医者が知らない医療の話
このページをシェアする:
第75回

中国訪問記

《 2023.12.10 》

この所、海外出張が立て込んでる。中東の方もあるのだが、まず中国。はじめ、東北地方に「検診センター」と「研究所」を作りたいからという話だったので、「うーん。なんか漠然としてるし、検診といってもねー。」ぐらいに思ってた。まあ確かに以前、PETセンターやってたけどなー。そこまでやるのかな?ちなみに、医療関係者の方には蛇足ですが、PETってPositron Emission Tomographyの事ですよ。ワンニャンじゃないですから。以前「先生もついにペット飼ったんですか?」と勘違いされた事が多々あったので。

「とにかく来てみて、良かったら契約してください。」ってうるさい。「来た、見た、勝った!」とは、かのカエサルの名言だが、果たして「勝った!」みたいになるのかな? なんかちょっと負け戦っぽいので先延ばしにしていたのだが、とりあえず行ってみることにした。

まあ、飛行機も北京や上海行きじゃないから便が少ないし、乗客が少ないので、飛行機自体が小さい。つまり、座席が窮屈なわけだ。まあ2~3時間だけど結構疲れる。「ビジネスで取っといてね。」「この日はLCCの便しかないです。」「え~」で、なんだかんだで中国の空港に着いてみるとゾロゾロとお出迎え。車3台も来てた。今回の中心になってる方々の何人かとは、数年前会ってるから顔見知りだ。目的地まで、空港から200Kmぐらいある。まあ田舎だからしょうがない。中国ではこのくらいの距離はあまり遠いとはならないようだ。なんせ広いから。「車で2時間ぐらいですね。」「そんなに早いの?」中国の田舎、いや地方を舐めちゃいけない。ちゃんと片側3車線の高速道路が通ってる。で、本当に2時間ぐらいで着いてしまった。また、どんなド田舎に連れて来られたのかと思いきや、何とそこは夏のリゾートとして開発された綺麗な街だった。特に到着が夜だったこともあり、街は電飾されており、なかなか綺麗だった。来る前にうちの秘書に一緒に行くか尋ねたら「私、ホテル汚い所ダメなんですう。」などと馬鹿にして来なかったのだが、写真を送ってやったら「私なんで行かなかったのか」(原文のまま)だと。

結局その日は夜もふけていたので、ホテルにチェックインして早速夕食。と言っても、宴会みたいなもの。歓迎の証なんだが、ご存知の方もおられると思うが、あちらの会食(宴会)は10分おきに「乾杯!」。発音的には「カンペイ」だ。しかも、「白酒(バイジュウ)」だ。これは高いアルコール度数(通常40~60%以上)を持つ蒸留酒で、中国の伝統的な醸造方法で作られる。種類も豊富で、地域や原料によって味や香りが異なるが、今回は当然、東北地方の白酒だ。同席した、なんか偉い役人さん(確か書記とか言ってた。)が「おお~珍しい!」って感激してたから、きっと手に入りにくい上等な白酒なんだろう。但しここで、断っておくが、私は「下戸」だ。全然ダメなわけではない。蒸留酒ならちょっとはいけるが、意外とビールなんかではすぐに真っ赤になる。要するに酒は苦手なのだ。東京なんかでも、顔馴染みのレストランなんかに連れて行って年代物(結構ウンチク言われるので。)出してくださる社長さんなんかおられるのだが、あまり飲めない。自分で言うのもなんだが「接待しがいのない奴」なのだ。中国の人、特に北方の人達は「飲んで、仲良くなって仲間で仕事しよう!」なのだ。南の方の人達はもう少しドライだけどね。

まあ、知人達がいてて、そんなに強くないの知ってるから、「形式的」で勘弁してもらったが。代わりに食べる方は断れない。基本的に「人が食べている物は食べても大丈夫!」と思っているので、珍しい物でもとりあえず口にする。ここは言っても田舎なので中華料理ばっかりだ。街に2件、日本料理屋があるそうだが、味は推して知るべしだから、あちらも勧めない。「これ美味しいね。何?」「聞かない方が良いですよ。」「え~」。「じゃあ、これどう見ても甲虫だよね。ゴキブリ?」「いやカイコですよ。ゴキブリ好きですか?」「イヤイヤそんなでもないから、気を遣わないでね。」確かに中華と言ってもいろんな料理があるので、飽きないし、時に鳥の頭みたいにグロテスクなのもあるが、そんなのさえ避ければ、結構いけるのだ。おかげで2Kgも太ったよ。

そんなこんなで、初日は移動で終了。翌日は長春の研究所の視察。中国は国で禁止されている行為でも、施設単位で認可がおりたりするので、東北地方ではココが有名らしい。で、偵察の意味合いもあって行かされたのだが、内容的に言うと日本の美容外科でやってる「再生医療」程度かな。「幹細胞」や「エクソソーム」など並べてたけど、イマイチわかってないみたい。培養技術も詳しく聞くと、どうもイマイチ。

