第75回
中国訪問記
この所、海外出張が立て込んでる。中東の方もあるのだが、まず中国。はじめ、東北地方に「検診センター」と「研究所」を作りたいからという話だったので、「うーん。なんか漠然としてるし、検診といってもねー。」ぐらいに思ってた。まあ確かに以前、PETセンターやってたけどなー。そこまでやるのかな?ちなみに、医療関係者の方には蛇足ですが、PETってPositron Emission Tomographyの事ですよ。ワンニャンじゃないですから。以前「先生もついにペット飼ったんですか?」と勘違いされた事が多々あったので。
「とにかく来てみて、良かったら契約してください。」ってうるさい。「来た、見た、勝った!」とは、かのカエサルの名言だが、果たして「勝った!」みたいになるのかな? なんかちょっと負け戦っぽいので先延ばしにしていたのだが、とりあえず行ってみることにした。
まあ、飛行機も北京や上海行きじゃないから便が少ないし、乗客が少ないので、飛行機自体が小さい。つまり、座席が窮屈なわけだ。まあ2~3時間だけど結構疲れる。「ビジネスで取っといてね。」「この日はLCCの便しかないです。」「え~」で、なんだかんだで中国の空港に着いてみるとゾロゾロとお出迎え。車3台も来てた。今回の中心になってる方々の何人かとは、数年前会ってるから顔見知りだ。目的地まで、空港から200Kmぐらいある。まあ田舎だからしょうがない。中国ではこのくらいの距離はあまり遠いとはならないようだ。なんせ広いから。「車で2時間ぐらいですね。」「そんなに早いの?」中国の田舎、いや地方を舐めちゃいけない。ちゃんと片側3車線の高速道路が通ってる。で、本当に2時間ぐらいで着いてしまった。また、どんなド田舎に連れて来られたのかと思いきや、何とそこは夏のリゾートとして開発された綺麗な街だった。特に到着が夜だったこともあり、街は電飾されており、なかなか綺麗だった。来る前にうちの秘書に一緒に行くか尋ねたら「私、ホテル汚い所ダメなんですう。」などと馬鹿にして来なかったのだが、写真を送ってやったら「私なんで行かなかったのか」(原文のまま)だと。
結局その日は夜もふけていたので、ホテルにチェックインして早速夕食。と言っても、宴会みたいなもの。歓迎の証なんだが、ご存知の方もおられると思うが、あちらの会食(宴会)は10分おきに「乾杯!」。発音的には「カンペイ」だ。しかも、「白酒(バイジュウ)」だ。これは高いアルコール度数(通常40~60%以上)を持つ蒸留酒で、中国の伝統的な醸造方法で作られる。種類も豊富で、地域や原料によって味や香りが異なるが、今回は当然、東北地方の白酒だ。同席した、なんか偉い役人さん(確か書記とか言ってた。)が「おお~珍しい!」って感激してたから、きっと手に入りにくい上等な白酒なんだろう。但しここで、断っておくが、私は「下戸」だ。全然ダメなわけではない。蒸留酒ならちょっとはいけるが、意外とビールなんかではすぐに真っ赤になる。要するに酒は苦手なのだ。東京なんかでも、顔馴染みのレストランなんかに連れて行って年代物(結構ウンチク言われるので。)出してくださる社長さんなんかおられるのだが、あまり飲めない。自分で言うのもなんだが「接待しがいのない奴」なのだ。中国の人、特に北方の人達は「飲んで、仲良くなって仲間で仕事しよう!」なのだ。南の方の人達はもう少しドライだけどね。
まあ、知人達がいてて、そんなに強くないの知ってるから、「形式的」で勘弁してもらったが。代わりに食べる方は断れない。基本的に「人が食べている物は食べても大丈夫!」と思っているので、珍しい物でもとりあえず口にする。ここは言っても田舎なので中華料理ばっかりだ。街に2件、日本料理屋があるそうだが、味は推して知るべしだから、あちらも勧めない。「これ美味しいね。何?」「聞かない方が良いですよ。」「え~」。「じゃあ、これどう見ても甲虫だよね。ゴキブリ?」「いやカイコですよ。ゴキブリ好きですか?」「イヤイヤそんなでもないから、気を遣わないでね。」確かに中華と言ってもいろんな料理があるので、飽きないし、時に鳥の頭みたいにグロテスクなのもあるが、そんなのさえ避ければ、結構いけるのだ。おかげで2Kgも太ったよ。
そんなこんなで、初日は移動で終了。翌日は長春の研究所の視察。中国は国で禁止されている行為でも、施設単位で認可がおりたりするので、東北地方ではココが有名らしい。で、偵察の意味合いもあって行かされたのだが、内容的に言うと日本の美容外科でやってる「再生医療」程度かな。「幹細胞」や「エクソソーム」など並べてたけど、イマイチわかってないみたい。培養技術も詳しく聞くと、どうもイマイチ。
帰り道で「どうでした?我々の方が進んでますよね?」「そりゃそうだけど、我々って、まだウチと契約してないんじゃない?順番逆だろう?」「ハハハ、まあまあ。」。いつの間にか受けることになってる。
結局、検診センターと言っても「癌検診センター」と「肝細胞などの研究施設」で、後ろに病院の建物の外観が既にできてる。全体で10万平米だ。検診センターなども基礎工事が終了している。何と来月には躯体ができるそうだ。日本の感覚では2~3年かかるだろ。もっとも地震がないから構造的に簡単なんだろうけど、それにしても早すぎる。中国恐るべし。昔、ミャンマーの高架道路が1ヶ月で出来るのを見て、中国企業の仕事の早さに驚いた事があるが、やっぱり早い。日本のような細かな配慮がどこまでかわからないが、ホテルなんかは立派なもんだ。
今回の計画は、つまり、東北地方で癌患者が年間350万人いるそうで、その検診と治療。更に幹細胞などの再生医療がやりたいらしい。中国はここから5年間再生医療に力を入れるらしく、習主席の写真が入ったパネルがかかっていた。
実はこの事業、知ってる医療ブローカー(と言うよりゴロ)が絡んでて、コイツが絡むならやらないでおこうと思ったんだが、要するにそいつが、大きなことを言うが、何も出来ないでいるので中国側が痺れ切らして、代わりを探して、うちに来たという訳だ。そして、翌日はその本人と対峙する事になったのだが。結末は次回でね。
著者プロフィール
