第35回
エクソソーム化粧品
そこで前回の冒頭の話「エクソソーム化粧品って何?」だ。
そもそも、幹細胞の上清液(培養後の液)がアンチエイジングなどに効果が有るとなったのは、前回書いたように再生医療法が出来てからだ。当時、「幹細胞」は再生医療法の規制で使えなくなった。現在では自家の細胞を培養した脂肪肝細胞などは二種の認可が出るようになったが、当時は認可が下りるかどうかも判らなかった。また、既に脳性麻痺や国内でも白血病の治療に使われていた臍帯血は「輸血」という解釈で保健所レベルでは認めていた所もあったのだが、これは全面禁止。まあ、他家移植で一種扱いになってしまったからと言う理屈もある。未だに国内では認められてないが、臍帯血からips作り出したりしてややこしいことになってる。この辺りの話はいずれかの機会に。
つまり、万能細胞である幹細胞の効果は再生医療だけでなく美容、アンチエイジングなどでも確立していたのだが、急に使えなくなったので、「幹細胞上清液」に切り替える必要があったわけだ。
で、この「上清液」。なんか如何わしい感じするでしょう?確かに何がどう効果があるのか無いのかハッキリしない。しかし、10年位前に、うちの培養室で「繊維芽細胞」も培養していた事がある。これの第一人者の当時IPS研究所の客員教授されてた方に指導頂いた方法で行っていたので質的にはトップレベルであったと自負しているのだが、なんで培養してたかと言うと、要は「シワ取り」に使っていたのだ。つまり美容目的ですな。ヒアルロン酸なんかより自己の細胞なので定着し流れたりしない。また、採取した細胞を凍結保存できるので、若い時の細胞を保存しておいて、培養して打ったりもできる。ただし、培養が結構難しいなどいろいろ手間が掛かって、余り商業的には良くなかったけど。
まあこれも、いつもの悪い癖で、癌治療などの「片手間」でやったりしてたからで、もっと本格的に営業したら良かったかもしれない。他よりかなり安かったしね。
そして、この時の「上清液」が肌にすごく良かった。線維芽細胞培養した人にはホントの「その人個人のオリジナル化粧品」として無料で差し上げてた。
そこで、研究員に内容分析するように指示し、「医薬部外品」になんとか出来ないかと苦労したのだが、新しい成分を認めてもらうのはかなり難しく挫折してしまったのだ。あの時、何も考えずに売り出しとけば良かったなあ!
その時、「上清液」にはEGF、VEGF、FGF、HGFなどのサイトカインが含まれていた。
実は、幹細胞を移植しないでもこれらのサイトカインを用いて組織の再生に使う研究などもなされていた。つまり「幹細胞上清液」で「幹細胞」の代わりになる可能性は当時から指摘されていたのだ。
どう言う事かと言うと、細胞が分泌するこれらのサイトカインがパラクライン効果により障害部位周囲の内在性の幹細胞に作用し、その幹細胞を障害部位へ移動させて組織再生を起こさせる。そしてこれらのサイトカインは幹細胞培養時には培養上清に分泌されるのだ。つまり、「幹細胞上清液」で組織再生ができると言う事になる。
と言うわけで、私自身は「上清液」は「意外と良いんじゃ無い」派なのだが。
ところで「エクソソーム」だ。そもそも、運び屋のエクソソームの中身は細胞毎に異なる。本当に美容に有用な物が含まれているかはっきりしていない。また、エクソソームのみ取り出すのも困難だし、凍結で保存しないといけないはずだから扱いも難しい。また、分子量500以下の物でないと皮膚から浸透しないので化粧水なんか、特殊な浸透か技術(特許のがある。これも機会があれば。)で作らない限り浸透しない。リガンドで目的の細胞に届くと言うが、このDDS様効果は組織や体液中に入らないと意味がない。大体、エクソソーム自体盛んに研究されているがまだ研究途中で、「そんな効果が将来証明されるかも知れないが、今のところよく分かっていない。」と言うのが実情だと思う。
第一、そんなややこしい事言わずとも、「幹細胞上清液」中にはエクソソームが含まれているのだから、特別取り出す必要があるのだろうか?「幹細胞上清液」で良いじゃない?
結論として、なんか新しいモノでムリクリ新商品効果出そうとしてるんじゃないかと穿ってしまうが、みなさん如何お思いですか?
著者プロフィール
Dr.中川 泰一
中川クリニック 院長
1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。
- Dr.中川泰一の
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