第81回
中国出張顛末記
中国に行ってきた。ちょっと急だったが、事の顛末はこうだ。以前から懇意にしている中国のY嬢という方がいてて、時間が合ったので久しぶりに東京で会食となった。
彼女、日本と中国はじめ世界各国飛び回っているので日本にいてもなかなか時間がない人なんだが。近況報告したりで結構盛り上がった。フローラのAI解析などの話をしてると、「先生。それなら中国科学技術大学で講演しませんか?」って。聞いたことのない大学だったけど、何でも今中国の科学技術の最先端で、中国で唯一の幼年クラス(小学生ぐらいの歳で大学入るような人たちのクラス)を設けて全国から優秀な人材を集めているらしい。清華大学や北京大学のような政治色が無くて、純粋に研究してる大学らしい。
場所も安徽(あんき)省の省都である合肥(ごうひ)というところにある。全国的な不動産不況の中国でも、ここだけ不動産価格が上がっているそうで今ホットな所らしい。「中国の有名な研究者や海外のノーベル賞取った学者さんなんか呼んで講演してもらう講座があるのよ。」「へ~おもしろいね。」「ここで講演したら、中国でいっぺんに有名になるから。」「ほんと~?」「とりあえず、訊いてみますね」。たぶん、あちらの偉いさん知ってるんだ。きっと。
ところで、みなさん、何で、何の肩書きも無い私にそんな話持ってくるのかおかしいと思っているでしょう? 実は、彼女は以前より末期癌はじめ、いわゆる難病の患者さんを紹介してきてて信用して貰っていたからなのだが。特に彼女のお母さんがStageIVの胃癌になった時、治したのが大きいみたい。最初、上海大学病院で見つかって、すぐ北京大学の癌センターに転院(3日で!)して、更にセンター長が主治医に就いていた。まあ中国の癌治療の権威だ。これだけでも相当なコネなのだが。
ところが、この大先生、私と意見が合わない。「原発の胃だけでも摘出して、肝臓の転移は局所療法で潰して、免疫治療の併用が良いよ。」と提案したんだが、結局StageIVだからか手術は行わず、チェックポイント阻害剤と私の免疫調整剤であるiRFで治療することになった。彼女は食事療法など必要なフォローは心得てくれていて、厳格に守ってくれたせいもあるが、転移巣も含めて癌が綺麗に消えた。
そんなこんなで、私の治療方針に全幅の信頼を置いてくれているというわけだ(多分)。
もうひとつの理由としては、コロナ以来あちらの研究所行ってないので尋ねないと。それと、中国の研究者でN博士というのが居てて、なんか妙に懐いてくれているんだが、彼がバイオベンチャーを立ち上げたみたいで、それも見に行かないと。(以前、北京でさくらんぼ狩りで活躍してくれた彼だが、覚えてます?)
もともと彼はスイスの研究機関で博士号取って中国に戻ってきたんだが、師事してた先生はノーベル賞貰ってるぐらいだからかなり優秀だ。実際、びっくりするような研究してたよ。
更に、香港の会社で富裕層の会員達に健康管理、維持などを始めとしたサービスを提供する会社がある。何でもVIP会員は入会金2億円だって。ここが以前からウチのiRFを買ってくれてたんだが、まとめて買ってくれる話が出てて、一度日本に挨拶に来ることになってた。そこで中国行くなら、あちらで会いましょうかという話になった。
そして、最後の理由は「毛生え薬」の売り込みだ。AIでフローラの遺伝子解析の結果を分析しようとしてるのだが、まず、「絶対ハッキングされないサーバーを立てて、スーパーコンピューターで解析だよ!」とAIの世界的権威から言われているのだが、見積もりがとにかく高い!
