第68回
遺伝子解析
前回では今後、マクロバイオーム、特に腸管のマクロバイオームについて遺伝子解析など色々な疾患、特に癌を含めた難病と呼ばれるものとの関係を探求していくことになった事を報告した。
で、ここで皆さんの中には「お前のとこなんかで、遺伝子解析なんかできるんか?」とお想いになった方々もおられると思う。いや、皆さんホントは思ってたでしょ?私だって、大学にいた頃には、個人レベル(まあ、ウチの医療法人なんて個人商店と同じだからね。)でシークエンサー(遺伝子解析装置)なんか買ったり、ましてそれを用いて実際解析してたりするのは雲の上のまた上みたいな感じだったから。
ところが、これが出来るんですよ。次世代シーケンサーって、PCと同じで機能が倍々になり、価格が半分半分になっていってる。とは言え何千万もするんだけど、ひと昔は何億から何十億だったから、そのことを思えば、なんとかなる額になってる。
そして肝心の解析だが、実は「大阪国際がんセンター」との共同研究が正式に決まりました。正式契約まで公表できなかったんだけど、もう正式に調印したから、がんセンターから公表のお許しが出ました。
元々は、先方の教授から「先生のところ、腸内フローラ移植されてるけど。遺伝子解析とかどうされてます?」と聞かれたので、「どっかのベンチャー企業とでも組もうかなと思ってます。」って答えたら、「イヤ、絶対ご自分でやられた方がいいですよ。」と。「ベンチャー企業でもろくに出来てないところが殆どだし、第一マクロバイオームは今、一番ホットで文科省なんかも膨大な遺伝子データーベースがあるけど、実際の臨床と全く結びついてないと。世界的にもマクロバイオームの遺伝子情報と臨床データーが結びついてるケースは殆どないから、是非やりなさい。」と。そこで、次世代シーケンサーや解析の達人の研究者が、今度がんセンターに来るなどのお話を伺って、「エーそうなんですか!なんかやれそう。」となった訳ですよ。
もちろん紆余曲折はありましたよ。ご想像通り、主に身内からで、対外的には非常に受けが良かったんだから。曰く「また。一円にもならんことに大金突っ込んで!」「そんなことやってる暇があったら、もっと稼げ!」実際は、もう少し優しく、長ったらしく責められたんですけどね。かいつまんで言うと、こういう事ですわ。
「ええーい!何を俗っぽいこと言ってんねん。これで、多くの難病が治る様になるかもしれんのだぞ!。それにもし、世界の三大科学誌のCNSに論文が載ったらどうよ?」で押し切った。意外とすんなりと受け入れられたのは、やっぱり皆んな同じ様に思ってる所があるんだろうな。本音では「論文載るなら、セカンドかサードネームでも良いから。CNSでなくてもImpact factor 2桁なら良いし。」と情けないんだが、この事には触れず、あくまで正論(?)で押し切った。
ところで、実際、遺伝子の解析には国際的なマクロバイオームの遺伝子データーベースとアクセスするのに、プログラム組んでスーパーコンピューターとやり取りしたりするんだって。その為、研究技師さんにMac Studioをねだられたけど。確かに今頃のMacの最高のCPUやらGPUやらメモリーもMAXで、自分の買う時は「もったいないけど、メモリーもうちょっと増やそうかな?」なんて結構悩むのに、今回の指定のスペックは容赦なしに全てMAX!。「こんな高性能どうするんだ!?」と思いながらポチってた。ある意味、超大人買いで気分が良かったけど。自分ならこんな構成絶対やらないだろうからね。実際こう思ったのは私だけじゃなくて、Appleから電話かかってきて「ホントにいいんですか?」って。
イヤほんとの話。盛ってません。初めAppleが何の要件か分からなかったんだから。
実際、8Kの動画編集したってこんなスペック必要ないだろうし。まして、一般のクリニックからの注文だから確認されたんだろうけど。
実際開始まで、機械の搬入やこちらの技師の教育。さらに大変なのが、人体の検体(人のマクロバイオーム)扱う為の倫理委員会審査用の書類など、まだまだ山ありで、まあ大変。夏頃に動かせれば良いかなと思ってるけど、手続きってほんと大変。やっぱり厳しい相手だから仕方ないけどね。
この様に、紆余曲折ありながら徐々にプロジェクトは進んでます。
また、ここで報告できる事が出来次第、随時報告していきますね。
著者プロフィール
Dr.中川 泰一
中川クリニック 院長
1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。
- Dr.中川泰一の
医者が知らない医療の話 - 86. マクロファージと不妊治療
- 85. 中国での幹細胞治療解禁
- 84. 過渡期に入った保険診療
- 83. 中国出張顛末記Ⅲ
- 82. 中国出張顛末記Ⅱ
- 81. 中国出張顛末記
- 80. 保険診療と自由診療
- 79. マクロバイオームの精神的影響について
- 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
- 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
- 76. 中国訪問記Ⅱ
- 75. 中国訪問記
- 74. 口腔内のマクロバイオームⅡ
- 73. 口腔内のマクロバイオーム
- 72. マクロバイオームの遺伝子解析
- 71. ベトナム訪問記Ⅱ
- 70. ベトナム訪問記
- 69. COVID-19感染の後遺症
- 68. 遺伝子解析
- 67. 口腔内・腸内マクロバイオーム
- 66. 癌細胞の中の細菌
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- 62. 腸内フローラと「若返り」、そして発癌
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- 54. 若返りの治療Ⅲ
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- 52. ワクチン騒動記Ⅳ
- 51. ヒト幹細胞培養上清液Ⅱ
- 50. ヒト幹細胞培養上清液
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- 39. COVID-19と「メモリーT細胞」?
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- 25. inflammasome(インフラマゾーム)の活性化
- 24. マクロファージと腸内フローラ
- 23. NK細胞を用いたCAR-NK
- 22. CAR(chimeric antigen receptor)-T療法
- 21. 組織マクロファージ間のネットワーク
- 20. 肥満とマクロファージ
- 19. アルツハイマー病とマクロファージ
- 18. ミクログリアは「脳内のマクロファージ」
- 17. 「経口寛容」と腸内フローラ
- 16. 腸内フローラとアレルギー
- 15. マクロファージの働きは非常に多彩
- 14. 自然免疫の主役『マクロファージ』
- 13. 自然免疫と獲得免疫
- 12. 結核菌と癌との関係
- 11. BRM(Biological Response Modifiers)療法
- 10. 癌ワクチン(樹状細胞ワクチン)
- 09. 癌治療の免疫療法の種類について
- 08. 食物繊維の摂取量の減少と肥満
- 07. 免疫系に重要な役割を持つ腸内細菌
- 06. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(2)
- 05. 肥満も感染症? 免疫に関わる腸の話(1)
- 04. なぜ免疫療法なのか?(1)
- 03. がん治療の現状(3)
- 02. がん治療の現状(2)
- 01. がん治療の現状(1)
- 精神科医とは、病気ではなく人間を診るもの 井原 裕Dr. 獨協医科大学越谷病院 こころの診療科教授
- がん専門病院での研修の奨め 木下 平Dr. 愛知県がんセンター 総長
- 医学研究のすすめ 武田 憲夫Dr. 鶴岡市立湯田川温泉リハビリテーション病院 院長
- 私の研究 一瀬 幸人Dr. 国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター長
- 次代を担う君達へ 菊池 臣一Dr. 福島県立医科大学 前理事長兼学長
- 若い医師へ向けたメッセージ 安藤 正明Dr. 倉敷成人病センター 副院長・内視鏡手術センター長