第43回
若返りの治療
前回「発毛」についてのテロメアについて書いた。この「テロメア」、だいたい不老関係の話で出てきて、4~5年前ぐらいにちょっと流行ったのだが、最近再びブームになって来たみたいだ。当時は1本35万円の「NMN」サプリメントが中国人のお土産としてバカ売れしていた。まあ、これは彼の国では「賄賂」の規制が厳しくなったお陰で、「お土産」と言うより体のいい「贈り物」の意味合いが強いらしく、高ければ高いほど良いという特殊な需要があったからだが。
また、ロシアでは「若返りの治療」なるものがあった。確か日本円で3,000万円ぐらいだったと思う。これを確かめにわざわざロシアまで出掛けて行った御仁がいる。もちろん、技術提携でひと儲けしようと思って、いや本人曰く、「ビジネスとして商談しよう」と行ったそうな。
で、どうだったか非常に興味のある所だが、「何か全身に色々注射打つらしいんですよね。」「へ~、それで?」「30代(に見える)の女性が出てきて、本当は50代だって言うんですよ。」「ふ~んホントなん?」
「本当の年齢なんて分かりませんよね。」段々胡散臭くなってきたでしょ。「若返りの治療なんかしてなくても、そんな美魔女みたいな奴なら知ってるよ。」「ですよね~。」「で、いったい何を打ってたのさ?」
「それが、肝心なとこは誤魔化すんですよね。」やっぱり!まあ、肝心な事は簡単に明かさないにしても、商談に来てるんだから、手付金入れさして守秘義務契約を巻かしてから、徐々に開示すれば良い話だよね。で無かったら商談なんか出来ないんだから。
結局、彼も素人じゃ無いんで、「こりゃダメだと思って、諦めて帰って来ましたよ。」だって。
骨折り損のくたびれもうけだが、このバイタリティーには感心するね。常人には真似出来ないけど、儲ける人ってこんなもんですね。
こちらも、お陰で面白い情報もらえたし。
ちなみにロシアはES細胞採取するための若い女性いっぱいの村があったり、今でも臍帯血を打ちに行くツアーなんかやってて、中々侮れない。ところが、この臍帯血、どうもHLAのマッチングなんかしてないみたいで、どれだけ効果があるか疑問だが、再生医療法で日本では禁止になってから結構人気らしい。香港でツアー募ってたのもロシアだし。
なんでもそうだが、国内で変に規制ばかりすると、外国に行って、もっと怪しげな事になる。国内でもそろそろ再生医療法で規定する所の「一種」の認可を下ろして臍帯血治療を再開すべきだと思う。もっとも、今の制度では認可を取るのに高額な費用が必要で、一般の医師には手が出せない。いわゆるコンサルタントがぼってるんだが、それだけ書類がややこしい。再生医療委員会にしても審査してもらうのに1回80万円から100万円以上。実際、偉い先生方に集まってもらうのには交通費や宿泊代、食事代、謝礼でこのくらいの費用がかかる。しかも何回で通るか分からない事が多い。結局「二種」の脂肪肝細胞を用いた治療でも認可の病名によって値段が違う。1医療機関1病名で、安くて300万円、「糖尿病」なんか2,000万円かかる。認可取るだけでこれだけ掛かる。
普通の医療機関じゃ無理だよね。
そこで、幹細胞を培養した培養液が「上清液(じょうせいえき)」として売り出される事になった。こちらは再生医療法の規制外だ。結果、一般には「上清液」イコール「幹細胞」さらに高級な幹細胞の事と思われている節がある。大手の化粧品メーカーだってやたら「幹細胞」だ。
役人は医療、美容業界の経済原理が読めないから、なんでこんな事になるのか分からないだろうが、本来の意図とはかけ離れてしまっている。
閑話休題。話を不老に戻すと、日本だって侮れませんよ。2億円の「若返りの治療」なんて言うのもありましたから。あ、あくまで風の噂ですよ。ウワサ。
ところで、どうして老化予防や若返りに興味があるかと言うと、癌の1番のリスクが「老化」と言われて来ているからだ。それより何より単純に「不老不死」って興味湧きませんか?秦の始皇帝の時代から熱望さられてたものに現代医学が近づきつつあるって、なんか凄い気がしません?