帰り道で「どうでした?我々の方が進んでますよね?」「そりゃそうだけど、我々って、まだウチと契約してないんじゃない?順番逆だろう?」「ハハハ、まあまあ。」。いつの間にか受けることになってる。

結局、検診センターと言っても「癌検診センター」と「肝細胞などの研究施設」で、後ろに病院の建物の外観が既にできてる。全体で10万平米だ。検診センターなども基礎工事が終了している。何と来月には躯体ができるそうだ。日本の感覚では2~3年かかるだろ。もっとも地震がないから構造的に簡単なんだろうけど、それにしても早すぎる。中国恐るべし。昔、ミャンマーの高架道路が1ヶ月で出来るのを見て、中国企業の仕事の早さに驚いた事があるが、やっぱり早い。日本のような細かな配慮がどこまでかわからないが、ホテルなんかは立派なもんだ。

今回の計画は、つまり、東北地方で癌患者が年間350万人いるそうで、その検診と治療。更に幹細胞などの再生医療がやりたいらしい。中国はここから5年間再生医療に力を入れるらしく、習主席の写真が入ったパネルがかかっていた。

実はこの事業、知ってる医療ブローカー(と言うよりゴロ)が絡んでて、コイツが絡むならやらないでおこうと思ったんだが、要するにそいつが、大きなことを言うが、何も出来ないでいるので中国側が痺れ切らして、代わりを探して、うちに来たという訳だ。そして、翌日はその本人と対峙する事になったのだが。結末は次回でね。

コラムの一覧に戻る

著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 86. マクロファージと不妊治療
  3. 85. 中国での幹細胞治療解禁
  4. 84. 過渡期に入った保険診療
  5. 83. 中国出張顛末記Ⅲ
  6. 82. 中国出張顛末記Ⅱ
  7. 81. 中国出張顛末記
  8. 80. 保険診療と自由診療
  9. 79. マクロバイオームの精神的影響について
  10. 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
  11. 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
  12. 76. 中国訪問記Ⅱ
  13. 75. 中国訪問記
  14. 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
  15. 73. 口腔内のマクロバイオーム
  16. 72. マクロバイオームの遺伝子解析
  17. 71. ベトナム訪問記Ⅱ
  18. 70. ベトナム訪問記
  19. 69. COVID-19感染の後遺症
  20. 68. 遺伝子解析
  21. 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
  22. 66. 癌細胞の中の細菌
  23. 65. 介護施設とコロナ
  24. 64. 訪問診療の話
  25. 63. 腸内フローラの影響
  26. 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
  27. 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
  28. 60. 癌治療に対する考え方
  29. 59. COVID-19 第7波
  30. 58. COVID-19のPCR検査について
  31. 57. 若返りの治療Ⅵ
  32. 56. 若返りの治療Ⅴ
  33. 55. 若返りの治療Ⅳ
  34. 54. 若返りの治療Ⅲ
  35. 53. 若返りの治療Ⅱ
  36. 52. ワクチン騒動記Ⅳ
  37. 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
  38. 50. ヒト幹細胞培養上清液
  39. 49. 日常の診療ネタ
  40. 48. ワクチン騒動記Ⅲ
  41. 47. ワクチン騒動記Ⅱ
  42. 46. ワクチン騒動記
  43. 45. 不老不死についてⅡ
  44. 44. 不老不死について
  45. 43. 若返りの治療
  46. 42. 「発毛」について II
  47. 41. 「発毛」について
  48. 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
  49. 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
  50. 38. COVID-19の「集団免疫」
  51. 37. COVID-19のワクチン II
  52. 36. COVID-19のワクチン
  53. 35. エクソソーム化粧品
  54. 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
  55. 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
  56. 32. 熱発と免疫力の関係
  57. 31. コロナウイルス肺炎 III
  58. 30. コロナウイルス肺炎 II
  59. 29. コロナウイルス肺炎
  60. 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
  61. 27. ストレスプログラム
  62. 26. 「ダイエット薬」のお話
  63. 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
  64. 24. マクロファージと腸内フローラ
  65. 23. NK細胞を用いたCAR-NK
  66. 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
  67. 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
  68. 20. 肥満とマクロファージ
  69. 19. アルツハイマー病とマクロファージ
  70. 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
  71. 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
  72. 16. 腸内フローラとアレルギー
  73. 15. マクロファージの働きは非常に多彩
  74. 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
  75. 13. 自然免疫と獲得免疫
  76. 12. 結核菌と癌との関係
  77. 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
  78. 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
  79. 09. 癌治療の免疫療法の種類について
  80. 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
  81. 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
  82. 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
  83. 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
  84. 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
  85. 03. がん治療の現状(3)
  86. 02. がん治療の現状(2)
  87. 01. がん治療の現状(1)

 

  • Dr.井原 裕 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
  • Dr.木下 平 がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
  • Dr.武田憲夫 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
  • Dr.一瀬幸人 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
  • Dr.菊池臣一 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
  • Dr.安藤正明 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長
  • 技術の伝承-大木永二Dr
  • 技術の伝承-赤星隆幸Dr