コラム・連載
シーズン4 第3回 がんを発見する
先生がご自身のがんを発見されたのは2015年だったそうですね。
人間ドックがきっかけです。「異常なし」と言われたのですが、検査結果をよく見ると尿検査で血尿の反応があったので、医師としての勘が働き、「細胞診をしてくれ」とオーダーしました。
どのような細胞診を受けられたのですか。
組織を採取して、菌や腫瘍の存在を詳しく調べました。細胞診は人間ドックのメニューにはないので、結果もすぐには出ません。3週間後ぐらいに結果が出て、「がん細胞が出ました」と言われたんです。血尿が出たということはがんは尿管系か腎臓か膀胱のどこかだろうと思って調べたら、その全部からがんが見つかったのです。というのも、尿管がんになったら、すぐに腎臓がんになるし、そうなれば膀胱がんにもなるからです。これらの臓器は繋がっていますので、それは当然のことなんですね。
そのときのご心境をお聞かせください。
大して驚くことなく、「ああ、来たのか」としか考えませんでした。人間は200歳まで生きることはなく、どうせ死ぬんです。しかし長生きすれば、皆ががんになります。学生時代の解剖実習で、教授から「人間は次第に細胞が死滅していくが、がん細胞は生き続けるから、長生きすれば、最後はがんだけが残る」と教えていただきました。確かに、枯れ木のようになった高齢の方の検体からは複数のがんが確認できました。逆に、がんになる前に寿命が来るハツカネズミはがんにならないんです。人間は長生きになったから、がんになるのは当たり前なのです。だからイボができればそれを取るし、歯が抜ければ差し歯をするように、がんを見つけたら取るだけです。これも「メンテナンス」の一環だと捉え、すぐに開腹手術を受けて、尿管と膀胱半分と左側の腎臓は取ってしまいました。
膀胱の半分は残されたのですね。
万全を期すならば、膀胱は全部取るべきなのですが、私は半分残そうと考えました。膀胱を全摘すると人工膀胱になりますが、人工膀胱のケアは大変です。手術などの自分の仕事に支障を来しますので、QOLが損なわれるんですね。私の生活での優先順位の最上位は仕事です。入院中であっても、手首に患者タグをつけたままで病院を抜け出し、手術をするために自分のクリニックに行っていました。がんは即死しませんから、切除できるところは切除しましたが、残したところのうち、軽いところにはBCGなどの治療をしたんです。ただ、反対側の尿管のがんがいつまで経っても取れません。尿管も怪しいですし、腎臓もやられていますから、全部を取ってしまうと生きていけなくなります。これで終わりだなと思ったこともありました。しかし、先月お話しした末期がんの治療をする薬剤を尿管に直接ぶつける治療は効果があり、今は収まっているところです。
2015年に見つけられたとのことですが、公表されたのは2017年でしたね。
私の周囲の人には言っていたんです。がんになった友人たちと「がん友の会」を作っているぐらいですし、隠していたわけではありません。膀胱がんの手術をしたことを初めてツイッターでつぶやいたのが2017年5月でした。そして2018年に樹木希林さんが亡くなったときに、背中を押されました。樹木さんがご自身のがんを「全身がん」とおっしゃっていたのですが、「全身がん」は医学用語ではありません。でも、いい表現を広めてくださったなと思いました。そして、そのような全身がんでもお仕事を頑張っていらした樹木さんを偲び、「僕も樹木希林さんといい勝負だ」と言ったら、それが報道され、皆が知るようになりました。
公表されてから、周りの方々の反応は変わりましたか。
私の周囲の人たちは皆、医師なので、特に変わっていません。私ががんであることを報道するかどうかの違いでしかないんですよね。報道されたり、いくつかのテレビ番組に取り上げられたことで、「どうも大変らしい」と伝わっていったようです。
患者さんからも色々と尋ねられますか。
高須クリニックでは「先生が生きているうちに、しわ取りの施術をしてもらいたいです」という患者さんがよくいらっしゃいます。高須病院でもご高齢の方に励まされますね。皆さん、私がまもなく死んでしまうと思っていらっしゃるようです。
がん友の会
がんに罹患された方々との交流が盛んなのですよね。
手術不可能ながんの友だちは3人います。抗がん剤を使えないという人もいますが、がんはすぐには死なないものです。実は先日、そういう友だちの一人が「俺、いよいよ駄目だと思う。もうこれでさよならだな」と言うので、「そういうことを言う奴こそ保つんだ。死ぬ死ぬと言っている奴がすぐ死んだためしはない。死ぬぞと言ってからが長いんだぞ」と言ったんです。そうしたら「ありがとうございます。元気が出ました」と言われ、電話を切りました。翌朝、ご家族から「あのあと亡くなりました」と電話があったんです。折角、別れを言ってくれたのに茶化してしまって悪かったなと思いました。でも、がん友とは楽しくやっています。電話をして「死んだか」と聞くと、「死んでねえよ。死んでたら電話に出るかよ」と言ってくる友だちもいます。
ご相談を受けることも多いですか。
多いですね。頭頸部がんが縦隔に転移した友だちもいます。心房細動があったうえに大動脈にステントが入っていて、血液サラサラの薬も飲んでいる人だから手術もできないし、薬もいいものがないと言うので、頭頸部がんなら光免疫療法はどうかと言いました。これは光に反応する化学物質を体内に入れ、近赤外線を照射すると化学反応が起き、がん細胞を攻撃するというものです。私がもし頭頸部がんになったのなら、これを試してみると思います。がん友からはそういった相談を受けたり、皆とよく話したりしています。
著者プロフィール
著者名:高須 克弥
高須クリニック 院長
- 1945年 愛知県幡豆郡一色町(現 西尾市)で生まれる。
- 1969年 昭和大学を卒業する。
- 1973年 昭和大学大学院を修了する。
- 1974年 愛知県幡豆郡一色町に高須病院を開設する。
- 1976年 愛知県名古屋市に高須クリニックを開設する。
- 2011年 昭和大学医学部形成外科学(美容外科学部門)客員教授に就任する。
- インタビュー 高須克弥先生に訊け
- 25. 2022年の再生プロジェクト
- 24. 前科者の会
- 23. 高須クリニック銀座移転
- 22. GonzoさんとのCM撮影
- 21. 新型コロナウイルス第6波
- 20. 再生プロジェクト
- 19. がんを治療する
- 18. がんを発見する
- 17. 末期がんに対する挑戦的治療法
- 16. 新型コロナウイルス第5波
- 15. 本物と偽物
- 14. フェイスシールド
- 13. 医師国家試験
- 12. 昭和大学での日々
- 11. 東京オリンピック
- 10. ウィズコロナの時代に
- 09. 最近の美容外科に警鐘を鳴らす
- 08. 社会貢献活動
- 07. 愛知県に暮らす
- 06. 新型コロナウイルス
- 05. 新しい美容外科
- 04. ミケランジェロ™
- 03. 国際交流
- 02. 血液クレンジング
- 01. 美容外科のニーズ
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長