医者が知らない医療の話
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第86回

マクロファージと不妊治療

《 2024.11.10 》

 さて、今回は不妊のお話。実はマクロファージ活性化するや腸内フローラ移植が不妊治療に効果があるのだ。こう聞くと、「なんの関係があるんだよ?」と思われるかも知れない。しかし、以前からこの事は言われてて、私も14組観てるが、皆妊娠されている。
ただ、専門外なので頼まれたり、偶然ほかの目的で投与していたら妊娠したりなのだが。

 ところが、3年ほど前に知り合いの50代の方にiRF(マクロファージを活性化する薬。もうご存知と思うが念の為。)打ってたら、出来たらしい。男なら50代でもそんなに珍しい事もなかろうと思われるかも知れないが、なんとこの方「無精子症」で若い頃から子供諦めてたから、その喜び様ったら、まあ大変。打合せに奥さんとベイビー連れてきたりと、暫く地に足がつかなかたのだが。挙げ句の果てに「不妊クリニック作りましょう!」って言ってきた。なんでも、某がんセンター前の薬局の建物に空いてる部屋があるからと、その薬局の社長と何やらやってたんだけどねえ。

 水さす様だけど、がんセンターの前にはやっぱり「不妊クリニック」より「癌の免疫治療クリニック」だろうと思うのだが、聞く耳持たない。おまけに国会議員の秘書やってたりするモンだから、「これぞ、少子化対策!国の方針にも合ってる!」という有様。何となく気乗りしなかったのだが、面と向かって否定も出来ないし。どうせ、クリニックなんか作れないだろうと様子見を決め込んで放っておいた。ところが、ウチが銀座にクリニックオープンしたモンだから、「いやー、ここでやった方がいいですよねー!」と言ってきた。どうなることやら何だけど。

 その事はさておき、前置きが長くなったが、うちのiRFや腸内フローラ移植がなぜ不妊治療に効果があるか説明したいと思う。
これらはミトコンドリアの活性に影響するのだ。ミトコンドリアは細胞のエネルギー供給を担う重要な細胞小器官で、不妊治療にも大きな影響を及ぼしている。ミトコンドリアの働きが低下すると、卵子や精子の質が悪化し、受精や胚の発育に影響を及ぼすことが知られている。

  1. 卵子の質とミトコンドリア

    卵子の質はミトコンドリアの機能に大きく依存している。ミトコンドリアは細胞内でエネルギー(ATP)を生成し、卵子の成熟や受精後の胚発育に必要なエネルギーを供給する。しかし、加齢や生活習慣、ストレスなどの影響でミトコンドリアの数や質が低下することがあり、これが卵子の質低下に直接つながりる

  2. 精子の質とミトコンドリア

    精子の尾部には多くのミトコンドリアが存在し、運動に必要なエネルギーを供給している。ミトコンドリアが機能低下すると、精子の運動能力が低下し、受精率が下がる。特に、酸化ストレスが精子のミトコンドリアにダメージを与えると、DNAの損傷が増加し、精子の質が低下する

 そして、マクロファージとミトコンドリアの活性は、免疫応答や炎症制御に深く関わっており、不妊治療においても重要な役割を果たしている。
 

1. マクロファージとミトコンドリアの相互関係

 マクロファージは、体内の炎症反応や免疫応答を調整する重要な免疫細胞だ。マクロファージの機能は、ミトコンドリアのエネルギー代謝に大きく依存しています。マクロファージには、炎症性のM1型マクロファージと抗炎症性のM2型マクロファージがあり、それぞれの活動はミトコンドリアの代謝状態と密接に関係している。

  • M1型マクロファージは、主に解糖系を利用してエネルギーを供給し、感染や組織損傷時に炎症を促進する役割を果たしている。ミトコンドリア機能が低下しているとき、M1型の活性が強化され、炎症性反応が高まる
  • M2型マクロファージは、ミトコンドリアを活用して酸化的リン酸化や脂肪酸酸化を行い、抗炎症作用や組織修復を担います。ミトコンドリアが正常に機能している場合、M2型マクロファージが活性化され、組織の修復や恒常性の維持が促進される

 ミトコンドリアが十分に活性化されていると、M2型マクロファージの機能が向上し、抗炎症効果や組織修復能力が強化されます。逆に、ミトコンドリアの機能が低下すると、M1型の炎症反応が過度に強まり、慢性炎症が進行することがある。
 

2. ミトコンドリア活性とマクロファージが不妊治療に役立つ理由

 不妊症の背景には、炎症や免疫バランスの乱れが関与していることが多く、ミトコンドリアとマクロファージの活性がこの問題に関係している。以下のように、不妊治療におけるマクロファージとミトコンドリアの活性化が重要だ。

  • 子宮内膜の炎症の抑制

    不妊症の一因として、子宮内膜の炎症や子宮内膜症が挙げられる。これらの炎症状態は、M1型マクロファージの過剰な活性化によって悪化することがある。ミトコンドリアの機能が正常化し、M2型マクロファージが活性化されると、炎症が抑制され、子宮内膜の健康が改善される可能性があります。これにより、受精卵の着床が成功しやすくる。

  • ミトコンドリアのエネルギー代謝と卵子の質の向上

    卵子の質も不妊の重要な要素です。卵子内のミトコンドリアが十分にエネルギーを供給できると、卵子の発育や成熟が改善されることが知られている。ミトコンドリアの活性化が卵巣の環境を改善し、卵子の質を高めることで、受精成功率や胚発育の成功率が向上する。
    また、M2型マクロファージが活性化されると、卵巣の局所的な炎症が軽減され、卵子の質を保つための良好な環境が整う。

  • 妊娠糖尿病や代謝異常の改善

    多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や妊娠糖尿病などの代謝異常は、不妊症のリスク要因となる。これらの状態はインスリン抵抗性や全身の炎症が関与している。ミトコンドリアの活性が向上することで、エネルギー代謝が改善され、インスリン感受性も向上する。また、M2型マクロファージの活性化が代謝の正常化を促し、不妊治療における成功率を高めることが期待される。

 次回は腸内フローラとの関係について。

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 86. マクロファージと不妊治療
  3. 85. 中国での幹細胞治療解禁
  4. 84. 過渡期に入った保険診療
  5. 83. 中国出張顛末記Ⅲ
  6. 82. 中国出張顛末記Ⅱ
  7. 81. 中国出張顛末記
  8. 80. 保険診療と自由診療
  9. 79. マクロバイオームの精神的影響について
  10. 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
  11. 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
  12. 76. 中国訪問記Ⅱ
  13. 75. 中国訪問記
  14. 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
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  16. 72. マクロバイオームの遺伝子解析
  17. 71. ベトナム訪問記Ⅱ
  18. 70. ベトナム訪問記
  19. 69. COVID-19感染の後遺症
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  21. 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
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  26. 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
  27. 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
  28. 60. 癌治療に対する考え方
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  32. 56. 若返りの治療Ⅴ
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