医者が知らない医療の話
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第85回

中国での幹細胞治療解禁

《 2024.10.10 》

 先日、中国で幹細胞治療が解禁になった。勿論、全面解禁ではなく、限られた地域の限られた場所で、何処まで解禁か明確には発表されていないのだが。
 巷では、最近中国は不動産中心に経済が崩壊して、社会全体が停滞しているような印象があると思うが、そんなことはない。無論、不景気をかこっている産業もあるが、すべてではない。以前紹介したように、逆に不動産や建築に回ってた資金が投資先を求めてだぶついてたりする。逆に、あちらに行くと「日本は不況で大変でしょう。」と言われる。まあ、世界中どこも「あるところにはある」のだ。

 で、北京、上海、天津、海南島などの地域があげられており、早速中国から依頼者が来た。詳しいことがまだ、判明してないが、とりあえず北京と海南島でやりたいと。東北3県(昔の満州)と北部の人は皆、北京に行くと。再生医療だから癌のように切羽詰まってないだろうから遠方まで行くのも有りかな。なんせ中国は広いから。ただ、最初は日本に連れてきて治療したいとの事。中国の人ってあちらの病院を信用してない人が多い。特にちょっとした金持ちは。不必要な治療されたり、下手したら殺される事があるとまで言う。病院で殺されるのが最もわからないらしい。言われてみれば確かにそうなのだが、真偽のほどはわからない。しかし、以前癌で入院して、心臓にステント2カ所入れられた患者は診たことがある。勿論心疾患などない方だ。なんでもステント1本入れると医者にかなりの額のバック(たしか20万円ぐらいだった記憶がある。)があるそうな。それに、中国国内移動するより東京や大阪に来る方が近かったりもする。

 そんなわけで最初、日本で治療したいと言うのもわかるのだ。それに、とりあえずは「脂肪幹細胞」を想定しているのだが、そのうち「臍帯血」でやりたいと思う。
 結構年配の人の脂肪から採取した幹細胞より臍帯血の方が効果は高いと思うからだ。現に日本に定期的に脂肪幹細胞を打ちに来ている中国人の中でも「なんか効いた気がしない。」というひとが多い。特にどこか悪いわけでもなく、「健康」のために打っている人はとりわけ実感がないようだ。これらの中国人は、大体決まった中国人相手のクリニックに誘導されるから、どの程度のことやっているかわからないが。よく「幹細胞何億個」みたいなこと事言われるけど、ホントかなあと思うし、大体数だけの問題じゃないのだけれど、素人には数で言う方が納得させやすいのだろう。こんなクリニックも結構オーナーが中国人ってケースが多くて、これも中国の人はイヤらしい。やはり日本人がやっているところが良いらしいのだ。やっぱ、日本まで来て中国人経営のところは、いまいち信用できないらしい。

 今回は技術提携とあちらでの運営をやってもらえるかの大雑把な意思確認で、詳しい事業計画は来月、情報を集めてもってくるとのことだった。  実は同じような話が、もう一件来ているから、中国は結構ホットになっているようだ。この件に関しては、アメリカも熱心に売り込みに来ているらしい。経済制裁の対象外なんだろうが、アメリカもIT後の100兆ドル産業に位置づけているだけに熱心だ。大きな市場だもんなあ。

 そう言えば、中国で「腸内フローラ移植」した人は「カプセルを飲まされた。」というひとが何人かいたが、アメリカでやった人も同じようなこと言っていた。やっぱりアメリカが進出しているのかな?でも、アメリカって海外に技術出すのにブラックボックスにしてノウハウ教えないようなやり方するからなあ。アジアの国や中東の国でぼやいていた事があるわ。結局利益みんな持っていってしまうって。その点、日本は技術指導してくれて、技術移転もしてくれるから有り難いと。どっちが得かわからないけど、長い目で見たら日本式の方が良いと思う。特に軍事技術じゃあるまいし、医療技術なんだからさあ。
 そして、ちょうどこのタイミングで、台湾の企業から臍帯血を日本で預かってもらえないかと来ている。この前、台湾の経産省に呼ばれていった時に紹介された企業からなのだが。
 こちらも詳しいことは決まっていないのだが、ご存じのように台湾は中国の侵攻に備えて、資産を日本に移したがっている。面白いことに、中国の企業も日本に資産を移したがっている。こっちは共産党政権がいつ何時規制をかけるかわからないという不安があるからだ。すでに海外送金なんかを規制されているので、あの手この手でやっている。詳しくいえないのは察してもらいたい。

 中国や、台湾の人と話していると今、世界的に見て日本が一番安全だと言う。確かに天災の危険はあるにしても、政治的にもそれなりに安定しているし、戦争になっても日本本土が被害を受けることはないだろうと言う判断だ。中にいると、やれ税金が高いだの、物価が高いだの文句はあるが、世界的に見ると有り難いもんだと思う。ヨーロッパやアメリカもグダグダだしね。
 さらにだ。いろいろと、重なるもので、日本で臍帯血バンクやれないかという話も来たのだ。
 勿論、今でも民間バンクは存在しているが、問題は臨床に使えるかどうかだ。公的な臍帯血は、再生医療法の範囲外だが、白血病にしか使えない。

 iPSやSTAPなどアメリカに散々やられた日本の再生医療だがそろそろ、復活してもいいのではないかと思っている。
 海外の動きも活発になってきているし、日本人がアジアにバンク作って日本人連れて行っているのも、色々問題出てるしで、なんか良いタイミングじゃないかと思う。
 実際は、臍帯血集めるのからいろいろと、一から構築するのは大変だし、第一、どう認可がとれるかが大問題なのだが。
 でも、臍帯血バンクと臍帯血幹細胞治療は、以前やっていただけに何をすれば良いかはわかっているので、なんとかなるとは思っている。
 だからこそ、海外からも相談がくるんだけどね。

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著者プロフィール

中川 泰一 近影Dr.中川 泰一

中川クリニック 院長

1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。


バックナンバー
  1. Dr.中川泰一の
    医者が知らない医療の話
  2. 86. マクロファージと不妊治療
  3. 85. 中国での幹細胞治療解禁
  4. 84. 過渡期に入った保険診療
  5. 83. 中国出張顛末記Ⅲ
  6. 82. 中国出張顛末記Ⅱ
  7. 81. 中国出張顛末記
  8. 80. 保険診療と自由診療
  9. 79. マクロバイオームの精神的影響について
  10. 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
  11. 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
  12. 76. 中国訪問記Ⅱ
  13. 75. 中国訪問記
  14. 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
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