コラム・連載
シーズン3 第5回 本物と偽物
美容医療の世界では本物か、偽物かという話がたまに出ますね。
偽物はどこの世界にもあります。ブランドのようなものだから、その会社が認めていないものは偽物なのです。新型コロナウイルスのワクチンにしても、ワクチン製造の工場ではなく、そのへんのおじさんが家で作ったものを打っていれば、偽物です。きちんと責任を持って提供しているものが本物なのか、偽物なのかは作った人にしか見えません。トヨタの車と言えばトヨタの車であって、トヨダとタに濁点がついていえば偽物です。そう言えば、韓国にはダカスクリニックがありました(笑)。
タに濁点があったのですね。
DAKASUというスペルなのですが、韓国語の読み方ではTAKASUになるそうです。それは明確に偽物だと言ったのですが、院長が「高須先生を尊敬しているので、悪意なく作りました」と言うので、私は「認めます」と言いましたよ。その瞬間にDAKASUクリニックは本物になったわけです。しかし、そのあとDAKASUクリニック化粧品と銘打った化粧品を東南アジアで売り始めたので、それは偽物だと言いました。結局、大韓美容外科学会から除名されたようです。
ピコレーザーに関してはいかがですか。
メーカーが本物だと言えば本物ですし、認めなかったら偽物です。でも、有効かどうかは医師が決めることです。仮にがんが治る薬があったとしても、それで治らなければ、それは偽物なのではなく、薬が効かなかっただけなのです。効かない本物よりも効く偽物の方が患者さんのためになります。
新型コロナウイルスのワクチンは本物ですか。
本物ですよ。長期的な安定性は担保されていませんが、マイナスよりもプラスの方が大きいから使うんです。手術にもマイナスはありますが、利益の方が大きいから手術をするんです。副作用のない薬はないですし、効かない薬もあります。それが担保されているものこそ、偽物です。「毒にも薬にもならない」ものは毒にも薬にもならないのです。ほとんどの薬は毒物学を由来しているので、毒が薬である可能性は高く、副作用が本作用として認められている薬も多く存在しています。そんなつもりでなく開発したのに、こういう副作用があると分かったら、その副作用を利用して使おうという発想ですね。大昔から皇帝を毒殺するために使ってきた薬は人を殺すことに有効だと認められた薬です。毒薬が効かなかったら、それは薬ではありません。青酸カリのように死ぬための薬もありますが、青酸カリは色々なところで役に立っています。毒だから全部排除することになったら、薬はなくなります。いいことが多いから使うのであって、運用でのプラスか、マイナスかという話に過ぎません。
医学生や若い医師へのメッセージ
若い方々に激励をお願いしたいと思います。
頭が固い、若い人たちを教えてやると、皆が私の信者になりますよ(笑)。だから、我が家では孫たちのところに爺さんを近づけると、孫たちがスポイルされてしまうと隔離されています。孫たちは医学部を目指して頑張っているのに、私の話を聞くとモチベーションが下がるんだそうです。孫たちは医学部に入るぐらいの学力はあります。でも、医師にならなくても、もっといい仕事があるかもしれないのだから、その才能を活かしたまえと思うんです。医師は目の前にいる人しか救えないので、救える人がとても少ない、つまらない商売です。優秀な人が医師になるぐらいだったら、人類を救えるぐらいの発見や発明をする人になってほしいです。若い人には時間と自分の意志があり、無限の可能性もあるのに、目の前の就職や安定性のある経済状況に惹かれて医師を目指させるのはおかしいです。
ご家族で言い合いになりますか。
なりませんよ。本当のことですから。うちの孫の中にはめちゃくちゃピアノがうまくて、ベートーヴェンの曲をさーっと弾ける子やハープが弾ける子がいます。私は音痴なので、そういう孫たちをすごいなと尊敬しています。それで「これで身を立てたら」と勧めると、「私程度の人はいくらでもいるから」と言うんです。
先生も漫画家志望だったんですよね。
そうです。漫画家になりたかったけど、「バカではない証拠に医師免許を取れ」と言われて取っただけのことです。私は自己紹介でも「医師もできる」と書いているだけで、最初から医師だとは言いません。パーティーなどでも「高須さん、美容整形の『Yes! 高須クリニック』をやっている人だと、うちの女房が言うんだけど、本当かね」と聞かれるぐらいですし、お寺さんでも「高須氏は医師もなさっているそうですね」と聞かれます。だから、今日は医師をしています。明日はしていません。それに、私の書いた本は売れないし、宗教家や思想家としても認められていません(笑)。医師の仕事だって、皆がしないことをしているだけです。