Dr.中川 泰一
中川クリニック 院長
1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。
- Dr.中川泰一の
医者が知らない医療の話 - 86. マクロファージと不妊治療
- 85. 中国での幹細胞治療解禁
- 84. 過渡期に入った保険診療
- 83. 中国出張顛末記Ⅲ
- 82. 中国出張顛末記Ⅱ
- 81. 中国出張顛末記
- 80. 保険診療と自由診療
- 79. マクロバイオームの精神的影響について
- 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
- 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
- 76. 中国訪問記Ⅱ
- 75. 中国訪問記
- 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
- 73. 口腔内のマクロバイオーム
- 72. マクロバイオームの遺伝子解析
- 71. ベトナム訪問記Ⅱ
- 70. ベトナム訪問記
- 69. COVID-19感染の後遺症
- 68. 遺伝子解析
- 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
- 66. 癌細胞の中の細菌
- 65. 介護施設とコロナ
- 64. 訪問診療の話
- 63. 腸内フローラの影響
- 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
- 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
- 60. 癌治療に対する考え方
- 59. COVID-19 第7波
- 58. COVID-19のPCR検査について
- 57. 若返りの治療Ⅵ
- 56. 若返りの治療Ⅴ
- 55. 若返りの治療Ⅳ
- 54. 若返りの治療Ⅲ
- 53. 若返りの治療Ⅱ
- 52. ワクチン騒動記Ⅳ
- 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
- 50. ヒト幹細胞培養上清液
- 49. 日常の診療ネタ
- 48. ワクチン騒動記Ⅲ
- 47. ワクチン騒動記Ⅱ
- 46. ワクチン騒動記
- 45. 不老不死についてⅡ
- 44. 不老不死について
- 43. 若返りの治療
- 42. 「発毛」について II
- 41. 「発毛」について
- 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
- 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
- 38. COVID-19の「集団免疫」
- 37. COVID-19のワクチン II
- 36. COVID-19のワクチン
- 35. エクソソーム化粧品
- 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
- 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
- 32. 熱発と免疫力の関係
- 31. コロナウイルス肺炎 III
- 30. コロナウイルス肺炎 II
- 29. コロナウイルス肺炎
- 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
- 27. ストレスプログラム
- 26. 「ダイエット薬」のお話
- 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
- 24. マクロファージと腸内フローラ
- 23. NK細胞を用いたCAR-NK
- 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
- 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
- 20. 肥満とマクロファージ
- 19. アルツハイマー病とマクロファージ
- 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
- 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
- 16. 腸内フローラとアレルギー
- 15. マクロファージの働きは非常に多彩
- 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
- 13. 自然免疫と獲得免疫
- 12. 結核菌と癌との関係
- 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
- 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
- 09. 癌治療の免疫療法の種類について
- 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
- 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
- 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
- 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
- 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
- 03. がん治療の現状(3)
- 02. がん治療の現状(2)
- 01. がん治療の現状(1)
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長