を減速できたようです。身体は重く感じましたが、心は軽くなり、気力も充実しました。
1回目は副作用がきつかったんですよね。
身体中がむくんだり、湿疹が出たり、眠れなくなったりしました。その都度、主治医に報告して、対応してもらいました。でも、本作用を期待するのであれば、副作用は覚悟しなくてはいけません。今回の新型コロナウイルスのワクチンでも副反応で亡くなる人は本当にわずかで、ワクチンを打ったら助かる確率は90%近くまで上がるわけです。折角、救援の飛行機が来ているのに、飛行機が落ちるかもしれないから乗らないというのはおかしいです。アフガニスタンの人たちが飛行機の尾翼に飛び乗ったりしていましたが、イチかバチかの勝負をしているわけですよね。映画のランボーが走って飛行機に飛び乗るシーンを思い出しました。
副作用も覚悟しないといけないですね。
西原理恵子が『ビッグコミックスペリオール』で連載している『ダーリンは76歳』で、私のむくんだ顔をものすごく恐ろしい顔に描いていましたよ。その治療で外見がぼろぼろになったので、1回目が終わったあとに、顔とボディの再生プロジェクトを行いました。
再生プロジェクトのお話は回を改めて、お伺いします。
著者プロフィール
著者名:高須 克弥
高須クリニック 院長
- 1945年 愛知県幡豆郡一色町(現 西尾市)で生まれる。
- 1969年 昭和大学を卒業する。
- 1973年 昭和大学大学院を修了する。
- 1974年 愛知県幡豆郡一色町に高須病院を開設する。
- 1976年 愛知県名古屋市に高須クリニックを開設する。
- 2011年 昭和大学医学部形成外科学(美容外科学部門)客員教授に就任する。
- インタビュー 高須克弥先生に訊け
- 25. 2022年の再生プロジェクト
- 24. 前科者の会
- 23. 高須クリニック銀座移転
- 22. GonzoさんとのCM撮影
- 21. 新型コロナウイルス第6波
- 20. 再生プロジェクト
- 19. がんを治療する
- 18. がんを発見する
- 17. 末期がんに対する挑戦的治療法
- 16. 新型コロナウイルス第5波
- 15. 本物と偽物
- 14. フェイスシールド
- 13. 医師国家試験
- 12. 昭和大学での日々
- 11. 東京オリンピック
- 10. ウィズコロナの時代に
- 09. 最近の美容外科に警鐘を鳴らす
- 08. 社会貢献活動
- 07. 愛知県に暮らす
- 06. 新型コロナウイルス
- 05. 新しい美容外科
- 04. ミケランジェロ™
- 03. 国際交流
- 02. 血液クレンジング
- 01. 美容外科のニーズ
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長