遺伝子経路の解明から、それを活性化する物質の同定が出来、動物実験での成果どころか、人でも色々と成果が報告されたりして、鋭意検証中だ。秦の始皇帝なら国の一つや二つポンとくれそうな感じですよね。
始皇帝とまでは行かないが、知り合いが、大金持ちの資産家に「1歳若返るとしたらいくら出す?」と尋ねたら「1億円」と答えたらしい。70歳過ぎて、資産数十億あればそのぐらい出すかな?世の中には使いきれないだけのお金持ってる人って結構いますからね。こう考えると、前述の「2億円の若返り」もうまいとこ突いてるなと思う。値段なんかその人の経済状態によって評価が変わるからね。要はちゃんとした物かどうかだと思うけど。
現在この様に老化予防から若返りまで期待出来るようになって来ている。そして、この辺りは再生医療との絡みが出てくる。考えたら当然だが、IPS細胞にしたって、細胞の進化を逆行させてるんだから。また、それと同じくらい大事な事は「健康」だ。若い人でも体調の悪い人は大勢いる。こうすると、「免疫」から「再生医療」そして「不老、若返り」と関連性が見えてくる。結局人間の身体はひとつなんだから、色々な切り口で観てみると、結果全てが関連している事になっている。当たり前と言えば当たり前だが、最近特にこれらの絡みを実感するようになってきた。
著者プロフィール
Dr.中川 泰一
中川クリニック 院長
1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。
- Dr.中川泰一の
医者が知らない医療の話 - 86. マクロファージと不妊治療
- 85. 中国での幹細胞治療解禁
- 84. 過渡期に入った保険診療
- 83. 中国出張顛末記Ⅲ
- 82. 中国出張顛末記Ⅱ
- 81. 中国出張顛末記
- 80. 保険診療と自由診療
- 79. マクロバイオームの精神的影響について
- 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
- 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
- 76. 中国訪問記Ⅱ
- 75. 中国訪問記
- 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
- 73. 口腔内のマクロバイオーム
- 72. マクロバイオームの遺伝子解析
- 71. ベトナム訪問記Ⅱ
- 70. ベトナム訪問記
- 69. COVID-19感染の後遺症
- 68. 遺伝子解析
- 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
- 66. 癌細胞の中の細菌
- 65. 介護施設とコロナ
- 64. 訪問診療の話
- 63. 腸内フローラの影響
- 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
- 61. 癌治療に対する考え方Ⅱ
- 60. 癌治療に対する考え方
- 59. COVID-19 第7波
- 58. COVID-19のPCR検査について
- 57. 若返りの治療Ⅵ
- 56. 若返りの治療Ⅴ
- 55. 若返りの治療Ⅳ
- 54. 若返りの治療Ⅲ
- 53. 若返りの治療Ⅱ
- 52. ワクチン騒動記Ⅳ
- 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
- 50. ヒト幹細胞培養上清液
- 49. 日常の診療ネタ
- 48. ワクチン騒動記Ⅲ
- 47. ワクチン騒動記Ⅱ
- 46. ワクチン騒動記
- 45. 不老不死についてⅡ
- 44. 不老不死について
- 43. 若返りの治療
- 42. 「発毛」について II
- 41. 「発毛」について
- 40. ちょっと有名な名誉教授とのお話し
- 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
- 38. COVID-19の「集団免疫」
- 37. COVID-19のワクチン II
- 36. COVID-19のワクチン
- 35. エクソソーム化粧品
- 34. エクソソーム (Exosome) − 細胞間情報伝達物質
- 33. 新型コロナウイルスの治療薬候補
- 32. 熱発と免疫力の関係
- 31. コロナウイルス肺炎 III
- 30. コロナウイルス肺炎 II
- 29. コロナウイルス肺炎
- 28. 腸内細菌叢による世代間の情報伝達
- 27. ストレスプログラム
- 26. 「ダイエット薬」のお話
- 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
- 24. マクロファージと腸内フローラ
- 23. NK細胞を用いたCAR-NK
- 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
- 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
- 20. 肥満とマクロファージ
- 19. アルツハイマー病とマクロファージ
- 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
- 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
- 16. 腸内フローラとアレルギー
- 15. マクロファージの働きは非常に多彩
- 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
- 13. 自然免疫と獲得免疫
- 12. 結核菌と癌との関係
- 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
- 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
- 09. 癌治療の免疫療法の種類について
- 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
- 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
- 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
- 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
- 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
- 03. がん治療の現状(3)
- 02. がん治療の現状(2)
- 01. がん治療の現状(1)
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長