美容医療を始めた人は多いけれど、先生の域に追いつけた人はいなさそうです。
すぐに追いつけますよ。私より先に行っていた人たちはいましたが、皆さん亡くなったから、私がナンバーワンになっただけです。100年生きるのは大変なんですよ。マラソンと同じで、前のランナーがばたばたと倒れたら、先頭を走れます。私が尊敬しているのは中曽根康弘さんの世代の人たちで、ドクター中松はその最後の人です。
まだ現役の方も多い世代ですね。
森喜朗元首相も私より状態が悪いのに頑張っています。だから、あの世代の人たちが叩かれると、すごく頭に来ます。私の前を歩いている人たちを全員尊敬しています。後ろを歩いている人たちには「早くついてきてください。変な道に行かないようにね。ただし、皆が行く道を行くと間違うから、皆が行かないところが正解です」と言いたいです。
皆が行かない道を見つけるのは大変です。
それは簡単です。競馬でも多くの配当をもらいたかったら、皆が買わない馬を買うことです。損する人の方が多いのに、なぜ皆が損する人のあとをついていくんでしょう。冒険すればいいんです。冒険したら、必ずインカムがあります。皆が掘り尽くした金鉱を掘りに行くのは馬鹿だと思います。新しい金鉱を掘りに行くのが金鉱掘りの誇りです。掘り尽くしたところを掘るのは今からパチンコ屋を始めるようなものです。
それではどのようにしたら、チャンスを掴めますか。
かつては結核の治療や胃がんの手術がもてはやされた時代がありましたが、そういう時代は変わります。今は新型コロナウイルスだと言われていますが、そのうちにただの伝染病の一つとして、「あんなにパニックになった時代があった」と歴史に残ります。今、新型コロナウイルスの専門家になるのは手遅れです。この新型コロナウイルスは必ず収束すると断言します。それを分かっているのに、やたらと怖がる医師もいますが、気の利いた医師にとっては千載一遇のチャンスです。それが何なのか、私には分からないのですが、皆がしないことをするチャンスと言えるでしょう。大勢の外国人を誘致して、観光で稼ごうというビジネスチャンスは崩れましたが、これを早めに手仕舞いし、このあとどうやって稼ぐのかを考えている人が次の時代の覇者です。いつまでも倒産する企業が出るわけがなく、これから倒産止まりになります。
最後にメッセージをお願いします。
これから医師になる皆さん、いい働き口を探している医師の皆さん、志があるなら、高須病院に医師として働きに来てください。夢がない職場のようですが、新型コロナウイルスに汚染されていない唯一の病院だと自信を持っています。高須病院はナウル共和国のように鎖国状態の街にありますから、高須病院では絶対に感染しません。でも高須クリニックには来ないでください(笑)。高須クリニックは陸の孤島ではなく、都会なので感染の脅威にさらされています。生命を大事にして働きたい方は是非、高須病院にいらしてください。
著者プロフィール
著者名:高須 克弥
高須クリニック 院長
- 1945年 愛知県幡豆郡一色町(現 西尾市)で生まれる。
- 1969年 昭和大学を卒業する。
- 1973年 昭和大学大学院を修了する。
- 1974年 愛知県幡豆郡一色町に高須病院を開設する。
- 1976年 愛知県名古屋市に高須クリニックを開設する。
- 2011年 昭和大学医学部形成外科学(美容外科学部門)客員教授に就任する。
- インタビュー 高須克弥先生に訊け
- 25. 2022年の再生プロジェクト
- 24. 前科者の会
- 23. 高須クリニック銀座移転
- 22. GonzoさんとのCM撮影
- 21. 新型コロナウイルス第6波
- 20. 再生プロジェクト
- 19. がんを治療する
- 18. がんを発見する
- 17. 末期がんに対する挑戦的治療法
- 16. 新型コロナウイルス第5波
- 15. 本物と偽物
- 14. フェイスシールド
- 13. 医師国家試験
- 12. 昭和大学での日々
- 11. 東京オリンピック
- 10. ウィズコロナの時代に
- 09. 最近の美容外科に警鐘を鳴らす
- 08. 社会貢献活動
- 07. 愛知県に暮らす
- 06. 新型コロナウイルス
- 05. 新しい美容外科
- 04. ミケランジェロ™
- 03. 国際交流
- 02. 血液クレンジング
- 01. 美容外科のニーズ
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長