「でもそれを作りさえすれば、企業や国からもお金いっぱいでるよ。」
と言われて、「まず、タネ銭作らないとなあ。」という話と、従来と全然原理の違う毛生え薬があるのに、ほったらかしにしてるから周りが「これ売りましょうよ!」と言われて準備している。という話をしたら、「じゃあ、中国で毛生え薬売って、研究費作りましょう!」と言われたわけだ。何でも世界中のカツラの80%は中国で造っていて、その最大手の会社が安徽省にあるそうな。「色々な発毛、育毛商材を全国に卸してるから、ここ当たってみましょうか。社長知ってますから。」「へ~そうなの。」
その他諸々の事情もあって中国行きを決めたのだったが、「ビザ大丈夫ですか?」。まだ今のところ中国行くのにビザが必要だ。「まだ一回分残ってるから大丈夫と思うよ。」「いつ取りました?期限は半年ですよ。」「…あ!ちょうど今日で切れる!」「あらあら、早く取ってくださいね。招聘状PDFで送らせますから。マルチビザ取れますよ。」。
前は東京で代理人が取ってくれてたんだが、今回時間がないので大阪で自分で取ることにした。書類をWebサイトで打ち込んでそれを印刷してビザセンターに持って行って申請するのだが、お察しの通りこうゆう事は大の苦手な私。更に追い打ちをかけるように翌日早速「来週ですと皆さんの都合が全て付きます。早いですが良いですか?」と連絡が来た。
「飛行機これでいいですか?」と飛行機の手配もされてしまった。
詳しく書くと、この連載1回分ぐらいのバタバタで出発の前日に何とかビザが降りた。
著者プロフィール
Dr.中川 泰一
中川クリニック 院長
1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。
- Dr.中川泰一の
医者が知らない医療の話 - 86. マクロファージと不妊治療
- 85. 中国での幹細胞治療解禁
- 84. 過渡期に入った保険診療
- 83. 中国出張顛末記Ⅲ
- 82. 中国出張顛末記Ⅱ
- 81. 中国出張顛末記
- 80. 保険診療と自由診療
- 79. マクロバイオームの精神的影響について
- 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
- 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
- 76. 中国訪問記Ⅱ
- 75. 中国訪問記
- 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
- 73. 口腔内のマクロバイオーム
- 72. マクロバイオームの遺伝子解析
- 71. ベトナム訪問記Ⅱ
- 70. ベトナム訪問記
- 69. COVID-19感染の後遺症
- 68. 遺伝子解析
- 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
- 66. 癌細胞の中の細菌
- 65. 介護施設とコロナ
- 64. 訪問診療の話
- 63. 腸内フローラの影響
- 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
- 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
- 60. 癌治療に対する考え方
- 59. COVID-19 第7波
- 58. COVID-19のPCR検査について
- 57. 若返りの治療Ⅵ
- 56. 若返りの治療Ⅴ
- 55. 若返りの治療Ⅳ
- 54. 若返りの治療Ⅲ
- 53. 若返りの治療Ⅱ
- 52. ワクチン騒動記Ⅳ
- 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
- 50. ヒト幹細胞培養上清液
- 49. 日常の診療ネタ
- 48. ワクチン騒動記Ⅲ
- 47. ワクチン騒動記Ⅱ
- 46. ワクチン騒動記
- 45. 不老不死についてⅡ
- 44. 不老不死について
- 43. 若返りの治療
- 42. 「発毛」について II
- 41. 「発毛」について
- 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
- 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
- 38. COVID-19の「集団免疫」
- 37. COVID-19のワクチン II
- 36. COVID-19のワクチン
- 35. エクソソーム化粧品
- 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
- 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
- 32. 熱発と免疫力の関係
- 31. コロナウイルス肺炎 III
- 30. コロナウイルス肺炎 II
- 29. コロナウイルス肺炎
- 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
- 27. ストレスプログラム
- 26. 「ダイエット薬」のお話
- 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
- 24. マクロファージと腸内フローラ
- 23. NK細胞を用いたCAR-NK
- 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
- 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
- 20. 肥満とマクロファージ
- 19. アルツハイマー病とマクロファージ
- 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
- 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
- 16. 腸内フローラとアレルギー
- 15. マクロファージの働きは非常に多彩
- 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
- 13. 自然免疫と獲得免疫
- 12. 結核菌と癌との関係
- 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
- 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
- 09. 癌治療の免疫療法の種類について
- 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
- 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
- 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
- 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
- 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
- 03. がん治療の現状(3)
- 02. がん治療の現状(2)
- 01. がん治療の現状(1)
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長