医者が知らない医療の話
このページをシェアする:
第11回

BRM(Biological Response Modifiers)療法

《 2018.8.10 》

 免疫療法はまず、ここから始まり、1980年代頃までこれが主流だった。
BRM(Biological Response Modifiers)生体応答調節療法と呼び、生体に何らかの変化を起こすものを用いて免疫応答を強化する方法だ。

 何のことか分かりにくいですよね? 要は「原理はわからないが、免疫を強化する物を用いた治療法」と言う意味だ。近年まで薬も世界中の「良く効く」薬草を探し出してその成分を分析すると言う手法を取っていた。免疫療法も同様に最初は「理屈」より「結果」から入って行ったのですね。

 有名なところではキノコなどの菌糸類。1960年代になって菌糸類に抗癌作用があることが国立がんセンターなどから報告されてから注目が集まった。アガリクスなどはブームになった事を覚えている方もおられると思う。その他、カワラタケ由来のPSKが「クレスチン」、シイタケ由来の「レンチナン」、スエヒロタケ由来の「シゾフィラン」の3つは医薬品として承認された。しかしこれらは、臨床の場では動物実験ほどの効果が出なかった。そのため、現在では「抗癌剤の補助剤」と言う扱いであり、つまり他の抗癌剤と併用しなければならない。テガフールのプロドラッグの5-FUやウラシルとの合剤のUFTなどとだ。

 一方、「健康食品」のメシマコブやアガリクス、霊芝(れいし)で「癌が治った!」と言う話は結構聞いた。勿論、過剰な宣伝の事もあるが、あながち全てが嘘とは限らない。ちゃんとした原料より作られている物はそれなりの効果が有ってもおかしくない。(勿論、紛い物も多かったわけだが。)実際、動物実験ではメシマコブなどは医薬品となったカワラタケより癌の増殖阻止率が高かったとのデーターもあるのだ。

 菌糸類には癌治療に必須のビタミンDの前駆物質であるプロビタミンD2やマクロファージやNK細胞、Tリンパ球などを活性化する「βグルカン」が含まれている。

 では、菌糸類の健康食品は癌に有効かと聞かれれば、「効果が出る場合がある。」と言うのが解答だろう。流石に臨床データーが無さすぎるが、前述したように無視するには事例が多い。特にアレルギーでもなければ大きな副作用はないし、お金に余裕があればこれらの健康食品を飲むのも悪くないだろう。勿論、それなりの値段はするがちゃんとした原料のものをね。

 お金がもったいなければ、キノコ類を食べると言うのもアリだ。因みに動物実験ではあるが、一般的に食べられているキノコにも、「健康食品」に負けず劣らずの抗癌作用があるのだ。更に免疫を賦活するので癌以外にも色々な効果も望める。日頃から心掛けて食すのもアリだろう。ただ、注意点を一つだけ。効果のある「菌糸体」とはキノコの「根」の部分で一般的に思い浮かべる「傘」の部分ではないので、調理する時に切って捨ててしまわないようにね。

 最後に、これらのキノコ類を抗がん作用の強い順に記すと、松茸、ナメコ、えのき茸、シイタケ、シメジ辺りだ。松茸以外は日常の食卓に登るでしょ。

コラムの一覧に戻る

著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 86. マクロファージと不妊治療
  3. 85. 中国での幹細胞治療解禁
  4. 84. 過渡期に入った保険診療
  5. 83. 中国出張顛末記Ⅲ
  6. 82. 中国出張顛末記Ⅱ
  7. 81. 中国出張顛末記
  8. 80. 保険診療と自由診療
  9. 79. マクロバイオームの精神的影響について
  10. 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
  11. 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
  12. 76. 中国訪問記Ⅱ
  13. 75. 中国訪問記
  14. 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
  15. 73. 口腔内のマクロバイオーム
  16. 72. マクロバイオームの遺伝子解析
  17. 71. ベトナム訪問記Ⅱ
  18. 70. ベトナム訪問記
  19. 69. COVID-19感染の後遺症
  20. 68. 遺伝子解析
  21. 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
  22. 66. 癌細胞の中の細菌
  23. 65. 介護施設とコロナ
  24. 64. 訪問診療の話
  25. 63. 腸内フローラの影響
  26. 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
  27. 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
  28. 60. 癌治療に対する考え方
  29. 59. COVID-19 第7波
  30. 58. COVID-19のPCR検査について
  31. 57. 若返りの治療Ⅵ
  32. 56. 若返りの治療Ⅴ
  33. 55. 若返りの治療Ⅳ
  34. 54. 若返りの治療Ⅲ
  35. 53. 若返りの治療Ⅱ
  36. 52. ワクチン騒動記Ⅳ
  37. 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
  38. 50. ヒト幹細胞培養上清液
  39. 49. 日常の診療ネタ
  40. 48. ワクチン騒動記Ⅲ
  41. 47. ワクチン騒動記Ⅱ
  42. 46. ワクチン騒動記
  43. 45. 不老不死についてⅡ
  44. 44. 不老不死について
  45. 43. 若返りの治療
  46. 42. 「発毛」について II
  47. 41. 「発毛」について
  48. 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
  49. 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
  50. 38. COVID-19の「集団免疫」
  51. 37. COVID-19のワクチン II
  52. 36. COVID-19のワクチン
  53. 35. エクソソーム化粧品
  54. 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
  55. 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
  56. 32. 熱発と免疫力の関係
  57. 31. コロナウイルス肺炎 III
  58. 30. コロナウイルス肺炎 II
  59. 29. コロナウイルス肺炎
  60. 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
  61. 27. ストレスプログラム
  62. 26. 「ダイエット薬」のお話
  63. 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
  64. 24. マクロファージと腸内フローラ
  65. 23. NK細胞を用いたCAR-NK
  66. 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
  67. 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
  68. 20. 肥満とマクロファージ
  69. 19. アルツハイマー病とマクロファージ
  70. 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
  71. 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
  72. 16. 腸内フローラとアレルギー
  73. 15. マクロファージの働きは非常に多彩
  74. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
  75. 13. 自然免疫と獲得免疫
  76. 12. 結核菌と癌との関係
  77. 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
  78. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  79. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  80. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  81. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  82. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
  83. 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
  84. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
  85. 03. がん治療の現状(3)
  86. 02. がん治療の現状(2)
  87. 01. がん治療の現状(1)

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr