医者が知らない医療の話
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第73回

口腔内のマクロバイオーム

《 2023.10.10 》

前回各種、腸内マクロバイオームと関連が疑われている疾患の関係について触れたので、今回は口腔内のマクロバイオームについて。

この口腔内マクロバイオーム。色々な疾患や全身の健康に結構重要な関連があると注目されている。実際、腸内マクロバイオームなどと違って、口の中って身近な気がする(だって、腸の中なんか簡単に指で触れたりできないでしょ)。口の中は毎日のように食事したり、歯を磨いたり、爪楊枝や糸楊枝でほじってみたりと、色々直接触れたり感じたりしているので、逆にピンとこないかもしれない。しかし、外界と直接繋がっているし、腸内のマクロバイオームにしたって、ここを通らないと腸に辿り着けないわけだ。

と言うわけで、重要な口腔マクロバイオームだが、なんだか腸内マクロバイオームと比べると、あまり研究がなされてないような気がする(私の知見の範囲なので間違ってたらごめんね)。

やはり口腔のマクロバイオームというと、歯周病菌が中心になっている。口腔内の病原菌疾患って殆ど歯周病なんだから仕方ないのかもしれないが。もう一つ、口腔内って耳鼻科と歯科の狭間のような気がするが、口腔癌や舌癌など以外は主に歯科の担当となっている。で、歯科の先生は全身疾患には無縁で、どうしても口腔内の疾患に目がいってしまうということでは無いのかなと思う(あくまで個人の感想ですが)。

そのような訳で、腸内マクロバイオームに比べ、口腔内マクロバイオームはまだまだ研究の余地があるはずだ。だいたい腸内マクロバイオームだってこれからだもんね。

そもそも、口腔内には多数の細菌、ウイルス、真菌、原虫が生息しており、これらの微生物群をまとめて「口腔マイクロバイオーム」と言う。そして、これらの細菌や真菌が増殖し、口腔内のバランスが崩れることで疾患が発生することがある。しかし、口腔内マイクロバイオームのすべての細菌や真菌が有害なわけではなく、多くの細菌は口腔の健康を維持するための役割を果たしている。したがって、口腔ケアの際には、何でもかんでも除菌ではなく、良好なバランスを保つことが重要だ。

この辺りは腸内マクロバイオームも同じ事で、一部の有害なマクロバイオームが突出して増えると身体の不調、更に疾患を引き起こすことになる。くれぐれも、バランスが重要な訳で、この辺りの判定加減が難しいと思う。

以下に口腔内マイクロバイオームに関連する代表的な細菌とそれらが関連する疾患の例を示す。

  • Streptococcus mutans: この細菌は虫歯の原因として知られています。甘いものを摂取すると、この細菌が生産する酸が歯のエナメル質を溶かすことで虫歯を引き起こすことがある。
  • Porphyromonas gingivalis: 歯周病の主要な原因となる細菌の1つ。この細菌が口腔内で増えると、歯肉の炎症や歯周ポケットの形成を引き起こすことがある。
  • Candida albicans: 真菌の一種で、過度に増殖すると口腔カンジダ症(口内炎)を引き起こすことがある。
  • Fusobacterium nucleatum: この細菌は口腔内の多くの疾患と関連していますが、特に歯周病との関連が指摘されています。

さらに、これら口腔内の疾患以外で口腔マイクロバイオームと全身疾患との関連は、近年の研究で注目されつつある。特に、一部の細菌が体内の他の部位に移動して、全身の健康に影響を与える可能性が指摘されている。
以下は口腔マイクロバイオームと全身疾患との関連を示す。

  • 心血管疾患: 歯周病原因細菌(例: Porphyromonas gingivalis)が血流に入ると、動脈硬化のリスクを高める可能性がある。これは、細菌が動脈の壁に取り付き、炎症反応を引き起こすことで、動脈硬化の進行を促進すると考えられている。
  • 腸内マイクロバイオームの変動: 口腔の細菌が消化管に移動することで、腸内の細菌叢のバランスを変化させる可能性が指摘されており、これは消化器系の疾患や腸の炎症に関与する可能性がある。
  • 認知症: 口腔の細菌が脳に移動し、炎症やアミロイドβの蓄積を促進することで、アルツハイマー病のリスクを増加させる可能性が示唆されている。
  • 肺疾患: 歯周病原因細菌が呼吸を通じて肺に移動することで、肺炎の原因となることがある。

このように、口腔の健康が全身の健康にどれだけ影響を与えるかを示す示唆に富む情報が得られてきており、日常の口腔ケアの重要性が再認識されてきている。

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


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